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第1部(全1記事)

宇宙飛行士・山崎直子氏が語る“宇宙ビジネス”の可能性「世の中を変えていけるチャンスがある」

近年、注目を集めている宇宙ビジネス。民間でも宇宙に挑戦する企業が増え、盛り上がりを見せるなかで、今年立ち上がった宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2017」が主催する「SHIBUYA SPACE NIGHT!」が開催されました。宇宙ビジネスを取り巻く潮流や、ビジネスチャンスとしての可能性について、宇宙に携わる識者たちが語り合いました。第一部では、宇宙飛行士の山崎直子氏が「なぜ今、日本で宇宙ビジネスなのか」について語ります。

宇宙には「競争」だけでなく「協働」もある

司会者:それではさっそく第1部に移らせていただきます。ご紹介いたしましょう。宇宙飛行士の山崎直子さんにご登壇いただきます。みなさん、どうぞ大きな拍手でお迎えください。

(会場拍手)

司会者:どうぞよろしくお願いいたします。

山崎直子氏(以下、山崎):みなさん、こんばんは。本日はお集まりくださいまして、ありがとうございます。この「SHIBUYA SPACE Night!」の始まりとしまして、私のほうから始めに10分ほどお話しさせていただきたいと思っています。

国際宇宙ステーションのことや、宇宙でのミッションのことなどは、これまでもいろいろなところでお話はしてきています。ですので、今回はS-Boosterにちなんで、「なぜ日本で今、宇宙ビジネスなのか」をお話しします。「なぜ日本」「なぜ宇宙」、そして「なぜ今なのか」ということを中心に少しお話ししたいと思っています。

まず最初に、こちらの写真ですね。これは6月に2号機が打ち上がりました、日本の測位衛星「みちびき」と呼ばれているものです。最終的には7機体制になって地球を、とくにアジア圏を覆いながら、今のGPSの精度をより高めてくれるという役割を果たします。

この図を見ていただくと、宇宙というのはやはり全方位に広がります。地上の空間ですと、それぞれ国があり、領土・領空というものがあり、どうしてもそこで活動が縛られることもあります。

けれども、宇宙という空間は、宇宙条約によって、どこの国も領有しない、つまり全人類のための共有財産の場ということで決められているんですね。国際的にはだいたい地表から100キロを超えたところを「宇宙」と呼んでいます。

ですから、日本の人工衛星も、宇宙の空間であれば、日本の上空だけではなくて地球上どこでも回ることができます。逆に言えば、この日本の上空もいろんな国の人工衛星がすでに飛び交っているという時代なんですね。

また、もう1つ象徴的な絵かなと思いますのがこちらです。これは、私も行きました国際宇宙ステーションの、日本の実験棟「きぼう」の中で、各国の宇宙飛行士が集合写真を撮ったときの様子です。ここには若田飛行士が写っていらっしゃいます。

見ていただくとわかるように、いろんな文化、国、言葉を超えて、共同で生活をしながら実験をしているんです。

宇宙というのは、もちろん競争はあります。けれども、1つの目標に向かって一緒に協働しやすい分野でもあると思うんですね。ですから競争かつ協働ということで、これも1つの宇宙という意味合いがあるかなと思っています。

日本の宇宙技術が国際標準に

そのなかで、日本の大きな特徴としては、総合的な宇宙インフラを持っているということだと私は思っています。

人工衛星を自国で作ります。ロケットでそれを宇宙まで届けます。また国際宇宙ステーションに日本の「家」があります。そして、地球を超えたより深い宇宙、月、火星、いろいろなところの探査も行ってきています。

今、人工衛星は50ヶ国以上が保有をしていて、どんどん需要が伸びてきています。今後も世界的には、とくに人工衛星を中心に、宇宙産業は年間7パーセントぐらいで伸びがあると言われています。

ただ、自国でロケット技術を持っている国というのは、このうちもう少し狭められまして、11の国と地域、(スライドを指して)この地図でいうとオレンジ色をつけた国と地域と言われています。

