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国際女性デーに考えるジェンダー平等と日本の未来(全4記事)

「いい子」でいるのは誰のため? 小島慶子氏らが語る、現代の男女が直面する“らしさ”の抑圧

女性の活躍を推進するため、年間を通してあらゆる活動を行なうHAPPY WOMAN実行委員会。毎年3月8日には、国連が制定した「国際女性デー」を新たな日本の文化行事として定着させるべく、「国際女性デーHAPPY WOMAN FESTA」を開催しています。本セッションでは、小島慶子氏ら5名の女性リーダーたちが日本におけるジェンダー平等の歴史とこれからの女性の生き方についてディスカッションしました。

売れ筋写真から、世界の「働く女性像」が浮き彫りに

島田由香氏(以下、島田):島本さんも(小島さんと同じく)メディア業界にいらっしゃるんですよね。

島本久美子氏(以下、島本):ゲッティイメージズをご存知でない方でも、もしかするとテレビで写真の下のクレジットに「ゲッティイメージズ」という表記があるのをご覧になったことがあるかもしれません。

島田:例えばセレブの写真などは、全部ゲッティですよね。

島本:そうなんです。これはニュースなんですが、アメリカとメキシコの国境のところで撮られたもので、昨年の世界報道写真展で優勝した作品です。これはトランプ政権の政策にも影響を与えたといわれて、賞を取りました。このようなニュース写真を毎日撮っています。

あとはオリンピックですね。大きなスポーツイベントのオフィシャルフォトエージェンシーをさせていただいています。また、こちらは先日のアカデミー賞ですが、こうしたエンターテインメントの写真。

そして古い写真も取り扱っています。前の東京オリンピックの写真などですね。

こうした報道写真もそうですが、広告や宣伝に使われるイメージやクリエイティブの写真。例えば滝の写真や動画が必要となったときに、そうしたものがCMの中で使われたりもします。このように、商業目的で一番多くの映像と写真を提供している会社です。

今日は、「働く女性」のベストセラーを国ごとに比較して紹介します。「日本ではどんな写真が売れているのか」を知ると、おもしろいと思います。

これはブラジルでよく売れた、ショップオーナーのような女性ですね。これは中国語圏でのベストセラーで、ロボットのエンジニア。これは南アフリカ。学校の先生のような感じですね。

アメリカは靴のデザイナーでしょうか。

日本での過去のベストセラーは、OLなどなにかを学んでいる側の立場の女性。

ちなみに昨年一番よく売れた日本の働いている女性はこれです。

これは仕事的にはクリエイティブ雑誌、自然光を使った今風の写真。女性はたくさんいるのですが、真ん中で座っているのはまだ男性ですね(笑)。日本においては、これが一番採用されているんですよね。

女性の多様な生き方を広める取り組み

対馬ルリ子氏(以下、対馬):採用する人は誰?

島本:宣伝広告に使われていますから、いろいろな会社のマーケティングの担当者、あとは広告代理店、制作会社の担当者の方が選んでいますね。「女性はどういう仕事に就くのか」とイメージしたときに、どうしてもこうしてオフィスの中で働いている写真を選んでしまったり。

島田:先入観のようになっているから。

島本:あとは脇役になったりもします。そうした影響があると思うんですね。

対馬:サポートする職業のイメージですよね。

島本:そうなんですよね。そうした意味では、やっぱりメディアなどで使われる写真をものすごく多く提供している会社ですから、ステレオタイプの写真ばかりを用意すると、そうしたものが世の中で使われていってしまいます。なので、幅広いコンテンツを用意するようにしています。

もう一つこれを見てください。

これを見せたかったのは何かというと、これだけ加工をしているんですよ。広告で使われている写真というのは、凄まじいくらいに加工されているものなのです。とくに体型を加工することによって、本当にあり得ないような美を追求した写真が使われてきました。

2017年にフランスで、広告などに使う写真の体型加工などをした場合は「加工しました」と入れなければいけない法律ができました。それからフランスでは、加工しないものが使われるようになった。ゲッティイメージズでも、2017年の10月以降は体型の加工がある写真はもう受け入れないようにしたんです。

これはユニリーバさんの「Dove(ダヴ)」と一緒に始めたプロジェクトで、「#ShowUs」というコレクションを作りました。さまざまな女性を、初めて女性のフォトグラファーのみで撮ったコレクションなんです。

このようなディサビリティ(障害)がある方など、一生懸命で生き生きとした様子をたくさん集めたコレクションです。このようなものが広告などで使われるようになると、多様な女性たちが、いろいろなかたちで活躍し、暮らしているイメージが浸透していくのではないかと思いました。

女性スポーツ選手は女性フォトグラファーが撮るべき

島本:今年はちょうど東京オリンピックがありますが、これまでのオリンピックの中で初めて、選手の男女比が半々になります。

しかし、もともとスポーツのフォトグラファーは、ほとんど100パーセントに近いほど男性ばかりだったんですね。数年前から「やっぱりこれはおかしいね」となり、ゲッティイメージズの中でもスポーツにおいて女性フォトグラファーを増やしています。今度のオリンピックには、100名体制のうち20人は女性で臨みます。

島田:それでも多いんですよね? 今までより?

