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イントロダクション「チームワーク経営とティール組織」(全2記事)

ティール型組織は「中長期の事業計画を持たない」という衝撃 まるで生命体のように動く、進化し続ける組織構造の秘密

2019年3月30日、ベルサール東京日本橋にて「チームワーク経営シンポジウム2019 新しいカイシャとティール組織について語ろう!」が開催されました。同日に開催される株主総会に先駆けて行われたこのイベントでは、サイボウズが目指す「チームワークあふれる社会をつくる」と親和性の高い次世代型組織モデル「ティール組織」をテーマに、著者の嘉村賢州氏や伊那食品工業社長の塚越寛氏 など多彩なゲストが登壇し、さまざまな視点からティール組織の可能性についてディスカッションが行われました。本記事では冒頭に行われた、『ティール組織』の著者 嘉村賢州氏による基調講演の模様をお送りします。

600ページにわたる『ティール組織』を15分で解説

嘉村賢州氏(以下、嘉村):あらためまして、こんにちは。東京工業大学の嘉村賢州といいます。よろしくお願いします。

このたびは豪華なゲスト陣に交えていただいて、すごく緊張しています。『ティール組織』という600ページにわたる本を15分で解説する、というチャレンジを今からはじめたいと思います。

(会場笑)

前提知識をみなさんで共有して、これからの2時間のトークセッションを有意義に過ごせればいいかなと思います。少し駆け足になりますけれども、聞いていただければなと思います。

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

この『ティール組織』という600ページにわたる本を書いた人は、フレデリック・ラルーさんというベルギー人ですね。もともとマッキンゼーという会社でコンサルティングをしていた人で、独立した後で社長向けのコーチをしていたときに、すごく違和感を感じたところから旅ははじまります。

社長はビジョナリーに物事を立ち上げた人が多いんですけれども、ことごとく幸せそうじゃないと。なにか出来事に振り回されたりとか追われているような感じで、恐れを隠しているような気がするというんですね。いろいろな従業員のサーベイを見てみると、世界中の組織で、やはり多くの人が働きがいを感じていない。

そういうところに違和感を感じたラルーさんは、「この経済社会はなにかおかしいぞ」ということで、あらゆる文献をさらって読み、世界中の組織を探求しました。

ティールを理解するための2つの切り口

そんなときに、世界中の通底するメタファーという、時代ごとになにを考えているかの特徴があることに気づいていきます。戦争のメタファーで世の中の仕組みが動いている時代もあれば、その次は機械のメタファーですね。私たちは勉強するときに「インプット」という言い方をします。もともと機械で使われていた言葉が使われているわけです。

いろんな文献をあたると、最先端の物事によく使われてるのが、どうも生命体のメタファーが多いということに気づきます。ラルーさんは「もしかしたら、世界中に生命体のような組織があるかもしれない」という仮説を持って、探求するようになっていきます。

そのときには「できるだけ変わった経営をしている組織を教えてください」という問いで、いろいろな方に教えてもらって、訪ねたそうです。そうすると、いくつか今までのやり方とはぜんぜん違うやり方の組織が世界中で発見されたことに驚きます。そのなかでいろいろな組織に共通するものを見つけて、まとめたのが『ティール組織』です。

ティールといえば、2つの切り口を押さえておけば、ある程度理解したなと思っていただけると思います。1つが歴史の切り口です。人類が誕生して以来、組織はいくつかの歴史を辿っているということ。そして2つ目が、ラルーさんが見つけた新しい組織の息吹には3つの特徴があることです。その部分を押えていると、ティールに関してある程度理解できたかなと思います。

