2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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鎌田英治氏(以下、鎌田):では利典さん、同じ問い(変化の時代における不動心の獲得、信念)ですが、よろしくお願いします。
田中利典氏(以下、田中利):(1人だけ袈裟を着ているため)なんだか私だけ、すごく浮いている気がします。
(会場笑)
私もスーツくらい持っているので、それで来ようとしたんですけど「ダメだ」と言われて。コスプレをさせられました(笑)。
私は不動産も不動心も持っていないので、いい話ができるかわかりません。40歳は孔子曰く「不惑の歳」と言うじゃないですか。僕は40歳のときにものすごく迷っていました。「情けないなぁ」と思ったんですが、41歳のときにふっと、自分の軸ができたんです。座標軸と呼んでいますが、脳科学者の茂木健一郎氏に言わせると、(この状態を)「基地」とおっしゃっていました。
その座標軸ができてから、誰と出会っても、どういう本を読んでも、自分の血肉になっていくようになったんです。実はそれから20年間、その軸でやれてきたんです。これを不動心と言うのか、軸と言うのかはよくわかりません。
ところが、これは20年ぐらいしかもたないことが最近、体験的にわかってきました。先ほど世界遺産のお話がありましたが、その軸を持ったときは、「吉野で活動することは、吉野が日本の中で意味があるとするならば日本にとって意味がある」「日本が世界の中で意味があるとするならば、世界に対して意味がある」「だから私が吉野で活動することが世界に対しても意味があるんだ」というくらいの気持ちで、いろんなことをやれたんです。
田中利:けれど、還暦を過ぎると……。だんだん体力も衰えて、ボケてくる。昔持った軸ではちょっと持たないなと思いました。先ほど田中(愼一)さんもおっしゃっていたように、(分科会のテーマが)ゲームチェンジということで世の中も爆裂的に変わっていっています。そんな中で41歳で持った軸はそろそろ適用しなくなった。
ところが、ここ5日ほどの間にヒントになることがあったんです。(2018年11月)22日にダライ・ラマ法王が日本においでになりました。我々は「スーパーサンガ」というチベットを支援する会を立ち上げて、チベットの支援活動をしているんですが、そのスーパーサンガの会で法王をお招きして、博多で日本のいろんな災害の慰霊の法要と、法話会を開催したんです。
そのときに謁見もしまして、親しく法王とお出会いしました。ダライ・ラマ法王は84歳ですが、子どもみたいに無邪気で、お元気なんです。僕は何度か謁見しているんですけれど、いつ行っても同じです。誰に対しても同じ。私は「ミッキーマウスのようだ」と(笑)。着ぐるみを脱がないミッキーマウスが、ダライ・ラマ法王かなと思うんですよ(笑)。
(会場笑)
83歳になっても、誰に対しても子どものように無邪気で、お元気でおられる姿は、座標軸をなくしつつある私にとって、大きなヒントになりました。
田中利:昨日は東大寺で、「ザ・グレイトブッダ・シンポジウム」というのに出てきました。その会で私と一緒に記念講演をなさったのは、東大寺の長老さまで今の管長様のお父さん。満98歳の、狹川宗玄さんという方です。98歳ですよ。
この人、いろんなことにものすごく興味があるんです。私は修験道のお話をしたんですけれど、「いやぁ、今日は田中さんからいっぱい教えてもらいました」と、97歳のご老体に言われたんです。この狭川長老もまさにダライ・ラマのように、あのお年になってもはるかに元気で、しかもいろんなことに対して子どものように興味を持って生きておられる。
座標軸をなくしかけた私ですが、このお二人を見て、「これからは今まで以上にいろんなことに興味を持って、子どものように誰に対しても晴れやかに生きていくことが大事だな」と。みなさん方のお話の足しにならないかもしれませんけれども、経験的にそんなことを思いつきました。
鎌田:最初に、41歳で座標軸を作られた後は、自分とタイプや考え方が違う人達からも心安らかに話を聞ける、すべてが血肉になるとお話しされていましたよね。そして、84歳のダライ・ラマ法王も98歳の狭川長老も、子どものように好奇心に満ち溢れている。
不動心と呼ぶのかどうか、という話をされましたが、新しいものを吸収し続ける姿勢を維持できるかどうか。これが今の利典さんのお話のように聞こえましたが、いかがでしょうか。
田中利:それを目指していきたいと思いますね。先ほどおっしゃいましたように、だんだん歳も寄ってくるし、元気もなくなってくるので、そろそろ壊れたままの座標軸をもう1回作り直さないと(笑)。
田中愼一氏(以下、田中愼):(笑)。
田中利:そういう意味では、この歳に合わせて、もう一度作り直す座標軸は本当にいる、というのが今の正直な気持ちです。
鎌田:ちなみに41歳のとき、金峯山寺を世界遺産にしようと活動されましたよね。今いみじくもおっしゃったように、「奈良の吉野が世界のためになるなら、日本が世界のためになるならば、自分は吉野でやる」。これは1つの明確な軸だったと理解しています。
田中利:今はもう金峯山寺の重役はやめています。吉野は今、うちの弟が管長さんをなさっていて、兄ちゃんに来てもらうのは迷惑そうなんですよね。
(会場笑)
やっぱり、リーダーは2人もいらない。これが現実ですよ。「誰のおかげでなったんだ」という気持ちは、私の中にはすごくあるんですけどね。
(会場笑)
でもね、私が行くのは煙たいんです。私が行ったほうがうまいこといくことが圧倒的に多いにもかかわらず!
