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「キャリア」と「成長」は計画できない 計画的偶発性理論で考える、“好き”に出会う方法

2019年5月27日、下北沢の書店B&Bにて「横石崇×吉田将英×高橋晋平『自分らしさの作り方、自分らしさの伝え方。』」が開催されました。ビジネスにおいて「共創性」「越境性」が様々な場面で求められるなか、自分が何者で、何がしたくて、そのためにどんな仲間とつながっていたいのか。また、そういった事柄をどう考えて決めていけばいいのか。ロールモデルはなく、すべては自分次第と言われる現代の「自分らしさの作り方/伝え方」について、ディスカッションが行われました。本記事では「計画的偶発性理論で考えるキャリア観」について語ったパートを中心にお送りします。

「好きなことで、生きていく」のは正解なのか

横石崇(以下、横石):お、そろそろ時間ですね……。

吉田将英氏(以下、吉田):そうですね、ちょうどあと30分なので、ご質問をいただきましょうか。月曜日のお忙しいなかで来ていただいて、しかもこんなに大入りで。

せっかく来ていただいたので、僕ら3人が太刀打ちできるのかわかりませんけど、ご質問などあればみんなでお答えしたいと思います。挙手する勇気がありましたら、どうでしょうか? あ、どうぞ。

横石:ありがとうございます。

質問者1:「アウトプットしたもの勝ち」とおっしゃっていましたが、アウトプットで何を出せばいいのか、「自分とは何だろう?」みたいなことで、堂々巡りしてしまうことがあります。やっぱり、何が好きがわからない状態のときは、とりあえず何かやってみたほうがいいのでしょうか? 「食べたから好きだってわかるんでしょ」という発言もありましたし。

吉田:そうですね、難しい質問ですね。

横石:それってあれですか? YouTubeの広告コピーの「好きなことで、生きていく」でしたっけ?

吉田:ありましたね。

質問者1:「好きで生きていく」ではありたいとは思うんですけど、そんな都合よくもいかないだろうと思う。

(一同笑)

横石:これはいい質問ですね(笑)。

「キャリア」と「成長」は計画できない

高橋晋平氏(以下、高橋):そうですね。僕は自分のアイデンティティしか語れなくて、やはり最大のコンプレックスが人と話せないことで。暗い幼少期みたいなのがあり、でもお笑いが好きで、かっこいいなと思った。大学に行ったときにいじめっ子とかがいなくなって、リセットされたから、お笑いサークル入って感激した。

工学部に入って勉強してたから、「ものづくり × 笑い」みたいな持ち味みたいな感じになりました。運よくそうなれたのかもしれないな。みんながそうやってやりたいことに辿り着けるとは、僕もやっぱり思わない。僕も18まではそんな人生だった。気づいたのは大学のときで、それも計算してやったわけじゃなくて。

最近僕のなかですごい流行っている言葉で、「計画的偶発性理論」という、キャリアの話があります。「キャリアと成長は計画できないよ」と。偶然でしか生まれないというのは、ほんとうにぜんぶに当てはまるかと思ってます。結局、偶然なにかに出会うものだと。

ほんとうに好きなことは、あったほうがいいと思う。別になくてもいいと思うんですけど、あったほうがいいとしても、それは偶然でしかたぶん手に入らないから。

偶然手に入るのは何かというと、やっぱり吉田さんがずっと言ってたように、いろんな人に会って話をするとか、何かしらやってみる。嫌いなことをやる必要は僕はないと思う。もう嫌いだとわかってることは、これじゃないとわかってるから。「もしかしたら好きかもしれない」ということをやって、これじゃないとなったら1個バツがつくわけです。

そうやって見つけたいんだったら、いろいろやることが「偶然のいいこと」が手に入る確率を上げることだから、それだと思います。

「鈍感な人は最強である」論が、心に深く刺さった

高橋:一方で、先ほど敏感になったほうがいいというか、気づける方になったほうがいいという話がありました。昔『鈍感力』という本が流行ったじゃないですか。

僕はあの時、それにはまってというか、すごくぶっ刺さった。入社3年目くらいだと思います。それまでは、めちゃめちゃ繊細な自分が嫌いだった。すぐ傷つくし、失敗するだけでそれこそすぐ傷ついちゃうから。そしたら、「鈍感なやつは最強である」という本が出て。それこそお腹を壊しても気にしないんだったら、壊したという事実も関係ないだろうと。

