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「未来を拓く人材育成プラットフォーム・殿町」 パネルセッション第2部(全1記事)

伸びる人の資質は、問いを立てる力とチームプレー 慶大教授らが語る、やりたいことを見つける方法

慶應義塾の創始者である福澤諭吉が残した「自我作古(じがさっこ)」という考え方があります。この言葉が意味するのは、前人未到の新しい分野に挑戦し、たとえ困難や試練が待ち受けていても、それに耐えて開拓にあたる勇気と使命感を持つことの大切さであり、慶應義塾大学の信条となっています。今回は、現状の社会課題に対峙し未来を切り拓いていく人づくりをテーマに、殿町リサーチコンプレックス(中核機関:慶應義塾大学)が主催する人材育成シンポジウム「未来をつかむ」から、パネルディスカッション第2部の講演をお届けします。本パートでは、「伸びる人はどんな人なのか?」について、議論を交わしました。

専門的な内容を独学で習得しようとすることの難しさ

武林亨氏(以下、武林):はい、みなさん遅くまでお付き合いをいただきまして、ありがとうございます。もうデザートとコーヒーも出てしまいましたので、これからのセッションは最後の食後酒なのか、あるいは締めのラーメンなのかよくわかりませんが、みなさんからご意見をいただきたいと思います。それから宮田さんにも加わっていただきまして、来年の金メダル(金髪の岩澤氏)、銀メダル(銀髪の宮田氏)に少し並んでいただいて、ゆるい雰囲気の中でご意見をいただきたいと思います。

さて、残り時間もそれほどありませんので、さっそく、殿町でいろいろな活動をしていただいているみなさんから少し、感じておられることを具体的にうかがいたいと思いますが、実際に今、ほとんどのことがネットで学べる時代になっていまして。

いろんなことがもうYouTubeを、今の子どもたちは本当にYouTubeを見て勉強するという世代になっているわけですが。その中でそれぞれみなさん、ベンチャー大賞にしても、あるいはそれぞれの取り組みにしても、その場に人が来てくれているわけですけども。

それぞれのご経験の中で、そういう中で伸びる人、楽しんでいく人、あるいは優勝する人って、いったいどんな人なのか? ということを、谷川原さんから順番に少しご紹介、あるいはご意見をうかがいたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

谷川原祐介氏(以下、谷川原):はい。まあ通りいっぺんのことはネットで学べる時代ですけど、やはり非常に専門的な内容は独学では無理で。多くの人が独学で始めて、途中でくじけたり、あとは何ヶ月もかかる。専門家に教えてもらってすぐわかることが、1人で難航しているということがあります。

やっぱり非常に専門的なスキルをマンツーマンで伝授するというところは、言葉にはできないようないろんなティップスがたくさんありますので。そういう意味でやっぱりface to faceでやる、この人材育成というのは非常に成功してると思うんですけど。

まあ伸びる人はそうですね、やっぱり楽しめる人じゃないですか? やっぱり苦しんでる人はくじけちゃうので。やっぱり新しいことにチャレンジして、それがおもしろいとか楽しいとか思える人は必ず伸びていくみたいな。

イノベーションに適しているのはチーム作りに長けた人

田澤雄基氏(以下、田澤):そうですね。私は「健康医療ベンチャー大賞」をやっていて、先ほどベンチャー大賞は企画じゃなくてネットワークにしていきたいと申し上げたんですけれども。やっぱり人的ネットワークを作れることは一番大事かなと思っています。ベンチャー大賞で優勝するチームのチームリーダーも、ネットワーキングやチーミングが非常に上手ですので。

例えば、二次選考で自分たちは勝ち残ったんだけれども、惜しくも敗れたチームをその場で吸収したりするチームもあります。そういう意味で、人的ネットワークの形成がうまい方がオフラインな場所に集まってきて、緊密な人的ネットワークを結ぶ。これがイノベーションあるいはベンチャーには非常に重要だなと肌で感じています。

あとは今、殿町と一緒に医療機器アプリの開発をテーマにしたハッカソン企画をやっています。実はハッカソン企画って、医療者、エンジニア、それからビジネスディベロップメントの方、デザイナー、学生、5種類の人材が勝手にチームを組んで、「ここからはじめてください」と言われて2日間の合宿開発を始めるんですけれども。

