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著者と語る朝渋『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書 』(全5記事)

リクルートの「Will Can Must」がキーポイント 現代社会で“生き甲斐”を作るにはどうしたらいいか

2017年11月13日、Book Lab Tokyoで毎週開催されている会員制朝活コミュニティ「朝渋」の人気企画「著者と語る朝渋」にて、『モチベーション革命』の著者・尾原和啓氏を招いてトークセッションが行われました。インドネシア在住の尾原氏はこの日、リモートマシンから中継でセッションに参加。現代の若者と36歳以上の間にある世代間の断絶を独自の見地から語りました。

「生き甲斐」はどうやって生まれるか

井上皓史氏(以下、井上):次のスライドを、尾原さんも見ていただけますかね。

『モチベーション革命』の最後のほうに出てきた「生き甲斐」という図ですけれども。まさしく今の世の中、こういう生き甲斐というマインドを持って仕事をしたいなって、全員が思っているんじゃないかと思います。

この生き甲斐、「好き×得意×稼げる×世の中が必要としているもの」。このズレですね。みなさん知っていると思いますけれども、尾原さんの言葉でもう一度ご説明いただけますか?

尾原和啓氏(以下、尾原):はい。たまたまなんですけど、僕が紹介するタイミングとシンクロして、「ワールド・エコノミック・フォーラム」でも、この生き甲斐っていうチャートが……。

井上:出てたんですね。

尾原:わりと流行ったので。

井上:そうなんですね。

尾原:この文脈でいうとおもしろいのが、結局この「できること」「自分が得意なことと」「人からお金がもらえること」「自分が好きなこと」「世間から求められていること」という、この交点にあたる言葉が英語になかったというのがおもしろいんです。

井上:そうですよね。ここ普通であれば、英語でなにか訳されてもおかしくないですよね。

尾原:それが「生き甲斐」という、まさに生きる甲斐があるんですよね。生きる甲斐があるってなにかというと、「自分は生きててよかった」と死ぬときに思える人生ということです。それを表象する言葉が残念ながら英語のなかになくて、日本の生き甲斐という言葉がしっくりくる、というのが非常におもしろいところで。

井上:日本人として誇らしいですね。

「世界が求めていること」に対する強迫観念

尾原:うん。大事なことは、これをどうやって育てていくか、なんですよね。いろんな文脈があって、実はこれに似たフレームワークって、いくつか日本にもあって。例えばリクルートがずっと使ってる「Will Can Must」というのがそれに近いです。

井上:見たことありますね。

尾原:Willというのは「何がやりたいことなの?」というLoveに近い話ですよね。Canというのは「何が得意なの?」というのと同じですよね。で、Mustというのが、どちらかというと「世界が求めていること」と……。

井上:世の中が必要としてるもの。

尾原:そう。とか、「お金をもらうためにやらなきゃいけないこと」。

井上:なるほど。そこがミックスされてるんですね。

尾原:そうです。で、言い方悪いんですけど、残念ながら、今、若い方にお話を聞くと一番「世界が求めていること」ということに対する強迫観念に囚われてる人が意外と多くて。

これ、呪いを解いてあげなきゃいけないなと最近思っていて。それはやっぱり、福島とか、ここ数年日本において、ものすごく日本が揺らぐようなことが多かったので。自分自身が世の中のために何かをしなきゃいけないんじゃないかと思っている人たちが多いんですよね、話を聞いてると。

井上:世の中に対して、自分が何ができるかみたいなことを無理くり考える、みたいな(笑)。

尾原:はい。さらに言うと、今日はIT系の方が多いのかどうかわからないですけれど。IT系の方って、なぜかみんなスティーブ・ジョブズになりたがってる。

井上:はい(笑)。

尾原:アメリカのなかでだって、スティーブ・ジョブズは1人ですからね。しかもこの200~300年の歴史のなかで1人ですから。そんな希少なものに全員がなれるわけないのに。なぜか、渋谷のベンチャーのイベントに行くとですね、「俺は21世紀を代表する人間になる」とか言うわけですよ。そんなわけないですよね、という話があって。

井上:会場近くにいらっしゃいますね(笑)。

「稼ぐ」とは「価値の物々交換」である

尾原:それに対して大事なことって、2つあって。

1つは、世界に求められるようなことができるようになる順番というのがあるわけです。

井上:なるほど。すぐに世界で通用しないと。

尾原:やっぱり人間として社会で生きる生き物である以上は、誰かからお金をもらえる、稼げるというふうにならないと、すべてはスタートしにくい。

もちろん、親のすねをかじって、世界から愛されてお金をもらうようになるまで助走をがんばるという手もあるけれども。8割の方は、やっぱり稼げる人間になるというのが一番大事で。

稼げるという話になると、僕の本の話の再現になるんですけど。稼ぐって何かというと、価値の物々交換だから。

井上:はい。

尾原:価値の物々交換というのは何かというと、自分にとっては安いと思えるものが、相手から高いと思ってもらえること。向こうにとっては難しいことを交換するから、「ありがとう」と言ってもらえて、喜んでお金を払ってもらえる。

井上:なるほど。

尾原:でも、ここが大事で。結局、相手にとっては価値が高くて、自分はそんなに大したことないと思えるものって何かというと、2つしかなくて。

1つは、自分が得意だから、相手が3時間かかることを自分は1時間でできるというようなこと。となると、その相手からすると2時間得できるから。自分だったら3時間かかるけど、この人だったら1時間でできるということは、2時間分のお金をこの人に払てあげていいわけですよ。

