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『一流マネジャーの仕事の哲学』発売記念イベント(全8記事)

制服は着ない、上司は無視… 元インテル社長・西岡郁夫氏がシャープでの新人時代を振り返る

『一流マネジャーの仕事の哲学』を上梓した、西岡塾塾長を務める西岡郁夫氏。シャープでノートパソコンの開発を指揮した後、インテル社長を務めた、日本のパソコン市場開拓の立役者である西岡氏が、自身の若かりし頃を振り返りました。一流のマネジャーになるために必要なマインドセットとはどのようなものなのか。西岡氏が実体験をもとにリアルな仕事哲学を語りました。

社長になれると思っていた

西岡郁夫氏(以下、西岡):はい、みなさんこんにちは。

今日はみんな、若い人が多いよね。今回は、「一流マネジャーの仕事の哲学」っていうタイトルなんですが、あんまりこれには関わらず、お話をしたいと思います。途中でわからんところがあったら訊いてください。

ときどき大阪弁なんで、単語がわからないとか、そういうときはすぐに訊いてもらってけっこうです。最初に型通りに自己紹介があるんですけど、まずここでいくつかポイントをお話しておきます。

本にも2つ書いているんですけど。1つは、なんでシャープに入ったか。大阪大学の修士を受けて、「まあこれくらいの会社だったら社長になれるんちゃうかな」と思ったんですよね(笑)。

今のシャープはすごいですけど、当時は「早川電機工業株式会社」という会社でした。だからこのくらいだったら大丈夫だろうと思ってね。それで入ったんですけど、まあそのあとに、とっても大きい会社になりましてね。もしかしたら、(残っていたら)副社長にはなれたかも知れない。だけど、社長には絶対なれないというのは途中でわかりまして、あそこはもう姻戚関係が強くてですね。私とほぼ同年代の町田(勝彦)さんという人が、私がインテルに移ってから社長になりましたけどね。年齢が僕と同じくらい若い人。

僕はすごい出世が早くて、事業部長までかなり早くいけました。でも気づいたら、プロジェクトでリーダーを務めていたのは町田さんだったんです。常務取締役、テレビ事業本部長。

「ええ?」と思って。1つ若いのにどうなってるんだろうと思って、部下に「あの人誰なん?」と聞いたら、「事業部長知らないんですか? あの人は実は……」って説明してくれて。娘婿だったんです。「なんやそりゃ」と思って。これ、競争にならないでしょ。どんなに頑張っても。「ああ、ここは社長の筋じゃないな」と思った。だから別にインテルに逃げたわけじゃないんです。これが1つ。

僕はここで1つの疑問がありました。こういうことをみなさんもやるかはわかりませんが。新入社員として(シャープに)入って3ヶ月後、研究所に配属されました。修士だったからね。それで、毎日毎日、帰りが遅くなるまで実験ばかりやっているんですよ。実験というのは面白くないんです。電子回路を作って、電源を入れて、温度を変えて、と。実験ばっかりやっていました。

シミュレーションの重要性

毎日、朝早く出社して、月曜から土曜日まで出て。(入社して)10年くらいの先輩方もその仕事をやっているんです。ということは、自分も10年後そういうことをやっているわけるでしょ? 「これは嫌やな」と。なんかこう地味な制服を着てね、汚い制服。この辺がね、フケが溜まってるような(笑)。

「きったねーこいつら」と。僕はそのあと制服を着ませんでした。なのに、叱られたことはありませんね。ちょっと格好のいいジャケットを着ていましたからね。ブレザーコートを。今思うとなんで叱られなかったのか不思議ですけど。

それで、課長を呼び出しました。別室に呼び出しまして。「なんや?」と。僕は「あの、ちょっとおかしいと思うんですけど。みんな実験ばっかりやっているんですよ。コンピューター・シミュレーションをぜんぜんやらないんですよ」と。

あれ(コンピューター・シミュレーション)をやっておかないと、実験で判ることは少なくなります。しかも当時、すぐ論文を図書館に行って援用していました。今でも覚えてるけど、日立にはオザワトキノリ、NEC にはタニケンジ、東芝にはヨシダケンジ、40何年前やけどね。そういう人が論文をバンバン発表していたんですよ。

シャープはそういう人を誰も知らんかった。誰も知らんというか、図書館だから図書カードとか過去の履歴がわかるじゃないですか。誰も読んでないんですよ。「課長、問題ですよ。規模がどんどん大きくなったら、これじゃあ設計できません」って言ったんです。入社して3ヶ月の新入社員が。(参加者を指して)もしあなたが課長だったらどう言う? 

参加者1:課長だったら? 

