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『一流マネジャーの仕事の哲学』発売記念イベント(全8記事)

リーダーシップの手本は「鬼平」 元インテル社長西岡氏が“義理・人情・浪花節”について熱弁する

インテル社長などを務め、日本のパソコン市場開拓の立役者としても知られる西岡郁夫氏の著書『一流マネジャーの仕事の哲学』の発売記念イベントが開催。後半は、株式会社ユーザベースの共同経営者である新野良介氏を迎え、ビジネスパーソンのキャリアやマネジメントについて語りました。

リーダーシップの手本は『鬼平』

新野良介氏(以下、新野):じゃあ、ベンチャーにしても大企業にしても、内部から変えていくときに、自分が思い切った実務家人生を送ることが大事で、そのために、西岡さんの本(注:『一流マネジャーの仕事の哲学』)に書いてあった、後悔しない生き方をする、が根底ですね。

一流マネジャーの仕事の哲学 突き抜ける結果を出すための53の具体策

そのためには、どこの立場にいようと、仕事を引き受けた以上、なにかしらリーダーシップを発揮して、先ほどのステークホルダーからもらったチャンスを成果で返さなきゃいけない。そのときに、西岡さんがいつも手本にしているようなリーダーシップは、どういうものですか?

西岡郁夫氏(以下、西岡):僕のリーダーシップの手本? 写真がある。(スライドを見ながら)……これはいいわ。この話、すごくおもしろいねんけど。次。これ。

『鬼平(犯科帳)』知ってる人?

(会場挙手)

西岡:けっこういてくれてはる。うれしいねえ。中村吉右衛門なんだけど、この『鬼平』は松本幸四郎とか中村錦之助とか、いっぱいやっていたけど、もう全部だめ。このスケベったらしい吉右衛門がいいねえ、この人情味がね。

(スライドを指して)これ、部下なんだよ。向こうが盗賊。これは火付盗賊改方長官だから、もう生死の権限を持っているわけ。警察長官であり、裁判長官であり、死刑執行人。

この人たちが本当はいい人たちなの。本当に改心しているときは、処罰せずに犬にする。諜報人。それで、この人たちで事件解決の……。もちろん、与力・同心というすごく部下はいっぱい持っているんだよ。

だけどね、よく考えたと思うのは、賊が15名、大店に入って1万両奪う。15人が山分けする。相当山分けできる。どうする? 株買う? 貯金? こういう人は賊なの。遊びに行くわけよ、バーンと。吉原とか、博打場に行く。それで、チップをはずむ、「取っとけー!」って。今までお金も払えんような奴が、1両、2両、バーン。

この人たちはそういう悪の道にコネがあるので、そういう情報をちゃんとキャッチしている。それがダーッと尾行して、ついに同じ賊が、1年後でも、次の大店を狙って行く。そのときの日付も、全部調べあげる。

見ている人は知っていると思うけど、最後、解決のところは、賊がまたそこの新しい大店に忍び込むわけ。忍び込んだら、「待っていたぞ」と。

新野:(笑)。

西岡:ものすごく情報をつぶさに検討して、次を考える。もっと僕の好きなのは、この人に、いっぱいいる手下に、与力・同心、刀のうまい人がいる。相手にもすごく強い用心棒がいるわけ。一番強い奴とは必ず「俺がやる」と。それを部下に「お前、やってこい」と言わないよ。日本の陸軍みたいな「お前ら行ってこい」とはちゃうねん。「俺がやる。ぶった斬る」。強いんだよ。あとちょっとだけ言っていい?

義理・人情・浪花節

新野:はい。

西岡:これ、見た人いたかなあ。この人の奥さんが、久栄(ひさえ)さんっていうのかな。久栄さんは彼と結婚する前に、付き合っていた男がいるんです。その男が今は賊の用心棒やった。ものすごい使い手で、同じ道場で竜虎と言われた仲間やった。で、この人がそれを囲っていって捕まえて、自分の牢屋に押し込めるんだ。

そしたら「俺を処罰できるか? 俺を処罰するときは、処刑場でお前の妻の久栄が、実は俺の女だったとみんなに言ってやる」。「だから、逃がせ」っていうことなんだな。それを久栄さんはバラされるんじゃないかと思って心配して、屋敷の中に牢があるけど、外でお調べが済むのを聞いている。バラされるんちゃうかなと思って。

そしたら、ついに賊が「お前はえらそうに言っているけど、あれは俺が初めて女にしたんだ」とか言う。そしたら鬼平はなんと言ったか? (パチンと手を叩いて)「おめえはバカだなあ。あんないい女を幸せにしてやれなかったのは、バカだなあ。俺は幸せにしたんだよ」と。……かっこよくない?

