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パネルディスカッション 【後編】(全4記事)

これからの時代に必要なのは「遺伝子スイッチ」 岡田武史氏、サイボウズ青野氏らが熱弁 

2019年3月30日(土)、新しい会社の組織のあり方をテーマにしたイベント「チームワーク経営シンポジウム 新しいカイシャとティール組織について語ろう!」が、サイボウズ本社で開催されました。次世代型の組織モデルである「ティール組織」の考え方をヒントに、サイボウズ青野慶久氏、FC今治のオーナー 岡田武史氏、伊那食品工業 塚越寛氏、グッド・ニュースアンドカンパニーズ 崔真淑氏、つながりラボhome's vi 嘉村賢州氏が登壇。岡田氏は、安全性や利便性を追求する世の中にあって、人間がどんどん弱くなってきていると警鐘を鳴らしました。

自分のことしか考えない人間に成長はない

青野慶久氏(以下、青野):次のご質問です。塚越さん宛てにいろいろ来ておりまして、シンプルに言うと「塚越さんのようになりたいです」と。「もともとそうだったんですか?」「どうすればなれるんですか?」というご質問があります。

塚越寛氏(以下、塚越):もともとは違ってました。

青野:あ、そうなんですか!

塚越:ただ、根底として私は17歳から20歳まで3年間、肺結核で闘病生活やってるんですよね。これが自分を作ったようなものだと思いますね。やっぱり不健康というのはすごく悲しいですね。思春期に3年間寝てると、そりゃあ自分の人生がこれからどうなるか、どう生きるかとか考えますよ。

あるいはこの病気が治らなかったら、17歳の人生は短くて情けなかったなとかね。それから考えて、誰だってそういう悩みがあると。誰だってもっと人生を考えさせなきゃいけないと。たった1度の人生を有意義に過ごさせるようにしてあげなきゃいけないなという想いが、芽生えちゃったんですよね。

森信三さんという学者がいるじゃないですか。あの方が、『一日一語』という本を出しているんですよ。その元旦になんて書いてあるかというと「人生はたった1度だという知識こそ大事だ」ということが書いてあるんですよ。

これは人間にとって一番大切な知識で、人生はたった1度で繰り返しはきかないと。だからたった1度の人生は、お金があったから幸せになれるものか。まあかなり高いでしょうけど、そうじゃない。結局どう生きるかということを真剣に考えるというのが、実は私の人生だったような気がしますね。

結局はさっきもちょっと言ったように、利他をしなくちゃいけないなと。自分だけ幸せな我利はできるんですよ。赤ちゃんが乳首に吸い付くというのは我利ですよ。誰も教えない。そうしなきゃ死んじゃうよとか、そうしないと育たないなんて知識は誰も教えないけれども、本能でできるわけですよ。だから我利のまま大人になっちゃってる人がいるんですよ。

自分のことしか考えないということでは、なんの成長もありません。人間的成長というのは、いかに利他ができるようになるか。そのことを学ぶのが人間的成長です。学校も今はそういう方針じゃなくて予備校化しちゃってるでしょ? これは情けないなと思うときがあるんですよね。

人間としてなにを学ぶかと言ったら、利他だと私は思ってます。それを熱っぽく社員に話すと、しょっちゅう話してるからなんとなくわかってくるんですよね。その結果一枚岩になってきたかなという気がします。

社員には病気をさせないという決意

崔真淑氏(以下、崔):最初から社員の方々がみんな利他、利他、利他というわけではなかったと?

塚越:そんなわけじゃないです。うちの会社ははじめなんかめちゃくちゃですよ。私がブレないから、だんだんできるようになってきた。それがいいの。考え方はほとんどブレてますよ。それがよかった。

先ほどちょっと言ったように、上場企業はトップが変わるとブレることがあるでしょ? それが問題だという気がします。本当は同じ理念の人が継ぐべきなんですよ。手法はもちろん時代に合わせて違っていいんですよ。

基本的な理念、人を幸せにしたいんだというような想い、人生は仕事だぞというような想いをどの経営者も持ってたら、その会社はうまくいくと思うんですよ。私はそう思ってます。

青野:17歳からの3年間である意味、人生はこういうものだという死生観を身につけられて、そこからずっとブレずにいらした。

塚越:ブレずにというか、人生で病気になっちゃいけないと思うわけ。だから社員にも絶対病気させちゃいけないという思いが強い。うちの会社はすべてそういうふうにやってきました。

青野:病気の強さを知っているからこそですね。

塚越:うちは作業環境はものすごくいいし、健康診断もしっかりやります。それから安全ね。事故で亡くなっちゃいけない。うちの営業所はみんな、北海道は宮の森とか、仙台は泉地区とか高級住宅地にあるんですよ。

