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パネルディスカッション 【前編】(全3記事)

塚越寛氏「雇用するとは、その人の一生に責任を持つということ」ーー社員が幸福な人生を送るために、会社組織にできること

2019年3月30日、ベルサール東京日本橋にて「チームワーク経営シンポジウム2019 新しいカイシャとティール組織について語ろう!」が開催されました。同日に開催される株主総会に先駆けて行われたこのイベントでは、サイボウズが目指す「チームワークあふれる社会をつくる」と親和性の高い次世代型組織モデル「ティール組織」をテーマに、著者の嘉村賢州氏や伊那食品工業社長の塚越寛氏 など多彩なゲストが登壇し、さまざまな視点からティール組織の可能性についてディスカッションが行われました。本記事では、パネルディスカッションの冒頭に行われた自己紹介パートを中心にお送りします。

『ティール組織』で考える、これからの会社のあり方

青野慶久氏(以下、青野):それでは、ここからはゲストをお招きしてパネルディスカッションに移りたいと思います。ぜひ大きな拍手でお迎えくださいませ。よろしくお願いします。

(会場拍手)

よろしくお願いします。すごいメンバーでしょ。これでみなさんに満足していただいて、あとの株主総会はスッとやり抜けるという作戦です。

(会場笑)

今日はどうもありがとうございます。非常に恐縮なんですけれども、お一人ずつ自己紹介をいただきながら、お話をうかがっていきたいと思います。最初は塚越さん、よろしくお願いできますでしょうか?

塚越寛氏(以下、塚越):あっ、座ったままでいいんだよね?

青野:座ったままでけっこうです。

塚越:(自らの帽子に触れながら)「今日は(会場が)キャンプの雰囲気になってるから、帽子はかぶってたほうがいいよ」とかって言われたもんで。

青野:お似合いです(笑)。

塚越:塚越と申します。昭和12年の生まれですから、ただいま81歳です。実は21歳のときから経営者的な立場です。非常に小さな会社を、やらざるを得なくなりました。

なんと、60年間トップみたいなことをやっています。長い経験から出る、ある種の変な屁理屈が出てまいりました。それでいいかどうかは、ちょっと疑問に思うときもありますけれども、自分の考え方というものは確立できてるかなという気がしております。また後ほど紹介させていただきます。塚越です。どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

青野:続きまして、岡田さん、よろしくお願いできますでしょうか。

岡田武史氏(以下、岡田):みなさん、こんにちは。今、私は、青野さんの出身地の愛媛県の今治で「FC今治」というプロサッカー……プロじゃない。まだプロになれてないな。J1・J2・J3とあって、その下のJFLに属しているチームのオーナーをやっております。

会社としては、株式会社今治.夢スポーツの代表取締役会長ということです。今までチームづくりをやってきて、会社経営を始めてからは4年が経ちます。死に物狂いで「みんなに給料払わなきゃいけないのが、こんなに大変なことなのか」という思いです。

チームづくりと共通の面もあるし、まったく違う面もある。そういう意味で、この歳になってまた新たな発見です。今日は塚越さんにいろいろ教えてもらおうと思って、やってまいりました。よろしくお願いします。

(会場拍手)

青野:続きまして、崔さん、お願いできますでしょうか。

崔真淑氏(以下、崔):エコノミストの崔真淑と申します。

今日はキャンプをイメージということだったのですが、キャンプの格好がなかったのでピクニックの格好をしてきたんです。けど、背景の緑と同化してしまいました。

青野:(笑)。

:私は、今何をしているのかですが、3足のわらじを履かせていただいています。

1つは、学術研究者として、一橋大学大学院の博士後期課程で株主と経営者のコミュニケーションについて研究しています。「株主がわちゃわちゃ物を言ったほうが企業はよくなるのか、それとも逆なのか」とか、「信頼される経営者の特徴とは何なのか」であるとか、「悪さをする経営者の特徴は何なのか」とかを研究しています。それが1つ。

2つ目が、この学術研究のベースをもとに、メディアを中心に経済解説、株式市場の解説をしています。メディアの仕事です。

そして3つ目が、そうした知見であるとか経験を活かして、社外取締役や企業のアドバイザーとして、客観的な目線で企業を見るという実務的なこともさせていただいています。

なので、今日はもう好き勝手いろんなことを発言させていただこうと思いますので、よろしくお願いします。

青野:よろしくお願いします。

(会場拍手)

あなたの会社の色は何色?

