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『一流マネジャーの仕事の哲学』発売記念イベント(全8記事)

仕事で空回りして“使えない人材”に… ユーザベース新野氏が悩めるビジネスパーソンにアドバイスを贈る

インテル社長などを務め、日本のパソコン市場開拓の立役者としても知られる西岡郁夫氏の著書『一流マネジャーの仕事の哲学』の発売記念イベントが開催。後半は、株式会社ユーザベースの共同経営者である新野良介氏を迎え、ビジネスパーソンのキャリアやマネジメントについて語りました。

日本企業とグローバル企業の文化の違い

質問者4:本日はありがとうございました。1年前まで、私もシャープにいたので、かなり西岡さんに親近感がわいています。

西岡郁夫氏(以下、西岡):おー(笑)。

質問者4:お2人にお聞きしたいんですが、西岡さんの場合は、シャープという日本の会社からIntelに、新野さんの場合は、三井物産さんからUBSにということで、まったく文化が違う会社に行かれた。新野さんの場合は、新野商店という考え方があったのかもしれないですが、まったく文化の違う会社に行った場合に、どういった苦労があって、その苦労をどうやって乗り越えてきたかを、簡単に教えていただければと思います。

西岡:僕の場合は、もう本当に真逆で。日本の会社はどこでもそうだと思いますけど、経営会議あるやろ。事業部長から「来期こうします」って提案するでしょ。なんにも質疑なし。なんでや? 全部根回し済みやねん。事業部は事業本部長の了承を取って、担当副社長まで了承を取っている。全事業部がそうしてやっている。それで、発表するわけやろ。

例えば、テレビ事業部長がやっているときに、僕がちょっと気になると思って、質問でもしたとする。僕も頭がいいから、いいことを聞いたとする。それで、事業部長、立ち往生したらどうする? 副社長までバカにされるやん。だから、質問できない。質問なんかしたことない。全部の感じがそう。すべて根回しされていることが多いと思うで。

それで副社長が、もう事業部長が提案してるときに、担当副社長が、1分ぐらいしゃべりだすと、もう頷いている。「なるほどな、そうか」ちゃうで、「わかってるで、俺は」。

(会場笑)

「了承済みやで。文句言うな」って言っている顔やねん。Intelに行ってびっくりしました。最初に入って、本社でプレゼンテーションをアメリカ、ヨーロッパ、日本、日本以外のアジア、社長がプレゼンテーションをする。僕は当時、副社長で入った。日本の社長はカナダ人で、「西岡さん、今日あいさつ代わりにやってよ」と。

新野良介氏(以下、新野):(笑)。

西岡:会議室やで。「西岡さん、今日あいさつ代わりにやってよ」。しゃあないからやった。そしたらね、2分しゃべると質問がバーン飛んでくるねん。幹部だけ集まってやるけど、質問している奴の顔を見て聞こう思ったら、している奴がいない。

「あなた、どこにいるの?」って言ったら、「私、イスラエルからです」とか、そういう電話会議で入ってくるわけ。それをバンバン、タイムマネジメントをしながら、答えをガチッとやる。

しかも、質問のときにびっくりしたのは、アメリカの代表がやっているときに質問で議論になった。そしたら、アメリカが発表しているパワーポイントのここはおかしいっていうことになった。そしたら、アメリカの代表は「これは違うよね」と変える。その場で「こうだな」ってみんなで議論して。「ありがとう、助かった」。こんなんやねん。

つまり、ここにものすごく給料の高い、ストックオプションを持っている幹部が集まっているわけや。すごくお金がかかってる。だから、バリューを出すわけ。バリューアップする。現提案はたたき台や。それをいかにブラッシュアップするかが、会議の目的。

だからバンバン質問しよる。それは副社長が「わかってるよ、俺は」というのとは違う。僕はそっちが好きでした。Intelの会議が。すごく気持ち良かった。

どんなカルチャーであっても「その人と仕事できるか」を重視

新野:この間、アメリカのDow Jones社とユーザベースがジョイントベンチャーを作って、ニューヨークに会社を建てたんですけど、私のパートナーである梅田がニューヨークに行ったんです。

2週間ぐらいたって、この間、陣中見舞で会いに行ったんですね。そしたら、Dow Jones社長の部屋スペースがものすごく広い。その前に秘書が10人ぐらいいて、その後ろのソファみたいなところに1人ポツンと彼の席がありました(笑)。まだ準備段階で1人なので仕方ないわけですね。社長のスペースに席があるのでものすごく期待はされているんですけど、社長軍団の中に梅田1人という状況はものすごくアウェー感があるわけです。

彼は小さい頃アメリカにいたので、耳はいいんけど、しゃべるほうはすっかり忘れたみたいで、まだ流暢ではありません。それでも、向こうの役員と英語でどんどん仕事をする。

「梅ちゃんも大変だなあ」って言って、「これ、英語が流暢じゃないと苦労するだろ」と慰めたのですが、彼が言ったのは、「まあ、それは考えないほうがいいだろ」ということなんです。

