2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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伊藤羊一氏(以下、伊藤):あと、(転職するときは)業種や自分がやっていることと会社とのカニバリ具合が大事です。銀行でのネットワークなんて置いていったほうが、たぶん正しいわけです。しかし、オフィス家具や文具を扱っていて、僕がどこかに転職して、そのまま会社のお客さんをとって、文具などを扱う仕事をやると会社にとってもよくないから。それはよくないよね。
浜田敬子氏(以下、浜田):私の場合はメディアからメディアなので、まさに……。
伊藤:そうそう。だからね。
浜田:実は朝日新聞を辞めるときは、すごく怖かったんです。こちらからすると、まさにどれくらい個人としてのお客さんがついているのかわからないんですよ。「AERAの浜田さん」「朝日新聞の浜田さん」と思っている人はたぶんいるだろうと思っていたので、それがすごく怖くて。
例えば、当時はテレビのコメンテーターや個人の講演をやっていたんですけど、もうそれがゼロになるのかもしれないと思っていました。
辞める日にFacebookでそのことを書いたんです。でも、ありがたいことにコメンテーターを続けさせていただいたりして。でも、自分にはわからないんですよね。どれだけが本当に自分のお客さん・人脈なのかは、辞めてみないとわからないのが難しさというか。
伊藤:辞められるときに、会社との契約や取り決めはあったんですか?
浜田:それがありがたいことに引き止めていただいて。新しいプロジェクトを立ち上げたばかりだったので、業務委託で朝日新聞に1年間残っていたんですよ。
伊藤:なるほど。
北野唯我氏(以下、北野):へ〜。
浜田:ですので、すごくありがたいですね。でも、同業者から同業者に転職というのがやっぱり一番難しいというか。
伊藤:そうですよね。
浜田:競合……。ゼロからの新興メディアと大新聞だと、規模がぜんぜん違うのはありますけれどね。でも、ほとんどの記者は、例えば読売新聞から朝日新聞に行くようなパターンなんですね。そうすると取材先やネタ元を引き連れてくるわけです。
伊藤:そうですよね。
浜田:編集者もそうじゃないですか。編集者と筆者の方の関係はめちゃくちゃ個人的なもので、出版社を移っても作家を連れていくことに価値があるわけですよね。
北野:確かに。
浜田:そこが一番の資産ですよね。ですので、やっぱりそれはすごく警戒されます。会社はやっぱり、売れっ子編集者の移籍はいやがる。じゃあ、次のテーマに。
お二人は転職もされていて、大きな会社にもいらっしゃっていたということで、今のポジションの前に築かれた自分の資産で、何が一番生きているんでしょうか。大企業だからこそ培ってこられたものが何だったのか、お聞きしたいです。
北野:大企業って、やっぱりドアオープナーではあると思うんですよ。それこそ名刺の1枚目だと思うんですよね。
浜田:最初ね。はい。
北野:でも、そのあとに人脈を構築できるかは、本当に自分の実力というか、実績次第というのが結論な気がしていて。
例えば、本を出すようになって、いろいろな方から取材の申し込みをいただくじゃないですか。そのときも最初に会うか会わないかは、正直そのメディアの会社名などを見るじゃないですか。それはドアオープナーとしては、やっぱりまだ役に立つし。
浜田:なるほど。
北野:我々出る側からすると、それはすごく重要だけど、そのあと本当に資産になれるかどうかは、その人の実力なのかなと現時点で感じています。でも、さっき浜田さんの話を聞いていて思ったのは、メディアのお仕事ってある種、名前の出やすい仕事じゃないですか。
浜田:はい。
北野:でも、名前の出ない仕事をしている方のほうが多いんですよね。そのときに自分と組織の名前でいうと、自分の名前のほうが大きくなり得るのかな? と思ったりもします……。
伊藤:そういう意味でいうと、僕は前の会社で、ある意味メディアなどとは関係のないところで仕事をしていて、結果的に自分の名前を強化することになりました。
銀行のときも同じようなことをやっていたんですけれど、要するに「何をするのが仕事か」ということです。会社が「こっちをやってほしい」と言うから、お客さんに対して「うちの会社はこれをやってほしいんですよ」と伝えたら、当然お客さんなんか振り向いてくれないわけですね。
