2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
ジェイソン・ダニエルソン× ラクスル松本恭攝(全1記事)
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ジェイソン・ダニエルソン氏(以下、ジェイソン):ありがとうございます! 準備はいいですか? 2度目のSlush Tokyoです! 去年と比べるとさらに大きくなっていますね。
松本恭攝氏(以下、松本):私も2度目ですが、屋内は初めてです。前回は屋外でした。
ジェイソン:外? 雨は降っていませんでしたか?
松本:いえ、いい天気でしたね。
ジェイソン:良かったです! 本日はスタートアップについてお話をおうかがいしたいと思います。しかし、スタートアップだけに限らず、会社というものについて、または会社を起業することに関して全体的なお話をうかがいたいと思います。
松本:はい、そうですね。
ジェイソン:まず、松本さんが、会社を起業した時のことを簡単にお話しいただけますか?
松本:私がラクスル株式会社を創業したのは、2009年です。8年前になります。創業当時、従業員は私だけでした。
ジェイソン:あなただけだったのですか!
松本:そうです。1人で創業しました。当時は、共同経営者もいなかったので、自分1人で会社を始めました。当時24歳でしたが、まさに24時間体制で働いていましたね。土日も休みなく働き続けていました。
ジェイソン:24時間ですか!? 土日も? 死にますよ!
松本:正確には、1日20時間ですね。
ジェイソン:十分多すぎです!
当初はどういう計画で会社を始めたのですか? つまり、なぜ会社を始めようと思ったのですか?
松本:以前の仕事に疲れてしまったからです。
ジェイソン:疲れた? 1日20時間以上も働いていたのですか?
松本:そうではありません(笑)。モチベーションの問題です。確かに、長時間勤務という点でもとてもハードでしたが、それ以前にモチベーションを維持するのが難しかったです。
なぜなら、前職ではクリエイティブな仕事を任されることがなかったからです。もっと、クリエイティブな仕事をしたかったので、自分で起業しました。
ジェイソン:日本の大企業ではクリエイティブな仕事ができない、というのは一般的ですか? つまり、日本の大企業では入社したばかりの若者は自由に仕事ができず、ただ指示をこなすだけというのは普通ですか? 松本さんは、そう思われますか?
松本:そうですね。それは、本当だと思います。私が以前勤めていた会社は、大企業というほど大きな会社ではありませんでした。従業員は200人ほどでしたね。でも、この当時は、クリエイティブな仕事ができませんでした。自分がやりたいと思うことができなかったんです。
ジェイソン:日本の若者とシリコンバレー文化の若者というのは、まったく違いますね。日本の若者たちは、新卒で大企業に就職したいと希望しますね。
一方で、アメリカでは、多くの若者が最初からスタートアップ企業やベンチャー企業への就職を希望します。この文化の違いはなにから来ると思いますか? なにか安定した職業に就くべきという社会的なプレッシャーがあるのでしょうか? そして、あなたのように、疲れてしまってから起業するのでしょうか?
松本:そうですね。
ジェイソン:なぜ、日本の若者たちは最初から挑戦する気概がないのでしょうか?
松本:そうですね。私のケースですが、大学生の時は、日本の学生は一般的には自分の人生を自分で作り出すことができるとは思っていません。自分の人生をコントロールできないと考えています。
ジェイソン:なぜですか!? なぜ日本の若者は自分の人生をコントロールできないと思うのですか?
松本:たぶん、日本の教育システムのせいだと思います。日本の教育では質問に対して回答することが基本です。つまり「自分で考える」ということは必要とされません。ただ、答えを暗記して、テストで解答するだけです。
つまり、自分で考えるトレーニングというのを積むことができないのです。
ジェイソン:私も日本の教育システムについては、同じような意見を持っています。娘が3人いて、もうすぐ学校に通う年齢です。将来どうやって生きていくのか、心配になります。
しかし一方で、Slushのようなイベントが東京で開催され、ラクスルのようなスタートアップ企業が日本にも登場しています。個人個人には、ベンチャー精神を持つ人々がいるということです。
だからこそ、ベンチャー精神を持つ人々は一体どこから来るのか、とても興味があります。他の人々と一体なにが違うのでしょうか? 松本さんは、一般的な日本の教育を受けてきたのですよね?
