2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
『組織にいながら、自由に働く。』発刊記念!仲山進也さん(楽天大学学長)×青木 耕平さん(「北欧、暮らしの道具店」クラシコム社長)これからの働き方を語る!スペシャル対談トークライブ(全2記事)
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仲山:本の中身もほとんどの方がご存じないし、そもそも僕のことをご存じない……(笑)。前提からお話しすると、僕は自己紹介が難しすぎて、自己紹介をちゃんとしたら1冊の本になりました、というのがこの本の成り立ちでもあります。
でも、編集者さんから「無名な人の自己紹介をただ本にしても読んでもらえないから、他の人にも当てはまるように普遍化しましょう」というオーダーをいただいて、他の人にも当てはまりそうな枠組みを考えてみましたということで、この本の構成としては「働き方には4つのステージがある」という話が1つの軸になっています。
足し算・引き算・掛け算・割り算というステージで変わっていく、ということです。これは青木さんとしてはどう感じられましたか?
青木:これはすごく腑に落ちる気がします。(ポストイットを指して)さっきのこの中にあった質問で、「誰でも『加』から始めたほうがいいですか?」というのが……。
仲山:「加」というのは、できることを増やすステージ、苦手なことでもつべこべ言わずにやってみて、人並み以上にできるようになろうというステージです。
青木:誰でもあてはまるかどうかは別として、「加」がけっこう大事かな。というのは、僕も何回も「乗」ステージから行けないかと思っていたんです。そしてだいぶ遠回りしてしまって、僕の場合は30歳くらいから、「加」をやり直したんです。ずっとハックして「加」ステージと「減」ステージは飛ばせないかという若い自分だったので、あまりうまくいかず、ようやく30歳くらいであきらめて、もう1回「加」からお願いします! というかんじで始めて今に至ります(笑)。
仲山:もう少し具体的に言うと、ハックを狙っていたときは、どんなことをしようとしていたんですか?
青木:どんなことをしようというよりは、ハックできるところがないかなと言いながら、ぶらぶらしていたんです。典型的な痛いやつで、「俺が本気を出したらけっこうすごいんだよね~」と思いながら、ぶらぶらしていたんです(笑)。
仲山:「ハックさえ教えてくれれば、できる子だよ」というような(笑)。
青木:だから「加」からやるタイプではないんだろうな~、というかんじでぶらぶらしていたんですけれど、実際問題としてやっぱりそうはいかなかったなというのがあって。
仲山:「加」からやったというのは、どういうのを指しているんですか?
青木: 求められることをやったというかんじですね。すごく恥ずかしいんですけれど、言われてやるのは嫌だったから。自分で考えついたことじゃないとやる気が出ないというか(笑)。
仲山:そういうもんですよね。
青木:それが「上司の投げてくる球を全部拾うぞ」ということでした。3年か4年くらいですかね。年もだいぶいっていたので、本来は10年やるようなところを、なんとか3年くらいでやろうと。その代わり、けっこうやり切ったかんじ。好き嫌いはあまり関係なく、求められたことを完璧にやろうと設定したのはそこですね。
仲山:「『加』からやらないといけないんですか?」という質問に対しては、「ボールを蹴ったことがないのに、『俺の強みはドリブルです』と言っている人をどう思いますか」と(笑)。
青木:そうですね(笑)。「守破離」という言葉があるじゃないですか。日本のお稽古事の成長法則といったかんじで、「守」は守る、流派の型をしっかりマスターする。「破」が破る。そして「離」は離れて自分の流派を作るという、3段階を説明していました。やっぱり「守」という「型を身に着けるためのなにか」というのはあるよね、というところで。
「守」の段階が面白いと思う人はちょっと狂っていると思うんです。そこで面白さを見つけられる人は、ある意味天才だなと思うんですが、ほとんどの人にとって面白くはないんです。だから僕はその時期に面白さを見つけようとすることのほうがけっこうつらくて、面白くないことを修行だと思ってやっているんだと思う気持ちのほうがまだ心が楽だったんです。
それがちゃんとできていないのに、楽しめていないということでさらに自分を責めるわけじゃないですか。それが楽しくないというのはいいんです。とにかく楽しかろうが楽しくなかろうが、やるんだというマインドセットになれたから、「加」のフェーズもけっこうやれたんです。
それまでは何で「加」のフェーズを超えられなかったのかと言うと、「加」のフェーズを楽しめないということをよくない状況だと思ってしまうからです。世の中的には楽しもうという空気があるじゃないですか。でも楽しくないんです(笑)。
仲山:苦手なことをやっているときは楽しくないですよね。
青木:楽しくないけれど、永遠ではないということですね。
仲山:この加減乗除のフレームで「いい」と言ってもらえるのは、まさに今のことで、苦手なことをやるのがずっと続くと思ったらやる気が出ないけれど、これはステージであって、これをやり切ったら次のステージがあると思えればできると。
青木:「加」のポイントを超える方法は……僕はあまり受験をちゃんとやっていないけれど、みなさんは賢いと思うので、ちゃんと受験をやっていると思います。受験のコツは勉強法で迷わないということじゃないですか?