もしやりたいことがないのを気にしないんだったら、そのまま最後まで生きることができればそれはそれで幸せだろう、みたいな感じです。本当にそうだなと思って、自分にないものだったからすごく感銘を受けたんです。ずっとそうなりたいなと思ってた時代があって、だけど病気のときとかは、それはそれで自分はよかったなと思う。

それは、自分が敏感だから気づけてよかったと思うけど、今でも鈍感は最強かもしれないというのは、ずっと思ってる。別に自分らしくいかなきゃいけないということを、意識しないほうが幸せなのかもしれないと思ってる。「自分らしさがほしいの?」という話はしたんですけど、どっちでもいいかなと。偶然ですよ。

横石:「人生はラグビーボールだ」みたいな話だなって思って聞いていました。一方で、僕は好きなことを仕事にできている。大事にしているのは、好きなことと感謝されていることが重複している部分が、ちっちゃいながらあると思っています。

TOKYO WORK DESIGN WEEKのはじまりは、5、6人の勉強会でした。それがけっこう感謝されたんですね。友人同士ではじめて、おもしろいからもっといろんな人巻きこもうよというところがスタートでした。好きなことと、意外と感謝されていることを見つけてみたほうが、ヒントになるのかなとはちょっと思ってます。

「その気にさせてもらった経験」を大事に

吉田:自分をその気にさせるのってけっこう大事じゃないですか。自分は大したことないことかなと思ったけど、めっちゃ感謝されて、その気になるみたいな。他の人にその気にさせてもらう経験って、すごく大事です。僕もしゃべるのは苦手だと思ってたし、クラスでぜったい自分から手を上げない子だった。プレゼンとかぜったい無理だなと思ってた。

僕は前職がアサツー ディ・ケイという会社で、新人研修で僕のチームはうまくチームになりきれなかったんです。ほかのチームはみんな6人でパートを分担して話しているのに、僕のチームだけ「お前がしゃべれ」みたいになって、僕がぜんぶ話すことになった。すっごいしどろもどろ話したら、人事4年目のちょっとお兄さんの先輩が、「あの班は吉田が背負って話してる感じがよかった」と言ってくれた。そこで超えたんです。

人前で話すことが死ぬほど苦手だと思ってたけど、やってどうにかならないことではないらしいみたいになった。いまだに鈴木さんっていう名前を覚えていて、めちゃくちゃ感謝してる。みんなは他のチームのよくできたプレゼンを褒めていたのに、その人だけ僕の「吉田ががんばってるのがよかった」みたいなことを言ってくれた。

そういうのをけっこう大事にした方がいいかなと。今の感謝というか、他人にその気にさせてもらったことは大事にした方がいいと僕は思いましたね。答えになってますでしょうか?

質問者1:ありがとうございます。とりあえず「感謝される」というのが何なのか、ちょっとまだ経験知不足です。とりあえずそういう経験を積んだ方がいいのかなと思いました。

横石:そうですね。僕の場合の経験値は値付けでした。感謝される量って、「ありがとう」って言葉も嬉しいんですけど、勉強会であっても自分のやったことで金銭的な対価が得られたという喜びはけっこうあった。勉強会だから、ひとり2,000円ぐらいですよ。でも、その2,000円はめちゃめちゃうれしいですよね。まだ大事に使わずにとっています。

高橋:僕はそれでいうと、笑いです。さっきから再三言っているように、僕はおもちゃを作ってるけど、やりたいことはおもちゃ作りじゃないんです。おもちゃ作りをバンダイという会社で学ばせていただいたなかで作れるようになっただけであって、これは「できること」です。僕が「ほんとうにやりたいこと」は人を笑わせることなんです。

このぐらいの距離で対面で笑わせることで、僕はずっと「落語家になりたいんだな」というのはいつも思ってます。

自分の考えた企画で直接お金をいただくことの喜び

高橋:さっき何人かに買っていただいた「かけアイ」という商品も、非ECでやってるわけじゃないですか。それに踏み切ったのも、普通に考えたら「何でネットで買えないんだ?」みたいなことで謝ってはいるんですけど、1番やりたかったのは会ったときにその人と友達になることであり、一緒に遊ぶことなんですよね。