それでは、今からパネルディスカッションを始めたいと思います。いくつか業務連絡があります。このパネルは前編と後編に分かれています。今から14時20分ぐらいまで、50分ぐらいが前半戦ということになっております。

後半戦はみなさんからの質問をたくさんお受けします。それでは、パネルにいく前にみなさんに1つアンケートをとってみたいと思います。先ほど嘉村さんからティール組織についての解説をいただきました。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

Redの原始的な組織からティール型組織まで、いろいろあります。質問は「みなさんの属している組織は何色ですか?」ということで(笑)。

では、「Redに属しているぞ」と。「ちょっとマフィアっぽいぞ」という組織の方はいらっしゃいますか?

(会場笑)

あら、いない? 誰も見てないと思いますので、遠慮なく言ってくださいよ。Redの次は、Amber。いわゆるヒエラルキーができた組織だという方はいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

Amberは、まぁまぁ、たくさんいらっしゃいますね。その次がOrangeですね。能力主義、実力主義みたいな会社・組織だという方?

(会場挙手)

あっ、多い! 

嘉村賢州氏(以下、嘉村):やっぱり多いですね。

青野:Orangeが多いですね。

嘉村:はい。

青野:その次の段階ですね。次はカルチャーもちゃんとできていて、一人ひとりの多様性を重んじるGreenの組織だという方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

おっ、Green多いな。

嘉村:Greenもそこそこ。

青野:いらっしゃらないかもしれませんが、もう1段先の「売上目標すらねえぞ」みたいな、ティール組織だという方はいらっしゃいます? 

……これはいないかな。じゃあ、やっぱりOrange・Greenあたりがマジョリティということですね。

「死に物狂いにならないと潰れちゃう」 岡田氏だけがRedの理由

青野:このパネルの前に、実はお三方には「どこに属しますか?」というのを聞いています。こちらのスライドに出てますね(笑)。

(会場笑)

ねえ。Redですよ。岡田さん。

岡田:俺だけ? 誰もいないの?

(会場笑)

青野:岡田さんがRed。

嘉村:会場に1人います。

青野:あ、会場で1人いましたよね。どうしてRedにされたんですか?

岡田:Redというか……まず、経営も何もわからないのに、最初東京とかいろんなところから6人集まって会社を立ち上げました。まだ経理業務もなんもなくて、会社の貯金通帳しか信用できないわけね。貯金通帳を見て「あれ、これひょっとして3ヶ月後、給料払えなくなるな」とかね。働き方改革は大事なんだけど、これはあんまり言っちゃいけないんだけど、死に物狂いで働かないと本当につぶれちゃうんですよ。

(会場笑)

昔、『HARD THINGS』という本が流行ったでしょ。みんなで事務所に寝袋で泊まって働いてる、アメリカのスタートアップを描いている本で。これを社員に読ませて「これがスタートアップだ」と言ってたんです。

(会場笑)

でも、やっぱりそれじゃダメなんだなと。その頃から経営の本を読み漁って、いろんな人に教えてもらいにいきました。それでもやはり失敗しながら、やっとここまできました。

例えば、雨が降ってお客さんに900人しか来てもらえない。でも、この来ていただいた900人は絶対に逃したくない。僕は試合後に飛んでいって、出口で「ありがとうございます!」と1人ずつ挨拶するんだけど、その危機感はほかの社員にはぜんぜんないわけ。

俺はもう必死なわけよね。「なんでこいつら、俺の危機感がないんだろう?」って。そこで「そうか、俺が全部やっちゃうからだ。任せないかん」と気づいて、丸投げしたわけ。そしたら、会社が潰れそうになって(笑)。

(会場笑)

みんな何をやっていいかわからなくて、「おい、どうなってる?」とか言ったら、なんもなってなかった。「やばい!」と思ってまた元に戻しつつ、そうしたところで『ティール組織』という本に昨年出会った。「そっか、一足飛びにはダメだけど、なにか方法がありそうかな」と、徐々に変わり始めています。

すべての組織がティールになれということではない

岡田:うちはフラットな組織にしたんですけど、かたちじゃないなと。今日お聞きしたかったのが、やっぱり人の心とか経営者の心とかがたぶん大事なんだろうなと。でも、今外から見たら、たぶん真っ赤に燃えているかもしれない。

青野:真っ赤なくらいのRed(笑)。でも、Redが悪いというわけでもないんですよね。

嘉村:ぜんぜん悪いわけではない。ラルーさんは、わかりやすく物差しのようにやっていますけれども、どれが一番正しいわけでも正解でもなくて、人類は……。

岡田:無理やりフォローしなくていいよ。

青野:(笑)。

嘉村:いや、ぜんぜんフォローのためじゃないんです。それぞれの段階で発明をしてきた歴史があって、立派な発明がいっぱいあるわけですね。各場面でどれを使うかは自由なので、必ずしも「すべての組織がティールになりましょう」なんてことは、ラルーさんは一言も言っていないわけです。その正しい発明を見極めていきたいなと思います。

スポーツの監督と経営者は似て非なるもの

塚越:スポーツと会社とは、組織論がちょっと違うんじゃないかと思うんですよね。やっぱりスポーツの世界は独特で。社員を思うとかそういうことは同じですよ。だけど、スポーツは成績を上げなきゃいけない。会社もそうだっていうけど、私はちょっと違うと思いますね。

青野:ある意味、勝負。勝ち負けね。どっちかが必ず負けるという厳しいところでね。

塚越:そうそう。でも、あれですか。ティール組織はスポーツの世界でも、ということですか?