ロケットの打ち上げ価格はまだ高いため、ぜひこれを下げようという動きが国際的にも出てきています。例えば、再利用化に取り組んでいたり、日本でもH3ロケットの開発に取り組んでいたりします。

また、この写真は日本の実験棟「きぼう」ですけれども、ここに定期的に私たちが食べる宇宙食とか、宇宙で着る服、あるいは実験の試料などを届けてくれる「こうのとり」という補給船があるんですね。

(スライドを指して)これを見ていただくと、宇宙で見るとなんか缶ビールのように見えるんですよね。だから私たち「缶ビールが早く届かないかな」なんてよく言うんですけれども。実際は大型バス1台分ぐらいありまして、10トンぐらいある巨大な補給船です。

これは宇宙ステーションの10メートル下まで自力で近づいていって、最後、宇宙飛行士がロボットアームを操作して捕まえるわけです。

この方式を今取っているのが、SpaceXのドラゴン補給船や、シグナスという補給船です。でも、こうして近づいていってロボットアームでつかむということを最初にしたのは、日本の「こうのとり」の補給船なんですね。

それ以降、このアプローチしていく技術はシグナスなどにも輸出されていまして、その日本の技術が今は国際的な標準になっているということがあります。

また、宇宙ステーションから小さな人工衛星をロボットアームを使って放出するということも、日本が初めて行っているんです。今、アメリカではナノラック社などが同じことをやっているんですけれども、この放出をするときの規格なども、日本が最初にルール作りをしてきたという経緯があります。

また、日本は、地球を超えたところの宇宙探査も行っています。とくに小惑星探査。「はやぶさ」は、小惑星のサンプルを初めて地球に持ち帰ってきたという実績があります。

ということで、いろいろな総合的な技術が日本の中で培われてきています。これらは従来の技術開発によって培われてきました。今後はそれらが場として、もっといろんな方に使っていただける土壌が整ってきたということなんですね。

とは言っても、まだまだこうした技術は発展途上のところもあって。そうした最先端の技術は高めつつも、それで培われた場はもっとみなさんに広くオープンに使っていっていただきたいなというところなんです。

今こそ日本で「宇宙ビジネス」を始めるチャンス

じゃあ「なぜ今なのか」というと、そうした土壌が整ってきたという技術的なことともに、やはり去年、宇宙活動法の法整備が行われ、今年の5月には宇宙産業ビジョンというものが出されて、これから第4次産業革命が起こりつつあること。そのなかで、「宇宙利用をどんどん推進しましょう」ということをビジョンとして掲げています。

具体的にいうと、「宇宙産業市場を2倍にしていきます」と。衛星データについても、今、日本でもたくさんデータを持っているんですが、それぞれバラバラでなかなかオープンにはなっていません。それをデータベース化してみなさんに使っていただけるプラットフォームにしましょうと。

また、こうした「宇宙ビジネスをやりたいな」という方の窓口やネットワークを作りましょう、ということがビジョンとしてあります。それを受けてS-Boosterも今、発信しています。

今回の特徴としては、やはり事業化の支援というところがすごく大きいと思っています。S-Boosterのスポンサーの方々が、もちろん賞をとられた方に賞金を贈ってくださるとともに、事業化の過程でメンタリングをしてくださるんですね。

また、JAXAが、「これからの宇宙ビジネスにも支援をしましょう」ということで技術的なバックアップ。

またネットワーク横通しということで、内閣府のS-NET(スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク)だったり、宇宙ビジネスコートだったりと、そうしたいろいろな支援が日本全体で整ってきたということで、まさに今がチャンスです。

でも、私自身の思いとしては、そうしたなかで、宇宙ってまだまだ正直わからないことがあるんですね。「これをやれば成功する」「これをやれば、こういったデータを取れる」とか、すべてわかっていたらたぶんもう事業化されているところも多いと思います。

でも、宇宙というのは範囲も広いし、切り口もたくさんあります。例えば、自動車の自動運転とか、船の自動運転・自動操縦とか。いろいろな第4次産業革命が起こっていくなかで、もしかしたら地上の、ぜんぜん宇宙とは違う分野が宇宙と関わることで、もっと化けてくる可能性があるんじゃないかと。そういった可能性を秘めています。

