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尾原和啓×岩佐文夫(全1記事)

「元〇〇」という肩書は重い 東南アジアと日本を往復する、フリーランス2人のリアル

2018年4月19日に上梓された尾原和啓氏の『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』。その刊行を記念した対談も今回で3回目となりました。対談相手はハーバード・ビジネス・レビュー日本版の編集長を務め、現在はラオスに滞在している岩佐文夫氏。フリーランスとしての強みの活かし方や、異国との往復生活で見えてきたものを語り合いました。

ラオスに移住した岩佐氏と対談

尾原和啓氏(以下、尾原):岩佐さんは海外に住んだことないから、変化を求めて海外へ行きました。ただ、(海外なら)どこでもよくて、家族も一緒で安全も大事。しかも妻が安全だって言ってるところだと、ある意味安心という理由でハノイなんですか?

岩佐文夫氏(以下、岩佐):そうですね。もうちょっと詳しく言うと、最初ラオスに行くつもりだったんですよ。

尾原:藤原和博さんがちょうどラオスで学校支援とかのプロジェクトやってるじゃないですか。ラオスがすごい今伸びてるんで、「あっ、岩佐さんもラオスか」と思ってたところなんですよ。

岩佐:日本にいた時に思ってたのは、ベトナムはグローバル経済に入りつつありますよね。これから次に入るラオスを見てみたいのが一番の希望でした。実は3ヶ月ハノイに住んだ後、ラオスに3ヶ月行くんですよ。

尾原:すごい(笑)。それはもう家族OKは出てるんですか?

岩佐:うん、OK出て、アパートももう借りてますよ。

尾原:ラオスに?

岩佐:ラオスで3ヶ月契約をしました。

尾原:かっこいいですね〜。岩佐さんって今おいくつなんでしたっけ?

岩佐:54歳です。

尾原:54歳でその決断ができる。一応、僕も人には「ライフシフトで100年時代になるんだから、変曲点はいつでも迎えていいよ」とか、よくスタートアップ業界の方々に「ケンタッキーフライドチキンって、50歳後半で初めて起業してあそこまで行ったんだよ」みたいな話をするけど、なかなかないですよね。

岩佐:でも、尾原さんだとか、海外に住んで異質を経験することを20~30代で経験してる人はいっぱいいるじゃないですか。それを僕もずっと見てきたわけですよ。

この歳になってというのは、ある意味で遅いですよね。遅くても、「今やりたいと思ったことをやっとかなきゃな」というのもあります。おこがましいけど、出口(治明)さんは60歳で起業してますよね。

尾原:そうですね。

岩佐:そのことを考えるとそうです。本題になりますけど、尾原さんの本を読んでもまさにそう思いました。100年生きるかどうかわからないけど。

僕なんかだと仕事が好きなので、これから20年はゆうに働くし、30年でも働きたいと思った時に、自分がこれまで30年積み上げたキャリアで、例えば「元ハーバードビジネスレビューの編集長です」と言って、この先何十年も食うのはみっともないですよね。

そうすると、小さな山を1つ築いたとすれば、もう1つ山を築きたいですよね。

尾原:そうですね。

「元〇〇」という肩書の重さ

岩佐:そう思うと、やっぱりある種のモデルチェンジをしたい気はあります。

尾原:なるほど。でも理屈から言えば、ある意味「ハーバードビジネスレビューの元編集長」のタグが有効期間中にリスクを取りに行くというのは、ある意味、6ヶ月間で何も得るものなかったらもう1回戻ればいいだけといえば、いいだけですけど……。

岩佐:そうですね。早く「元なんとかの編集長」って言われなくなるのが目標ですよね(笑)。

尾原:この前、及川(卓也)さんと話して、及川さんは「元グーグル」って呼ばれることが多いし、言い方は悪いんだけど、グーグルという文脈で語ることを求められる。なかなか「“元”の看板って重いよね」という話をしていて。

