2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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アマテラス藤岡清高氏(以下、藤岡):Linkwizを創業し、ゼロから技術開発をされていますが、資金繰りはどう乗り越えてきたのですか?
吹野豪氏(以下、吹野):最初は創業メンバー3人で資本金700万円を出し合いました。700万円あればなんとかなると思っていたのですが、3ヶ月くらいしてそうでもないことに気づきました。
当時、私には家族が4人いたので、家族を養うことができる最低限の金額を給料にすることにしました。3人とも同じ給料にしていたので人件費だけでも月に100万円ずつ減っていきました。
つまり3ヶ月したら倒産するということなので、まずは生きるための仕事をする方針になりました。3人とも元エンジニアなのでそのツテを頼りに技術デモを見てもらうことや、仕事があればなんでも引き受けますというスタンスで仕事をしていました。
最初の取引は、忘れもしない横浜ゴムさんでした。スタッドレスタイヤの溝を3次元カメラを活用して点検を行い、50万円を貰うことができました。
こうして仕事がもらえたのはメンバー一人ひとりが今まで培ってきた信頼だと思います。会社が変わっても、「この人だったら投げ出すことなく最後までに仕事をしてくれる」という信頼がないと、何もできないことを実感しました。
それを機に「徳をもって事業の基となす」という社是を作りました。結局、仕事は人間力が重要であり、技術力をアピールしても仕事を貰うことはできないということです。
近隣の社長さんに場所を貸していただくなど多くの面で助けてもらったおかげで、会社を運営することができています。(注:現在は新社屋に移転しているが、取材当時は浜松の大建産業さんの工場スペースを間借りしていた。)
吹野:しかし、受託検査をして食いつなぐも余裕はなく、最初は単月赤字が続きました。初年度の最後の1ヶ月は、腹をくくってなんでもやろうと決め、結果として単月の営業利益が6,800円の黒字になりました。
たったの6,800円でしたが、1ヶ月でも単月黒字になったことは達成感があり、嬉しかったですね。そのお金で近くのスーパー銭湯でお風呂に入り、ビールを飲みました。これが会社の最初の飲み会でした。
受託検査は自分たちがやりたかったことではなく、自社で開発に取り組むためにはやはりお金が必要でした。地元の信金さんに事業計画を出して、スタートアップ支援の審査に通過することができ、800万円を借り入れ、ロボットや実物のセンサーを400万円くらいで買いました。
そうして、受託検査などをしながらキャッシュを繋ぎつつ開発を続け技術のプロトタイプが完成したのは2016年初めくらいです。
藤岡:綱渡りのような資金繰りの中で技術開発をしていたわけですが、社長としてどのような心境だったでしょうか?
吹野:辛かったです。私は血圧が低いのですが、その時はあまり眠れず血圧が150くらいでした。この年齢で血圧150は割と危険なレベルです。
「何ヶ月かしたらまたお金がなくなってしまう、そうしたらまた借り入れが必要という負のループに陥ってしまう」と毎晩考え込んでしまい眠れなかったです。奥さんにも心配され、病院に行って薬も飲んでいました。
しかし、プロダクトが完成するとお客さんが来てくれるようになり、デモを見せると、商品の将来性を見込んで購入してもらうこともありました。自社の正規商品の説明が可能になったことは大きかったです。
起業1年目の目標が、単一機能の開発をして結果が出せるものを1つでも作ることでした。デモが完成してからは、お客さんに購入してもらい満足してもらえたので良かったと思います。
藤岡:産業革新機構さんがLinkwizさんに投資をされていますが、吹野さんと産業革新機構さんが出会い、投資実行までの背景を教えてもらえますか?