作業効率だとかそういうことじゃなくて、いざというときの安全を考えてやる。そこまで考えてくれたら、社員はこの会社のためにとなるだろうと私は思っているわけです。

青野:なるほど。トップの利他の思いがメンバーの利他の思いを引き出すのかもしれませんね。

塚越:ちょっと自慢話で恐縮だけど、そうだろうと思いますね。

岡田氏の運命を変えたジョホールバル

岡田武史氏(以下、岡田):それでもやっぱり、経営者でも半端じゃない経験、倒産と闘病、戦争を知ってる人は、そういう死生観を持って経営されますよね。

塚越:松下さんは若いころ肺結核で、実は稲盛さんも肺結核をやってるんですよ。

岡田:ガンも1回やられてるんですよね。

塚越:ちょっと理屈っぽいというか、病気をすると人生を考えたくなりますね。

岡田:そういう経験をするチャンスが今はないんですよ。さっきも言ったように、本当に幸せ、幸せでいいんだろうかと。

俺は死にそうにはなってないんだけど、人生が変わったのは98年のワールドカップ予選の最中。カザフスタンでボスが解任になって、僕が日本代表の監督になったんです。41歳だった。コーチだけで、監督をしたことがなかったんです。俺は絶対こんなプレッシャーに耐えられないと思った。

有名になると思ってないから電話帳に載せてたんですよ。脅迫電話が止まらなくて、家の前は24時間パトカーが守っていました。子どもが危険だから学校は送り迎えを付けないとって、カミさんが毎日送り迎えしてました。もうね、耐えられない状況で戦ってた。

最後にジョホールバルでのイランとの決戦に行って、僕は電話して「もし明日勝てなかったら俺は日本へ帰れない。海外に住むことになる」とカミさんに言った。

ところがそう言って何時間かしたときに、「もういい!」と。俺はここまでやった。明日俺は今の自分の力のすべて、ある意味命懸けでやる。でもそれであかんかったら、力が足らんのやからしょうがない。国民のみなさまにごめんなさいと謝ろうと思った。でも「これ絶対俺のせいじゃないな。俺を選んだ会長、あいつのせいや」と。

(会場笑)

いや、笑い話だけど、今思えば完全に開き直って怖いものがなくなって、そのときから人生が変わったんです。あのどん底へ行ったときに、「もういいわ!」と。

家畜は抗生剤を飲まないと生きられない

岡田:じゃあ今の社会を省みて……村上和雄先生という生物学者の人が、遺伝子にスイッチが入るという言い方をしています。僕らは氷河期、飢餓期を越えてきたご先祖様の強い遺伝子を持ってるんだけど、こんな便利・快適・安全な生活をしていたらスイッチが入ってないと。

僕はあの瞬間に入ったような気がしたから。今の社会はより便利・快適・安全。公園で1人の子どもが怪我したら全部を使えなくする。こんなに守られてて、いつ遺伝子にスイッチ入れるんだろうと思って、僕は一般社団法人を作って、野外体験教室を今もやってるじゃん。9泊10日無人島体験とか過酷なやつを(笑)。

病気をしろとは言えないんで、そういう体験をどこかの年代でさせる社会にならないと、どんどん人間が弱くなってくる。エサが流れてきて、体洗って、屋根のついたところにいる家畜というのは、弱いから抗生剤を飲ますんだよね。

今なにもしなくても生きていける社会にしちゃってて、本当にいいのかなと思う。だからさっきからちょっとしつこいように言うのは、どこかの年代なのかわからないけど、どこかでそういう乗り越えるようなことも必要なんじゃないかなと思っています。

青野:そのときは全国民が見てましたからね。

岡田:そういえばスタンドでなんか投げてたよね。「岡田辞めろー!」とか言って。

(会場笑)

青野:やってないです(笑)。いや~あのときのプレッシャーというか、選手の誰を使うのかも含めて意思決定にはものすごいプレッシャーとエネルギーがいったというか。ある意味岡田さんの死生観もそこでできたんでしょうね。

もうここまでやって無理ならしょうがないと。要はベストを尽くす大切さだったりとか、それ以上のことは自分はできないからという悟りというか。すごいですね。

イケてる社長とイケてない社長の明らかな違い

岡田:うちの社員もね、野外体験やらせる。みんな嫌がるけど(笑)。なんかあったほうがみんながまた一致団結するというのはないんですかね?