北野:そうですね。
伊藤:「あなたが喜ぶことって何ですか? 私は今この銀行なり会社に勤めているから、ここの機能は超早いですよ」と。だけど、僕にはネットワークがあります。そうするとこのネットワークからここに連れてくることもできます。
コンサルだからということもあるんですけど、僕はまとめ役としてあなたにバリューを提供します。こういうことを会社というものを使ってやる。これは当たり前だと思われるかもしれないけど、みんなついつい会社のために働いちゃう。「会社がこう言ってるんですよ〜」みたいなね。
でも、僕が提供するバリューの一番メインの部分は、僕が属している会社で他にもいろいろあります、と。銀行だとバランスシートのところをここで全部できますと。だけどPLの部分は、例えば「営業外利益のところは証券会社を使ってやりましょう」「オフバラ(オフバランス取引)のところはリース会社を使ってやりましょう」というふうにできれば、自分のバリューになってくる。
北野:そうですよね。
伊藤:そこができるかできないかは大きいです。僕は銀行に勤めていたときは、それが足りなかったんだということだと思います。
北野:クライアントなどを満足させる目的に対して、会社のリソースという部分は絶対使えます。クライアントを満足させることは、『転職の思考法』の世界観に似ていて、「あなたに来てほしい」「あなたが辞めたら、ぜひうちに来てくださいよ」という状態になるということですよね。浜田さんもそうだと思いますし。
伊藤:営業などのクライアントワークをしている人にとっては、当然そうなるのが理想じゃないですか。
北野:やっぱり、そうですよね。
伊藤:きれいごとを言っていますよ。それをわかったうえで、そこを目指していくと、ネットワークは自分についてくるようになる。
浜田:とはいえ、こういうこともあったんです。朝日新聞を辞めたときに、ショックに思ったことがあって。会社にはいろいろな人がいるので、「あいつは朝日新聞の名前でテレビにも出たのに辞めやがって」と言われるわけですよ。
北野:(笑)。
浜田:「そう言ってた人がいたよ」と、ありがたいことに教えてもらって、「あっ、そういうふうに思う人がいるんだな」と。そのあとも、別に私がどうしてもテレビに出たいというよりは「出てください」と言われて、「ありがとうございます」と言って出ているんですよね。でも、最初に朝日新聞を利用したと。
当然、そこでやっぱり実力の問題があります。他の先輩たちもテレビに出たり、本を書いて売れたりした人は、独立していくことが多いんですよ。そうすると、会社がおもしろいかと言ったら、おもしろくない人がいるんだなと。当たり前ですけど。
伊藤:まぁ、いますよ。言われまくりますよ。「売名」とかね。「伊藤さんは会社を使って好きにやってるよね」というのは、デフォルトですよね。
浜田:でも、Yahoo!アカデミアの宣伝にもなれば……。
伊藤:それをやることによってYahoo!アカデミアにもいい人が来て、社外の人にも入ってもらったりするんですけどね。結果的に僕がアイコンになればいいじゃん、と思うんですけれど、なんだか言ってもしょうがないかなと思って。
北野:それって2つあって。1つには、やっぱり組織の学習プロセスがあるなと思っています。例えば、私も本を出すようになって、いろいろなメディアに出させていただいて、そこからワンキャリアという会社を知ってくれた方がめちゃくちゃいるんです。
「なんですか、その会社?」とよく言われるんですけどね。振り返ってみたときに、本を出す前に、会社が僕が本を出すことにウェルカムだったかというと、ぜんぜんそんなことはなくて。
浜田:そうなんだ。
北野:むしろ出すな、みたいな。NGを食らっていたりするんですよ。でも、僕はそのときに無視して1回(本を)出したんです。要は組織って学習するプロセスがあるんです。これまでの日本のカルチャーが続いている会社だと、1人の人が目立って、それで引っぱっていくベネフィットがある、ということを学習していないんだと思う。
浜田:そうですね。
北野:だから、最初は「いやいや、そんなことやったらお前」となるけれど、1回誰か1人が突破すれば、そのあとは組織が「なるほどね」というような。確かにリスクは存在しているけれど、こういうメリットがあるんだと学習するんです。
浜田:どっちがいいかみたいな。