一番最初にアイスブレイキングをやるんですね。パスタゲームとかタワーゲームという、簡単な3分ぐらいのゲームをやるんです。実はこのゲームで優勝するチームは、ハッカソンでも優勝する率が非常に高いという肌感覚があります。やっぱり短時間で多様なチームをまとめ上げるようなチーミング能力が高い方は、非常にイノベーションに適している。これはもう、我々の所感としてはあるかなと思います。

なんでもググれる時代だからこそ、情報を足で稼ぐことを学んでほしい

岩澤ありあ氏(以下、岩澤):実際研究指導する上で、中学生がネットの情報を調べて、すぐ新しい情報に飛びついて、研究テーマをググっていくのを見ていて、非常に難しい問題だなとは感じています。

ただ、私たちのKEIO WIZARDのチームとしましては、実際本当に現場に出て、情報を足で稼ぐことを学んでほしいということを念頭に、プログラムを設計しています。ですので、そういったことを感じ取ってもらえたらなと思っております。

伸びる人材はなかなか判断が難しいところでして。本当に頭で考え抜いてから行動に移す子と、もうすぐ行動に移してしまう子に分かれるんですけれども。実際に行動に移している子の方が、楽しそうにしているなぁ、ということは感じております。

武林:今の話を聞いて、みなさんいかがでしょう? 第一部の中でも、問いの立て方であるとか、ワクワクすること、いろんなキーワードが出ていましたが、実際に殿町でいろんな活動していく中で、今のみなさんのご意見を聞きながら、何かご意見があればぜひ。

1人でできることには必ず限界がある

宮田裕章氏(以下、宮田):はい、私は岩澤さんと並んで、金と銀の出オチ要員かと思ってたんですけれども(笑)。

(会場笑)

宮田:まあでも、まさに今おっしゃっていただいたとおり、自我作古というのは1つですよね。いわゆるパッシブではなくて問いを立てられる。そして今、谷川原先生あるいは岩澤さんにいただいたお話とすごく共通する部分もあります。やはり今までは、知識を貯めることが世の中ですごく重要な活躍の要素だったんです。

これが検索したりYouTubeで見られたりといったかたちで、簡単に知識を得られるようになったとしても、今度は情報が溢れすぎていている。やっぱり自分でセンスの良い情報を手繰れるか。いわゆる知識のストックではなくて、知識をうまく繋げて、また自分のものにしていけるようなリテラシーやセンスが相当問われてくるかな。

それはもちろん楽しかったり、やる気だったりですね。やはり自分の中で新しい問いを立てて、新しい価値を作れるような個人の力。これがまず1つ重要ですね。

もう1つはまさに田澤さんにおっしゃっていただいたように、私もやはり社会人になってキャリアを始めたときに、慶応の先輩に「慶応出身者はこんなに素晴らしい人たちといられて、自分はなんて幸せなんだ。そこから始められる」と(言われて)。

これは本当にすごくアドバンテージだし、どんな30……20代ぐらいまではソロプレーでですね。1人で10人力みたいな人はもちろんいるので、それだけでいけるところがあるんですけど。その先はもうチームプレーになってくるので、3人で100人力とか、あるいは5人、10人で1,000人力みたいな。

これができないと絶対に大きな仕事はできないんですよね。1人でできることは必ず限界があると。こういった意味でも、やっぱり社中協力ですね。やはり、ネットワークを作りながら連携していける力が同時に必要になってくるので。まさにこの慶応の精神は、100年経っても今を切り開く上でも、改めて重要なんだなと感じています。

医学薬学とコンピュータサイエンスの両方に精通した人材

武林:はい、ありがとうございます。もう少しうかがっていきたいと思いますが、谷川原さんはもともと薬学部を出られて、薬局でもお仕事をされ、そして今、まったく日本ではないものを作られているわけです。いろいろなことを経験されて今に至るということについて、ご自分の中でこのファーマコメトリクス(数理モデルと計算機科学を用いて薬剤の用量と効果・副作用の関係を解析し、かつ予測する手法)を新たに日本に広めようという、モチベーションの大元はどこにあるんでしょう?

