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人生の本質(全4記事)

「競争に参加した時点で負けが始まっている」 西野亮廣氏が25歳までに学んだ“世間のからくり”

2018年9月7日~17日にかけて、日本財団「SOCIAL INNOVATION FORUM」と、渋谷区で開催した複合カンファレンスイベント「DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA」が連携し、都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」が開催されました。今回は「DIVE DIVERSITY SESSION」の中から、トークセッション「人生の本質」をお届けします。本記事では、西野亮廣氏が登壇し、人々の挑戦を止めてしまう2つの壁と、5年間の芸人生活で学んだことを語りました。

西野亮廣氏にとって人生の本質は「挑戦」

司会者:みなさん、おはようございます。SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA、10日間に渡っていろいろなプログラムをやってきたんですけど、今日はいよいよ最後の1日になります。今日は会場のEDGEofとヒカリエ、そして表参道ヒルズでこのDive Diversity Sessionをお届けしています。

本日の1つ目のセッションは「人生の本質」というテーマで、タレントでもあり絵本作家でもあり、ここ渋谷のハロウィンの救世主とも呼ばれている、1人の中に多様な人生を内包するタレントの西野亮廣さんに来ていただきました。西野さん、どうぞご登壇ください。もっとも難しいテーマをお願いします。

西野亮廣氏(以下、西野):はい。ちょっと寝起きでがんばります。上からすみません、西野です。よろしくお願いします。今から50分ぐらいですか。偉そうにしゃべるんですけど、「人生の本質」とか言われると、ちょっとテーマが広すぎて。たぶん人それぞれ違うと思うんですけど、僕の場合は「挑戦」ですね。挑戦しかない、基本的には常に挑戦と思っているので、今日は挑戦についてお話したいと思います。

本題に入る前に、今自分がどういう状況にあるかをお伝えしたほうがいいと思います。一昨年に『えんとつ町のプペル』という絵本を出して、これが37万部ぐらい売れて映画化が決定したんですよ。それで今はその映画を作っている最中ですね。それで今1番ディズニーを倒したいと思っているんですけど、社長には反対されています。

えんとつ町のプペル

映画『えんとつ町のプペル』の公開日をディズニーアニメの新作の公開日にまるごとぶつけて、収益と動員数でも勝とうとしているということですね。つまり、30代の時にディズニーを倒そうとしているやつです。そういうやつだと思ってください。じゃあ、ディズニー映画っていったどんなものなんだということで、この間、収支表みたいなものを見たんですよ。

どれぐらい人を呼んでて、どれぐらいお金を稼いでいるかを見てみたら、あいつらけっこう売れてるんですよ(笑)。みなさんもうご存知ですよね。アナ雪だとかベイマックスだとか。

西野:2年後、僕はこいつらと戦わなければいけないんだなと思ったら膝がブルブル震えたんです。ずっと収支表を見ているうちに、僕はついにディズニー映画の弱点に気付きまして。ジャングル系の時にちょっと弱めというのがわかったので、そこを狙いにくるということですね。

(会場笑)

人々の挑戦を止めてしまう、お金と広告の問題

ジャングル系のディズニー作品が出てきたら、そろそろ西野が出てくると思っていただければ。ざっくり言うと、1番弱いところを叩く、そういう卑怯な作戦をやろうとしている奴です。ディズニーを倒す。(参加者のみなさんが)恐らく30代として言いますね。

自分がこういう人間ですから、当然、年齢関係なく「挑戦する」という人に対しては「行け行け、やれやれ」というほうです。やめておけ、抑えておけというほうではなくて、どちらかというと背中を押す側の人間ですね。

ただ、背中を押すからには、それなりに責任も伴うと思っていて。要は戦場に連れ出してしまうわけですから、その先に何が待っているかということは、ちゃんとお伝えしたほうがいいなと思って、そういうことを常日頃言っているんです。挑戦した先に何が待っているかというと、大きく2つ。

僕たちの挑戦を止めてしまう、挑戦を阻むものは、大きくわけて2つ。1つはお金ですね。例えばケーキ屋さんを出したとする。このケーキ屋さんの家賃が支払えなくなったらケーキ屋を辞めなければいけないし、芸人を始めて芸人の生活費がもらえなくなってしまったら、芸人を辞めなければいけない。

お金の問題が必ず絡んでくる。僕たちは、お金の問題をクリアしないと挑戦を続けることはできない。

2つ目は何かというと広告ですね。つまりケーキ屋さんを出したら、このケーキ屋をどうやって広めていくか、このケーキをどうやって売っていくか。僕は絵本を描いているんですけど、絵本が売れないと、当然次回作は描かせてもらえないので、やっぱり絵本をどうやって売っていくかとか。