ある勉強法で勉強し始めて、結果が出ないからすぐに「この勉強法は違うんじゃない?」と思って違う参考書にいって、そっちもやっているうちに「これも違うんじゃないか、友達がこっちの参考書いいって言っているから使ってみよう」というようにやっていると、大体うまくいかないんです。
「これで行く」と決めたら、「このテキストでいこう」というかんじの人が大体勝つんです。そう考えたときに「加」のフェーズは、「これに賭ける」というかんじでやらないと、けっこう抜けられない気がしています。どこで「加」をやるか、何に「加」をやるかということで迷ってしまうと、僕がそうだったんですが、全然「加」が終わらないんです。
なので、何でもいいので、とりあえず、どうしようもないことでもいいから……「加」のフェーズで一定の量を超えた先にあるものってあるじゃないですか。でも、そこを超えない間にやり方をコロコロと変えると「加」が終わらないんですよね。
仲山:みんな仕事では、日本昔話に出てくるてんこ盛りのご飯みたいなカタチの高い山を築こうとしがちですけど、砂山を作るイメージで裾を広げないと高さが高くならないじゃないですか。逆に、「加」から先に進めない人は、山の裾野とは関係のないところでまた積み始めるかんじですよね。
青木:あてどころのない勉強法をしてしまうんですよね。例えば、僕は今、雑貨屋で働いているじゃないですか。「世の中はAIの時代になるらしいぞ」と言われたりこれからは「ブロックチェーン」の時代だ! と言われてもわけが分からなくて、とりあえずどっちのこともわかっていないと、これから生きていけないかもしれないからといって、無限に裾を広げたくなってしまうんです。雑貨だけいじくっていたら10年後にはAIに取って代わられてしまうんじゃないかと怖くなったり(笑)。
でも今は雑貨屋だから雑貨をやって、「AIのことは目の前に来てから考えよう」と言ってやっているところはありますよね。「加」のフェーズでは。
仲山:山の軸はそのままにしておいて、AIという裾が新しく見えてきたから、その辺までは積み始めてみようというかんじだったら、AIを使う雑貨屋さんになりますよね。
青木:そうですね。「加」はそれもあるし、何かで「加」を突き抜けて、この図で言うと「乗」は掛け合わせというところにいくわけじゃないですか。「乗」にいってしまえば自分に1個強みがあれば誰かとやればいいんです。別にAIのことは何も知らなくても、AIの達人みたいな人と価値を交換し合うことができれば、一緒にやればいいんです。だから「加」というのは、1個何かを持つということですよね。
仲山:得意技のレベルが10段階だとして、10の強みを1つ持っていたら、同じ10レベルの強みを持っている人と仲良くなりやすくなることはありますね。
青木:なりやすくなるので、「加」で可能性を増やして、「減」で自分の得意分野が何かということを絞り込んで一本立ててしまえば、このテーマの自由というところにけっこうつながる。なぜかと言うと、全部自分でやらなくても済むからなんです。
だから、自分でやっていて、正直に言うと雑貨のことはあまり今もわかっていないんです。僕は経営分野の人なので、そこは得意分野ではなくて。雑貨の分野が強みの妹と一緒に働いているので、彼女の力を借りて、ほぼ妹のおかげで食えているという状態です。
とは言え、僕は僕で「加」「減」のステージがある程度進捗する中で、1つはなんとか人のお役に立てる強みのようなものが、自他ともに認めるくらいにはなっていく。そうすると急に自分でできなくても実現できるフェーズが来て、ある意味では自分という制約から解かれたりして、そういう意味では自由になりますよね。
仲山:それはまさに掛け算で、チームでやることによって苦手なことをやらなくて済むようになっていったり、というところですね。
青木:そのためには「加」と「減」の部分はすごく大事だと思います。