島本:めちゃくちゃ多いですよ。今までであれば、2~3人だったのが、一気に20名になるインパクトはすごく大きいんですね。

なぜ女性フォトグラファーが必要なのか。やっぱり多様な人が撮るほうが、多様な写真が用意されますから。例えば、これは女性フォトグラファーが撮った女子のFIFAワールドカップの優勝写真です。かわいく前を向いているような写真ではありませんよね。

島田:もっとエネルギーが。

島本:こうした闘争心丸出しのところなどを見ても、やっぱりスポーツ選手として見ているんですよね。これも、髪の毛を絞らなければいけないほど雨が降っていたということがよくわかります。男性の目線になると、なかなかこうしたことには気がつかないと思います。

あとは、これは顔が髪の毛で見えなくなってしまっています。しかし、このスウィングはすごくいいスウィングですから、写真としてもいい。これはシンクロですが、水中から撮っているんですよね。こうした写真とか。

またロッカールームの中など、男性は入れないようなアクセスも可能です。さらにハドルの中とかも、女性ならではの視点による写真がやっぱり撮れるんですね。

そうした意味では、女性が撮る写真も必要ですし、あと被写体も多様性があったほうが価値観にいい影響を与えるのではないかという提案です。

私たちは誰のために「いい子」でいるのか

島田:この写真もそうで、加工もそうですけど、人材育成や女性の活躍に関わることをやってこられた上で、みなさん自分らしさも出されてきたんじゃないのかと感じるんです。そのあたりから、質問を投げかけていきたいと思います。

(小島)慶子さんからは、先ほど“女子アナ”というお言葉が出ました。“女子アナ”と言われる方々の中でも……これは私の偏見かもしれませんが、慶子さんは自分の色を出されていると思うんですよね。才能もそうですし、考えをきちんと伝えるといったところが。それができたのはなぜだと思いますか ?

小島慶子氏(以下、小島):最初に用語解説をすると、“女子アナ”という言葉は1980年代に放送局の内輪で使われていた呼び名が、“女子アナブーム”と同時に世間に広がりました。いまや一般名詞化しているものです。

なぜ“女性”アナではなく、“女子”アナなのか。その使われ方の中に、ある種「女性はこうしておけばみんなから愛されるよ」という意味合いが込められているのです。私は女性がいろいろな自分のイメージをもつためにも、それをなくしたほうがいいと思っています。

「え、“女子アナ”って何なの?」というザワッとした気持ちを、私はアナウンサーになってすぐに感じたんですね。どうして気持ち悪いんだろうと、ずっと考えてきたんです。

先ほど(島田)由香さんもおっしゃいましたが、誰のための美なのか、誰のためのお行儀の良さなのか。とくに最近は「ルッキズム」という言葉や、「エイジズム」という言葉を日本でも聞くようになりました。老いているのは良くない、あとは見た目が美しくない人は人前に出てくるな、などという。女性は人前に出る仕事ではなくても、大人になる前からよく言われますよね。

そうするとつい、自分の美しさや自分の心地よさは他人から承認されるものでなければいけないと、狭めてしまうんですよね。それを象徴的に表しているのが、“女子アナ”という枠にはめられたときの息苦しさというか。「誰のための“女子アナ”なんだろう?」という気持ちですかね。自分が心地よくあるためのものでいいのに、私たちは誰のためにいい子でいるのだろう、と。

男性も社会での“居心地の悪さ”に直面し始めている

小島:これは男性にも言えることだと思うんです。女性の社会課題は最前線として何十年にも渡って、まさにそこで戦ったり、取り組んだりしてきたんですが。今は、周回遅れで男性も同じところに直面しているのです。「誰のための男らしさ?」「誰のための正義?」と。

今、すごく悩んでいる男性たちも多いので、実は私たち女性が今までに集積した、いろいろな経験や知識をシェアできるかもしれません。だからやっぱり、男女の格差の問題はみんなが当事者なんだと言いたいんですよね。アナウンサーだったときも、そうしたことをずっと考えていたんです! でも、みんなどこかそうした……。

対馬:つながっていますよね。

小島:そうした居心地の悪さというのは「何だろう、これ?」というのがおありになったから、きっとね。

島田:そうですよね。小巻さんは?

小巻亜矢氏(以下、小巻):そうですね。さかのぼると……(対馬氏を指して)私もここと世代が一緒なんです。「女の子はプロ野球選手にはなれない」と言われたのが最初で。「どうして女の子はなれないの!?」という。私はプロ野球選手になりたかったので(笑)。

対馬:野球をやっていたんですか?

小巻:やっていたんですよ、男の子たちと一緒に。「ええ〜女はプロ野球選手になれないよ」と言われたのが小学校の低学年のとき。それがそもそもの始まりでした。そこでふてくされました(笑)。

あとは、いろいろなところでアンテナがそこに響きやすい人たちが、今ここに集まっているんだと思います。なにかにつれ「どうして女だけが我慢しているんだろう」と。両親との関係もそうですし、いろいろなところでなにかを我慢しているのが女性であることがすごく居心地が悪い。

専業主婦の時期があったからこそ、社会課題に気付けた

小巻:先ほど、みなさんが「せっかちだから待っていないで、自分がその先駆者になろうというお気持ちがあった」とおっしゃっておられました。私はあまりそこはなくて、なぜか気がついたらやっていたところがあります(笑)。

自分の居心地の良さや、不公平・不平等感を突っついてきたというよりは、もうちょっとこう……私は専業主婦だったときもあって、社会から離れていたというか、仕事という意味で離れていた時期が11年間もあるんですね。

どちらかと言うと、キャリアや女性活躍について考えるようになったのは、だいぶあとになってから。女性がもう1回働こうと思ったときに、なんてチャンスが少ない社会なんだろうかと。どうしてそれこそ子どもを抱えた女性だけが、こんなに惨めな思いをしなければいけないんだろうというところから、40歳前後からまたその課題と向き合ってきたんですよね。

島本:男性もおそらく、10年も休むと社会復帰するのが難しいと思います。それは男女かかわらず意外と再復帰するのが非常に難しい問題であるのに、そこに関してはあまり寛大ではない社会だと思います。

小巻:そうですね。本当に浦島太郎のようでしたね(笑)。

島田:その経験が大きいんですね。

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