岩佐:そうですね。だからこれはありがたいし、感謝しなきゃいけないことだとは思っていますけどね。

尾原:一方ではね。おっしゃるとおり。

岩佐:でも、それこそ僕はハーバードビジネスレビューの時代に、堀江(貴文)さんや尾原さんといった、「○○の」ではなくて、苗字・名前で勝負して、名前がブランドになって仕事をしている人とたくさん接したので、やっぱり自分も「○○の」を取ってみたときに、どれだけ社会に役立つのかを試してみたいなとすごく思ってましたね。

尾原:かっこいいですねぇ〜。

岩佐:いやいや、尾原さんについていくだけですよ。

正循環を生み出す「確変モード」とは

尾原:もともと、実は僕が転職が多かったから、僕の場合は「元グーグル」や「元楽天」や「元リクルート」と呼んでるとめんどくさいから、なんか「尾原さん」という感じだっただけで。

3年前までは、僕も大企業の中で入って、自分の給料は「プロジェクトとしていただいたものをしっかりやるから」ということで(8割の)給料をいただいていました。

残りの2割を安全に、個人の遊びとして、いろんな方をくっつけたり、TEDxやUnreasonableの裏方などをやってたんですけど、3年前にエイヤッて逆にしたんですよね。

岩佐:なるほどね。

尾原:だけど、それはタイミング的に、いろんな人が「信用社会」など、いろんな言い方してるけど、個人で旗を立てると、どんどん案件が寄ってくるから、人をおつなぎすることができる。最近「確変モード」と、よくみんなで言うんですけど。

岩佐:確変?

尾原:確変。要は、スロットマシンの確率変動(確変)モードがあるじゃないですか。1回フィーバーに入り出すと、またフィーバーに入る。

自分の竿が立つと、「尾原はこういう案件の人です」みたいなことになる。そうすると、またその案件が寄ってきて、また知見とネットワークが増えるから、また人が寄ってくる。どんどん正循環に入ることがやっぱり増えてきています。

そうだとした時に、一番大事なことって、確変モードがに入った時に、インパクトが多いところに竿を立てることなんですよ。

自身の新しいタグを見つけるヒント

岩佐:まだまだ僕は始めたばかりだけど、理解できるところはあって、「○○の」が取れて自分で何かをやると、「あっ、岩佐だ」となりますよね。そうすると、やっぱり世間が僕の中の持ってるスキルや役立ち度がどこにあるのかを見てくれるようになっている感じがします。

尾原:そうするとやっぱり、今までは「ハーバードビジネスレビューの岩佐さん」という呼び方しかされなかったのが、「やっぱり岩佐さんを呼ぶと、抽象化のインサイトがすごいよね」とか。

岩佐:とかね(笑)。

尾原:ないしは、この分野、組織論。実は岩佐さんって組織論のところですごいから、「やっぱり組織論だったら、岩佐さんを呼ぼうね」とか。ハーバードビジネスレビューが(岩佐氏から)パカンと分かれたあとに、タグがどこにつくのかですよね。

それはジャンルでつけていくのか、今ラオスやベトナムにいらっしゃるから、ある意味、「新興東南アジアだったら岩佐さん」という、まったく別のタグをつけるのか。それはまだわからないんですね?

岩佐:そうですね。冒頭に言ったとおり、ベトナムの専門家になりたくて来たわけじゃないけど、自分がそうやって回ってる中で、とにかく新しいタグをつけなきゃという気はしてますよね。新しいタグは、「ハーバードの編集長をやっていたから、こういうのが得意でしょう」ということじゃないタグですかね。

尾原:そうなんですよね。だからハーバードビジネスレビューで(岩佐氏が)ちょっと書かれてる記事というレベルで、「あぁ、なるほど。こういう視点を提供する人なんだ」という話だったりとか。

僕の場合、アメリカ版と日本のハーバードビジネスレビューを両方読んでるマニアックな人なので、その差分で「あっ、この人はこういうところに舵を向け変えるんだ」と思いました(笑)。その比較論で、岩佐さんという人を比較的引き立ててるんですけど、普通の人はそんなことしないので(笑)。