仲山:「減」がわからないと言われるんです。「減」にはどんなことが書いてあるかと言うと……。
足し算を進めていろんなことをやっていくと、そのうちキャパオーバーになります。キャパオーバーの部分をキャパの範囲内に収めざるを得ないので、何か工夫をし始めて、それが収まったということが起これば、パフォーマンスが上がったということだから、自分の強みを使ってパフォーマンスを上げることができたことになります。ほんものの強みがそこで浮かび上がってきたということだと思うんです。
ほんものの強みが自分でわかるようになれば、次は自分の強みをより磨いたり発揮できる仕事を選び取っていって、そうではないものは人にやってもらう流れを作るなり、そもそもその作業が発生しなくなる工夫をして、やらなくても済むようにする。そうやって減らす工夫をしていくと、強みが磨けるようになるよね、というのが引き算の意味合いです。
青木:人生、あきらめが肝心というようなことがけっこうあるじゃないですか。やっぱり減のポイントはあきらめかなって個人的には思っています。
仲山:僕が聞いた話で、「あきらめるというのは、明らかにしてやめるということだ」というのがあって、要は自分の強みや弱みが明らかになって、弱みのところはやらないって決めるというような。
青木:そうですよね。人間は常に上昇したいというところがあるから、「今こういうことについて2個できることがあるから、3個にしたい」「個人として2個のレベルをもっと上げたい」というようなことをずっと思い続けてしまうものなんですが、それは投資するために貯金を続けているようなかんじなんです。
どこかで貯金をやめて投資をしないといけないんのに、減るのが嫌だからずっと貯金してしまうというような。でも、「それって投資のために貯めているお金だよね」というところで言うと、「個としての成長に投資し続ける」というのは、貯金しているようなかんじなんです。
青木:それで自分の器のようなものを、運用しはじめて活かしはじめるというフェーズが、「僕はどこまでいってもおちょこだ!」「ビールジョッキみたいにでかい器になりたかったけれど、僕はおちょことしてやっていく!」というような。「ビールは入れられないけれど、熱燗だったら絶対に活きる」というような。
横にビールがドカンとおかれると、「でかい器にビールを注いでみたいな」と思ったりもするけれど、そこに対してあきらめがつくと、出番がけっこう明確になるんです。「熱燗のときは青木を呼ぶか」「あいつ、器は小さいけれど、こういうときだけは役に立つんだよな」ということになるんです(笑)。
仲山:なりますね(笑)。あと、「減」のフェーズには減らすものをいろいろ書いていて……「安定」「レール」「ルール」「評価」というようなものを書いているんですが、「どうやったら仲山さんみたいな働き方になれますか?」と聞かれたときに、「それは社内から評価されることをあきらめることです!」って一言目に言ったら、その人は2度と何も聞いてくれなくなったことがありました(笑)。
だから足し算をやり切らないで、ここに書いてあるいろんなものを減らすと、ただのリスクになりますよね。
青木:減らす材料がないですよね。評価をあきらめるにしても、評価されていないとあきらめられないですよね。
仲山:そうです。だから「評価を手放す」「評価から自由になる」ということの意味合いは、足し算のところでお客さんに「ありがとう」と言ってもらえる状況ができていることが大前提です。そのベースをもとに、「そういう活動は今月の売上にならないから意味が分からない」などと言ってくる上司がいたときに、その人から評価されるということはあきらめていいと思えるよね、という話です。
価値観が合わない上司に評価されようと頑張るより、お客さんに評価されることをやり続けておいたほうが、のちのち自由になりやすいという、そんな意味合いです。
青木:本質的に言えば、「自由」とは権限だと思うんです。
仲山:どういう意味ですか?