(会場笑)
でもそれはダメなんです。リーダーが2人いると、組織はなかなか回っていかないんだと思います。だから今、私は長臈というわけのわからない職にいるんです(笑)。顧問でもないし、会長でもない。そういう中で「あぁ、リーダーは2人もいらないんだな」というのを感じましたね。
鎌田:経営の中でも同じように、「サクセッション(継承)をどうするのか」とか、そういうことをお考えになる方々がいらっしゃると思います。非常にしみじみしつつも、そこをどう乗り越えられたのか。なにか事例はありますか?
田中利:恩師に、「僕がいっぱい苦労してきたのに、最後にあいつがおいしいところを全部持っていくんだ」と言うと、「そんでええやないか」と。これが胸に響きましたね。「そんでええやないか」。
まぁ兄弟だからそれでいいじゃないか、ということもあるし、自分の意思を理解してくれる人が後を継いでくれたことも含めて「そんでええやないか」。これを言われたときに、恨みつらみは消えました。
「そんでええやないか」となるべく思う。でもやっぱり「誰のお陰で……」というのはあります(笑)。
(会場笑)
鎌田:ダライ・ラマ法王との謁見の話も、非常にインパクトのある話でしたね。せっかくなので、みなさんにもかいつまんでシェアをしていただいていいですか。
田中利:法王と謁見したときに、「何かご質問はありますか」と聞かれました。約2000人を前に法話会をなさった後も、あの人は1時間くらいフロアからいろいろなご意見をお受けになるんです。
「私だったらなにを聞くかなぁ」と考えて、ふと思いついたことがあるんです。でも「まぁ2000人もいるのに手を挙げてまで……」と思っていたら、隣の人がマイクを持って質問したんですよ。「これは次に私が聞けということかな」と思いました。
なにを聞いたかといいますと、ダライ・ラマは「もう転生しない、生まれ変わらない」と公の場ではおっしゃっているんです。ダライ・ラマ法王は今14世ですが、観音様の生まれ変わりであって、法王が亡くなると次に生まれ変わりを見つけてきて、その人が法王になる。
今の法王も子どもの頃に見つけられて法王になられたんですけれど、ご存知のように今チベットは中国に迫害を受けていて、ダラムサラに亡命政府ができています。今のダライ・ラマが亡くなって、次のダライ・ラマを中国が「こいつだ」と決めて、中国の言いなりのような法王が出るとチベットは不具合になるので、法王は「もう転生活仏はしない」とおっしゃっている。
それを前提に、「法王はこの地球に生まれてきてよかったとお思いですか」「次もこの娑婆世界、地球に生まれてきていただけますか」ということをお聞きしたんです。
直接はお答えにならなかったんですが、「私は龍樹、ナーガールジュナが書いた『この世に解脱を得ない人がいる限り、この六道、この娑婆世界に生まれ続ける』という祈願文を、毎日お唱えしています」という遠回しのお答えをいただきました。あの人の、まさに信念のようなものを感じた、というお話でございました。
鎌田:ありがとうございます。利典さんの話も非常に深いので、間違っているかもしれませんが私なりの理解をちょっと紹介します。座標軸のお話に対しては、先ほどのような「血肉になっていく」という、1つの好奇心的なニュアンスを感じました。
そして弟さんとの件でいくと、「もう手放していいんだ」というような(部分が見えます)。ダライ・ラマの「困っている人がいれば引き続きやる」という部分と、(利典さんの)「手放していいんだ」という部分。こういうものも不動心の1つの鍵なのかなと、そんな印象を持たせていただきました。
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