これをずっとネットで売らないで、手売りをしていった先に何があるのかというので、1本の落語を作りたいんですよね。「こういうことが起きたよ」みたいな話です。だから、僕にとってお金ももちろん嬉しいし、わかりやすいですけど、大事なのは「どれだけの人が目の前で笑ってくれたか」ということです。何をアウトプットしたいかというのも大事ですけど、どういう感情が自分にとって嬉しいかどうか。

吉田:そうですね。

高橋:笑ってもらえたら最高に嬉しいんだということがわかっているのは、けっこう強かったし、やっぱりラッキーだったなと思います。

横石:なるほどね。それってけっこうコンプレックスの話とつながってくるかも。僕は広告業界というBtoBのビジネスモデルの中でずっと仕事してた。お客さんから目の前でお金を受け取ることがなかった。それがずっとコンプレックスだったんです。

吉田:わかります。すっごくわかります。

横石:だから、自分が考えた企画で直接お金をもらうという、その感覚がすごい嬉しかったから、まだ続けてるかもしれない。

吉田:単著を売るとダイナミックにわかるじゃないですか。自分の名前が載ってる本が、この値付けでなんぼ売れんねんみたいな。

横石:Amazonのランキングとかで......。

高橋:すごくわかる。僕も大企業にいて、やっぱり買ってくれたお客さんと触れ合えないし、顔が見えませんって偉そうに言っていました。「人を喜ばせたい」みたいなことを言いながら独立して、やって気づいたら一緒じゃないか、みたいな。ネットで売ってる時点で買ったお客さんには会ってないし、多少まわりの人が「買ったよ」「おもしろかった」と言ってくれても、「それはSNSだしね」みたいな。「遊んでるとこを結局見てないじゃん」となってた。

それを偉そうに、「お客さんの距離が近いところで喜ばせたい」みたいに言ってたけど、できてない。それでもネットで売ろうか迷った。今こうしてみてるという実験中なんです。結局仕事って、ここにいる人が喜んでくれれば仕事なんです。それは会社の同僚とか上司かもしれない、取引先かもしれないけど、その人を喜ばせることが仕事。それができていれば、一歩目はそれがアウトプットなんじゃないかな。それがそのうちにできてくる。

自分を他人だと思って、全力で喜ばせることができるか?

吉田:そうですね。お2人も僕もそうで、これじゃないなという経験もしてたということじゃないですか。おもちゃメーカーで人気のキャラクターを担当したけど、これじゃないなと思ったとか、僕にもそういう経験があります。

やっぱり何回もいろんなことをやっていると、「これは気持ちよかったけど、これは楽しくなかった」みたいなのがたまっていって、自分が気持ちよかったり、幸せだなと思うパターンはなんとなくわかっていくと思うんですよね。

自分の本にも書いたんですが、自分を他人だと思って見たときに、「こいつは何をしたら喜ぶんだろう?」「こいつを喜ばせろと言われたら何をするだろう?」とか、「何のネタやるだろう?」とか、1回自分を他人だと思って全力で喜ばせてごらんとなったときって、けっこう難しいと思うんです。

「こいつ何したいねん?」と。それは僕がけっこう自分を信用してなくて、自分が思う自分のしたいことが、ほんとうにそうかはわからないとか。直感を信じてないし、自分を信じてないから、それくらい1回1回離してみるというか。他人だと思って見たときに、どうしてあげたらよかったんだろうかというのは、けっこう考えています。

そんなに大して取り柄もないですけど、それはちょっといいというか、不幸せな方向に舵を取りまちがえない一歩目かなと思ってますね。

横石:そう。自分が作られるのって、今までって1対nの関係のなかで生まれてたはずなんです。電通はそうですね。

吉田:そうですね。

横石:マスマーケティング。でも、今はもう1対nの関係で何か深めていける時代じゃなくなってきてるからこそ、大事にするべきは1対1の関係だと思っています。ツイッターの使い方がうまい人って、僕が調べたところ、1対1で会話してるんじゃないかというところがあって。

1対1の関係がわかってる人というのは、ほんとうに好きなこととか、感謝されることにすごく敏感になれている気がしています。そういった意味で、1対1の関係にいかにもつれこむか。

吉田:もつれこむか(笑)。

横石:寝技の話みたいになっちゃったね(笑)。

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