どうやって広めていくかは非常に大事です。芸人だってそうです。どうやって売れていくかは非常に大事で、どうやって集客するか、外に広めたいという広告の問題が必ず絡んできて、この問題が解けなくなってしまった瞬間に、僕たちは挑戦を止めないといけない。要は大きく2つで、お金の問題と広告の問題が必ず絡んでくる。

挑戦できないのは「お金音痴・広告音痴」になってしまったから

挑戦を続けるためには、この問題をクリアしないなきゃいけないんですけど、残念ながら僕たちは、子どもの頃から大人になるまで、広告とお金の勉強をしてないんですよ。学校ではお金のことを教えてくれないし、広告のことも教えてくれない。どうやったら物が売れるか、どうやったら集客できるか、どうやったらお金を集めてこれるかは学校では教えてくれないですよ。

僕たちはお金音痴、広告音痴のまま、大人になっちゃって社会に出てきてしまって、「お金ってどうやって集めるんだっけ?」とか「人ってどうやって集めるんだっけ?」とか、「物をどうやって売っていくんだっけ」みたいなことで、アワアワしている状態です。

つまり、子どもの頃から大人になるまで逆転が起こせない体を作られてしまって、ずっと僕たちは貧乏人であると。それで挑戦はできないという、そういった体のまま大人に仕上げられたんです。

このままではおもしろくないし、やっぱりひっくり返したらおもしろいと思うので、常日頃、お金の問題と広告の問題は憂慮しています。今日はそのお金と広告について、ちょっとお話ししたいです。とはいえ50分しかないので、いろいろ端折ってしゃべりますね。

芸人を辞めることになったんですよ。これで今6年ぐらい端折りました(笑)。25歳の時に「もう芸人やめちゃおう」と思って、芸人を辞めてみたんですよ。いや、芸人を辞めてみたのではなくて、テレビを辞めてみたんですね。ここだけちょっとしゃべっちゃうと、何でテレビを辞めたのかというと、20歳の時に「はねるのトびら」という番組をやってたんです。

意外と売れるのが早くて、10期でこの世界に入ったんですけど、1年ぐらいで大阪でバッと売れて、20歳で東京にきて、「はねるのトびら」をスタートして、ばーって盛り上がったんですよ。とにかく売れたかったので、とにかく露出して、来る仕事は全部受けて、全番組に出て……みたいなことをやってたんですけど、25歳の時に「はねるのトびら」がゴールデンに上がって、視聴率で20パーセントをとった。つまり、日本のテレビ番組の中で1番の視聴率を取ったんです。

視聴率No.1になっても、スターにはなっていなかった

各局で冠番組をいただいて、願ったり叶ったりの状況にはなったんです。確かに生活は良くなったし、チヤホヤされるようになった。けど、スターにはなっていなかったんです。

つまり、そうなったら景色が広がると思っていたら、見えたものは、たけしさんとか、さんまさんとか、タモリさんの背中だった。彼らのことを追い抜いていなかった。追い抜いてないことは別に問題ないんですけど、追い抜く気配もなかったということです。

このままずっとやっても、たけしさんとか、さんまさんとか、タモリさんを追い抜く匂いがぜんぜんしなかった。自分は「ディズニーを倒す」と言っているので、たけしさんの手前でつまずいている場合じゃないんですよ。

たけしさんとか、さんまさんとか、タモリさんも2、3年で超えて、とっとと世界に出ていって、とっとと世界とやり合わないといけないと思ってたのに、5年経ってもたけしさんを超えてない。これはちょっとやべえなと思って、そもそもなんで僕はたけしさんとか、さんまさんとか、タモリさんを超えてないのかなと考えたんです。

その時の結論は、僕がそれまで走っていたレールは先輩方が敷いてくださったレールで、その中のトップランナーになっても、レールを敷いた人の背中を押す作業になるんですね。つまり、さんま御殿で結果を出したとしても、さんまさんの力が伸びるようなかたち。

IPPONグランプリでおもしろいことを言ったとしても、IPPONグランプリの司会のダウンタウンの松ちゃんの力が伸びる。要は途中から自分の活動が彼らにポイントを入れていたということに気付いたんです。ファミコンに例えると、僕がやってたのは『ドラゴンクエスト』とか『ファイナルファンタジー』というソフトを作る作業で、良いソフトを作れば作るほど、ハードの任天堂にポイントが入っていく。