青木:(ピーター・)ドラッカーという人が「自由とは選択の責任である」と言っています。要は、「会社や社会のためにいい選択をするだろう」「所属する集団のためにいい選択をするだろう」と思われる人のところに自由は集まってくるということです。自由は選択の責任である。だから、自由を与えられて自分のために全部を使い切ってしまう人に自由が与えられても仕方がないですよね。
自由は与えられるものだから、与える側がいるわけです。そうすると、「なんでそいつに自由を与えるのか」というのは、「こいつに自由を与えたほうが自分がその自由を保持しているより得だから」ということなんです。そういう意味では、自由は選択の責任だから。
さっきの話で言うと、お客さんから評価されているということは、会社の本質的な利益に直結する行動をとっているわけですよね。それで、二次的に評価されるというのがあって。こっちはあきらめるけれど、こっちはバリューを提供しようとしているわけで、だから自由でも許されるわけです。実は所属する集団のために自由の行使を活用しているから自由。
でも、仲山さんが「自分だけが楽しく働くため」「楽にやるため」「自分だけが儲かるため」に自由を行使していたら、あっという間に自由をはく奪されると思います。多分加算や減算といったフェーズの中で示すべきものは、「これは自分の所属コミュニティや集団の本質的な利益につながる行動なのか」というところが、たぶん減ステージで減らしていくときの1つのキーポイントですよね。
仲山:そうですね。だから「加」の章にも、「お客さんのプロになる」と書いてあって、足し算の1つの目処というか、どこまで足せばいいのかの目処として、「誰よりもお客さんのことを詳しく知っている」「信頼関係があって仲のよいお客さんがいっぱいいる」というところまではなっておきたいわけです。
青木:自由ということが、「自分の自由」をイメージしてしまうと、実はけっこう自由ではなくて、「お客さんのために自由にいろんなことを決められる」というくらいのことが、本当の自由だと思います。「本当はお客さんのためにこうしたほうがいいのに、いろんな大人の事情でできません」というような制約からできるだけ解かれている人が自由になれるという状況だと思います。
仲山:引き算のところに(スライドを指して)こういう図があって、「やりたい」「得意」「喜ばれる」の重なっている三角形のところの仕事だけできるようになるといいという話です。
青木:強みがないのにお客さんのためにやっても、全然バリューを提供できないから、「これは自分でやらないほうがいい」というのも「減」ですよね。あとは、楽しいことをやりたいと思う、楽しさの中身というのが喜ばれる……。
仲山:そうですね、「やっていて楽しいし、喜ばれるからなお楽しい」というふうにならないと、ただの自己中心的な行動になってしまいますね。だから、やりたくて得意なことをやっていると、「それは価値のある行動だから長く続けてくれよ」と商品を買ってくれたり応援してくれたりする人が増えてくるのが、減ステージの肝になると思います。
仲山:(スライドを指して)「たまごち」と書いてあるのは「魂のごちそう」の略です。ネットショップをやっていると、夜中にお客さんからメールやレビューで、「めちゃくちゃよかったです。ありがとうございます」というようなことが書かれていて、思わず1人でガッツポーズしたり、ちょっとうるっときたり、というようなことを、みんなけっこう体験するんです。
それを「たまごち」と呼んでいて、「たまごちゲット!」と言って、店長さん同士で自慢しあったりしています。「たまごち」をもらえるようになると、活動が長続きしやすくなります。世の中から「やってよし」と言われるということですね。
青木:そうですね。世の中から自由を信託されるというかんじですね。
仲山:そうですね。そして、その3つ重なった状況を僕は「自己中心的利他」と呼んでいて、対義語としては「自己犠牲的利他」や「自己中心的利己」です。利他にはどっちかと言うと「自己犠牲を伴う」というイメージが強いですよね。でも、それだとこちらが消耗してしまうから長続きしないので、こちらがやりたいことをやっていたら喜ばれるということで自己中心的だけど利他という。なので、自己犠牲的利他ではないし、自己中心的利己、つまり単なるジコチューでもないということです。
青木:そうですね。自己犠牲はたぶん1番長続きしないし、自分も辛いですよね。
仲山:やっぱり、楽しみつつ人から良く思われたい(笑)。
青木:そもそも動機付けって自分のなかから湧き出してこないですよ! 「これがやりたい、あれがやりたい」というものがずっと出てくる人はあまりいなくて、人の動機にこたえられているから続けられているというところがあるので、個人の中にあるささやかな「やりたいこと」は、たぶん半年くらいで全部で出払ってしまうと思うんですよね。
だから、自分が本質的に価値があると思う分野で、「他者の動機に仕える」というほうが……要は人からエネルギーをもらっているという状態だから、けっこう無尽蔵なエネルギーがあるんですね。僕も自分がやりたくてやっているというよりも、(スライドを指して)この3つ(「やりたい」「得意」「喜ばれる」)で言うと、上(やりたい)はどんどん薄くなっていて、下の2個で生きているというところがあります。
長くやっているとそうなってしまうんです。やりたいのかどうかはちょっとわからないけれど、喜ばれて嬉しいというよりも、人の動機に駆動されているというかんじですかね。
仲山:青木さんはいろいろ引き算します? 「やらない」と決めていることはあります?