塚越:上に立つ人がそういう話をしてやることが大事じゃないですか? どんな苦境に立っても、それがなにかの糧になるよと。それに耐えてきたみたいなこと、みんな言ってるよと。

上に立つ人は、それがいいことだと思わせることも大事じゃないですかね。つらいとただ思うだけじゃなくて、それはあなたにとってすごく肥やしになるよと教えてやることも大事だと思うんですよね。

青野:崔さんにご質問が来ています。「イケてる社長とイケてない社長って見分けられるんですか?」と。伸びる会社の社長……。たくさん経営者を見て来られまして、これはわかるものですか?

:私が見てきた経験と学術的にデータに基づいた話は、いろいろあります。そうですね、イケてる社長とイケてない社長……。まずデータで言われている話です。さっきの、利他と自我でしたっけ? 

塚越:我利。

:我利ですね。利他と我利のバランスの話をされたと思います。我利が圧倒的に上にいくと、社員の給料を上げずに株主にも配当せずに、自分だけ自家用車とか、自分だけの利益を優先しようとか、自分の子どもの学費が……なんていう話が出てきちゃうわけですよね。あの方のことを言ってるわけじゃないです。

(会場笑)

そういうことがなんで起こるのかと思ったときに、まずでてくるのはモラルの話です。モラルで人を制するということをあまりにし過ぎると何が起きるかというと監視社会になってしまう。これが崩壊したのが社会主義でソ連でしょう。

そこでモラルだけでなく、経済学でも出てくるインセンティブという動機付けなどで経営者や組織を律しようとなる。もちろん、このモラルとインセンティブどちらも大事ですが。後者が行き過ぎると、株主資本主義と揶揄されるような、あまり嬉しくないことが起きるのも事実です。

社外取締役の功罪

:経営者に対しての私的利益を追求させないためのインセンティブ設計にはいろんな制度があります。あっ1つ私が注目しているのが「社外取締役にどんな人を入れてるんだろう?」ということです。

例えばアメリカの研究で、アメリカのS&P 500というのに組み込まれている上場会社の、なんと社外取締役の94パーセントがCEOの同級生であったり、元同僚であったり、仲良しチームの可能性があると。そういう仲良しの度合いが強ければ強いほど経営者を律する機能が働きにくく、企業勝ちにマイナスになることも報告されています。

社外取締役ってはっきりいって、取締役の1票を持ってるからうるさいやつらじゃないですか。でもそれをあえて仲間とかそういう人じゃなくて、ぜんぜん関係ない人を置いているかどうか。「俺は自分を律する環境に置ける経営者だぞ」というのを示しているかどうかというのを、私は1つ見てるかなというところですかね。

青野:社外取締役を置いてないサイボウズとしては非常に耳が痛かった(笑)。

:すみません(笑)。全部じゃないです!

青野:でもそういうことですね。やっぱり経営者が厳しい環境に身を置く覚悟がないようなところはそんなにうまくいかないよということですね。

業績がよくない会社の経営者に取り巻きが多い

:もう1つ経験の話です。メディアの仕事をさせていただいていると、番組で経営者の方と共演させていただくことがあるんです。おもしろいのが、あんまり業績がよくなかったりとか、ちょっとどうかなという会社だと、お連れさんがめちゃくちゃいっぱいいらっしゃるんですよ(笑)。

社長に対して、例えば広報の方とかIRの方が2人、3人ならわかるんです。「なんで10人でゾロゾロ、ゾロゾロっと来るの!? 」とか。俺、私すごいんだぞという人もいると。

一方ですごく自立されててどんどん伸びてくぞという会社だと、1人、2人の少人数で来るなというのがあります。それこそまさに自己顕示欲であるとかを示したいとかの現れなのかななんて思いました。集団で俺すごいぞと示したがる人は、なんなんでしょうかね?

青野:俺すごいぞ的に見せようとする人は、色でいうと何色になるんですかね? ピラミッドの色はアンバー的な感じになるんですかね。

嘉村賢州氏(以下、嘉村):アンバー。オレンジとかでも、達成意識の手段が目的と入れ替わってどんどん稼ごう、稼ごうになっていきますし。アンバー、オレンジは地位を表明することによって統率しやすくなるので、どんどんバッジが増えていくみたいな。

青野:あ~。

嘉村:バッジが増えていったりとか、専用の車を持たれたりというようなことで地位を示そうという傾向があるということもありますし。

青野:地位によって統治をしようとするとそうなる?

嘉村:この人は明らかに上だというように、誰に指示を仰げばいいかがわかりやすくないと組織が動かないので。上同士もここは差があるということが見えないと、現場からはどこに仰げばいいかわからないわけですので、より地位がわかりやすい仕組みを作ろうとします。

青野:なるほど~。お付きを減らすように、ちょっと気をつけます。

(会場笑)

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