本当そのとおりだなと思ったんですけど、孫さんだったら「俺の英語がわからないお前が悪い」ぐらいに話すじゃないかと。孫さんは、「頭皮が後退してるんではない。俺が前進してるんだ」って言っているらしい(笑)。

(会場笑)

新野:つまり、自分がそう世界を解釈すると、「文化が違うから」「英語力がこうだから」と考えると、そういうかたちで現象を解釈していくので、バイアスとしてどんどん強くなっていく。

そうすると、それは必ず相手にも伝わるので、いつの間にか「まあ、気にすんな」が、だんだん「やっぱりな」という感じで見ていく。そういう余地を生んで、結果としてはますますうまくいかないので、そこはまず考えない。どのカルチャーだろうと、どの会社だろうと、仕事は人とするので、「その人と仕事できるかどうか?」というので考えていきます。

「この会社、一緒に仕事ができそうな人は少ないな」と思うことがあったとしても、必ずいるじゃないですか、1人、2人は、「この人とは仕事できるな」と。誰と仕事するかを考える感じですかね。

質問者4:ありがとうございます。

司会者:じゃあ、ラスト1問。

西岡:ラストクエスチョンだそうです。(挙手者を指して)はい。

職場で“使えない”人材に…

質問者5:本当に今日は、非常に貴重なお話をありがとうございました。ラストクエスチョンで、こんな質問でいいのかなと思うんですけど、今、私、自分で言うのも恥ずかしいですけど、どっちかというと使えない立場にいると思います。

自分ではがんばっているつもりで、なんとか上司に認められたいとか、組織としてバリューをアップしたいと思ってがんばるんですが、いつも空回りです。気づくと、後輩のパフォーマンスのほうが良くて、どんどんネガティブな発想になってしまいます。

なんとか現状を打開したいと思っても、なかなか打開できない。まずは明日から口角を上げようっていうところから始めたいと思うんですけど、そんな私にアドバイスがあれば(笑)。

(会場笑)

西岡塾に入るというのも……。

西岡:あー、そうか。西岡塾に入るのは、1つの手やな。

(会場笑)

けっこう激しく、個別の指導をするんだけど、さっきの人間力というのは、必ずしも知識じゃなくて心の問題。冷静に考えて、自分が仕事ができない場合は、やっぱり知識だとか、基本的技術力だとか、専門性についての勉強が足りないとか、そういうのがあると思ったほうがいいんじゃない?

心だけの問題じゃなく、技術力を持っているか。どういう仕事なんですか?

質問者5:総合商社で金融ビジネスを担当しています。

西岡:総合商社で金融ビジネスか。

質問者5:はい。物流を担当していて、縁があって中国語ができるので、その中国語の能力が認められて金融に移りました。もう金融5年目なんですけど、はじめの2、3年はずっと中国のことを担当していたので、中国語要員として組織的には貢献できてました。

西岡:なるほど。

質問者5:今、中国じゃなくてインドネシアの案件を担当していますが、語学面では組織に機能をまったく提供できない。金融についてもあまり……おっしゃられたとおりで、専門性をあまり勉強していなかったということだと思いますが、そこでも機能提供できていない。

西岡:それはもうはっきりしてるじゃん。努力不足や。人間力以前の問題やな。能力がないのに人間力があると、それもまたとてもおかしなことになってくる(笑)。やっぱり能力があるのは、ベースで必要だと僕は思う。

そのためには、金融のことだと、「もう勉強したくてしたくて仕方がない仕事か?」を自分に問いかける必要があると思う。やっぱり、やりたい仕事をしたいじゃない。そしたら、なんぼでも勉強できるじゃない。

それとも自分はもうこの金融は捨てて、他に行ったほうがいいのかも。やっぱり道を考えたほうがいいんじゃない? 能力がないまま(今の会社に)いるのは、なにか理由がある。

フラットな視点で「目的は何か」を考える

新野:ご質問ありがとうございます。そのテーマはものすごく普遍性があるテーマだと思います。例えば、本田圭佑のようなスーパースターでも、だんだんサッカーで通用しなくなってきて、「俺はここでいいのかな?」とか、無能感を感じている場面が、プロフェッショナルであれば必ず出てくるじゃないでしょうか。

どんなに著名な経営者で素晴らしい業績を残しても、最終的にはガバナンスで辞める時がくる。そういうときは、「ビジネスってそういうものかな」と思う。それは僕が好きな世界です。みんな平等だから。あらゆるプロフッショナルが、どっちみち、どこかで頭落ちになるので、そこはすごくフェアな世界で、はっきりしている。

他方で、それを僕個人のほうから見た場合は、目的は何なのかが一番大事。僕は、目的は幸せになることだと思っているんです。幸せになるために、なにも世界一仕事ができる必要もなければ、三井物産にいて絶対社長にならなきゃいけないわけでもない。幸せになるための手段としての仕事であり、能力であると思うので。