西岡:そう。なんか言わな(笑)。

参加者1:「先輩のいうこと聞いて、座って勉強しとけ」って言うぐらいです。

西岡:ああ、そうかそうか。「先輩に教えてもらえ」と。

参加者1:そうですね、「黙って先輩のあれを見とけ」と。

西岡:でもその課長は、「なに? そんなこと俺は知らん。わかった、じゃあお前1人で始めろ」って言って、予算を月20万円付けてくれました。ひとりぼっちなのに。20万円、なににお金が要るかっていうと、コンピューターを借りにいくお金です。中央研究所はコンピューターがなかったんですよ。

実験の成功

実は、私の直属の上司は係長でした。ごっつくて、頭良いんだよね。当時は心を病んでたんですかね、コンサバみたいな。こういう人に相談したらぜったいダメでしょう。そういうときはどうします?

参加者1:自分で考える(笑)。

西岡:無視ってことだね(笑)。こういう人に相談してもダメなのがわかってましたんで。係長よりも課長のほうが偉いですから。

しかし毎日、業務日誌を書くんです。当時31、2歳の係長ですよ。その係長が10~15人の部下を持っているんですよ。A4 に2ページくらいの業務レポートを全員に書かせて、それに赤を入れるんですよ。31、2歳くらいですよ? 10人の部下全員の業務日誌に赤入れるんですよ。

それで僕のほうは、係長がやめろということをやっていたから、もう業務日誌は真っ赤。「ここは違う、そんなことあるかい、そんなことできるかい、あれはできない」とか。まったく、よく毎日平然と日誌を書いていたもんです。真っ赤っ赤にされてましたけど。

係長は本当に意味があって反対するんであれば、課長に言えばいいんですよ。係長が課長に談判すればいい。「こんなの僕は許してないのに、勝手に許しておかしいですよ」「あれはダメです」とか。それを言わずに僕の業務日誌を真っ赤にするのは、おかしいでしょ。これは間違っているなと思って(係長を)無視し続けたんです。大変でしたけどね。

それから、実はものすごい幸運なことに、(実験が)大成功したんですよ。電子回路っていうのはアナログとデジタルがありまして、今はぜんぶデジタルです。最初の僕の目論見では、当時はまだアナログの世界だったんで、アナログ回路の解析をやろうと思っていたんです。これが難しい。解析しよう思ったら、キルヒホッフの連立方程式という、電気回路の基礎、これを解かなあかん。これが大変むずかしいんです。

と思っていたら、急に世の中がデジタルの方向に向かったんですよ。デジタルは0か1 でしょ。「これのほうが簡単や、よし」と思って勝手にデジタル回路の解析に方向を変えたんです。

(会社の)上にいる人はわからんからね。変わっているということが。そしたらある日、その研究部から1つの大きな実績ができたんです。テレビのチャンネルを変えると、テレビの画面に数字が大きくバーンと出るようになったんです。

リモコンがなかった40年前のテレビ

当時は44年前。もうちょっとかな。40数年前は、テレビのチャンネルを変えるのはテレビのところに行ってチューナーをバッチャンバッチャンと変えていくんですよ。寒い冬とかだったら、イヤでしょ。布団から動かなくちゃいけないし。これを、誰でも無線でバッチャンバッチャンと変えれるようにしたんです。その後はすべてのテレビメーカーが(無線で)変えるようになりました。

でもそれは、(テレビ本体側の)チューナーがバッチャンバッチャンと動くわけ。チャンネルの数字はここ(テレビ本体)についてあるから見えないわけです。「そのぐらいちょっと待てよ」というかも知れんけど、例えば巨人対阪神の試合がやっていて、長嶋(茂雄)が出ているかも知れない。そのときに10チャンをつけてコマーシャルがやっていたら、「あれ、チャンネル違うかな」と思うでしょ。そしたら暖かい布団から出ていって確認して、「あ、10や」とわかる。

これをシャープは、テレビコマーシャルやってたやろ。ああいうことを自分で言い出したらあかんね。「目の付けどころが、シャープでしょ」。

それをね、回路をテレビに載せると、チャンネルを変えたら0.3秒間、チャンネルの数字が画面にバンと映るんですよ。

これは大事でしょ。「これは行ける」ってテレビ事業部が採用するということになって、設計するために技術者がアメリカに飛びました。ここで、なんでアメリカに頼まないかんのか? シャープはその当時、独自で設計できる能力がなかったんです。そのときに僕は、それをコンピューターでシミュレーションするプログラムを1人で開発しました。