谷川原:大元は、もともと私がこれ(ファーマコメトリクス)が大好きで、20年30年ぐらい(前から取り組んできて)、実はもう日本では私がパイオニアなんですよね。自分が始めた頃は1人でやっていたんですけど。そういうこともあって国際的にも今けっこう友達が多くて、国際ファーマコメトリクス学会のジェネラルセグレタルメントなんですけど。好きでやっていたことなんですが、やはりだんだん社会的に認知度が高まって。実際の実学への応用が進んできたときに、後継者がいないことは、ここ10年ぐらいすごく悩んでいたんです。

なぜかというと、これは複数の領域にまたがった専門性が必要で。例えば医学、医薬。医学薬学の知識を持ってる人はもうたくさんいて。かたやコンピュータのプログラムにものすごく強い人もいっぱいいて。でも医学薬学に詳しくてかつ、コンピュータサイエンスもプログラムもできるという人はほとんど(いない)、いっぺんに数が少なくなるんですね。

ですから複数の領域にさまざまな、この別の領域の情報を組み合わせて、そこから新しい知識を生み出していくとか、新しい枠組みを生み出していくっていうことは、なかなか通りいっぺんの今の縦割りの教育ではですね、そういう人材が育たないので。なんとかやはり、ですからファーマコメトリクスをやっている人は、半々なんですよ。

半分は薬学の人がすごくコンピューターサイエンスの勉強をして、もう半分は理工学で、もともとシミュレーションにすごい強い人が薬学の勉強してやっている。世界的にはそういう状況ですので、学部の壁を超えて医学、薬学、理工学、いろんな方々に対して才能がある人はぜひ伸ばしてあげたいし、こういう領域があることを知ってほしい。学生さんも知らないので、ということで、やっぱり一番大事なのは人材育成だなと思います。

教えながら学んでいく「半学半教」

武林:はい、ありがとうございます。もう本当にパイオニアでありながら、たぶん時代が追いついていないということなんじゃないかと思うんですけども。岩澤さんはこのリーフレットの中では、未来に羽ばたく翼を小中高生に授ける、駆け出しパイロットというふうに書いてありますが、これはご自身が駆け出しだっていう意味ですか?

岩澤:まさにそうでございます。はい。(笑)。そうですね、本日もすごい経歴の方々の中で経験を積ませていただいていて、非常にありがたく思っております。

武林:この殿町でのWIZARDをやっていると、もう今日も来ていただいてますけども、本当に目をキラキラさせた子どもたちが参加をしてくれて。先ほど半学半教(学業の進んだ者が他の者を教え、同時にさらに上級の者に学ぶ仕組み)という言葉がありましたけど、逆に岩澤さんにとっての一番の学びってどんなことでしたか?

岩澤:私自身の学び……? なんでしょう? 本当に先ほどスライドにもありましたように、半学半教ということで。実際、最初にこのプログラムがどういうふうに発展していくかが見えなかったんですけれども。教育というテーマがいいのか、私は本当に最初にこじんまりと進めていく予定だったのですが、いざお声がけしたり殿町キャンパスの方々のご協力をいただいて、メンターの方が26名も集まったということは、とても大きいなと思っていまして。

自分1人だけの思いだけではなくて、次世代を育てようという、気概を持っている方が本当に多いな、ということを実感できたのが、学びだったと思います。

健康レベルは、年を重ねるほど大きな差が生まれてしまう

武林:もうだいぶ翼もありそうなパイロットになりつつあると思いますので、引き続きご活躍していただきたいと思います。それでは田澤さんにうかがいたいんですけども、田澤さんは先ほどご紹介にあったように、僕の学生時代からの付き合いです。

本当に学生時代からいろんなことをやってきて、その一つひとつの経験がおそらく今も繋がってるんじゃないかと思うんですけれども。学生時代から若手のときに、どんなキャリアを積んでいくことがその先に繋がるのか、ということを少しご自身の経験を踏まえてお話をいただけますか?

田澤:そうですね、今日はお話できなかったんですけれど、私はやっぱり大学2、3年生のころから予防に興味がありまして。それは武林先生に学生のころからいろいろご指導いただいてるんですけれども。そのきっかけは偶然的なところが大きくて。地域の医療を見に行く学生団体があって、けっこう慶応では伝統のある団体でした。私もそこに所属しておりまして、長野県佐久地域ですとか、あるいは東京都の伊豆大島の医療福祉介護の現場を学生のころから見ておりました。

今は医学部でも機会が増えてきたんですけれども、私が学生の頃はやっぱり、授業あるいは病院の中で少し患者さんに触れる機会があっても、地域で暮らしている高齢の方などに触れる機会がなかなかありませんでした。そこ(学生団体)で非常にたくさんの、地域で暮らしている高齢の方に出会う機会がありまして。

