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トークイベント(全6記事)

第1志望の会社に入れたのに暗黒時代に突入 元『BRUTUS』名物副編集長が明かす、20代の葛藤

未来を考える学生のためのキャリア形成コミュニティ「MY FUTURE CAMPUS」が主催するイベント、MFC×業務外業務 特別イベント「みんな、当然20代なんて未熟者だった!!」が開催されました。株式会社スマイルズ代表の遠山正道氏、Tonoloop Networks Inc. クリエイティブディレクターのトム・ヴィンセント氏、元BRUTUS副編集長・合同会社美術通信社代表の鈴木芳雄氏が登壇し、20代を振り返りながら、やり残したことややっておけばよかったことなどを語ります。本パートでは、鈴木氏が新人時代の心境を振り返りました。

第1志望の会社でも、現実は思い通りにならないことだらけ

司会者:続いて、鈴木さんのライフチャートを見てみますと……。

鈴木芳雄氏(以下、鈴木):振れ幅が大きいように見えるけど、上がっていったのはなんだろうな。そうだ、浪人生で大学……僕、遠山さんと同じ学校なんだけど、僕は下から(附属高校から)じゃないので、普通に受験して、浪人して、受かってよかったなって。20歳ちょっと前ですが、そこでちょっとホッとしてるんですね。

そこで安定して、もう1回、高いピークは、就職が決まったときかな。入りたかったマガジンハウス……昔は平凡出版って名前だったんですけど、入りたいところに入ったし、BBCじゃないけどNHKにもちゃんと受かったし。

どっちに行くかは自分の中ではもう決めていました。周りは「まさか平凡出版には行かないよな?」と。いやいや、平凡出版に行きますよと。NHKを振って平凡出版に入ったというのは、あまりしゃべったことがないんだけど。NHKに入ったら入ったで、また別の人生もあったかなと思います。

(平凡出版に)入ったものの、ガクンと下がってるのはですね……みんなそうだと思うんだけど、入る前にイメージしてた仕事ができるかなと思ったら、当然そうじゃなくて。最初は編集部に行けないし、編集部に行っても自分が行きたかった編集部には行けないし……グズグズしてたような、それが20代の凹みですね。

トム・ヴィンセント氏(以下、トム):暗黒時代ですね。

鈴木:うん、暗黒時代。自分ではすごくできると思ってるし、先輩ほど経験はないけれども、若い人たち向けの雑誌が多いから、自分の感覚はけっこう価値のあるものだと思っていました。元気度も含めて。

それなのに、あまり重要な仕事は与えられなかったり、自分が本当に行きたいと思う部署には行けなかったりして、なんかこう、鬱々としてたんで、ああいう風に凹んでるわけ。

それで編集長とか先輩からは、「きみは一番読者に近い年代だし、感覚も近いんだろうから」と、ちょっと大事にされてるのかなと思いつつも、仕事的には重要な仕事が与えられないみたいな。

司会者:なかなか、編集部に配属にならなかったんですよね?

仕事と趣味が重なって楽しくなってきた30代

鈴木:最初の1年くらいは業務系で、広告部とかだったんですよね。20代の頃の1年って、今思うより長い感じで。「まだかな」「次の異動では言われるのかな」とか(考えていました)。

司会者:「辞めようかな」とは思わなかったんでしょうか?

鈴木:もう少し後で辞めようかなって思いは少しありましたね。世の中がバブルで浮かれている頃で、仕事もありそうだし、辞めてみるかなという気持ちもあるにはありました。でも、結局そういうかたちでは辞めなかったですね。

30歳くらいで上がってくるのは、自分で能力がついたというよりは、周りから見て経験を重ねた風に見えてきて、言うことも徐々に真っ当になってきたというか、勢いだけじゃなくなって、周りの先輩とか編集長も話を聞いてくれるようになったってのが、この頃かな。

さらにその話を、例えば企画や特集に取り入れられるようになって。自分としては発言力が出てきたというか、実のある発言ができるようになって、だんだんおもしろくなってきたので、上がってきたかなと思います。

