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新しい働き方(全5記事)

「資本主義で勝つには、労働者から投資家に変わるしかない」 北野唯我氏が語った、ラットレースから抜け出す方法

2018年12月8日、合同会社DMM.comにて「前田塾5周年記念パーティー」が開催されました。大学1年生〜20代前半のメンバーが2,500名以上参加する前田塾が創立5周年を記念して開いたこのイベントには、DMM.comの亀山敬司氏、教育改革実践家の藤原和博氏、Yahoo!アカデミア学長の伊藤羊一氏など多数の豪華なゲストが招かれ、「教育」「働き方」「経済圏」をテーマにトークセッションが行われました。今回は2つ目のセッション「新しい働き方」の模様を5回に分けて公開します。本記事では、「これから働き方はどのように変化していくか」を中心にゲストが語った最初のパートをお送りします。

「新しい働き方」がテーマのセッションがスタート

前田恵一氏(以下、前田):それでは、今から第2セッションの「新しい働き方」というテーマで、この4名でいろんなセッションをさせていただきたいと思っております。まずは登壇者の皆様を紹介させていただきます。

お一人目は斉藤賢爾さんで、慶應義塾大学 環境情報学部で研究員をされております。インターネットと社会をテーマにした研究者です。

2000年からはSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の方で、デジタル通貨やP2Pに関する研究をされていらっしゃいます。とくにブロックチェーン、AIに関する技術の動向にお詳しい方でございます。

お二方目は北野唯我さんです。この方は最近、みなさんのお目に留まることが多いかなと思います。とくに『転職の思考法』という本を出されて、これが2ヶ月で10万部のベストセラーになっている本でございます。私も読ませていただきましたけれど、転職エージェントも勉強になるような、そういう内容になっております。

お三方目ですけれども、高橋知道様です。一橋大学をご卒業されて、アンダーセン・コンサルティング、今のアクセンチュアにご入社されております。その後ソフトバンクにご入社されて、2000年から今の事業を始めていらっしゃいます。

もともとオープンアソシエイツという会社の名前で知られていらっしゃいますが、今はRPAを積極的にいろんな産業に導入する第一人者でございまして、今回はどんなふうに世の中が変わっていくかという観点でお迎えしております。

最後は石川聡彦さんです。実は彼はもともと前田塾生でして、選抜コースの8期に参加してくれていました。時期でいうと、4年前ぐらいになります。

当時は大学生でしたが、そこからご自身で会社を立ち上げて、人工知能を学ぶ、具体的に言うとPythonを使ってディープラーニングの仕組みを学ぶなど、そういうものに関するオンラインスクールの日本最大級のプラットフォームを運営しております。 

数でいうと、公開100日でまずユーザー登録が1万人を越えています。100万回再生されるような非常にわかりやすい講義で、コスパもいい感じですので、みなさんもPythonや人工知能を学ぼうと思ったときには、ちょっとアクセスしてみてください。

以上4名の方を今回お招きして、「新しい働き方」をテーマとしたセッションを始めさせていただきます。それでは4名の方、ご登場よろしくお願いいたします。拍手でお迎えください。

(会場拍手)

これからの社会で求められる働き方

前田:それでは第1部同様、今後社会がどのように変わっていきうるのかという話を、最初のトピックにさせていただきたいと思っております。

先ほどのセッションでは、人工知能がどんどん世の中を侵食していく、もしくはデータを溜める、そのルールに従ったものはどんどんそちらに移っていくんだよ、みたいなテーマの話がメインでした。

4名が今見えていらっしゃる世界観の中で、今からどのように社会に、なにが必要なのか、そして我々がどういうことをそこから吸収して、どんな働き方が必要とされるかという文脈でセッションをしていければと思っております。

どなたからでもかまいませんので、(意見が)浮かんだ方から、「こういうふうに社会は変わっていき、こういうことが必要なんじゃなかろうか」ということをお話しいただければと思います。

(斉藤氏挙手)

前田:斉藤さん、いきますか(笑)。

斉藤賢爾氏(以下、斉藤):最初に喋るという訓練を受けているんですよ。

(会場笑)

この30年で、お金の世界は終わらせないといけない

斉藤:お金の世界の研究をずっとしてきているのですが、「お金はなくなるんじゃないか」「なくさなきゃいけないんじゃないか」と思っています。それはなぜかというと働き方と関係があって、(現在は)働いてお金をもらう、というかたちで人は生きているわけなんですね。

そういった不自由な生き方をしているわけですが、人はだんだん働けなくなるわけです。頼んでも働けなくなるような時代がおそらくやってくる。それはAIやロボットによって、今まで仕事だと思われていた部分が自動的に行われるような社会がやってくるからなんです。

そうした時にお金の世界を続けていると、よくあるベーシックインカムの議論みたいに「中央からお金が降ってくるので、それを使って生活してください」となると、その限られた予算の中でしか人は生きられなくなるんですよ。