いろんな患者さんや高齢者の方を見ていくと、やっぱり我々18歳ぐらいの学生だと、健康レベルは周りを見回してもだいたい同じで、あんまり健康問題を気にすることがないんですけども。まあ50歳、70歳、100歳になっていくにつれて、寝たきりの方もいれば、大島の元レンガ職人の100歳のおばあちゃんが腕相撲を挑んできて私が負けるという、ショッキングな経験もありまして。

「100歳になると、もうこれほど健康レベルが違うのか!」と思ったのが私の原体験で。それ以来、どうやったら全員の人が、このレンガ職人のおばあちゃんみたいになれるのか? とずっと考えてきました。それにやっぱりまだまだ現代の医療って遠いな、と思うところがありますので、そこに至るためにできることは何でもしよう、というところで。答えがないなりに模索していろいろやってるのが現在の活動です。

自分が大切にしたいものを一生懸命考えて見つけてほしい

武林:はい、ありがとうございます。まあ、人材育成という非常に難しいテーマですので、何か答えをみなさんに、というわけではありませんけども。短い時間でしたが、みなさんのその現場での活動の中から、感じていることを少しお聞きいただけたのかなと思います。

本日は夏休みということもありまして、小学生、中学生、高校生の方、そして学校の方、あるいは企業の中でも人材をどう育てるかという方、質問をいただきました。最後に宮田さんから順番に一言ずつ、とくに今日参加をしてくださっている子どもたちへのメッセージをいただいて、このセッションを締めくくりにしたいと思います。では宮田さんからお願いします。

宮田:そうですね、やはり途中でも何度も言ってきましたが、自分らしくというのか、自分が大切にしたいものを一生懸命考えて見つけてほしいなと。一方で私は氷河期世代ど真ん中なんですけれども。こういった苦労の中で、なんとか社会を変えなければ自分の未来がないとかですね。

あるいは氷河期世代、今研究者の半分は非正規雇用で毎年クビを切られているんですけども。こういったやはり思いの中でイノベーションに挑むのは難しいので。子どもたちが未来に挑戦するときは、もっと安定した環境で、安心しながら挑戦してもらえるように、僕らもがんばりたいなと思いますので、一緒に未来を作れればと思います。ありがとうございます。

岩澤:私自身も今成長の段階を経ているところでして。先が見えない中で、今日このように「未来をつかむ」というシンポジウムにご登壇させていただいて。今後、あと4年間KEIO WIZARDが続きますので、子どもたちと同じ目線……同じ目線とまではいかなくても、同じ視点に立って寄り添えるように、学ぶことが楽しいと感じられるようなプログラムを、今後も作っていきたいと思いますので。一緒に未来をつかんでいきましょう。ありがとうございました。

人生をかけてやりたいことを見つける方法

田澤:最後に武林先生にご質問いただいて、自分の経験を語らせていただいたんですけれども。問いを立てる力という宮田先生のコメントが非常にマッチするかなと思って。私は、さっきの経験を通して、幸いなことに大学生のうちに人生をかけてやりたい問いが見つかったというのが、今の活動につながっているのかなと思います。

そして、その問いを見つけるために何が重要かな? と思ったときに、これは前野隆司先生のお話ですけれども、箱から飛び出すことって非常に重要かなと、今改めて考えて感じました。やっぱり医学部という箱に閉じこもってないで、地域でいろんな方の健康状態を見てみる。これが期せずして、「暇だからサークルどっか行こうかな」みたいなノリで入ったんですけども。

それが期せずして箱を飛び出すことができたおかげで、人生をかけて取り組むべき問いが見つかったと思います。自分が囲われている箱を自覚して、そこから飛び出すことが非常にやっぱり重要なんじゃないか。それができれば、未来をつかむことができるじゃないかなというふうに、今日はいろんな先生方の話を聞いて感じました。はい、私たちも勉強になりました。ありがとうございました。

最近は日本も何かとしがらみも多いし、窮屈なことも多いのは、大人のみならず子どもたちも一緒だと思うんですけど。まあ、子どもたちとか若い子に伝えたいことは、自分の好きなことをやりなさいと。自分の好きなことを思いっきりやりなさい、もうその一言です。

武林:はい、みなさんありがとうございました。ちょうど時間にもなりました。これで第二部のセッションを閉じたいと思います。みなさんもう一度大きな拍手で、シンポジストのみなさんに拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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