そのなかで日本が標準化、ルールづくりを取れるチャンスがまだまだあるんじゃないかなと。

宇宙はわからないからこそすばらしい

(スライドを指して)ちなみにこの写真は昼間の地球ですけど、夜の地球はこちらの写真で、人の営みの強さも伝わってきます。「我々の力も実はすごいものがあるんだな」ということに感動しました。

宇宙は広いわけですけれども、そのなかで、「わからないからこそすばらしい」と。世の中を変えていけるチャンスがあるということで。

正直に言うと、もちろんすべてがうまくいくわけではないと思います。でも、そのなかで変えていけるチャンスがあるということがすばらしいこと、wonderfulなんだと思っています。

ちなみにこれは一番遠くから撮影された地球の写真です。60億キロなので、冥王星よりも遠いところです。もう地球は点のようにしか見えません。

これは火星探査機が捉えた三日月と「三日地球」です。これからはおそらく、地球と月とを結んだ「地球圏」というようなかたちで、人の活動の領域も広がっていく可能性があります。

こちら、月面から捉えた地球です。アポロ時代の宇宙飛行士であり、スペースシャトルの初代の船長さん、ジョン・ヤングさんがこんな言葉を残しています。

「Risky to change」、でも「Riskier not to change.」と。「変えることはリスクがあります、けれども、変えないでいることはよりリスクが高いだろう」という意味です。

これから宇宙もまさに過渡期です。ベンチャーを起こそうとスタートアップをされる方、あるいはほかの企業や、大企業、なにか新規事業をしようとしている方、あるいは個人でちょっとアイデアがある方など、いろいろな方にとって、宇宙というのは今チャンスの場なのかなと思っています。

ですから、みなさんが今日のこのイベントをきっかけにして、もっと宇宙ビジネスに興味を持っていただけたらいいなというのが私の思いです。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」の回収法

司会者:山崎さん、ありがとうございました。

ここからは質疑応答の時間とさせていただきます。みなさん、宇宙飛行士の山崎さんにお越しいただいておりますので、この機会に山崎さんに質問したいことがある方は、ぜひ挙手をお願いいたします。

質問者1:宇宙にはスペースデブリ(宇宙ゴミ)があると思うのですが、それの回収方法というのはあるのでしょうか?

山崎:どうもありがとうございます。おっしゃるとおりで、宇宙デブリは今かなり問題になってきています。

私も15日間宇宙に滞在していた間に、スペースシャトルの窓ガラスに宇宙ゴミが当たって、最低でも3箇所はひびが入ってしまったんですね。貫通はしなかったんですけれども、小さなゴミはけっこうそれぐらいの頻度で当たってしまっています。有人宇宙船は頑丈に作っていますが、人工衛星などの場合は、これによって機能が失われてしまう可能性もあります。

それを減らそうというガイドラインを国連で作っているんですが、すでにあるゴミを回収して捨てようということはけっこう難しいんですね。

というのも、ご存じだと思いますけど、人工衛星や宇宙船は、時速2万8,000キロ、秒速8キロと、マッハ25というスピードで回っています。ですから、下手すると回収しようとして近づいた宇宙船や回収機とぶつかると、ミイラ取りがミイラになって、さらに破片が広がってしまいかねないリスクがあるんです。

それを確実に捉えて、そして一緒に地球に落として燃え尽きさせるなり、なんとか処理をするというのはけっこう難しい技術なんですけれども、今、いくつかの方法が研究されています。

ハエ取り器のようなかたちで粘着剤でピタッとくっつけて、一緒に地球の大気圏に再突入させようという方法だとか、漁師さんの網のようなものでガバッと捉えて、やはり再突入させる方法だとか。

あるいは、人工衛星のほうになにかちょっとスラスターをくっつけて、逆にエンジンを吹かすことで地球より遠くに持っていく方法。あるいは、逆にブレーキをかけて地球に落とす方法とか、いくつかいろんな方法が検討されています。早くそれが実証されていくといいなと思っています。お答えになっていたでしょうか。

質問者1:どうもありがとうございます。

山崎:はい、ありがとうございます。

出遅れた日本の「宇宙ビジネス」、先進国に追いつけるか?

