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『一流マネジャーの仕事の哲学』発売記念イベント(全8記事)

人は上司がバカなときほど成長する? 元インテル西岡氏×ユーザベース新野氏が語る仕事哲学

インテル社長などを務め、日本のパソコン市場開拓の立役者としても知られる西岡郁夫氏の著書『一流マネジャーの仕事の哲学』の発売記念イベントが開催。後半は、株式会社ユーザベースの共同経営者である新野良介氏を迎え、ビジネスパーソンのキャリアやマネジメントについて語りました。

二度のどん底を経験したユーザベース新野氏

新野良介氏(以下、新野):ユーザベースの新野です。2008年に、投資銀行時代の同僚であった梅田と、梅田の高校の同級生でITコンサルティングファームに勤めていた稲垣と私の3人でユーザベースという会社を立ち上げました。

ユーザベースは4つの事業を展開しておりまして、1つ目は「SPEEDA」。これは2009年に提供を開始しました。おかげさまで、現在では、約10ヶ国以上で販売、展開しているサービスに成長をしてきております。2013年には、「NewsPicks」をローンチしまして、こちらもおかげさまで、2017年6月末時点で約240万人を超える会員ユーザー数になっています。

西岡さんから「電車の中で携帯を読んでいないで考えろ」という話がございましたけども、NewsPicksを見る場合は……。

西岡郁夫氏(以下、西岡):これはいいよ。

(会場笑)

新野:はい(笑)。例えば、Amazonがホールフーズを買収するというニュースが出たときに、このニュースに対してNewsPicksでは、ユーザーがさまざまなコメントをしているんですね。逆に思考が活性化するのではないかなと思っています。

NewsPicksのリリース以降は、今年1月に株式会社ジャパンベンチャーリサーチ(以下、JVR)をM&Aしまして、元々はJVRで運営をしていた「entrepedia(アントレペディア)」というプロダクトをユーザベースの第3のプロダクトとして展開し始めました。そして5月には、「FORCAS(フォーカス)」という第4のプロダクトをリリースしました。

以上がユーザベースの紹介になりますが、ここからは私自身について端的に説明します。

2000年、大学時代に、実家の稼業で兄とレストランの商売をやっておりましたが、ちょうどその年に狂牛病が起きたため、レストランが非常に厳しい状態におちいりました。これはもうどん底です(笑)。どん底ではありましたが、「来てくれる一人ひとりのお客様に満足していただきたい」という一心で地道に経営し、そこで多くを学び、楽しい時間でもありました。今ではレストランも順調に発展しています。

その後は三井物産に入りまして、大企業でしか扱えないような大きな案件やさまざまなお客様にも巡り会え、非常に充実した日々を送っておりました。その後、投資銀行で経験を積んだ後に、ようやく起業。そしたら、起業したのもつかの間。SPEEDAの開発に手こずっていた時にリーマンショックがすぐ来まして、資金難の状態になりました。ここがまた、どん底でした(笑)。

周りの協力や奇跡的なご縁などもあり、なんとか頑張って生き残ることができました。会社がようやく成長してきたぞというところで、新たなサービスとしてNewsPicksを2013年に始めると同時に、SPEEDAの海外事業も展開しようという話になり、もう1人のパートナーの梅田がNewsPicksの立ち上げを担当し、私は1人で海外で事業立ち上げに従事しました。

1人で海外に行ったものの、最初はまったく売れない状況で、厳しい現実を目の当たりにしました。当時は、あまりに売れないので、会社に行くのに、右、左、右、左と少しずつでも足を前に出して進むため、実際に「右、左」って言いながら歩いていました(笑)。

(会場笑)

新野:おかげさまで、その後、海外展開もなんとか軌道に乗ることができ、海外メンバーも増え、去年の2016年に上場することができました。これが私の自己紹介です。

変われる会社、変われない会社

ここから、西岡さんに私からいろいろ質問していきたいと思います。時間も(限りが)あるので、本当に聞きたいことを絞りながらご質問したいと思いますし、もし私にもご質問あればぜひお願いします。

西岡さんはシャープ出身ということで、「これは聞かざるをえない」と思っていることは、日本も変わらなきゃいけないなかで、大企業もリスクがあるという話もありました。けれど、大企業の中にも、変われている会社と変われていない会社があります。内部にいらして、なぜ変われる会社と変われない会社があるのか?

大企業でもイノベーションを起こしている会社もあれば、そうでない会社もある。それについて西岡さんはどう見られているのかを最初にお聞きしたい。

西岡:やっぱりまず、シャープだね。シャープは液晶であれだけ大成功したから一度一流会社になったと思います。一流になると鼻が高くなってしまい、結果として苦境になったんじゃないかな。

僕がいた頃、シャープの合言葉は「三洋電機に追いつけ追い越せ」。「松下はでかすぎて相手にならない。ソニーは格が違う」とシャープの人たちが言っていたんです。僕はあれが好きでね。自分たちが品格ないことを知ってるっていうのは、大したもんだと思って好きだったんです。

(会場笑)

西岡:やっぱりあの大成功で、優秀な大学からいっぱい新入社員が採れるようになったんですね。これがまず危ないです。気をつけてください。

新野:はい。

西岡:そういうところからいっぱい人が来ると、なかには、「仕事はしないけど、仕事の成果は俺のもんだ」という奴が入ってくるんです。これが危ない。

東芝も一緒だと思いますけど、東芝とシャープの共通点は、あれだけ苦しい改革をしなきゃならないのに、いつも社長が下から上がってくる。社内から昇格するでしょ。これはダメですよ。社外の血を入れないと。だから、外を知った人でないと、社風は変えられない。