あとはたまたま、いろんな雑誌の編集部を異動してるうちに、タイミングよく……それまで完全に趣味だった美術の鑑賞やちょっと買っていた美術品が、そのまま仕事に関連するようになってきました。趣味と仕事が重なって「あー、楽しい!」ということで、やっと30歳頃に上がってきました。

司会者:3人とも三者三様なんですけれども、みなさん、結局20代はつまらないんですよね、たぶん(笑)。だから、つまらないなりにそこを乗り越えて……という感じに見えますね。逆に「40代、50代、今はどうなの?」ということも後ほど伺います。今、この時点ですと、20代はかなりしんどかったという感じですか?

肩書きも責任もなく自由だった20代

鈴木:しんどいけど、でも20代……ちょっと鬱々としてたかもしれないけれども、別に楽しいことはたくさんありますからね。

トム:僕の場合は、仕事的にはしんどいというか、全然ぜんぜんだめだけど、人生だけを考えるとめちゃくちゃ楽しかったですよ。

遠山正道氏(以下、遠山):そういう意味では、楽しかったです(笑)。

(会場笑)

鈴木:遊びとか恋愛とか……体力もあるし、無茶な旅をしても大丈夫だし。

トム:今より、自由なんですよ。まず、肩書きみたいなものがないんだよね。そこが大きいんですよ。

自分が組織に属していないってことは、自分がなにをやってるのかって、周りは誰も知らないでしょ。今考えると、当時はあれが当たり前だったから特別なにも思わないんだけど、伝えてないし、伝わってなくて……どう考えていたんだろうなと思います。

僕らだって、20代でそんなに責任を持っていない。仕事は別として……友だちと約束しても、ぴったりその時間に来ることは、まあないでしょ? だって友だちじゃん。30分とか1時間とかゆるゆると遅刻していても、なんとかなっていた。だからもっと緩かったんですよ。世の中は全体的に、もう少し大目に見てた。だけど、組織に属した途端に厳しくなるでしょ。

司会者:ここにいるのは大学1、2年生なので、まだ就職活動のこともほとんど考えてないと思うんですけど、でも漠然とこの何年後かに就職活動が待っていて、成功させて、希望通りのところに就職して、とか、いろいろなイメージはきっとあって、楽しみな部分もあるじゃないですか。きっとこうなるんだろうっていう期待みたいな。でも、社会に出てすぐには、そうはいかないですよね。

鈴木:でも僕、すごく楽しみでしたよ。期待しすぎたのかもしれないけど。僕はいま、大学で講師として、大学院生に授業を教えてたりするんですよ。

それで自分も「大学院に行けばよかったのかな」「行きたかったかもな」と考えると、いやいや! 僕はあの時、早く大学を出て就職して働きたかったんだ。だからそういう後悔はないんだなと思いますね。

自分は「いい人生」を送るために生きているのか?

司会者:遠山さんは理想的なかたちで三菱商事にいるわけですけど、さっきもお話に出てきましたが、23歳ぐらいで入社した頃は、どんな感じだったんですか?

遠山:普通の、真っ当な人だったので、だから会社入って。三菱商事は優秀でいい人がたくさんいるんですよ。すごいなあ、こういう環境にいることができて幸せだなって思ってましたよ。

三菱商事の袋は黄色で目立つんですけど、三菱商事と書いてある面を表にして持ってたら、当時の先輩に「それは裏にしなさい」と怒られたんですね。本当に、みなさんとても品が良いんです。

先輩と当時の国鉄に乗る時、10円くらい安く乗れる「キセル」みたいな方法で切符を買って、自慢げに先輩に「10円安く買えました!」と言ったら、「遠山くん、お願いだから、そういうことは本当にしないでくれたまえ」と。

鈴木:「キセル」って、説明しないとわかんないかな? 昔の定期券は、スイカみたいなものじゃなくて、ハンコを押してあるだけ。例えば新橋~有楽町という区間の(定期券)を持ってるとするじゃない?