産業革新機構 丹下氏(以下、丹下):経産省主催の「グローバル起業家等育成プログラム」で20人の起業家が選ばれてシリコンバレーに派遣されるのですが、吹野さんはその一人として、私はメンター兼審査員としてプログラムに同行していました。
初めてシリコンバレーで吹野さんに会った時に、「さっきテスラモーターズのギガファクトリー(世界最大のバッテリー工場)に行って営業してきた」と言っていたのをよく覚えています。
吹野:せっかく国のお金でシリコンバレーに来たので、現地でテスラモーターズの人知りませんか? と聞いて回り、「Linkwizのデモを見てほしい」と直接メールして訪問してきました。こんなチャンスはなかなかないので(笑)。
丹下:この人は面白いと思いましたね。営業で使った資料を見せてもらったのですが、3次元のフレームワークなどが入っており、本物の技術を見せてもらった感じがしました。
派遣されてきた他の社長たちは自分のビジネスプランをブラッシュアップする目的でプログラムに参加していたのですが、吹野さんだけは異次元のところいると感じました。審査員としてよりも投資家として吹野さんを見ていました。
吹野:プログラムの最終日にプレゼンして、丹下さんが「そのプランを実現するのにいくら掛かる?」と質問してきたのですがとくに深く考えず、3人の人件費を考慮した6,000万円程度のミニマムな金額を答えたところ、「それであれば既存事業の延長線」と言われました。
それまで会社として大きくなろうという気はなく、「良い会社」のままで「良い技術」を作ることだけを考えていました。想定していた会社規模も10年後ぐらいに10人ぐらいいる会社になればいいなという感じでした。
サラリーマンを辞めて起業したのだからお金のために働くのではなく、自分たちのしたいことをしよう。身近の困っている人の悩みを解決するような会社でいいよね。そして結果的に創業メンバー3人が年収2,000万ずつぐらいもらえれば幸せかもね、というような話をしていました。
丹下:その時、吹野さんに言いました。「ベンチャーだよね? Linkwizはもっと産業を変えるほどのプラットフォームを作れるんじゃないですか?」「このままでも吹野さんの会社は儲かって浜松で立派な会社になるでしょう。だけど、本当にそれでいいんですか? ちょっとお互い考えましょうよ」と。そして、3か月後に会うことにしました。
吹野:それまでは融資と投資の違いもわからなかったですが、丹下さんと会ってから視座が変わりました。帰国して、メンバー3人で相談しました。
自分たちの夢はなんなのか? 本当に今のままで幸せなのか? 投資を受けられるとしたらどうする? など本当に時間をかけて相談しました。
そして、僕たちが思っている夢を大きく広げたいということになり描くビジョンを実現するのに必要な資金としては結構な金額がかかることもわかり、産業革新機構さんから投資を受けることになりました。(注:2016年12月に投資実行)
藤岡:投資を受け、会社をより一層成長させていく中で、吹野さんが感じている課題は何ですか?
吹野:今遂行している事業に市場性があること、そして求めるユーザーが多いことは実証できました。今からはこの製品、価値を普及させていくことが最重要だと考えています。
機能はただたくさんあればいいということではなく、シンプルに商品の価値が伝えられる機能があり、そのパフォーマンスが素晴らしければユーザーは導入をしやすいですし、弊社の商品を取り扱っていただいている代理店様も提案がしやすくなります。
そのためにはエンジニアリングをマネジメントできる人材、またビジネスをグローバルに展開できる人材が足りないというのは大きな課題です。
また、現在は社員が9名(注:2017年9月現在)なので、それぞれが何を考えているのかわかりますが今後社員が増えていくとそうはならないのでチームビルディングが必要になってくると考えています。
そして3年後くらいに「ロボットを使うならLinkwiz」というスタンダードを作る意識で取り組むことがこれからの大きな課題だと思っています。
藤岡:丹下さんの株主としての視点からLinkwizさんが成長していくための課題は何ですか?
丹下:BtoB分野で自動車業界などに導入していくビジネスなので信頼性や耐久性を時間をかけてコツコツと証明していかなければいけない。
そういった積み上げが必要なので急速に伸びる、というビジネスモデルでもないんですね。なので、うねりをしっかり作っていく必要があって、それは何かというと、下請けの業者のようになっていくのではなく常に新しいサービスを提供する会社を目指していかないと、これまでの潮流の中に組み込まれてしまいます。
だからその構造自体が課題かもしれないです。でもLinkwizがすぐに解決できることではなくコツコツと視座の高い提案もしつつ、現場の課題解決も怠らずに信用を得ながら仲間を作っていき、物事を動かさなくてはなりません。
藤岡:産業革新機構が投資することでどのように成長を加速させていくのでしょうか?