質問者2:どうも、すいません、せっかくですので、ちょっとズバリの質問をさせていただきたいと思うんですが。

山崎:はい。

質問者2:先ほどお話をいただきました宇宙ベンチャーのことです。今、アメリカではいわゆる宇宙ベンチャーというものが非常に立ち上がろうとしています。その最たる例がイーロン・マスクという人がやっているSpaceXという、先ほどお話しいただいた会社だと思うんですが。

そのほかにも、アメリカというのは非常に裾野が広くて。足元のほうにいけば、もう普通の個人レベルの人がいろんな部品をかき集めてきて宇宙に行くためのアイテムを作ったりということまでやっているんですね。

いわゆる法整備に関しても、例えば、昨年、日本でも宇宙二法が採択されました。でも、実はその宇宙二法も、おそらくアメリカではもうレーガン政権時代に採択されたような法律で。

山崎:そうですね。20年以上前です。

質問者2:その宇宙ベンチャーという意味では、日本はたぶんアメリカに30年ぐらい遅れてるんじゃないかと思うんです。そこのところがいかがなのかと。今後の日本がそういったハンディをクリアにしていって、本当に日本の宇宙ベンチャーが、アメリカやヨーロッパのように、ビジネスとして立ち上がって収益をあげていくことができるのか、という質問です。

今後、政府がそういう法的整備を行って、それで宇宙ベンチャーを本気で育てていけるのか。もうアメリカでは、有人宇宙飛行ではなくて宇宙旅客という事業をガンガン始めてるんですけど、日本は果たしてそれができるのか。

それができなければ、おそらく日本は今後取り残されていく勢力になってくると思いますね。日本以外に、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国、それからインド、イランとか、そういった国はどんどん立ち上がってきますけど、日本だけたぶん今後取り残されていくと思います。

私の考えでは、宇宙ベンチャーというのはたぶん第2の自動車産業に匹敵するようなものじゃないかと思っているんです。そのへんの政府の今の状況とかをお聞かせていただければ。すみません、難しい質問で。

山崎:どうもありがとうございます。鋭いご指摘いただきました。おっしゃるとおり、日本における宇宙ベンチャー支援というのは、アメリカなどに比べ20年以上遅れていると思っています。それがようやく土壌が整ってきたということになります。

ただ、アメリカともヨーロッパともまた違う日本のやり方で、ぜひ支援をしていきたいなというのが、今、私も含め、宇宙政策委員会などで議論をしているところです。このあたりは第2部で、ほかの登壇者も交えてより詳しくお話ししたいと思っています。

ただ、宇宙といっても裾野が広いです。我々はいわゆる「機器産業」と「利用産業」と2つに分けているんですが、「機器産業」という、いわゆるロケット、人工衛星、コアの技術の部分もまだまだ途上であるとともに、「利用産業」の部分は実はまだ駆け出しなんですね。

アメリカもたくさん、リモセンのベンチャーだとかいくつか出ていますが、やはり国がアンカーテナンシーで補助をしている部分が強くて、本当にビジネスとして軌道に乗っているかというと、そこはアメリカにおいてもこれからだと思っています。

というのも、集めたデータをどう活用していくかという部分が大切で、そういった部分で地上のIT技術・AI技術などとの連携が必要なんですね。

ですから、そういった利用に関していえば、裾野が広く応用分野も広いので、そのなかで日本もきちんとリードできる部分を、逆に言うと、これから見つけていかないといけないのかなと思っているところです。チャンスはまだあると私は思っています。

質問者2:ありがとうございます。

司会者:ありがとうございました。それではこのあたりで質疑応答の時間は終了とさせていただきます。質問いただいたみなさま、ありがとうございました。そして、山崎さんに大きな拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

(会場拍手)

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