それで新宿から有楽町に行く時に、新宿では一番安い切符を買うわけですよ。そして、改札を出る時は定期券で出られちゃうわけ。新宿から一番安く行けるのが代々木だとすると、代々木から新橋の間は運賃を払っていないわけよ。

それで、到着駅までの中間が空いてるから「キセル」というんだけどさ……と、ちょっと説明をしました。

遠山:とにかくずっと受け身の人生。普通に考えればいい生活なんですけど。

司会者:逆をいうと、受け身でいてもぜんぜん支障がなかった環境ということですか?

遠山:支障はないんだけど、このまま定年を迎えたら満足しないなと、どこかで気づいちゃった。

司会者:その33歳の時の話、具体的に伺いたいんですけど。

遠山:(三菱商事に勤めていた頃の)この上司、どうなっちゃうのかなとか、私よりひと回りくらい年上のいとことかもいい家の人間だし、一流企業に行って海外転勤なんかして……一般的にはすごくいい環境だと思うんです。

部長で定年になって、定年した後もゴルフをやって。ジャズを聴いたりしながらね。まあ、普通に言えばいい人生だと思うんですけど。俺は、こういうことをやるために生きてるんだっけな? 楽しいのかな? みたいに思ったんです。

何者でもなくても「そこそこでいいや」とは思わなかった

司会者:それは、自発的にそう思ったんですか?

遠山:恐怖みたいなものもあったかな。あまのじゃくなところがあって、「普通じゃいや」というのがそもそもあって。もちろん、三菱商事で偉くなるとか、そんなことは無理だとわかってるんだけど。

私が個展をやったとき、歌って踊れるサラリーマンみたいな……楽してサラリーをもらいながら「商社マンなのにこんな」みたいに、ちょっとユニークな立場になれたらいいかなくらいの気持ちで個展をやったんだよね。

司会:さっきの遠山さんの話じゃないですけど、そこそこいいお給料がもらえて、趣味に時間を使えたらいいなと思ってる……あるいは、バリバリやりたいぞ! みたいに思っている人はいますか?

(会場挙手)

司会:じゃあ、不安とか恐怖心を抱いている人は?

(会場挙手)

司会者:1番なんか見えなくて、とにかく今は怖いと思ってる。それが一番多いですよね。じゃあ、手を挙げなかった方々は、そこそこの給料で、趣味も楽しむみたいなことでいいなと思ってるんですかね? 今のところ、そう思ってるよということですかね。

遠山:我々はバブル世代なので、いい時代をずっと見てきたから、古い言葉で言うと「ビッグになりたい」がデフォルトにあるんじゃないかな。どうですかね?

トム:僕は、みなさんよりもうちょっと若いんだけど。しかもイギリスなので、バブルとはちょっと違うけど、やっぱりビッグになりたいって(思ってた)。20代でプータローだったけど、自分の中では「俺は絶対ビッグになります」って、ずっとそういうつもりでいたと思うんですよ。何もしてないけどね、当時は。

遠山:「そこそこでいいや」とは思ってない。

トム:そこそこって、絶対だめ。

遠山:そこそこ、という選択肢は頭に入ってない。いやだというよりも、まずない。

高度成長期と今の若者のメンタリティの違い

鈴木:僕たちと、今の20代前半の人とで、メンタリティの違いは僕もわからないんだけど……例えば、僕が子どもの頃は高度成長があって、そのあと安定成長になるけど、どっちかというと、経済とか生活とか、そういうものも全部、右肩上がりで、世の中はどんどん向上していく。そういうことが染みついてるわけですよ。

だから、世の中の歴史としても……日本の経済力も家庭の経済力も上がり、自分も成長していくという右肩上がりのグラフのイメージしかないんだけれども、それがバブル経済以降、そうではない。それが、メンタリティにもいろいろ影響を与えると思うのね。