岩佐:そうですね。

尾原:そこがどこにあるかは、おもしろいところですよね。

「手に職」という概念が変化してきた

岩佐:フリーランスになるというか、個人でしている時のことを、尾原さんに聞きたかったんです。

尾原:アドバイス、いくらでもできますよ。

岩佐:自立した個人として社会と接しているわけですよね。そういう意識が僕もすごく強いし、そういう中で、「手に職をつける」という言葉があるじゃないですか。この言葉をどう解釈してるのかを聞きたかったんですよ。

尾原:そうですねぇ。

岩佐:僕から言いましょうか?(笑)。

尾原:ぜひぜひ。

岩佐:この問題意識というのは、僕、手に職がないんですよ。

尾原:えっ? そんなことはないですよ。

岩佐:わかりやすくいうと、資格は何もない。

尾原:そうですね、おっしゃるとおりですね。

岩佐:それで、編集者といっても文章も書けません。わかりやすく言語化できる「僕はこれができます」というのがないんですよね。だから、僕の「手に職」は非常にイメージ化しにくいんですよ。でも自分の中に、これからの「手に職」というのは、そっちに行くんじゃないかという気がものすごくしてる。

尾原:なるほど、なるほど。

岩佐:言語化できる「これができます」「Excelの表が使えます」みたいなことより、もっとメタ化していくんじゃないかという気はしています。

尾原:そうですね。

岩佐:そういう意味では、尾原さんが本に書かれていた「議事録を取れる人」というのは、これはむしろ駆け出しのところでの尾原さんのすごい特技でもあるけど、尾原さんの本質的な強みでもない気もしていて(笑)。

現代におけるイシュー設定能力の重要性

尾原:結局、「職」って、必ずしもバーティカルに根ざす「料理が上手いです」「お医者さんとして治療が上手いです」「弁護士として法律のことをわかってます」という以外に、ホリゾンタルな能力ってあるじゃないですか。それが変化の時代ではやっぱり重要になると思っていて。やっぱり、(ヤフーの)安宅(和人)さんじゃないですけど、イシュー設定能力がむちゃくちゃ重要ですよね。

結局世の中って、今までは遂行能力がめちゃめちゃ大事だった時代から、遂行能力の手前にある「いや、そもそも課題はこれですよね」という課題の設定能力だったり、ないしは課題のプライオリティをつける能力だったり。もっと言うと、難しすぎる問題は、適切な解ける量に課題を分解してあげる。

でもスティックすべき「まだわかんないけど、これは課題だけモヤモヤ考えたほうがいいんですよ」みたいな、課題の粒度とプライオリティを整理してあげる意味の課題設定能力(が大事)。もっと言うと、クリエイティブな人たち自体は、課題どころか、意味を創造する。

新しい意味や新しい役割を創造する能力みたいな感じになってきていて。やっぱり僕が求められていることは、圧倒的に、課題の粒度を相手が一番解きやすい粒度に合わせて小分けにしてあげる能力なんですよね。

なので、人に話すときはそれは「コンサルティング」という漠とした能力なんですけど、自分の中でのそれはすごく言語化してるというのが1個。もう1個大事なことが、「自分が得意なこと」「好きなこと」「お金を稼ぐこと」とに明確に分けているんです。

例えば、今言った課題の分解能力などは、得意で、好きで、稼げる。だけど、例えば僕って、もう人が大好きで、こうやってしょっちゅういろんな人と「ちょっと話しましょうよ」ってお話してるんですね(笑)。なんだけど、これで絶対稼がないって決めてるんですよね。

岩佐:稼げない?