そうすると、ある意味、仕事で今、空回りされているということを相対化すると、実は「だからといってなんだ!?」ぐらいの話の可能性もあるわけです。そうして、空回りしている状態を1回フラットな視点に戻して、「まあ、別にそれでダメだったとしても、リスクの下限でいったら、クビにはならないな」と。

「そうすると、給料もらって総合商社だったら、1,000万円か1,500万円かのレンジで悩んでいるだけだな」と。「日本の平均給与は400万円ぐらいになっていて、1,000万円以上もらっている人は人口の1割以下だ。小さい話だな」と。「奥さんと仲良ければ、別に仕事で部下のほうができたって、別にいいかな」とか、相対化してフラット化をすることは、すごく大事。

なぜそれが大事かというと、フラット化しないと、さっき西岡さんが言ってくれた、本当に自分が好きで、継続的に努力できることがわからなくなってきて、とにかく周りの期待に合わせてなにかをしなきゃいけないというかたちで、ますます……。

サッカーで言えば、ドリブルが必ずしも得意じゃないのに、とにかくパスの練習ばかりして、得意だったはずのドリブルまでうまくいかなくなってきたりもする。まあ、サッカー選手であればスタメンになれないこともあるし、チームからポイッとされたところで人生終わるわけじゃない。

だから、そういう意味で鷹揚に構えて、思考をフラット化した上で、そもそも、何にワクワクして、これだったら夢中で勉強しても苦痛じゃないなというところににじり寄っていく。そうすると、結果としては、やりたいことをやっていると、評価されるようになるサイクルになるので、そういうかたちに持っていったほうがいいんじゃないかなと思います。

自分の一番のコアを見つけること

西岡:1つ付け加えたいのは、一生懸命サッカーのドリブルを練習して、「俺、ダメだなあ」って言っているときに、水泳やったら早いかもしれない。そういうことがあると思う。

新野:そこはすごく大事で、人と言語でこうやって話すからには、「じゃあ、その能力は何なの?」といったときに、英語力とか、どうしても外的で分かりやすい能力しか見えなくなっちゃうかもしれませんが、みな、その固有性に根差した能力をもっている。ただ、そうした固有性に根差した自分の強みは、自分のことだと恋愛と同じでわからないですけど、人のことはわかりますよね。

なぜ西岡さんがこういう方で魅力的なのか? なぜこの人はこういう人で、何が魅力的で、何が強みなのか、他人だとすぐにわかる。それを言語化すると、例えば、人情味もあるけど、行動レベルで自分を管理することもできる、となりますよね。でも、そう言語で記述したとしても、その人の本性を完全に表すことにはならないと思うんです。もっともっと固有性に根差したものが、自分の仕事のコアになっているはずなんです。

固有性に根差したものは、なんだか知らないけど、「その人といると元気が出る」でもいいですし、「いつもはだめなんだけど、こういう場面では力になる」でもいいです。言語化するとそういう感じで、ピッタリにならなくても必ず周りが、総合商社で働かれているんであれば、「ここはいいよね」と感じているものが誰にも絶対あるはずです。

その「ここはいいよね」というのは、自分の好きな領域で、得意な領域だったりするんです。それを見つけるのがすごく大事です。まあ、簡単に言うと固有性に根差した強みということなんです。

強みが英語力なのか、プレゼン力なのかを考える前に、まず一番のコアをみつける。「俺は計算能力はないし、プレゼン能力もないけど、人の話を聞くことはいいな」と。

うちの会社のメンバーでも、他人と比較し、他人の評価に合わせにいくと、いつまでも自信が持てないので、その人本来が持っている良さが出てこない人がいます。もったいないと思うんです。1回評価のことは忘れて、「なんだか知らないけど、おまえ明るいのがいいよ」と周りが認め、自分も「俺、確かにバカ明るいな」と思ったら、それで勝負しはじめる。バカ明るさだけは一歩も引かない。

そうすると、自然にそこから自信が生まれて、次、バカ明るいのを前提に、「バカ明るさをさらに成果につなげるためには、何をするか?」というかたちを、課題つけてやっていく。なので、減点式で「これを埋めよう」というかたちじゃなく、勝負されたほうがいいんじゃないかな。

ユーザベースの経営もまったく一緒です。競合といろいろ比べると、劣っているところばかりなので、とても世界一になれるようには見えない。しかしながら、人間がやっているかぎりは、僕らの組織としてユーザベースらしさは固有のものです。そこでもう勝負していく、それを研ぎすましていく感じでやりたいな、と僕も思ってます。

ちょっとうまく答えられたかわからないんですけど(笑)。

質問者5:ありがとうございます。

司会者:どうもありがとうございました。お2人に拍手をぜひお願いします。

(会場拍手)

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