遠山:そう言われてますよね。我々の時代の話でも今と違うからってことになっちゃいますよね? 成長もそうですし、スマホもなかったし。

鈴木:そういう情報デバイスは、根本的に違うから。

トム:とはいえ、確かにまわりは違ってたし、経済的にはもっといい感じだったけど、今よりは。だけどたぶん僕らは、今とは言われてきたことがちょっと違う気がするんですよ。

みなさんほど真面目じゃないんですよ。みなさんという言い方はおかしいかもしれないけど……みなさんのことを僕は知らないんだけど、今の大学2年生、3年生、就職活動をやってる学生、めちゃくちゃ真面目で。真面目すぎて、もう緊張の塊。と同時に、日本の大きな企業の中に入ると、長く持たないという話がよくあるじゃないですか。

これはアベレージ人間なので、そんなのはあんまり意味のない話なんだけど、たぶん僕らはそこまで真面目じゃなかったと思うんですよ。

鈴木:でも、年長の人が若い人を捕まえてさ、「お前らは真面目すぎる」とか「お前らは固すぎる」とか、「なんでそんなにちんまりまとまってるんだ?」って、往々にして言いますよね。僕たちも言われた気がするよ、若い頃。上の人たちは「お前ら小さい」と言いがちなものじゃないかな。

それはね、歳をとってわかったのはね、若い人は場数が少ないから、トライアルの数が少ないから、1個失敗すると大きい失敗なわけよ。3個トライして、2個成功して1個失敗したら、3分の1が失敗じゃないですか。

僕たちは、そういうチャンスをもっともっと、歳とともにもらえてきたから「またこれで1個失敗しても、まあまあ、30分の1だな」という感じがある。だから大胆に(なれる)。それで記憶は都合良く、成功体験が多く残ってるというのもあるから、そこはなんとも言えないんじゃないかなって、すごく思うんだけど。

「大きいものがいい」とされる時代に成功する難しさ

鈴木:だから若い人たちも、確かにそういう成功体験がなくて世の中に出て行くと、失敗したらすごく痛手だなと思うから、若い人たちほど保守的になるし、臆病になるし、小さくまとまっちゃう。それは、数字的に仕方がないなって思うところがあるんだよね。

トム:それは確かにあると思う。

遠山:私はね、今の環境のほうが、すごくうらやましいと思うんですよ。僕らの時代は、大きいものがいいことだったんで、そこで成功するのはすごく大変だった。今はインターネットもあって、YouTuberとか、1人でできる仕事がすごくあって。

例えば、私自身が参画している「森岡書店」は、5坪で1冊の本を売る本屋。これは、小さいからリスクが少ないので思い切ったことができて、その分、海外までどんどん届いてるんですね。

「檸檬ホテル」も、1日1組の小さなホテル。それは夫婦がやってるんですね。そういうほうが、むしろチャーミングという時代で。それはやっぱりインターネットがあるので、遠くからお客さんがわざわざ香川県まで来てくれるんですよ。

私が若い頃は、三菱商事とか、すべてのプロジェクトの単位が巨大でした。だから自分ができる役割とか立場なんて、なかったんですよね。いわゆる歯車の1個みたいな感じ。

トム:でも、みなさんと同じ年の遠山さんが、今の時代みたいに、檸檬ホテルのような1組だけのホテルとか、1冊だけの本屋とかをやろうと思えば、その当時にできたと思います?

遠山:憧れる人の質も違うよね。例えば、昔は一流企業が憧れになってたと思うんだけど、今は一流企業というより、ベンチャーみたいなところが人気なんじゃない?

トム:そうそう、それはあると思う。僕がみなさんくらいの年齢だったら、たぶん僕も意外とそっちのほうがおもしろいかもしれないって思う気がする。いわゆる大企業みたいなところは、今はあんまり流行りじゃないかもだよね。どっちかというとベンチャーやイケイケの会社のほうが、景気を読みながらすごく広い範囲の仕事があっておもしろいかも。

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