井上:そうですね、うん。

好きなことなら10時間ぐらい平気で投下できる

尾原:それが結局、「ありがとう」の基本なんです。さっきの話に戻すと、それがプロフェッションということですよね。

結局、マッキンゼーを使うのはなぜかというと……もちろんマッキンゼーはクライアントの5倍ぐらい働くから。

井上:はい(笑)。

尾原:ということもあるんですけど(笑)、僕らは見えないことを、見える化することが得意だから。お客さんがやると2年ぐらいかかるプロジェクトを3か月くらいでやっちゃうんで、喜んで高いお金を払っていただけるわけですよ。

井上:2年かかるものを3か月でっていう期間を物々交換しているということですね。

尾原:そうです。それから、もう1個、手があります。

若い方には死ぬほど時間があるわけですよ。だから、実は、相手が1時間でできることを10時間かけるかもしれない12時間かけるかもしれない。でも、自分にとっては、好きでしょうがなくて別に苦労なんて感じないから、10時間ぐらい平気で投下すると。

お客さんからは30分ぶんのお金しかもらえないかもしれない。でも自分からしてみれば、「好きなことをやってお金もらえるんですか!? マジっすか、ありがとう!」っていう。

井上:はは(笑)。

尾原:LoveとPaid forという、「好き」と「稼げる」ということを重ねるということですよね。

井上:本のなかにも、出世のために残業はしないけれども自身が好きなアイドルのライブスタッフボランティアであれば朝まで働ける、と。まさしくこの話、リンクしますね。

尾原:そう。だからはっきり言って、ブラックってなんでブラックかというと、自分の身体管理とか健康管理ができるぐらい成熟していないのに、過重な労働をしてしまったり過重なストレスに晒されて、体が壊れてしまうからブラックというわけで。 

だから、本当に好きなことをやっていたらストレスなんか感じないし。そもそもストレスを感じているなら、それは本当は好きじゃないということなので。

「好き」を仕事にできていない人は

井上:まずは、その「好き」を見つけるところが難しいな、と思っています。この次のスライドですね。

理想や好きなものから入って、得意になって、それで稼げて、世界が求めるという、この循環がすごく理想だなと僕も思っているんですけれども。

現実、そんなサイクルで回っていない方が多いんじゃないかな、と思っていまして。入社したけど、好きなものをやるために会社に入ったわけじゃないというか。まずは3年間どこかで下積みをやろう、みたいなかたちで3年間がんばってそれを得意にして、そこから5年、10年かわからないですけれども。稼げるようになって、そこから、ふと、好きに転換する。

本を読んで、ここがすごく難しいな、と僕は感じたんです。「好き」と仕事を掛け合わせる、ということに関して。

モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書 (NewsPicks Book)

今、尾原さんはオンとオフがほぼない、境目がないというようなお話を本でも書かれてましたけれども。今働いてる方たちの、「好き」に対するフォーカスの仕方みたいなところで、コツやアドバイスがあればぜひお聞かせいただきたいです。

尾原:はい。そこがもう1個、「世界が求めていること」と別の解釈で。いろんなやり方があるんですよ。だって4つの軸を最終的に重ねていけばいいので。どの順番で重ねて自分の円を大きくしていくか。

だから、もう1個のやり方としては、日本ってありがたいことに、死なない程度に給料がもらえるいろんなパターンの生き方があるんですよね。

だから、最初から稼げるという輪と、得意とか好きとか世界が求めているという輪を、必ずしも重ねる必要性はなくて。

1つの手は、しっかり給料をもらいます。でも、お金を稼がずに好きなこと、得意なこと、世界が求めることを重ねていくということでも、別にいいわけですよね。

井上:なるほど、なるほど。

必ずしも「儲ける」というところからはじめなくてもいい

尾原:例えば、TEDという、今はカナダのバンクーバーで開催している会があって。新しいアイデアを持っている世界中の人たち、世界中に広げる価値がある話を喋れる人たちが、一堂に会するんですね。ひと言で言うと知的な「すべらない話」を4日間やるという会があるんです。

井上:知的な「すべらない話」! おもしろいですね。

尾原:僕自身は昔、TEDxというローカル版のお手伝いをしていたんですけど。これ、お金を一銭ももらわないんですよ。

井上:無償なんですね!

尾原:でもそれは確実に、例えば東京という文脈のなかにいて、何か新しいことをしようとする人たちには勇気を与えるわけですよね。

例えば、僕の友達は、それをベルマンから始めて。ベルマンって、言い方悪いですけど、誰でもできるものですよ。

井上:はい。

尾原:でも、ベルマンって……ごめんなさい、ちょっとポリティカル・インコレクトだった。ベルパーソンは、最初に印象を決めるわけですよね。

彼は、TEDxの会場に来たときにスピーカーの名前とか、全員の名前を覚えていて。気持ちよく「誰々さん、今日はありがとうございます、来てくださって」と言って。それで、きっちり今日の文脈みたいなことをお伝えしていく。

井上:誰でもできそうで、でも人によって印象が違うというようなお仕事ですね。

尾原:そう。そうやると、やっぱりスピーカーの人たちから「彼がすごく印象がよかった」という話が出て。だんだん彼の裁量が増えてきて。で、彼は今、日本中に50個ぐらいあるTEDxの全体のクオリティを高めていくために、本体のTEDとやり取りするハブの役割をやっていらっしゃるわけです。

井上:そうなんですね。

尾原:必ずしも「儲ける」というところからはじめなくてもいいわけですよ。

井上:なるほど。稼げる、儲けるというところはいったん切り離して、好きなものを得意にして、それが社会のため、世の中のためになる。それはそれでいいじゃないかということで、突き詰めても問題ない、と。

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