尾原:絶対に稼「が」ない。

岩佐:なるほど。

尾原:それはやっぱり、人と人をつなぐことは、「お金を稼ぐ」という色を入れた瞬間に、「尾原は結局儲かるために俺と会おうとしてんの?」ということが1秒でも混ざるのが嫌なんですよ。

岩佐:わかる、わかる。

「得意」「好き」「稼ぐ」を切り分ける

尾原:だから俺はピュアに、本当にこの人とこの人が会えばおもしろいと思うから会う、ってやるから、そこの得意が伸びるわけじゃないですか。

でも一方で、課題解決能力は、別にお金を稼いで、その人のクライアントのためにやって、得意が成長するんだけど、じゃあ次のクライアントに行った時に、問題のフレームワーク自体は横展開だから、得意が成長したもので別で稼げるけど、別に守秘義務はちゃんと守って、しゃべらないことはこっちに絶対しゃべらないから。

その「得意」と「好き」で「稼げる」ということの副作用がないんですよ。

岩佐:なるほどね。

尾原:だから副作用があるかを含めて、やっぱり「得意」と「好き」と「稼ぐ」というところを明確に切り分けてやってるというのが大きいです。

それから、僕は勝手に「バーティカルスキル」と「ホリゾンタルスキル」という言い方をしてるんですけど、人によってはバーティカルスキルのことを、職種に紐付くから「エクスパティーズ」みたいな言い方をします。

エクスパティーズで生きるのか、業種に横断したホリゾンタルスキルで生きるのかは人それぞれだから、やればいいと思います。

だから僕は本の中で、「職種と業種を交互に変えていく」ことが1つの成長パターンだという言い方をしてるんです。両方ゼロリセットしたら、お金を稼げなくなっちゃうから。

岩佐:なるほどね。

尾原:まず業種は一緒にして、職種をスライドするのか。職種を同じにして、業種をスライドするのか。今、何を投資として貯めに行っていて、言い方が悪いんですけど、何を今までの惰性で儲けてるのかは、僕の中ではいつも明確にしながらやってますね。

岩佐:なるほどね。尾原さんの話を聞いていて、水平と垂直というのはすごくわかりやすかったです。

僕の言葉で言い換えると、「手に職」の意味がすごく細分化できてる時代なんじゃないかって気がしてるんですね。昔だったら「料理が作れます」「髪の毛切れます」などが手に職と思われていた。

今はもっと、尾原さんみたいな、ホリゾンタルなスキルもそうだし、「この部分だけ」というすごく小さいことが、これから手に職という意味になる気がしてるのが1つです。

もう1つは、昔も「あの人は手に職があるから仕事が続けられた」ということが、単に料理が作れることや、髪の毛が切れることだけじゃなかったという気がする。

それは、料理ができる人が、どこへ行っても調理師さんとして雇われるわけじゃなくて、それ以上の価値を提供できているから、その人が料理人として仕事をずっと続けられてたわけですよね。

それは言語化できないかもしれないけど、その人が厨房にいるとやたらみんなが明るくなるとか、お客さんが安心して食べられるとか、どんな状態でも食事が安心して食べられるとか、いろいろあると思うんですよね。

そういう意味では、本当に「手に職」って言った時に、何かの資格だとか、何かの経験が3~5年あること以上の、「一緒に働いた人が認める価値」のようなものが、これまでは閉じてたけど、これからそういうものがどんどん信用としてその人を支える材料になるんじゃないかなと思います。

尾原:そうですよね。

バラ売りできる時代が可能にすること

尾原:インターネットの本質は2つあって。コンサルっぽい言い方すると、「バリューアンバンドル」だと思っていて。要は、今までセット売りにしなきゃいけなかったことをバラ売りできるようになる。だから、僕らみたいな、極端な話、議事録能力が一番わかりやすいですよね。

議事録だけが得意な人って、今まで会社の中だと、1日あっても1時間ぐらいしか役に立たないけど、今ってリモートミーティングができるようになったから、ずっとその人は家にいるんだけど、リモートミーティングで議事録だけを取り続けて。

「この人に議事録取らせたら天下一品です」っていって、その人の一番バリューの高いところだけをスライシングして、その人は議事録だけで生きていく。しかも、ハノイで議事録書くだけで生きていくみたいなことが可能なわけじゃないですか。