北野:そう。僕がそのことを確信したのが、ある国家公務員をやられている方がいらっしゃって、けっこうメディアに出ているんですね。その人に「国家公務員なのに、よくメディアに出られますね。どうやっているんですか?」と聞いたら、「無視してやってます」と言ったんですよ(笑)。
「もう出ちゃってます」という。それで「すげーな、この人」と思って。「怒られないんですか?」と聞いたら、1回出てみると、みんな逆に「よくやってくれた」という感じになると。「PRになった」「すごい」という感じになるので、逆輸入のようなかたちで社内でも働きやすいし、自分にとってもプラスだよと話していたんです。
「国家公務員ですら、これなのか」と思ったときに、意外とみんなが思っているほど大変じゃないというか……。そんなにリスクがあるものではないんだな、と思ったりしました。
浜田:実例を先に作っていっちゃうということですよね。
北野:そうです。
浜田:そのメリットのほうが大きいじゃん、と。「実はそうなんだ」ということになれば、組織は学習していく。
北野:そうそうそう。わかりやすい例で、LINEなども田端信太郎さんがめちゃくちゃメディアに出ているじゃないですか。
浜田:ええ。
北野:だから、田端さんがめちゃくちゃ出てくれることによって、インフルエンサーの方が安心して入ってくる。ちょっと有名な舛田(淳)さんという方がいらっしゃたりするんですけどね。それがLINEにとってプラスになる、ということを学習した組織だという側面は、あったりすると思いますね。
伊藤:これはちょっと理想論みたいになっちゃうかもしれないんですけど。個人として何をやっていくのかを考えたときに、目標に対して最短距離でたどり着く方法が、自分の名前を売って自分のアイコンになることだとしたら、やっぱりそれを……。
浜田:それを使うと。
伊藤:躊躇したら、それは理想に対する冒涜なんじゃないかなと。例えば、僕の名前が売れることによって、Yahoo!アカデミアのクオリティが上がっていく。そのサイクルを回すうえで、自分が重要なパーツになるんだったら、やっぱりそこを躊躇しちゃいけないと。
そうすると、さっき北野さんが言ったように、それを止めようとする動きも、会社の側からすると「騒いでくれるな」とか「おとなしくしていろよ」というのもわからんではないので。そういうものがあるとわかったうえで、どう折り合いをつけていくか。ケンカするんじゃなくて……。
浜田:ルールを作るとかですよね。
伊藤:ちゃんと話し合うことで、お互いにとってWin-winだよね、という状態は作らなきゃいけない。なぜかというと、結局会社って、会社という意思があるわけじゃなく箱であって、一人ひとりの社員の意思があるわけじゃないですか。
その社員が目立たないようにすることが、会社にとってハッピーなのかどうか、という。20年前、30年前のパラダイムだったらそうかもしれないけど、今はむしろ際立つ方法が重要なので。会社がこう変えていく、というものが必要なのかなと思います。
浜田:先ほどのテーマになってきますね。実際にパラダイムシフトが起きつつある。しかも、今たぶん先に個人の側から起きつつあると思うんですよね。欲求として起こりつつあると思うんです。
去年の秋くらいに、副業をやっている人の4人の匿名座談会をやったんですよ。しかも、その会社はぜんぶ副業禁止。
北野:へ〜。
浜田:けれども、今は副業をやりたい人が増えてきているので、みんな自分が持っている人脈で……。
北野:ビジネスインサイダーっぽいですね。
浜田:追跡取材しようという2人がフリーランスだったりする。だから、1回副業で自分の実力を試したら、組織の外に行きたくなる。自分を試したくなってくるのが、人間の本能的な欲求としてあるんだなと思ったんです。もう1人は独立していないけれど、副業で月に100万円近く(収入が)あって。
北野:へ〜。
浜田:その人は副業で広報をしていて、本業も広報。例えばちっちゃいベンチャーとかで、広報を1人雇う余裕がないところをいくつか引きうけているんですね。それで彼女も自信がついて、次にどうするんだって考えて。
そういうふうに、個人のほうがパラダイムシフトが起きているんだけれども、さっきおっしゃったように、組織がそこに追いついていないというのが、まだ多くの会社の状況なのかなと。
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