「それは大丈夫なのか? それって奴隷ですよね?」という考え方があるので、貨幣経済ごと終わらせる必要があると思っています。「そのときに人の働き方はどうなるのか?」というと、お金が関係なくなります。

今もうすでに、お金と関係のない働き方をしている人たちがいて、非営利組織で働いている。NPOで働いている人たちなんですね。(人類)全体がNPOで働いているみたいな感覚になっていくんじゃないかなというのが、私の考え方です。

前田:ありがとうございます。冒頭からいきなりパラダイムシフトが起きるような……(笑)。なるほど。お金はいらない、みたいな話になってまいりました。ちなみに何年後ぐらいの未来を想定されてお話しされたのでしょうか?

斉藤:ゴールとしては、30年以内にお金の世界は終わらせないといけないと思っています。これはオートメーションの進化に呼応していて、そうしないといけないという考え方です。

前田:ということは2050年前後ですか?

斉藤:そうですね、2050年前後です。

技術的に可能でも、社会に浸透するまでには時間がかかる

前田:ありがとうございます。それでは(斉藤氏が一番奥だったので)順番にいきましょうか?

北野唯我氏(以下、北野):質問していいですか? 30年って、「けっこうかかるな」という印象を受けたんですけれど。そのボトルネックになっているものはどういうものなんですか? その30年を、15年とか10年とかにするために「ここが一番のキーポイントだよ」みたいなことがあるとしたら、それはどういうところなんでしょうか? 

斉藤:お金がいらない社会のインフラみたいなものを、技術的にどれくらいで作れるかというと、3年以内にやらなきゃいけないと思っています。技術の準備としてはそのくらいでできるのですが、やっぱり社会自体の動きというと長い話になってくると思うんです。

あとはオートメーションのゴールですね。30年というゴールは、オートメーションがどのくらい浸透していくか、ということを考えた時のゴールなんです。それと関係がないのであれば、技術的なことに関して言うなら、たぶん3年以内ですね。例えば日本のどこかで3年以内に特区でやってみる、みたいなことは可能性としてはあると思います。

北野:なるほど。じゃあテクノロジーは先に行くけれど、それに対応する人の価値観みたいなものにけっこう時間がかかってしまうと。印象でいうとそんな感じでしょうか?

斉藤:そこも、変わる時はあっという間に変わると思うんですよね。日本の人なんかとくに打算的なところがあるので、一瞬で変わる可能性もあるとは思っています。 

北野:なるほど。すみません、僕はいつもいろんな人と対談しているので、すぐ質問しちゃうクセがあるんです(笑)。

前田:どうぞどうぞ、助かります。

資本主義社会で勝つには、労働者から投資家に変わるしかない

北野:ありがとうございます(笑)。じゃあ次に僕の話をしますね。他のお三方はテクノロジーに強い方々だと思います。僕は働き方というか価値観みたいなところでというと、今の世の中の価値観はやっぱり、消費から生産というのがポイントかなと思っています。

そもそもこの資本主義の中で勝つための方法は、僕は2つしかないと思っているんです。1つは、よく言われると思うんですけれど、労働者から投資家になること。

要は資本主義の中で、資本家階級になるということです。もう1つは、生産する娯楽を持つこと。これが、この資本主義のラットレースから抜け出す方法の1つだなと思っています。

娯楽というものは明らかに、「生産する娯楽」と「消費する娯楽」があると思っていて、(現状は)多くの者にとっては消費する娯楽だと思うんですよ。消費する娯楽というのは例えば、お寿司屋さんに行ってお寿司を食べるとか、あとマッサージに行ってマッサージを受けるとか、そうやって消費する娯楽なわけですね。

消費する娯楽を知っている限り、この資本主義の中では勝てないというのが、原理原則だと思っています。なぜかというと、消費した分に対してその比例分、体力と資本ですね、その資本が回復しないというのが原理原則だと思っているんです。

どういうことかというと、例えば1,000円の寿司を食べるとします。でも、10,000円の寿司を食べたとしても、別に体力は10倍も回復しないじゃないですか。マッサージもそうです。そういう消費する娯楽をしている限りは、月曜日から金曜日までは体力を消費して、土日だけ体力を回復するために消費活動を行うということになってしまいます。

そういうラットレース(の環境に)ずっと入ってしまうんですね。

おもしろい仕事なら、むしろ金を払ってでもやりたいという感覚

北野:一方で、「生産する娯楽」は自分がやる娯楽で、かつそれが世の中のためになって、しかもなにかしらのお金がもらえる。

そういうものをやっていると、どこかのタイミングで損益分岐点を超えるので、それをわかっている人が今、例えば「好きを仕事に」とか、そういうことやっている人の価値観だと思っているんです。

