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小室哲哉氏 講義(全6記事)

小室哲哉「自分を知ってもらう1つの手段として音楽があった」消去法でトップに上りつめる、一流の“フレキシビリティ”

法政大学キャリアデザイン学部の講義に、特別講師として音楽家の小室哲哉氏が登壇。90年代の音楽シーンを席巻し、今なお第一線で活躍する小室氏の知られざる学生時代のエピソードや、自身の創作活動、キャリアや働き方についての考え方に至るまで、幅広いテーマで学生たちに向けて講義を行いました。

企業のブランド力に憧れていた

小室哲哉氏(以下、小室):ソニーからは「オーディションこんなの受けたらいいよ」「TBS主催のものがあるよ」みたいなことを教えてもらいました。TBSもブランドがあるし、そのスポンサーがコカ・コーラだったんですよ。

田中研之輔氏(以下、田中):はい。

小室:コカ・コーラもブランド力がやっぱり強くて。いまだに強い。だけどコカ・コーラは当時、赤い車でボトルを運んでいたんですよ。(みなさんは)小さい頃でも見たことないと思うんですけど。つらいんですよ。ボトルって。

田中:重いし。

小室:重いし。いくらプライドを保てても、「僕にはできないな」と思って。

田中:(笑)。ボトルを運ぶ側のイメージを持っていたということなんですね?

小室:そうです(笑)。

田中:(笑)。

小室:飲む広告(飲料水、ビールなど)とかは、電通と博報堂、そういうところがつくっていたと思うんですけど、広告業界というのはイメージとして浮かばなくて。だから「やっぱりソニーがいいかな」という感じで(笑)。

田中:貴重なお話ですね。

小室:でも、それらの会社のブランドは今もあるけど、もしかしたら今は就職したい会社(のランキング)にも、ベスト10にも入っていないかもしれない。でも、その頃は20位ぐらいまでに全部入っていたかもしれない。 

田中:ブランドの上のほうからというイメージもあった。

小室:もしかしたら、ソニーは1位になったことあるんじゃないかな。

今の状況を活かさないともったいない

田中:18歳ぐらいのときは、すごく野心を持っていたのでしょうか。今振り返られて、小室さん自身そう思いますか?

小室:野心は持っていましたが、あんまりガンといけない性格なので。内に秘めちゃうというか、クラスでもあまり人気者じゃなかったので。

田中:いやー、そんなことは。

小室:本当にそうでした。先ほどのそっと就活に行くというのも、安全策でした。それが野心と言えるのかどうかはわかんないですけど、小さい会社でも名刺には必ずブランドのようなものは書いてあるので。

佐藤:でも、いわゆる生活の安定による野心ではなく、自分の夢を叶えるための野心でブランドを作るのが、今の学生さんたちにはとても重要なことだと思います。ただ大きな会社に行くのではなくて、「夢があるからそこに行く必要がある」ということが、重要だと思います。

小室:そうですね。ここにいるみなさんはこの都会の本当に超一等地にある学校に来られている時点で、なんて言うのかな、シードじゃないですけど、ある程度は一応クオリファイというか、抜けちゃっている感じなので、それを活かしたほうがいいですよね。

世の中には本当に明日の生活のためにどうにかしなきゃいけないという、18歳、19歳ってたくさんいらっしゃると思うので。とりあえず今日、明日はここでなにか聞いたり、遊んだり、楽しんだり、生産したりとかってことができるのは、活かさないともったいないですよね。活かせる状況だと思うんで。

佐藤:今、これを当たり前と思わずに。

小室:当たり前とは思わないほうがいいと思いますね。もちろんそれは。

田中:(会場に向かって)質問いってみましょうか? 

自分を知ってもらう手段として、音楽があった

参加者3:○○と申します。今3年生で、いろいろ手を出して、自分の中で働くというのは何なのか、自分の欲求は何のかなと、ずっと考えてるんですけど。小室さんにとって音楽を通してどういう自分の欲求を満たしたいか、どのようなきっかけで音楽の道に進んだのか、教えていただけたらと思います。

小室:まず僕は、日本の音楽じゃなくて洋楽が好きだったんです。とにかくイギリスとかアメリカの洋楽が好きだったんで、「ああいうものをつくりたい」っていうのと、「行きたい」というのがありました。まだその頃は、「なにか海外でできるんじゃないか」みたいなことを考えていたので。

人をどうにかしたいとかっていう、そこまでの気持ちは正直なかったですね。洋楽みたいな活動ができればいいという感じでした。「名前が知られたらいいな」とか、どこか海外でできればと思っていました。

何かを啓蒙したいとか、人の心を動かしたいとか、そういうことではなくて、「自分の名前がどれぐらいの人に知ってもらえるのか」「知ってもらいたい」という一心で。先生のような「学」はそこまで持ってないので。僕は「学」じゃなくて、なにか他のもの。

さっきの武蔵美の女性の話じゃないですけど、彼女は陶芸をやっていたんです。それで僕も「ちょっとやってみようかな」ってやったんですけど、ぜんぜんダメでした。才能がなかったんです。

結局、消去法でいったら音楽がまだ、「いいな」と言ってくれる人がいたんです。だから、正直消去法なんです。自分を知ってもらう1つの手段として音楽があった。

でも、音楽をやっているだけだと知ってもらえないので、結局は人を動かすような、心を動かして琴線に触れるような音、楽曲をつくらなきゃいけないところに行きついただけで。それは全部消去法です。ここしかないなっていう状況になったから、それになったという感じなんです。

(参加者3に向かって)なんとなく、ベンチャーとかやりそうですね。

(会場笑)

小室:起業しそうですよね。

田中:もうするんだよね?