松本:そうです。小学校、中学校、高校と公立の学校に通っていました。日本ではごく一般的な教育を受けてきたと言えます。
ジェイソン:日本の標準的な教育ということですね?
松本:そうです。標準的な教育です。ただ1つ言えることは、情報の収集の仕方が変化してきているということです。
私たちより前の世代は、インターネットがありませんでした。以前は、将来のキャリアに関する情報やロールモデルといったものは、身近な先輩を見るしかありませんでした。
しかし、私たちの世代は、幼い頃から当たり前のようにインターネットに接して育ってきました。シリコンバレーやインド、ヨーロッパからの情報もインターネットを通じて簡単に手に入れることができます。たとえ英語がわからなくても、さまざまな情報が日本語に翻訳されて、インターネット上に溢れています。
私がラクスルを起業した時も、どのように会社を経営するか、どのように人々をまとめるか、どのように企業文化を形成するかなど、多くの情報をシリコンバレーから入手しました。これは日本の標準とは異なります。だからこそ、私の考える会社の在り方は、シリコンバレー企業の在り方と非常に似ていると思います。
これはとても興味深いことですが、インドネシアのスタートアップ企業やインドのスタートアップ企業に出資して、彼らと話をしました。彼らもとても若い起業家で27歳や29歳くらいです。彼らの考えるスタートアップ企業の経営方針も、私とほぼ同じでした。
ジェイソン:同じですか?
松本:はい、彼らの経営方針もアメリカのスタートアップ企業に影響を受けています。
ジェイソン:つまり、インターネットを通してさまざまな情報にアクセスが可能になることで、日本の人々の意識もよりスタートアップ精神に近づくということですか? 現在のような教育システムのままでも、自然とそのような流れになり、より多くのスタートアップ企業が成功するということでしょうか?
松本:そうですね。その意見には賛成です。ただし、ごく一部の人間だけが、こういった情報に強い興味を持つと思います。
ジェイソン:つまり、その人次第ということですね? しかし、一般の教育システムの枠を超えてこのような情報に関心を持つ人というのは、一体なにが違うのでしょうか?
松本:いい質問ですね。ジェイソンさんはどう思いますか?
ジェイソン:私がどう思うかですか? そうですね、多くの人はそれほど関心を持っていないように見えます。多くの人は、与えられた情報だけで満足しています。
その一方であなたのような人や、このイベントに参加する人々のように起業を望む人が存在します。最初から起業を望まないというのは、私にはとても奇妙に思えてしまいます。アメリカで生まれ育った私からすると、という意味です。
例えば、私が初めて勤めた会社は、同じ時期に入社した人すべてが、どのようにキャリアを積み昇進していくかに非常に強い関心を抱いていました。どのようにスキルを手に入れるか、どのように成長していくか、非常に貪欲でした。
一種のマインドセットとして、自分が一歩でも先を越そうと、同僚と常に競い合うのが普通でした。日本ではもっと仲間意識が強いですね。仲間と横並びでいることが重要視されます。
松本:それは、日本社会の悪い習慣ですね。「日本社会では」が存在します。
ジェイソン:もちろん、アメリカにも存在しますよ! でもそのプレッシャーというのは、日本とアメリカだと逆方向に働いているようです。アメリカだと、とくに高学歴であれば、より成功することを期待されます。
例えば、あなたのように会社を起業しますね。生き残るためには会社の宣伝をしないといけません。こういう種類のプレッシャーです。日本とはまったく逆です。もちろん、過剰なプレッシャーになって、ストレスになることもあります。
職場環境についてはどう思いますか? 日本の一般的な大企業とスタートアップ企業を比較すると、大きな違いが存在すると思います。
松本:そうですね。大きく違います。創業当時は従業員がいなかったので、長時間労働が当たり前でした。でも、会社が大きくなるにつれ、従業員が増えてきましたので、今では時間を限って働くことを推奨しています。
ジェイソン:創業当初は、従業員がいなかったので、全部自分でしなければいけなかったため、長時間働いていたのですね。しかし、今は多くの人を雇うようになって、ワークライフバランスを重要視していることをアピールポイントに使っているんですね。