岩佐:しかもそれは雑用の単価じゃないわけですよね。

尾原:そうそう。その人がいるとミーティングの効果がもう絶大だから、「1回5万円払うよ」みたいなことも、ぜんぜんありうるわけですよね。しかもいいのは、「この人の議事録はすごい」という噂が高まると、どんどん単価が高い重要なミーティングに組み込まれる。対談もあるかもしれない。こうやって、僕と岩佐さんがハノイとバリで日本語でしゃべるみたいな(笑)。

岩佐:(笑)。

米のヤンキーキャンドルはなぜ躍進したか

尾原:離れたものを小分けにしてくっつけるのが、やっぱりインターネットのすごいところだなというのが1個です。あともう1個は、テクノロジー。岩佐さん、ぜひお時間があるうちに、ミラノの安西(洋之)さんのところに会いに行かれるとすごくおもしろいです。

さっき言った、課題設定より先に、新しい意味を作ることで新しい価値を作る、意味のイノベーションが大事だというのを、ミラノ工科大学のベルカンティ教授が、『突破するデザイン』という日本語タイトルで出していて、英語名だと『OVER CROWDED』という名前なんですけど。

この中におもしろい表現があって、実はイノベーションの(本来の)意味は、イノベーションしてるんじゃなくて、ズームイン・ズームアウトしてるという話があるんですね。

この中に出てくるエピソードが、アメリカの「ヤンキーキャンドル」というロウソクの会社で、今でもアメリカのロウソクのシェア40パーセントを持ってるおばけ会社なんですよ。そうなんだけど、ヤンキーキャンドルは40パーセントもシェアをなぜ持てるようになるのかというと、ロウソクの火を逆に小さくしたんですよ。

岩佐:ふーん。

尾原:アロマキャンドルを商業的に初めて売ったのが、そのヤンキーキャンドルです。つまり、今までロウソクというのは「明かりをつける」という機能価値ばかり着目されてたけど、昔から「ロウソクの揺らぐ炎って落ち着くよね」「ロウソクから匂いがすることによってみんなが安らぐ」などの感情価値があったわけですよね。

その「明かりを灯す」という機能価値は、電球によってテクノロジーで消されてしまって、極小化されたけど、実はこの「光が揺らぐことによるリラックス価値」や「匂いによってムードを作る価値」という感情価値は、ストレス社会の中でむしろ価値が増大したんですよね。

そういうふうに、実は価値がズームイン・ズームアウトしてるだけだと。じゃあ、何の価値をズームアウトすべきなのかをちゃんと見ていくということが大事で。

おもしろいのは、ベルガンティ教授は「だから、人と話しちゃいけない」って言うんですよ。人と話すと、「いや、お前、ロウソクなんて明かりのためにやるんだから、わけわかんないこと言うなよ」と言われて潰されるから、「俺、こっちが大事だと思うんだよなぁ」ということはしばらく暖めておいたほうがいいみたいなことを言っている。

そういう意味で言うと、おっしゃるとおり、料理人というのも結局、どんどん低温料理機とか、メーターでポン、パーン、みたいなので味自体は作れるようになるから、「きれいにデコレーションできる人のほうが偉い」みたいな話だったりとか、相手のムードを見て、次の料理をほしがっているタイミングに出すことがすごいとか、価値にズームイン・ズームアウトがテクノロジーで起きますよね。

そこらへんを見極めて行くことが大事だと思うんですよね。

岩佐:そうですね。

信頼感を与えるスキルが大事になる

岩佐:そういうのって、「手に職をつける」というと、一定期間の修行的なものや、我慢したプロセスみたいなものをみんな想像しがちなんだけど、そこもむしろ逆なんじゃないかって。

これは尾原さんの本を読んで思ったんですけど、そのプロセスってむしろ逆で、自分の個性を詰めたほうが、オリジナルな「手に職」が作れるんじゃないかって。

尾原:あー、そうですね。

岩佐:「手に職」って言った時に、コモディティ化することと差別化できることが混同されてるような気がしていました。

尾原:でも、それはまさに、ボランティアの時ってそうなんですよ。

岩佐:ボランティア?