嘉村:スポーツのチームにふさわしい組織の運営方法があると思います。その時々でどれを使うかというわけなので、「サッカーをティールにしろ」というわけではないかと思います。

岡田:サッカーの現場のチームと、僕らが「バックオフィス」と呼んでいる、サポートしている会社は違うんですよね。

選手というのは、業務委託契約で1年契約なんですね。本人も、もっと給料がほしいと思っていいところがあったらいいところへ行くし、僕らも「いらない」と1年で言えるんです。けど、会社というのはそうはいかないです。クビとは言えないですよね。そこは監督と社長のものすごく大きな違いなんですね。

青野:会社と一人ひとりの契約形態の違いみたいなところからくるんですかね。正社員で長く雇用するのと違って、ある意味こっちは実力主義で短期で回していく。出ていくのも仕方ないと。

雇用したら一生責任を持つという覚悟でやる

塚越:私はGreenに座らせていただいてます。Green的な発想だと、社員はファミリーです。ですから、例えばできの悪い息子がいて、どうしようもないと。でも「働かないとダメ」と言って、普通は家族を追い出すことはしませんよね。ご飯も与えるしね。

会社というものもやっぱり、全部がそんなに優秀な人が集まるわけがない。でも、みんなが一生をある程度ハピネスに暮らせるようにする責任があると思って、私はやってきた。

上場企業なんかは、いろいろ考え方はあると思いますよ。 私の場合は、まずは経営者の責任としてね、「雇用をしたら、その人の一生に責任を持つ」という考え方を持ってるんですよ。古いですねぇ。

(会場笑)

:いえいえ。でも、社員の命を守るとか、人生を守りながら社会にも貢献していくという話になっていくと、世の中的には……ごめんなさい、今日はサイボウズさんのこういったイベントの場なのに。今、株主資本主義という考え方が出てきているじゃないですか。それについてはどう思われているんですか?

塚越:だから、私は上場をしないことに決めたんです。まぁ、うちの規模だと上場はたぶんできるんでしょうね。でも、利益ばかり求める、あるいは秒単位で売買するような、今の上場の仕組みがあまり気に入らないのでね。

ちょっと仕組み的にあんまり好きじゃないので、そういうところが改まるまでは上場しないと決めているわけです。株式公開制度そのものはいいんですよ。売買がよくないのね。

岡田:ずっとみんなで一緒にやっていくけど、こっちは1年契約でクビにする。でも、「お前もう出ていけ」とかじゃなくて、やっぱりそいつのことを思って次のチームの面倒を見てやって、そのあとも「どうだ?」とフォローしてやるという役割がいるんですね。

そういうことが大事で、そこで1年でクビで出ていくかどうか……僕ら勝負の世界で、結果は絶対に出さなきゃいけないですよ。でも、結果だけ出せばいいんじゃなくて。みんなが不幸せになって、結果を出したとしても意味がないので。

どっちかを生むのなら簡単なんですよ。「結果を出さなくていいから、みんなハッピーにいこうよ」というのは簡単。結果を出すのもとことん徹底すればいいので、ある意味簡単です。みんなが幸せになるという前提のなかで結果を出さなきゃいけないというイメージで僕らはやってます。

青野:なるほど。

:ファーストベストは「みんなが幸せ」だけど、なかなかそれが難しいという。

生きる目的は幸せになること

塚越:でもよく考えてみると、ちょっと哲学的かもしれないけど、人間が生きる目的は幸せになることですよ。それ以外に目的はないわけですよ。みんなたった一度の人生を幸せに生きるしかないでしょう。できたら幸せに生きたい。たしかにお金もあったほうがいいけど、それだけじゃないことはたしかですね。

私どもの会社は今500人ぐらいですが、会社を嫌で辞めたという人は、この20年間ぐらいでほぼいないと言ってもいいと思いますね。

青野:すごいですよ。会社が嫌で辞める人がいないんですよ。すごい。

塚越:募集をかけると、おかげさまで大卒でも今50倍ぐらいの人が来ます。

青野:50倍! この人手不足のときに、すごい。

塚越:パートさんを募集しても、50倍ぐらい来ますね。

青野:すごいですね。

塚越:会社のイメージがちょっと過剰に評価されているかもしれませんが。

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