今からザッとそれを見ていければなと思います。

組織の歴史・5段階説

まず、歴史の観点からお話ししたいと思います。日本語の本では7段階で書かれていますが、海外では5段階で語られることが多いので、5段階で説明したいと思います。

ラルーさんは、組織の歴史を探求していくなかで、色で名付けています。「どうもこの5段階が理想だ」ということを、ラルーさんはまとめています。

一番古いパラダイムが「RED」とラルーさんは書いています。これは簡単にいうと、ヤクザ、豪族、マフィア。ジャイアンの感覚ですね(笑)。「言うことを聞かなかったら、殴るぞ、殺すぞ」と、脅しで集団を動かすのが一番手っ取り早くて物事が動くと。それがすごく原始的な組織の運営形態として世界に現れてきました。

その後「AMBER」のパラダイムに入っていきます。例えば、ピラミッドを創るとか、大きな事業を成し遂げるときに、脅してるだけでもなかなか人は動かないですし、話し合っても埒が明かない。そんなときに「お前は身分が低いからやれ」というのが、一番楽なわけですね。

こういう時代に発明されたのが、「上意下達」とか「指示命令系統」「業務プロセス」というものです。ある程度、長期的な展望をもって大きなことを成し遂げられるという時代に入ってきました。

その段階から次の「ORANGE」にいくと、だんだんと村と村が出会い、国と国が出会い、組織と組織が出会い始め、競争が始まっていくんですね。王様が寝そべっていてもピラミッドが作られていた時代はよかったのですが、いち早く武器を作らないと滅んでしまうというところにいって、各組織が競争を激化させる時代に入ってきました。

合言葉としてはこぞって「イノベーション」ということを探求し始めて、改善・改良していきます。この時代は「科学的マネジメントの時代」ともいわれていまして、1時間あたりの生産量を測っていろいろな改善を生んできた時代です。

今の世の中の大半がまだ「ORANGE」だと思います。いろいろな組織の経営論の方法・テクニックは、だいたいこの時代に発明されたものかなと思います。

承認プロセスの「ORANGE」から、フラットな「GREEN」へ

この時代の最大の発明は「能力主義」といわれています。「がんばれば出世できる」というものを発明したことによって、その前の奴隷の身分の人たちとか、なかなか苦しかった人たちも、がんばれば出世できるしお金儲けもできるということで、こぞってがんばり始めた時代でもありました。生産性を高めていった時代だと「ORANGE」パラダイムではいわれています。

ただ、みなさんご経験があるように、「ORANGE」パラダイムもいくつかの矛盾が生じます。上に上がれる人はがんばり続けるけれども、上がれなかった人は考えなくなるということもあるかもしれません。

この時代のメタファーは機械ですから、スキルで雇われて、スキルで配置されます。人間は1つのスキルだけを発揮して人生を生きるだけじゃなくて、いろいろな側面を持っています。けれども、それしかできないという働き方のなかで、矛盾とか虚無感を感じる人もいるかもしれません。

そして、実は世界の変化というのは現場で感じることが多いけれども、こういった組織では承認プロセスというものを辿っていきますので、伝言ゲームとか伝わらないとか、あるいはせっかく提案したのに却下されてという感じで、他責とか、「もう言うのをやめておこう」というような組織にもなりがちなのが「ORANGE」のパラダイムになるわけです。

そんななかで、だんだんと「GREEN」というパラダイムの組織が現れてきます。「ORANGE」だと、名前に階級をつけて役職をつけて呼ぶことが多いです。「〇〇社長」「〇〇部長」「〇〇課長」。「GREEN」の組織では、ほとんど言いません。「〇〇さん」という呼び方とかニックネームとかですね。

要は「アイデアとか言いたいことがあったら、承認プロセスを上げるんじゃなくて、ざっくばらんにみんなで話していこうじゃないか」と。「家族でしょ。仲間でしょ」と。「一緒に考えて、一緒に未来に向かっていきましょう」と。そういった組織が「GREEN」の特徴になります。

こういった組織は、カルチャーを大事にして、対話を大事にして、話し合いが行われます。権限移譲もどんどん行われて、いろいろなことを任せてもらえるので、社員もコミットメントしてがんばるような組織が「GREEN」の特徴になります。