尾原:震災ボランティアとかに行くじゃないですか。あとTEDxとか、プロボノというボランティアに行くじゃないですか。プロボノというボランティアって、一見すると自分のプロのスキルを提供するんだって、垂直のスキルを思いついちゃうんですけど、実際にボランティアに行くと、やっぱり一番求められたスキルは議事録でした、とか(笑)。

一番求められたスキルは、僕の場合、パートナーやスポンサーの方に「尾原と組むと、長期的にwin-winの関係にしてくれるわ」という信頼感を与えるスキルが一番認められたりするんですね。だから僕がいると、圧倒的にパートナーが決まるんですよ。出過ぎず、期待値も適度に下げて。

だから逆に、「個人で生きなきゃ」と思うと、「新しい手に職つけなきゃ」って思うかもしれないけど、実は自分の中にすでに濃淡があって。ただ、今まではハーバードビジネスレビューという冠の中で見えなくなってるだけで。

ハノイとかにいると、実は一番岩佐さんのここが頼りにされます、みたいな(ことが見えてくる)。

岩佐:そうなんですよ、逆に言うと外側からみると、ハーバードビジネスレビューは僕が作ってたように見えたけど、実際はチームで作ってるから、ぜんぜん僕の力じゃないわけですよね。それで僕が外出ると、そこがバレバレなわけで(笑)。

尾原:ははは(笑)。僕もそうです。僕も結局アメリカと日本のハーバードビジネスレビューを見て、岩佐さんがやったと思ってますけど、実は岩佐さんのNo.2がやってるかもしれないんですよね。

岩佐:そう、バレバレで。全部僕がやってるけど、バレバレで、あんなこと僕じゃできないこといっぱいあるんですよ。

尾原:ははは(笑)。そりゃそうですね。

岩佐:それは半分いいことで、そうすると、本当に僕がやってた部分が一人になることでフォーカスされる。

尾原:そうですよねぇ。

東南アジアに住んで気づいた東京生活のストレス

岩佐:そうすると、岩佐は本当はここはプロフェッショナルじゃなくて、こういう人なんだというのが、周りも気づくし、僕も気づくんですよ。いまはそのプロセスですよね。

尾原:いや、でもそれって勇気いりますよね。ある種、自分が本当はここしかできないということがバレるということでもあるわけじゃないですか。

岩佐:いやいや。それはものすごい今気づきのプロセスで、本当に僕が貢献してたのってここだったのかもしれないって、見つけられるわけですよね。

尾原:そうですよね。だからある意味、もし半年間ラオスとハノイでやってみて、「やっぱり編集に戻ろう」として戻ったとしても、たぶん戻った岩佐さんは、自分に対しての解像度がめっちゃ上がってる岩佐さんとして、元に戻れるわけですよね。

岩佐:そうですね。仮に戻ったとしたらもう背伸びしないですよ(笑)。

尾原:ははは(笑)。「俺ここは得意だけど、ここはダメだから任せる」みたいな。

岩佐:おっしゃるとおり、自分が得意なことは、得てして好きなこと・望んでやることだと、すごくわかりますよね。馬力はそうやって生まれるんですよね。

尾原:そうですよね。またハノイとかラオスみたいに、今までとぜんぜん違うところに行くと浮き立ちますよね。

岩佐:そうなんですよ。

尾原:まだそんなに日数経ってないですけど、行かれてみてどうですか?