(会場笑)

西岡:土蔵の外で、奥さんは涙を流す。それで、奴が「刑場に連れて行かれるときに、大声でどなる」。「おめえはバカだなあ。刑場に行けると思うのか? 俺は処罰は自由だよ」って言って、相手の大刀をバンと投げ捨てて、縄を切って、かたをつけるわけ。それで、「良かった」と向こうは刀を持って向かってくるのをブワーッとやっつけるわけ。

それで牢から出て、奥さんが泣いている。見つめながら(抱きしめる演技の真似)。

(会場笑)

西岡:そういうところがあるんですよ、この人は。これ、中村錦之助ではできない演技。吉右衛門やからできる演技。だから、この人は僕のリーダーシップのお手本です。

新野:ありがとうございます。

西岡:義理・人情・浪花節、これもこの本にいっぱい書いておきました。もう1つ言っていい?

新野:もちろんです(笑)。

「がんばれよ」と「勝手にせえ」の違い

西岡:僕、出版するときに、この本のなかにシャープの問題点とか、シャープで僕が教わったこと、とくに当時の辻社長からすごく薫陶を受けた……薫陶って、まあイジメられてたわけや。そういうのもいっぱい書いたんですよ。

それで、大好きな社長だったんで、「黙って出版するのは悪い」と思って、原稿段階で、全部、辻さんに送りつけました。電話して、「チェックしてください!」と。全部チェックしてくれて、麻布十番のイタリアンでご馳走しながら結果を聞いたんです。かばんから出てきた原稿用紙が、もう付箋がブワーッ。

(会場笑)

西岡:ブワーッと全ページある、赤や青や黄色や。

(会場笑)

西岡:「えっ、ダメですか?」って言ったら、「いや、おもろい。よう書けてる。だけど、2ヶ所ちょっと気に入らん」。

1つはこれ。それはね、いろいろ僕としてはおもしろいエピソードを書いているけど、「読んだ人にはわからん。君と僕はその場にいたから、これ読んだらわかるけど、初めて本を読む人にはちょっとわからんで」と。「君、なんかシャープに遠慮してるやろ。遠慮せんでええから書け」「えっ、もっと書いていいんですか?」。それで、書きました。

もう1つおもしろいエピソードがある。ノートパソコンがなかなか利益を出せなくて、最後に増産決定するときに、事業部は利益取る、事業本部も利益出る、でも本社に利益が出せない。だって、売れていないんだから。

シャープを、僕が立て直しに行ったわけで。売れてないから金型償却。だって、台数少ないわけ。部品はみんな高い。それで、利益が出ない。「やらしてくれたら絶対にヒットします。やらしてください!」って言ったら、本部長の常務が「俺はよう言わん」と。

本来は本部長決裁。こんなんで社長決裁なんているかいな。でも、怖がって行かないから「僕が行きます」って言って、社長に頼んだ。コンコンと説明した。そしたら、決裁書ってこんないい紙ちゃうねん。ペラッペラの上質紙や。結局ね、「お願いします!」「勝手にせえ!」で捨てられてん。

(会場笑)

西岡:社長室で2人っきりやってんけど、「勝手にせえ」、ヒラヒラヒラヒラ。どうする? 「ありがとうございます!」と拾って、「がんばります!」って言って、社長室から出た。まだ、だめだったら、「待てー!」って言う権限は向こうにあるんだけど出た。そしたら、社長室から出ると室長が待っていて「事業部長、どうでしたか?」。みんな事情わかってるから。「どうでしたか?」「オッケー!」。

(会場笑)

西岡:本部長室に「判押して」と言った。文句言われずに、すごくよく売れました。ということを本に書いたんです。「もう今聞いたから、本、買わんでええ」って思わんといてな。

(会場笑)

西岡:読んだら、もっとおもしろいこと書いてあるから。そのときに辻さんが、「おい、西岡。あのときに『そうか、西岡。がんばれよ!』と言ってオッケーするか、『勝手にせえ』って言うのは、なんかギャップがあるだろ。君、それに気がついてるか?」、ぜんぜん気がついてなくて、当時は「やった」と思ったわけよ。

「こんなもん、そこで拾い上げて『ありがとうございます! がんばります!』と言う奴がおるか?」と。自信持って書いてんけどな(笑)。「ギャップがあるだろ」って言われて、「それはある」と思って、「わかりました」と言って書き足したんですよ。

それは何かというと、その後、2つ社長をやって、VCの社長もやって、それで今みんなに教える立場になって思い出すと、つまり、説得力がまだ完全でなかったということや。

社長も「売れる!」とまでは、信用するところまでいけてなかった。「まあ、賭けてみようか」と思って「勝手にせえ」と言ったわけで、「『がんばれ』とは違うギャップに気づいたか?」って言われた。大したもんや、この人。84歳で今、ものすごい元気でね、ステーキいっぱい食べた。

(会場笑)

西岡:というのが、この本に書いています。これは言わなあかんと思ってな。

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