参加者3:ありがとうございます。

(会場笑)

田中:不思議ですね。キャリアデザイン学部って、見えないキャリアをできるだけ準備して、どういうアプローチがいいのかを模索しながら、準備しないよりはしたほうがいいというかたちで、みんなでやっているんです。

小室さんが言っていた、消去法から残った音楽で、本当に一時代を築いて日本のトップまで上りつめた。トップを牽引しても、今もなおという感じなので、なにか不思議なものですね……。キャリアとはそういうものなんですかね。

小室:キャリアとはそういうものだと思います。ここを1歩出て、自宅まで帰るときに、順調に家まで帰れるわけがなくて。アクシデント、ハプニング、サプライズ、いいことがなにかしら必ずある。その時に、フレキシビリティがどれだけあるかだと思います。消去法って言いましたけど、僕の場合、それだけはフレキシビリティだと思うんですよね。

田中:どう対応するかなのですね。

小室:「あれ、こっちは工事中なのかよ!」みたいに、迂回しなきゃいけないという時に、フレキシブルであること。

道を曲がったら、たまたまそこを歩いていた人と、「あれ、こんな人が近くにいるんだ。女学生かな?」みたいな出会いがあったり。そこで女学生が男の人と話すことはないと思いますけどね(笑)。

(会場笑)

小室:そういうことがあったり、散歩してる人と出会えたり。あと、なにかのボードを見て、「あれ、これ何だろうな?」と思って見たら、アドレスが書いてあるとか。僕の時代だったら電話番号だったんですけど。

田中:それでこう、次にピボットが効いていく。

小室:実際、先ほど言った原宿のところにレコード会社があったんですよ。本当にたまたま。それでなんですけどね。

小室氏の孤独との向き合い方

田中:今のお話にもつながると思うんですけど、こんな声がありまして。学生自身もいろいろあると思うので、おそらくこういう声が届いているんです。「つらいこととか、気持ちが落ちることがある」と。こういう時に、どういう時か。

小室:毎日ですね。

(会場笑)

田中:(笑)。「気持ちをどう立て直されていますか」っていう、なにかアドバイスがあれば。

小室:そうですねえ。

田中:(会場に向かって)みんなも悩んでいるんだ。悩んでなさそう(笑)。

(会場笑)

小室:昨日、お台場でフェスティバルをやっていたんですけど、8時半ぐらいに終わって。それはすごく楽しんでもらって良かったんですけど。僕らの仕事は、みなさんが(会場で)ワーッて盛り上がるんですけど、都内とかだと10分か15分で自分の部屋に帰って静寂になるんですよ。家に帰ると、その虚無感っていうのかな。孤独感、孤独にさいなまれる感が、とてつもないものがあるんですね。

「さっきまであんなに言ってくれてたじゃん」みたいなのが、誰にも見向きもしてくれないし、誰も話の相手になってくれない場所に戻って。地方だったらホテルの部屋とか、旅館とかだったりなんですけど。食事するにしたって、本当に1人で食事することもあるので。それで、落ちるんですよ。

田中:毎回そうなるんですか?

小室:毎回落ちるんです。

田中:えー!

小室:それはアイドルだろうが誰だろうが、きっとみなさんもそうだと思います。「なんで、俺さっき5万人の前で踊ってたのにな」「なんで1人で松屋の牛丼食ってるんだろう」という感じで。

(会場笑)

小室:それはありえるんですよ。「(なんで)ココイチなんだろう? 今日」って思うんですよ。実際、僕もそうなんで。毎回そこで落ちるんです。昨日はたまたまTBSの、『ごめん、愛してる』の第2回が9時から観れたんですよ。

(会場笑)

小室:録ってあるんですけど、韓流のほうの原作知っていて観ていたんです。だからすごく興味あって。それで、ちょっとうるっときちゃいました。

田中:うるっときちゃった(笑)。

小室:で、観てる間に立ち直った感じです。

田中:へえ!

小室:こんな大変な人もいるんだから、みたいな感じですね(笑)。

(会場笑)

田中:(ドラマに)励まされてる!

小室:励まされてます。ドラマに。

田中:貴重なお話ですね。その熱狂といいますか、スタジアムのある種の興奮と祭り状態から、日常、孤独に戻る。

小室:俳優さんたちも、そういったラブストーリーとか演じているんだけど、きっと彼らもオフになったら、ロケバスでお弁当食べてるんだろうな、と感じて。そんな共感をわざと持っていくんです。

田中:そうすると、だんだんこう……。

小室:やっと癒されてくる。ドラマを終わった頃には、「なんか食べようかな」ってやっとなりましたね。

田中:あれじゃないですか。我々もつらいこととか、みんなも失恋とかいろいろあると思うんだけど、そんなときは、「小室さんも今落ちてるんだろうな」と想像して、そこから立ち直るエネルギーにしていく(笑)。

(会場笑)

秋元康氏との関係

小室:また、テレビは一方的だったりすると困るんで、僕と同い年で一番のお友達の、秋元康さんがドラマを今やってるんですよ。

(会場驚)

小室:家族ぐるみのお友達なんですけど、日テレさんでドラマをやっていて。やっぱりすごいんですよ。すごいというか、いわゆる一からものを作ってるので。そういうのは、「あ、僕もやんなきゃいけないんだなあ」と思うんです。

田中:そういうエネルギーをもらってるんですね。

小室:それもありますね。

田中:3年ぐらい前に、こちらの1個下(の会場)に秋元さんも来ていただきまして、法政で講演していただきました。

小室:秋元さんはすごい。天才ですよね。

田中:小室さんから見てもそうなんですね。でも、秋元さんも小室さんのことを天才だと思っている、そういう関係だと思いますけどね。

小室:そうかなあ?

(会場笑)

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