岩佐:まだこのベトナムの刺激で何を受けたかというと言語化しにくいけど、ちょうど先週1週間、東京に行ってたじゃないですか。

尾原:はいはい、戻って。

岩佐:そうすると、東京で「あっ、こういうことか!」というのはいくつか感じました。それはいま自分がいかにここでストレスのある生活をしてるのかに気づいたんです。ある意味では僕はいま正直言って、東京にいる人よりもはるかに優雅な生活をしています。

尾原:そうですよね。

岩佐:朝起きて散歩して、1つのことに2時間考えられる時間を毎日持てます。後でお見せますけど、僕の住んでいるところは湖畔のすごく景色のいいところなんです。この風景を見て珈琲を飲んだり散歩したりが、日常としてできるんです。

尾原:そうなんですよね。ハノイは湖がすごい多くてきれいなんですよね。

岩佐:でも東京へ行ったら、4日で15件のアポを取ると、1時間ごとにアポの連続です。ただし、この東京この生活にぜんぜんストレスを感じなかったのが、先週の発見です。というのは、やっぱり慣れたところで慣れた人と話したり行動したりというのは、ぜんぜんストレスじゃないですよね。

尾原:なるほど。

東京と異国の往復で得られた刺激

岩佐:今ではハノイでもタクシーに乗ったりするのは慣れたつもりだったけど、いちいち「本当に料金大丈夫かなぁ?」とか、お店で注文した時に、「ちゃんと注文したものが出てくるかな?」とか、いちいち気にしながら生活しているのがよくわかりました。

尾原:(笑)。そうか、そうか。だからハノイにいることで、逆に言うと、日本でいた時の当たり前もわかるし、逆にハノイに1回来てから日本に帰ったから、ハノイで思わないうちに実はこんなにエネルギー使ってるんだみたいに、両方わかるわけですね。それは確かにおもしろい。

岩佐:僕は、とくに編集長(の時代)からいろんな人と会って話すことに、お腹一杯という気分だったんです。ちょっとゆっくり考えたいと思ってこっちで1ヶ月生活してみて、今度東京に入って、怒涛のごとくいろんな人と会ったら、ものすごく新鮮で楽しいわけです。

尾原:(笑)。

岩佐:そうなると、じっくり1人で考える時間と、こうやって尾原さんとかと刺激的な話をする、この往復運動はすごい効果なんだと改めてわかります。

尾原:そうですね、どうしてもやっぱり固定的な仕事だと、そこがコントロールできないし、偉くなるとできなくなりますもんね。

岩佐:そうですね。

尾原:グーグルの偉い人とかだと、やっぱりちゃんと自分の考える時間みたいなのをブロックして、「絶対ここ(予定を)入れるな」みたいなのをやったりとか。あと業界の中の変態の人だと、セプテーニの佐藤(光紀)さんってめっちゃ変態で、秘書にスケジュールの種類を色分けさせてるんですよ。

それで1週間のスケジュールを見て、「うーん」「今週こっち多いなぁ」「来週はこれ以上入れないで」って言うらしいんですよ。そこで自分のポートフォリオマネージメントをしてるんですよ。でも、普通の人はやっぱりできないですもんね。

岩佐:おっしゃるとおり。僕も自分の時間をブロックしてたことがあるんですけど、これは自分のディシプリンの足りなさと勇気のなさで、やっぱり入れちゃうんですよね(笑)。

尾原:そうなんですよ。結局ネット社会って、ずっとつながってるから、どうしても入れちゃいますよね。

だから、かく言う僕も多動症だから、結局バリに帰ってゆっくり考えられるっていっても、僕もこうやっていっぱい入れちゃうわけですよ(笑)。だから、本当にじっくり考えられるのは飛行機の中だけで。飛行機の時間が、実は一番自分にとっては、岩佐さんにおけるじっくり考える時間で、そこで抜けるんですよね。

岩佐:ですね。やっぱりFace to Faceでなきゃできないことって、今回よくわかったんです。

Facebookが雑談の前提をつくってくれる

岩佐:逆説的ですけど、尾原さんは(リモートでの雑談)に慣れてるけど、僕なんか慣れてなくて、雑談ができないんです。

尾原:はい。

岩佐:わかります? ミーティングは短くなるんだけど、もう1つ踏み込めないです。

尾原:でもね、それは慣れですよ。僕がなんでこんなに雑談が遠く離れててもできるかって、やっぱり2つあります。

1つは日常、ずっとよくわからないことを、ブログやFacebookに垂れ流してるじゃないですか。だから、みんな僕が何を考えててという、いわゆる日常の雑談みたいな世間話は、Facebook上で済ませてるんですよね。