青木:あります。ほとんどなんにもしないです。
仲山:青木さんの引き算が知りたいです。
青木:ここ最近のホットトピックスは、経営者なので、「こういうことをしたほうがいい」「会社をこう変えていこう」「次に事業としてこうしていこう」というように、たくさん構想はするじゃないですか。それを実現するための諸活動というのがあって、それをリーダーシップをもって率いていくというのをちゃんとやろうと思っていた10年でした。
以前はそれをやりたいと言う人が出てこなかったら、「しょうがないや」と自分でやろうとしていたんですけど、今は全くそう思わなくなりました。「やるべきことって誰かから出てくるんだよな」というかんじで、完璧に他力本願でやっています(笑)。
仲山:あとは、夢中3条件の真ん中以外はやらないようにしていると、「あいつは変わってる」と言われたりして、周りの人から浮いたかんじになっていくんです。でも、それは当たり前で、その人がやったら1番うまくできることや、その人にしかできないことをやっているわけだから、周りの人とは違うことをやっている状態になるので、「変わっているに決まっている」というか。
同じことをやっていないんだから変わっているに決まっているんだけれど、「変わってる」と言われることの精神的ストレスに耐え切れずに、みんなと同じことをするようにしてしまっている人が多い気がして、もったいないと思うわけです。「みんなと同じことをやりながら突き抜けた人になりたいんですが、どうしたらいいですか?」と聞かれてるようなもので、それは無理ですよね(笑)。
青木:確かにそうですね(笑)。ただ、それこそ仲山さんとのコミュニケーションの中で僕も意識できるようになったこととして、「全部できる人である」という状態は、言いかえると「とりつく島がない人」になっていますよね。「この人と一緒に何かやりたい」と思っても、自分が貢献できそうなポイントが見つからないと申し出ることができないんですよ。「この人は一通りできているし、俺はいらないよな」って(笑)。
仲山:全部のピースが正方形のジグソーパズルはない、ということですね。
青木:そうなんです。どこではまりどころがあるかなって。そして、天才だなと思う人は、個としては「足元にも及ばないな」という人がいますよね。でも、意外と取り組みや事業という意味では大きくなっていなかったりするんです。
仲山:全部自分でやろうとして……。
青木:天才過ぎて、例えば映画を1本作るのに、資金も自分で集めてプロデュースもできて監督もできて宣伝もできる、という人だと、「1人でやって」となったら、「自主映画がすごい人」というふうになってしまうんですよね。
でも、「監督しかできない」「お金を集めるのは得意だけど、全然映画が撮れないんだ」ということになると、「映画撮ります」「お金集めます」というように、それぞれ得意な人が手を挙げてくれたりするんです。そして、結果として大きくなると、減のステージの上にある乗のステージに上がるための禊みたいになったりします。
仲山:人と組むためには自分の凹を晒さないとうまく組めないわけで、晒しても別に不安にならないためには、「凹はここだけれど、凸はここです」と言えるものが確立していることが大事だと思います。だから、この前ある20代の人が、「私は掛け算だと思うんですけれど、人と一緒にいろいろやっていても、あんまりうまくいかないんです」と言っている人がいて、「それはまだ『加』ですよね」と思ったんです。
青木:減の禊ができていないんですね。
仲山:たぶん、足し算が足りていないんです。あと石川善樹さんという予防医学研究者が、加減乗除のステージを見た感想として、「加が20代、減が30代、乗が40代、除が50代の働き方というかんじですね」と言ってくれました。人によって違うでしょうけれど、ざっくりとしたイメージとしてはそんなかんじですね。
青木:ただやっぱり、自分のステージってよくわからないかも……。
仲山:そうだ、この本を作るときにいっぱいページを削らないといけなくて、削った内容の中に「ステージ診断」というのがあって。
青木:俺、診断してもらっていいですか(笑)。
仲山:「加」は苦手な仕事をやっているうちに、人よりもうまくできるようになりました、という経験があるか。そのうえで「これを自分の強みとする」のか、「これは俺じゃない」となるのか。
青木:これあったんです。とある仕事で、僕はその当時システムを一回も作ったことがなかったんです。上司とシステムを作るということになったときに、誰が設計するのかという話になって、いきなり上司が僕に何の断りもなく、「青木はそういうのできます」と言ったんです。いやいやいや、ちょっと待って……と。