これはチャンスだと思って、その先輩がアメリカに行くときに、「すいません、ちょっと回路図と設計図をコピーさせてください」と言って「青焼き」(湿式のコピー)した。ゼロックス(普通紙のコピー)と違って青焼きやった。それを(設計図)持っていたので、自分は開発を1人で一所懸命やっていた。向こう(アメリカ)では先輩も一所懸命設計をやっていて、ついに設計が完了した。そのあとは、テープアウトをするんです。テープアウトというのは、それをLSI(集積回路) に起こしていくわけ。

ここでもしミスがあったらウン億円、飛びます。やり直しやからね。だってテレビに違うチャンネルの数字が出てきたらえらいことでしょ。それで、ついにアメリカで設計を完了して、「用意しまーす!」という段階のときに、ちょうど僕のプログラムもできたんですよ。そして実験しました。

コンピュータで先輩のミスを発見

これはなんのために実験したかというと、「彼の設計が正しいかどうか」を調べたのではないです。そんな自信はないもの。世界中にないのに、自分で考えて作ったプログラムでしょ。だから、「自分の設計が正しいということを確認するため」にやったんですよ。「2を押すとに2と出るか」「4というインプットに対して4と出るか」とやっていったんです。そしたら6のところだけ6が出ないの。「これ5チャンネルちがう?」みたいな(笑)

(会場笑)

このままだったら、シャープのテレビは6を押したら5の数字を表示しちゃうところだったんですよ。もちろん製造で止まるから出荷はしないですけど。それでウン億円飛ぶんですよ。これを見つけたとき、どんなにうれしかったか。ひとりやからね。そのあと、どうしたか。もちろん課長のとこへ行くわな。

「課長、大変です。このまま行ったら6を押したら5が表示されます」って。この課長は、先ほどの「俺はわからん、やってみろ」と言うた課長やで。(参加者を指して)このときになんて言うたと思う? 

参加者2:「直せ」。

西岡:ああ、なるほど。でも、僕は直されへん。(次の参加者を指して)なんて言うたと思う? 

参加者3:同じです。直せ、直すほうがいい。

西岡:僕に「よし、やるんやったらやれ」と言うてくれた課長が、「アホかお前は」って。「お前は入社以来設計をしたことがないじゃないか」「そんなとこに座って、頭ばっかり使って。そのお前が間違いを見つけるはずがない」と言われました。

でも僕は「これは本当にそうなんですよ。それがわかるのがコンピューターなんです」と言うた。そしたら、「もし間違ってたらえらいことになるやろ。念のために、打電せよ」と。先輩のところへね。当時はファクスもEメールもない時代。テレファクスや。それを打ちました。

(打電を見た)彼はびっくりして二晩ずっと調べたらしくて、その後テレファクスが来ました。「俺まちごうてた! 君が正しかった!」って(笑)。「まちごうてた」って、なんで大阪弁やねんと思いましたけどね。「助かったー」と言ってくれた。

それでみんなは、「なんだこれは。新入社員が(ミスを)見つけることができたんか」「これはすごい」ということになって、すぐに部下が5人になって、それからどんどん大きくなりました。そしてセンターをつくった。

寝ている上司を叱責

当時ね、係長くらいまでは行ったと思うんですよ。このあとに、いっぱい実績を挙げましたからね。センターになるときに、センター所長が要るんだけど、係長では所長になられへん。所長とは部長の役職なんですね。

それで、「まあしゃあない、課長にするから所長をやれ」って言われて、所長をやりました。でも、独立愚連隊より若者が(所長を)やってるんで、会社が「これは管理上に問題があるのではないか」となって、1回、部長がその研究室に来たことがありましてね。

(研究のことは)わからないんですよ、部長はなんにも。もともとこんなところへ来るんだから、仕事のできるヤツじゃないでしょ。

(会場笑)

しかも寝るんですよ、仕事中に。ガンガンやる気で仕事している私たちの横で。一番いい席で寝るんですよ。それでどうしたと思う?

参加者4:「なにしとんじゃ」と言った。

西岡:なにしとんじゃ? 係長やで(笑)。

そこはやっぱり人の前ではなく、別室にそのウメダ部長を呼びました。「ウメダ部長、寝ちゃダメです。退屈だと思うので、図書館に行くなり喫茶店に行くなりどこへでも行ってください。だけど部下の前で寝ることは禁止です」と、ビシッと言ったんです。

そしたら、「悪かった、ごめん」というね。おおやけになったらクビ飛ぶからね。そういうこともありました。

このあたりは、花の研究所長やね。シャープではあり得ないような綺麗な研究所をつくりました。ものすごい絶頂期でした。博士号も取りましたし。そしたらなんと社長から呼び出されて、「コンピューター事業部長やってくれ」と言われました。

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