信頼で結びつく「ティール型組織」

しかし、「GREEN」もいくつかの矛盾をはらんでいるといわれています。1つは、簡単にいうと「船頭多くして船山に上る」ですね。多様な価値観を大事にしようという組織は、それゆえになかなか物事が決まらなかったりとか、進まなかったりということが起こりがちです。

もう1つは、「GREEN」の組織の会社の人と話すと「うちの社長はちゃぶ台返しが多い」という口癖が多いんです。まだ緩やかにピラミッド構造が残っていますので、社長とか役員層、あるいは理事会のような上の層と、仲良くざっくばらんに話しているメンバーの層とで、どうしても溝が生まれやすいというのが「GREEN」型の特徴になります。

そんななか、どうも世界中では、この「RED」「AMBER」「ORANGE」「GREEN」に属さない、一人ひとりが自由に意思決定できるけれども、信頼で結びついてパフォーマンスを出している組織が、ポコポコと現れていると。それを「ティール型組織」と名付けようと、ラルーさんはまとめました。

振り返っていきますと、衝動的に動かしてく「RED」の組織があり、長期的な展望で上意下達指示命令系統を発明した「AMBER」組織。ハード的マネジメントの時代ということでいろいろなPDCAサイクルを回しながら組織を変化させていったけれども、少し機械のように働くなかで矛盾が生まれた「ORANGE」組織。多様な価値観を大事にして話し合いとかカルチャーを生み出していった「GREEN」の組織。

しかし、2つ矛盾があるという話はさせていただきました。そんななかで、いくつかの組織がティールとして発見されていくわけです。

訪問医療から自動車会社、4万人の電力会社と、さまざまな業種業態・人数規模、歴史も、30~40年続いている組織から10年以上の組織まで、けっこう幅広い長さで運営されている組織が見つかっていきました。

上下関係の組織構造を手放した「自主経営=Self Management」

続いて、2つ目の切り口のお話をさせていただきたいなと思います。「3つの特徴がどうも世界中のティール組織ではありそうだ」ということをラルーさんは発見していきます。ここらへんを深掘りすると本当に時間がかかるので、ザクッとお話ししたいと思います。

3つというのは何かというと、まずは「自主経営」。英語でいえば「Self Management」。2つ目は「全体性」で、英語では「Wholeness」。3つ目は「存在目的」で、英語では「Evolutionary Purpose」。ということで、1つずつ見ていければなと思います。

1つ目は自主経営、Self Management。これはすごく誤解が多い概念です。「自分のことを律することができて、自己マネジメントができる人の集合体なんですか?」「優秀な人が集まるということですか?」といわれるんですけど、ラルーさんはそういう意味はまったく言っていません。上下関係による組織構造を完全に手放しているということを、著しています。

実は、そういった構造は自然界にはけっこう普通にあると。ここに描かれているのは、例えばニューロンですね。ニューロンというものも、神経細胞がつながって複雑なことをやるときに、誰か指示する中心的な役割があるわけでもありません。

こちら(スライド)に描かれているのは、世界のグローバル社会ですね。グローバル社会・グローバル経済というものも、誰かが牛耳ってなにか指示命令をしているわけじゃなくて、それぞれが自由な経済活動をするなかで調和をとった動きになっていっている。

あるいは鳥の群れですね。渡り鳥の群れも、長距離移動するときに、1羽の鳥が先頭でずっといくわけじゃないですね。どんどん入れ替わりながら、渡り鳥は渡っていきます。

こういうかたちで、指示命令型・統率型のマネジメントというのは、自然界では逆に少なくて、自由に動いているなかで調和を持っている組織が多いです。人間社会もこのようにできないだろうかと。実はやっている組織がいっぱいあるぞということを、ラルーさんが発見したわけです。

なにか物事を決めるときに、そもそも今までのパラダイムだったら「権限を委譲する」という言葉があったりとか、より多くの決定権を持っている人と少し部分的に分け与えられている人という発想があります。ティール組織では「そもそも全員が決定権を持って当然でしょ。主体性のある人々、人間なんだから」と。