でも、仕方がないから、『システムエンジニアとは』という本を帰りに買って、そこでまさに自由と関連するかもしれないけれど、「10日間会社に来なくていいですか?」と言いました。「絶対になんとかするけれど、普通に仕事をしていたらできるかんじではないから、僕に10日間時間をください」と言って、本当に10日間会社に行かないでやりました。それは強みになりました。
仲山:楽天と同じですね。三木谷さんと2人で創業した本城さんという創業副社長がいて、慶応のSFC2期生なので、「パソコンは本城のほうが得意だよな」ということで開発担当をやることになって、三木谷さんから『はじめてのSQL』を手渡されるところから始まっています。
青木:本当にそうなんです。「お前、パソコン得意だよね」というノリで(笑)。
仲山:でも、そこで本城さんが「僕はそこは強みじゃないので」と言っていたら、楽天は今なかったですよね。
仲山:じゃあ青木さん、「加」は大丈夫ですね。次の質問に「本を書けるレベル」というのが書いてあります。
本を書いたことがないと、「本くらい、書こうと思ったら書けるんじゃないかな」と思いがちな気がするんですけれど、書いてみると身を削るというか、吐きそうになるほど大変で、僕はいつもいかに自分の中に何もないのかを思い知らされる機会になります。
この本の編集者さんから聞いた話によると、本を作りましょうとなった人に10時間くらいインタビューをしていると、人によっては同じ話の繰り返しになっていて、文字の分量にすると5万字止まりになって、企画がリリースされずに終わるというのがけっこうあると言っていました。本1冊はだいたい10万字なので。
なので、本を書けるレベルになるまで足す、というのが1つポイントです。10万字書けるかと言われてもピンと来にくいと思うので、ブログを2000字くらい書いてみて、そのくらいの記事を自分の得意なテーマで50タイトル書き出せれば10万字です。なので、まずは自分の中で見出し50個を挙げてみようと。やってみて50個埋まるまでは足し算だなって思いながら……。
青木:やばい、もう1回足し算に戻らないと(笑)。
仲山:いやいや、青木さんは全然いけます(笑)。
仲山:それと「戻る」という言葉が出たので補足しておきたいことがあります。こういう「ステージが4つあります」のように言うと、だいたいみんな「自分が上のステージにいることにしたい欲」が出がちな気がするんですが、これはそういうものではなく、僕らって日々やっていることによって、足し算に戻ってやり直したり、行ったり来たりすると思うんです。
なので、この4ステージモデルは「除が尊い」というものではなくて、自分が今どこにいるのかを観察したり、何をすればいいのかと考えたりする目安というか、道具として見てもらえればいいと思っています。
とにかく「自由にできている」と周りの人に言われるようになるには、10万字くらいの何か得意なものを(笑)。「直観なら自信あるけど、言語化するのが苦手だから10万字は無理」という人は無理に「本」の形で考えなくてもいいんですが、そうでなければ50タイトルを書き出すアクティビティはやってみてもらいたいです。
というわけで、いい時間になりましたが……どうやって終わるのがいいですかね(笑)。もし質問があれば。じゃあ、お願いします。
質問者:ステージ診断の2番の「得意分野というのが2つ以上」というのはどういう意味ですか?
仲山:2つというのは、掛け算のステージに行っているかどうかを判定するものです。1つならまだ「減」ステージということ。
質問者:ああ。
仲山:引き算のステージで自分の強みの旗が1本立つ状態にします。掛け算のステージでは、自分のメインの強みに違う強みを掛け合わせることで、オリジナル度が高まるようにする。「歌って踊れる野球選手」というような。歌って踊れる人も多いし、野球選手も多いけれど、歌って踊れる野球選手は少ないから、バラエティ番組から声がかかるよね、というイメージです。
質問者:それを50コンテンツ書けるぐらいのものを……。
仲山:書けるぐらいのものが2分野あるか。それが掛け算のステージに入りました、というイメージです。
質問者:ありがとうございます。
仲山:というわけで、終わります。ありがとうございました。
青木:ありがとうございました。
(会場拍手)
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