だから、ラクスルで働くのは魅力的であると。時間を決めて働くことで、時間を効率的に使って、家族との時間も大切にすると。
松本:そうです。
ジェイソン:これは素晴らしいことですね! しかし、理解できないのは、大企業がこれをしないことなのです。大企業では、より長くオフィスにいればいるほど、評価される風潮がありますよね。
でも、それでもなお人々が会社を辞めないのが不思議でならないのです。みんな裏では長時間労働に対して疑問を持っていますよね。
松本:これもある種の同調圧力だと言えます。上司というものは、長時間働くことで上司らしくあろうとします。そして、さらに上の上司にアピールをします。上司と同じような働き方をすればするほど、普通は評価されますね。上司はさらにその上司にアピールする、ということで長時間労働が続いていきます。
日本の経営層というのは、50代以上が大半です。60代や70代もいます。この経営層の高齢化は日本経済にとって大きな問題だと思います。日本社会の高齢化はよく問題として取り上げられますが、会社の高齢化も大きな問題です。とくに経営層の高齢化は顕著です。
彼らが部下を評価するわけですが、部下もまた50代や60代です。彼らがまた部下を評価します。
ジェイソン:つまり、ようやく権力を持つころには定年間近になってしまうということですね。
松本:そうです。彼らは、1980年代や1990年代に30代や40代の働き盛りだった世代ですね。ジェイソンさんは、日本の有名なテレビコマーシャルをご存じですか? エナジードリンクのコマーシャルです。
ジェイソン:こういうのですか? エナジードリーンク!
松本:ああ、いえ、違います(笑)。
ジェイソン:違うんかい!
松本:「24時間戦えますか?」というキャッチフレーズです。
ジェイソン:それは知らないですね。
松本:これは非常に有名なコマーシャルで、まさに当時の理想的な働き方を表しています。つまり、会社のために24時間働き続けるということです。このキャッチフレーズはテレビコマーシャルで使われました。1980年代には、この働き方が社会的に推奨されていたのです。
現在の日本企業のトップレベルは、働き盛りの頃にこのような働き方を経験していきました。このような人々が、部下の昇進を決定し、部下が更にその部下の昇進を決めます。だから、まだ80年代の働き方を美徳とする価値観が根深く残っています。自分たちが経験してきた働き方を否定するのは難しいのだと思います。
ジェイソン:そうですね。自分は間違っていないと主張するのが普通ですね。若い人たちは不満を持たないのでしょうか?
松本:大企業で働いている友人たちは、ストレスが大きいと言っていますね。常に会社に対して文句を言っています。私個人とてしては、そこまでストレスや不平があるのに、会社の辞めないのか不思議でなりません。
ジェイソン:そうです! 私も同じ疑問を持っています。会社にすごく不満があるのに、辞めるのはとてもためらいますよね。
松本:そうですね。
ジェイソン:辞めるのをためらうために、会社がいつまでも改善されないのだと思います。もっと会社を辞めるべきだと思いますが、いかがですか?
松本:そうですね。
ジェイソン:もっと多くの人が会社を辞めることに踏み切れば、多くの問題が解決されると思います。
松本:優秀な人々が楽しんで仕事をできるようにするべきです。プレッシャーやストレスでは、よい業績は生まれません。私はこの会社の創業者ですが、ストレスやプレッシャーを使って人々を管理するスタイルでは、いい会社は育たないと考えています。
創業者の役割とは、より良い会社、より強い会社を作ることです。そのためには、社員が働きやすい職場環境はとても大切です。社員が安心して、会社で働くことを楽しめて、初めて仕事に対する高いモチベーションを得ることができ、素晴らしい仕事ができます。
ジェイソン:その通りですね! 会社が提供できるもっとも素晴らしい働き方は、自由な働き方だと思います。これこそ、誰もが求める働き方ですね。しかし、日本社会のある種のマインドセットが、この働き方を拒んでいるように感じます。
日本社会では、自己犠牲が尊敬される風潮がありますよね。他人のために自己を犠牲にするのはとても、奇妙なことのように思います。これを変えるためにはどうすればいいと考えますか?