たけしさんとか、さんまさんとか、タモリさんとか先輩方を超えようと思ったら、そこにポイントを入れるのではなくて、彼らがファミコンだとしたら、ぜんぜん違うプレステみたいなゲーム機を作ってしまって、ハードとソフトの両方を作っちゃって、今こっちのほうがおもしろいですよってやったほうがいいなと思って。

競争に参加した時点で負けが始まっている

ああ、これはもう芸能界をやっている場合じゃないなと思って、25歳でとっとと辞めたんです。意外と売れていたんだけど、売れている年に既に辞めちゃった。それで次に世界にアクションをかけるのって何かなとなった時に、これは非言語だなと思って、そこからさっきも出てましたけど、絵本を描くことになったんですね。あっ、これです。意外と絵上手いでしょ(笑)。

(会場笑)

西野:それで絵を描くことになったんです。とにかく25歳までに学んだことは何かというと、「競争に参加した時点で負けが始まっている」ということ。その競技を作った人にポイントが入るということです。5年間で、競技に参加したらだめなんだと勉強したので、これは5年間の勉強代としていいかということで。

ここからは競技に参加するのではなくて、もう競技を作っちゃったほうがいいということで、25歳から絵本のほうにいったんです。絵本にいくと言ったって、僕は絵なんて描いたことがなかったんです。子どもの頃に絵が得意だったとか、美術を専攻していたわけじゃないし、絵なんて描いたこともないですよ。

25歳で絵本作家スタートって、ちょっと遅いじゃないですか。子どもの頃から描いていて得意というならまだしも、絵なんて描いたことない。でも、25歳で絵本作家になれたんですよ。その頃にはすでに同世代で絵本作家として成功している人がいるわけじゃないですか。その人たちをごぼう抜きしようと思ったら、もう方法は1つしかないんです。競争に参加しないことですね。

つまり、絵本作家の競争には一切参加しないことです。「今、絵本作家はこうでこうでこうで、このスキルが求められてますよ」というものに対して、一切参加しない。

参加したらもう負けが始まることは5年間で勉強したので、世界中の絵本作家さんを超えて世界一になろうと思って、どうすればいいかとなった時に、もう「位置についてよーいどん」は1回止めてしまって、自分が勝てるところで戦おう、その時点で勝っているところで戦おうと。

画力ではなく、どれだけ時間をかけられるかで勝負する

それって何なのかと考えた時に、絵なんて描いたことないので、まず画力が負けているんですよ。出版のコネもツテもないです。基本的にプロの絵本作家さんに負けているところだらけだったんですけど、1つだけ勝っているところがあった。それは何かというと、時間ですね。時間というのは、1つの作品を作る時にかけることができる時間の多さ。

プロの絵本作家さんは短い時間で作品をポンポンポンと出していかないと食っていけないので、2ヶ月とか3ヶ月とかで自分の作品を発表していかなきゃいけない。ですけど、僕はたまたま肩書きで見たら職業が20個ぐらいあって、いろいろなところでご飯が食えた。絵本が収益源の柱ではないので、1つの作品を作るのに10年かけることだってできる。

つまり、絵本の収入がゼロでも食っていけるので、10年かけることだってできる。ここが専業と兼業、複業の大きな違いです。専業の人は実は時間をかけることができなくて、複業の人は1つの物を作るのに限りなく時間をかけることだってできる。むちゃくちゃ時間をかけることだってできる。ここが大事です。

絵本を作るのに10年かけることができるのは僕しかいないので、すぐに文房具屋さんに走って、1番細い0.03ミリのボールペンを買って。絵本も普通だったら18ページとか19ページの絵本で終わるんですけど、自分の絵本は80ページとか100ページとか超長めにしたんです。つまり、どうがんばって急いで作っても、時間がかかる作り方をデザインしたんですね。

1冊作るのに4~5年かかってしまうという、むちゃくちゃコスパが悪い作り方を選んだんです。その時点でその作品は、絵本作家には作ることができない。絵本作家さんが4~5年仕事が止まってしまうことは死を意味するので、時間をかけることができない。そういう絵本は物理的に作れないということです。

才能とかセンスとか、そういうことじゃなくて、4~5年収入が止まっちゃうような作品は作ることができない。この時点で勝つ。10万人とか100万人とか1,000万人ぐらい絵本作家がいるんですけど、こんなことができるのは自分しかいないので、あとはこっちを世界のスタンダードにしてしまえば、もう世界中の絵本作家に勝てるということです。

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