そういう人たちがうまく連携しながら決めていきましょうということで、承認プロセスもありません。会議にかけるというのもほとんど少なくて、自由に意思決定するけれども、ちゃんと相談に乗り合いながらやっていくという仕組みで動かしていく場合が多いです。そんな自由に決められる信頼のある組織構造のことを、1つ目の特徴として自主経営と呼んでいます。

職場が「効率的に物事を処理する、生産性を上げるための場所」になっている

2つ目は全体性ですね。英語ではWholeness。私たちは、どうでしょう。みなさんは、日曜日の夕方になると、月曜日に出社するのが嫌だなと感じる人もいるかもしれません。実はそういう感覚も、ラルーさんは不思議に思っているわけですね。

なぜ友達と過ごすように、家族と過ごすように、ありのままで職場で出せないんだろうと。多くの職場では、電子レンジはあるがキッチンがないと。やはり会社というのは効率的に物事を処理する場所で、人間らしさは少し置いておいて、生産性を上げる場所になってしまっていると。

実は本当はありのままに出せたほうが、やっぱり熱量も上がりやすいですし、リラックスしているほうがクリエイティブになりやすいです。そんな安心・安全な職場を実現している組織が、世界中にあると。子どもを連れてこれる職場、ペットを連れてこれる職場、それぞれが自分のデスク周りを飾っている職場。

そんななかで、本当にクリエイティブに、上司の評価や同僚との給与の違いとかにエネルギーを割く前に、リラックスしながら本当に大切にしたいお客さんとか仲間のために情熱を注いで組織ができる。それが人間本来のすべてのものを使った働き方だということで、全体性とラルーさんは語っています。

ティール型組織に「中長期事業計画」はいらない

最後が存在目的。英語でEvolutionary Purposeというところです。ラルーさんが世界中のティール型組織を見て、1つびっくりしたことがあります。それは、ほとんどの組織で中長期事業計画を持っていなかったという事実だったんですね。

実はラルーさんが警鐘を鳴らすのが、目標を立てるということが、世界の変化あるいは自分たちの変化に対して色眼鏡をつけてしまって、正しく見れないものになっているんじゃないかということ。本当は目の前のお客さんのことを考えるとこうすべきなのに、目標があるからやれないという事態になってませんかと。

世界中のティール組織は、世界の変化、自分たちの変化を感じながら、コロコロと事業内容であったりとか組織の構造を変えながら、本当に生命体のように動いている組織がたくさんあったと。そういったところに一度チャレンジして、どんどん進化し続けていく組織として運営しているところが多くあったということを発見し、まとめたのがEvolutionary Purpose、存在目的です。

この3つの特徴がすべての組織にあったわけじゃないですけれども、多くの組織に発見されたということで、ラルーさんはこの3つの特徴をまとめたことになります。この5段階の歴史と3つの特徴をちょっと頭の中に入れた上で、引き続きディスカッションを聞いていただければなと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

青野慶久氏(以下、青野):嘉村さん、ありがとうございました。

嘉村:ありがとうございます。なんとか15分にまとまりました(笑)。

青野:600ページをね(笑)。でも、やっぱり「目標がない」というのは、けっこう衝撃的ですよね。

嘉村:そうですね。かなりそこには警鐘を鳴らしていますね。

青野:目標なくて、会社運営ってできます? 「そんなことしたら、みんな緩くなっちゃうんじゃないの?」と思っちゃいますよね。

嘉村:でも彼は「内なる指針が絶対にみなさんにあるはずで、内なる指針・内なるエネルギーをもとに動いていたら、その結果、絶対利益も含めて回っているということを、いろいろ調査をするなかで見えてきた」といっているんですね。

青野:おもしろいですね。ありがとうございました。

嘉村:ありがとうございます。

(会場拍手)

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