つまり、私たちはなにかできることがあると思いますか? ただ、そう言うだけではなく、なにかいい案があると思うのですが。どうすれば、説得することができると思いますか? きっとなにかできることがありますよね。
ここでトピックを変えましょう。松本さんの会社では、70パーセントが女性だとうかがいました。これは本当ですか?
松本:はい、そうです。
ジェイソン:これは、日本の会社としては、めずらしい数字ですよね?
松本:その通りですね。オペレーションチームでは、約100人が働いています。このチームは約70パーセントが女性です。ただし、他のコーポレートチームつまりストラテジーやマーケティングのチームはそうではありません。残念ですが、75〜80パーセントは男性です。
ジェイソン:なるほど。しかし、職場における女性の割合としては、やはり高いパーセントですよね?
松本:そうですね。
ジェイソン:日本の女性たちは正当な評価を受けていないと思います。非常に優秀な女性たちが、そのスキルを活かしきれてない。出産や、子育てなどが昇進の妨げとなります。私は3人の娘たちがいますが、全員日本で生まれ育っています。このトピックは非常に気になりますね。
アメリカの会社も性別で差別がないかといえば、もちろん完璧ではありません。しかし、多くの女性が本当の意味で働きやすく活躍できる環境という点では、日本企業はとても遅れていると思います。
松本さんの会社は、女性の活躍という点では、とても進んでいると思います。どのような取り組みを行っていますか?
松本:これも、あくまでも私の経営方針の結果でしかありません。通常、社員の評価というものは、実績に基づきます。社会全体では、50パーセントが男性で、50パーセントが女性ですね。
私たちのビジネスでは、半分以上が女性のお客さまです。だから、女性の視点というものを導入する必要があります。性別のみでなく、年齢や、エンジニアであるか新卒であるかなど、チーム内のバランスというものがとても大切です。
このチームのバランスというのが、個人の業績よりも重要視されます。
ジェイソン:つまり、あらゆる異なった視点を持つ人々を代表するのですね。その考えには、ある部分で同意しますが、ある部分では同意できません。やはり業績は、もっとも大事だと思います。
いい業績を上げて、いい結果を得てお金を稼ぐことができれば、より多くの利益を得ることができます。そして、さらに会社を大きくして、社員も増えていきます。
あらゆる多様な視点を代表することを重視するあまり、利益を上げる一番簡単な手段を失っているのではないでしょうか?
松本:経営者としては、正直に言うと、優秀なスキルを持った女性を本当に雇いたいと考えています。しかし、中途採用における人材の市場を見てみると、ほぼ男性です。
ジェイソン:女性はいないのですか? よし、行きましょう!
松本:転職市場つまり中途採用における男女の割合という意味では、ほとんどが男性です。
ジェイソン:女性は、中途採用の市場にほとんどいないということですね。なぜだと思いますか?
松本:恐らく女性のライフイベントのためでしょう。もっとも大きな問題は、子どもを出産した後、多くの女性は会社に復帰しません。
ジェイソン:それは、女性たちはチャンスがないと考えているからでしょうか。
松本:おそらく、女性たちはそう考えているのでしょうね。でも実際はそうではありません。今この会場には多くの女性がいらっしゃいますね。みなさん、非常に優秀だと思うので、ぜひ全員雇いたいです。
ジェイソン:全員ですか?
松本:そう、全員です。高い能力を持った人材を雇うというのは、ごく当たり前のことだと思います。多くの日本の企業は以前のような女性を雇用しないというスタイルではないと思います。
ジェイソン:女性たちも、採用される可能性が高いので、中途採用市場に参加するべきだということですね。転職を希望すれば、自分の能力に見合った仕事を得ることができる可能性がある。そういう女性たちを会社も待っていると、メッセージを伝えてください。
松本:今日この会場にいる女性のみなさん、私たちはあなたの力を必要としています!
ジェイソン:オッケー、ラクスルでの仕事を表す名言ですね! それでは時間が来たようです。松本さん、ありがとうございます。みなさん、ご清聴ありがとうございました!
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