そういう意味で、ちょっと違うのが日立です。日立も一応社内から上がってきているけど、改革したでしょ。川村隆という人は、日立から飛ばされているんです。本体から、日立の子会社に。子会社の社長を2ヶ所、放り出されてますわ。

それが改革ということで呼び戻された。だから、外の世界を知っているから、あれだけの大きな大手術をすることができたんでしょう。

会社は社員が辞めることをあまり恐れなくなってきている

新野:僕自身、レストランやいまの会社のような中小企業も、三井物産やUBSという大企業も、社員の立場も社長の立場も、いろいろ経験したんですけど、「出世したら変わるんじゃないかな」とか、「社長になれば変わるんじゃないかな」といった仮説は常に間違っており、結局どこに行っても一緒だったんです。

ステークホルダーの方々に期待をまずもらって、その期待を資産に成果をあげて、またもう1回信任をもらって、また成果をあげることの繰り返し。本質的には同じだと感じています。

とはいえ、大企業のなかにいてそれをやるのは、ベンチャーでやりたいことをやるよりも、実は非常に大変なんじゃないかなと。大企業にいて、内部から改革していく、それをどうしていけばいいのか、ヒントをぜひお聞きしたいなと思います。

西岡:難しいね。内部からは変わらない。だから、僕も出たからね、結局。

新野:なるほど。じゃあ、出ちゃえと?

西岡:あのね、塾としてはあまり転職をすすめるとね……。

(会場笑)

西岡:大企業から毎年、固定で(塾に)来ておられるので、「あそこ行ったら会社辞めさせられるやん」となる。

(会場笑)

西岡:最近変わってきたのは、社員が辞めることをあまり会社は恐れなくなってきてるな。

そもそもリストラで出ていってもらわないといかんという背景があるのかもしれないし、とくにベンチャーだと、「いや、次に行ってくれていいっすよ。その間、成長させてくれたらいい」と、考え方が変わっていると思うんです。

だから、大会社もあまり引き留める気はないんちゃう? 引き留めているのは、引き留められていると思って自分で居座ってる人だけや。自分でがんばっていると思っているだけで、誰も「残ってくれ」と言ってないかもしらん。知らんけど(笑)。個体差があるからね。

新野:パナソニックで樋口さんが戻られましたのも象徴的でしたね。「出戻り人事」とも言われていましたし、内部としても衝撃だったのではないでしょうか。

西岡:まあ、実績は示さないとあかんね、あれは。

新野:これからってことですね。

西岡:これからやね。おもしろい。あれで実績示してくれたら、おもしろい。

上司がバカなときほど成長する?

新野:私自身は不合理に膨大な仕事をふる上司の下で働いたことがあるのですが、「それでよく耐えられるな」って言われたんですけど、実は私、ぜんぜん平気だったんです。それは、もともと起業しようと思ってお金を稼ぐために行っているので、“新野商店”としてそこにいたんです。

新野商店は必ずどんなお客さまでも満足させます。その代わり、あまりにもひどいお客さまであれば継続取引はできないけど、引き受けたからには満足させます。

西岡:上司がお客さんと思えばええわけやな。

新野:そうです。お客さまだと思ってやっていたんです。だから、そういう意味では、すごくためになったと思います。

西岡:その人は優秀なの?

新野:そこはノーコメントで(笑)。

西岡:その人は優秀じゃないとすると、それは最悪のケースやな(笑)。

(会場笑)

新野:僕自身は、どの会社でも、フィードバックとか評価で同じことを課題として言われたことがありまして、「新野はいいけど、慇懃無礼だ」と。「本当は腹の中では上司のことをバカにしてるんだろう」と(笑)。

(会場笑)

新野:「それを出さないように丁寧な言葉を使っているけど、それはバレてるよ」ってことで、まあ、大いに反省はしたんですけどね。

(会場笑)

新野:その上司にも、ものすごく丁寧な言葉をつかっていましたけど、「この野郎!」っていつも思っている気持ちが、バレていたんですね。

西岡:塾で毎年やっているプログラムのなかで「マイベストジョブ」といって、自分の過去の仕事のなかで一番自信のある仕事を、みんなで報告し合うんです。どういう状況で、どういうタイトルで、どういう問題を解決したか。そのときに一番自分が成長した事例を書いてもらうんです。

そうすると、みんなが成長できたと実感できることに、共通点が2つあるんです。そこにけっこう集まる。1つは納得できるんだけど、海外赴任中。海外赴任すると人が少ないでしょ。みんな自分でやらないかん。責任いっぱい持たされる。で、グッと伸びた。これは納得できるよね。

新野:はい。

西岡:もう1つ、グッと伸びたのがね、上司がバカなとき。あまり日本人は、優秀なのはだめらしい。

新野:私も先ほどの上司が優秀かどうかは別にして、よかったのはその不合理な仕事量をふられ、さまざまな仕事が乗っかってくる。「これもやれ、あれもやれ」と。そうすると、どんどん彼の仕事が僕に寄っていくので、やらざるをえなかったんですけど、結果としてやってたら、こっちのほうが選択肢を持つようになった。

西岡:向こうはあなたに頼らざるをえなくなってきたんやね。

新野:そうです。たとえば、「提案書を作れ」というので作るんです。最初は上司がアイデアを出してくれたけど、そのうち「アイデアを考えろ」と。アイデアを出して提案書を作ると、自分のアイデアじゃなく、自分で作った資料でもないので、説明にお客さんのところに行けないから、「おまえ一緒に来て説明しろ」と。だんだん上流から下流までやるようになってきたんです。

なので、そういう意味では、新野商店はバリューチェーンをどんどん侵食していこうとやっていた感じです(笑)。そういう意味では、その上司はそういうかたちで、僕を育ててくれたのでしょう。

(会場笑)

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