丹下:大企業とのネットワークを持つ強みを活かし、某大手自動車会社や他の大企業と積極的に関わり協業し、オープンイノベーションを起こしていきたいと思っています。個社単体で投資に追われたくはなく、産業波及やもの作りの核心に向かう方向性を大事にしているからです。
顧客の囲い込みは、もの作りのアドバリューにはならない仕組みが多いです。Linkwizの立場であれば、全てをネットワークでつなげることも可能で、全てのロボット制御も可能であるため、生産工程がアドバリューされます。
ものを動かすだけの物流には付加価値はなく、生産工程で実際にものを作っていくことが付加価値をつけていきます。付加価値をつけているデータやロボットを全部つなげていくと、「インダストリー4.0」(注:情報技術を駆使し、製造業の高度化を目指すドイツ政府主導の戦略的プロジェクト)につながります。
吹野:協業をすることでその自動車会社の課題も解決しますが、私たちの実証実験にも繋がっていきます。丹下さんの話の中にあった「オープンイノベーション」は最近よく聞く言葉ですが、多くは大企業がベンチャー企業に声をかけることが多くあります。しかし、私たちは声をかける側はベンチャー企業であるべきだと思っています。
ベンチャー企業に課題があり、大手企業と協業すればイノベーションを起こすことができるというのが正しい意味でのオープンイノベーションで、声をかける側が逆だと大企業がベンチャー企業の技術を欲しいだけとなってしまいます。
藤岡:今、Linkwizが必要としている人物像を教えていただけますか?
吹野:第一に、ソフトウェアを体系的に評価、修正実行ができるエンジニアが必要です。もの作りが好きなソフトウェアエンジニアに入って欲しいと思います。
ロボットが自分のデスクの横にあり、常にもの作りの匂いを嗅ぎながらソフトウェアを作ることができる、そういうことが好きなエンジニアは大歓迎です。本当にもの作りが好きなエンジニアであれば、自分の専門外や経験のない仕事でも自分で試行錯誤をしながら遂行できると考えています。
また営業やビジネスデベロップメントができる人が社内にいないため、その領域が得意な方も必要です。今は国内の販売に制限をしていますが、問い合わせは海外からも多く、2018年からは海外展開も始まります。そういった中で地域に固執せずビジネス展開を考えられる方も募集をしています。
私たちが戦っているフィールドは、市況よし、顧客よしという大変恵まれた環境ですが「ヒトとロボットの違い」という大きな問題は残っています。この問題を解決できれば世界的にゲームチェンジできる可能性をもっています。常に大きな目標を持ちながら小さなことから一つ一つ解決でき、モノづくりの世界を一緒に変える仲間として一緒に働ければ嬉しいです。
藤岡:Linkwizさんで働く魅力を教えてください。
吹野:「一生懸命もの作りに専念できる環境」と「ワークライフバランス」は整っていると思います。
浜松にある会社ですので近くに海や山も多く、自然に囲まれています。近くに繁華街もあり、アウトドアで遊ぶこともできます。そういう環境の中にいるからこそ、もの作りに専念することが可能になり、また、仕事以外の生活環境も良いと思います。都会と違って満員電車通勤による疲労もありません。
社風自体も堅くなく、「しっかり楽しく自分のやりたいことをやりましょう」といったものです。アフター5に自分の趣味を充実させることもできます。
また、投資いただいて「お客様も従業員もモノづくりを精一杯楽しめる場所」をコンセプトにウェアハウスを改造したオフィスを新しく作りました。たとえ打ち合わせなどの予定がなくても立ち寄りたい場所をコンセプトに、使っていないデスクは一般の方、大学生などに開放もしています。
藤岡:素敵なお話をありがとうございました。
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