それで会うから、「もうあれ読んでるよね?」という前提で話せる。一番大きいのが本です。僕がこの10分対談がなんで好きかというと、みんなが僕の本をある程度、前提条件にしてくれることです。今日、本の話をほとんどしてないじゃないですか。

岩佐:いやいや、してるじゃないですか(笑)。

尾原:してますけど(笑)。してるけど、本の復習はしてないですよ。

岩佐:(笑)。

尾原:だから、本を前提条件にして積み重ねる話しかしてないじゃないですか。これはすごく効率良くて。だからそういう意味では、やっぱりFacebookが日々の雑談の前振りをやってくれてるのはすごくある。それはやっておいたほうがお得だと思います。

岩佐:わかりました。今回、そういう意味では雑談ばっかりしてましたよね。そこを固めとけば、このオンラインのコミュニケーションが豊かになるという気はしています。

尾原:うんうん、そうですね。だから1回コネクトしちゃって、この人と僕はこういうインテンションのグラフであるんだ、みたいなのを1回作っちゃえば、あとは2回目、3回目は、ネットで後でできる。

岩佐:東京にいる時を省みたら、ムダ話がすごく嫌いで、すぐ本題に入ろうとしていました(笑)。

尾原:(笑)。

SNS普及でコミュニケーションが変化した

岩佐:それはそれとして。でもやっぱり、コミュニケーションの文脈すべてを、もっと広い概念で理解できた感じはしますね。

尾原:そうですね。だから逆に言うと、おっしゃるとおりで、コミュニケーションの文脈をどこで整えるかですよね。

岩佐:そうです。

尾原:今までは「飲みに行こうよ」という飲みニケーションでやっていた時代から変わって、SNSまで意識的にちゃんと使い分ける時代ですよね。

岩佐:とくに社内なんて、とくに会話しなくてもチラッて「よっ」て挨拶して、なんとなく見てるだけで、もうそれがすごいコミュニケーションになってたわけですよね。

尾原:そうですよね。とくに岩佐さんの場合は、他の編集者と岩佐さんがやり取りしてるのを横でなんとなく聞いて、「あぁ、岩佐さんは今こんなこと考えてるんだ」って他の編集者が勝手に思ってるわけですよね。

岩佐:かもしれないです。メッセージを出してたかもしれないし。僕もみんなが朝(会社に)来るのを見てるだけで、なにかのメッセージを受け取っていたかもしれない。

尾原:そうですよね。なんとなく「あれっ? 最近あいつ、出社ちょっと遅れた」「服装が変わった」みたいなところでサインを受け取ったりするし。

岩佐:そうそう。「最近あいつ朝早く来てるな」とかいう情報でないものも含めて、解釈してたのかもしれないです。

尾原:残念ながらサービスやめちゃったんですけど、ドミニクさんの昔やってた「Picsee(ピクシー)」というサービスがすごくおもしろくて。少人数でやるインスタみたいな感じなんですよ。

しかも少人数でやるから、自分の特定のグループに2クリックぐらいで写真を上げれちゃうんですね。糸井重里さんがすごいそれを気に入って、糸井さんとドミニクさんと何人かでグループやってたんですけど。

ある人が、空の写真ばっかり上げる人がいるんですけど、ずっとその空の写真を見てると、「なんか今日この人、機嫌いい日だ」「今日なんかあったのかな?」みたいな(笑)。その人の空の写真の上げ方でわかるようになる、みたいな話があって。

岩佐:なるほどね。

尾原:だから今までは、その人のネクタイの色だったり、出社時間で見てたものが、実はソーシャルの中でもだいたいできるものはできるかもしれない。ただ、今までは無意識にやってたものが、だんだんそういうことを意識的に、もっといろんな形で進化できるみたいな話かもしれないですよね。

というところで、今回の対談はいったん終わりにしましょう。今日はありがとうございました。

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