例えば、僕にとって文章を書くことは完全に娯楽なんです。だけど生産にもなっている。自分の好きなことをやっていたらお金ももらえる、みたいな感じなんです。

最初は得られるのが10,000円や5,000円くらいかもしれないけれど、それをどんどん繰り返していくと複利がふくらんでいって、さっき言ったように、どこかのタイミングでPLや損益分岐点を超えるというのが今の世の中なんです。

「消費から生産へ」という話でいうと、例えば僕の友だちにNIKEがめちゃくちゃ好きな人がいるんですけど、その友だちがすごくおもしろい話をしていて。どんなに好きでもNIKEの靴に100万円は払わないけれど、NIKEのデザインをする権利であれば100万円を払うと言ったんです。今の若い人にはこの感覚はわかると思うんですよ。

今日はいわゆるミレニアム世代と言われる人が多いと思うんですけれど、すごくおもしろい仕事やプロジェクトであれば、むしろお金を払ってでもやりたいみたいな、そういうものを持っているんです。

それが消費ということだけじゃなくて、生産にも回っていくというのが、これからの僕たちの時代のポイントなのかなと思っていますね。

仕事の定義は「課題解決」

前田:ありがとうございます。すごいですね、これは新しい働き方のトップギア感があります。

北野:いやいや(笑)。

前田:パラダイムシフトに次ぐパラダイムシフトみたいな、消費から生産に対する価値の変遷みたいなところをお伝えいただきました。よろしければ高橋さん、合わせなくてもけっこうなので、なにかお願いします。

髙橋知道氏(以下、高橋):私はRPAというソフトウェアのロボットの仕事をやっているんですが、この仕事をやっていると、今もそうなんですけれど、お客さんからいつも必ず受ける質問があるんです。

みなさんは必ず「オートメーションをどんどん進めていくと、仕事はなくなってしまうんですか?」というふうにおっしゃるんです。「仕事なくなっちゃいますね」と。リアルなロボットもそうです。これからAIロボットが大衆化していくことによって、自動運転など、いろんなオートメーションが進んでいきます。

仕事も、定義というものに対して、たぶん根源はお二方も同じようなことをおっしゃっていると思うんです。僕にとっては、お客さまに対してお答えしているのは、「仕事」という定義です。みなさんはだいたい「作業」と混同されていることが多いですね。

仕事というものの根源的な定義は、私がよく申し上げるのは、課題の解決です。つまり困っている人を助けること。それか、人を喜ばせること。この2つだと思っています。

人の悩みの8割は「お金」

髙橋:とくに企業の分野でいうと、ほとんどの場合は、その課題を解決することなんです。例えば銀行ですね。今、RPAを使って人減らし合戦みたいな雰囲気になっていますけれど、銀行の仕事は事務作業で、ソフトウェア・ロボットを使ってもできる作業なんですね。

いろんなバックオフィスの作業や、書類を打ち込んだりも含めて「これが仕事だ」という定義をすると、たぶん経済合理性から言っても、(仕事は)なくなっていきます。

銀行の仕事が人のお金にまつわる課題の解決だとします。現時点でお金が存在している以上、ここに来場されている方も含めて、ほとんどの人の人生の8割の悩みはお金なんですよね。

この8割の問題は必ず解決していかないといけないんです。それを解決するのが銀行の仕事だとすると、非常にたくさんやることがあると思うんですね。

現に中国のアリババは、ものすごいテクノロジーを使った、まさにフルオートメーションが進んだ世界の中でそれをデザインして、まったく違うかたちのお金の解決手段を提供していっています。こういったものはどんどん生まれてくると思います。

修行のいらないYouTubeが生むエコノミクス

髙橋:(話を)ちょっと戻しますと、仕事の定義は、これからおそらく大幅に変わってきます。みなさんが思い描いているような資格なり、なにかを修行して、その作業ができることの価値というよりは、もっと根源的なものです。

例えば目の前にいる10人でも100人でもけっこうです。その目の前にいる人たちの課題を解決して「ありがとうございます」と言ってもらうことですね。あと、喜んでいただく。こういう世界がたぶん訪れると思います。

エンターテインメントの世界だと、YouTubeはすばらしいと思うんですよね。あれは一切修行がいらないです。自分が思ったこと、楽しいと思ったことをどんどん表現する。そしてそれに共感した人たちがその映像を見る。そうすることでエコノミクスが回っていくんです。

この困りごとの解決に対して、これは非常にすばらしいシステムだと思っているんです。我々が提供しているソリューションの分野でも、オートメーションが究極的に進んだ後は、ラストワンマイル、本当にその目の前にいる個別のお客さまの課題をその場で解決することになります。

こういうところに価値があるんです。(これからは)根源的なものへどんどんシフトしていく、という社会になってくるのかなと思っています。

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