
2025.03.28
AIにUIデザインの大半を任せる時代が来たら──先駆者が語る、人間ならではの「コミュニケーション」の価値
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ギャレス・エドワーズ氏(以下、エドワーズ):すべてのミーティングが、2週間で行われました。100人くらいには会ったと思います。アレーを大慌てで車で走り回り、すべてのミーティングにぎりぎりで滑り込みました。
会った人々はみな、同じような様子でした。シニアとジュニア・プロデューサーが同席するのです。要するにトップ・プロデューサーとアシスタントですね。映画を実際に見るのはアシスタントで、質問をしたり話をしてくれます。プロデューサーはこちらを一顧だにせず、ずっと携帯をいじっています。メールをしながら、うなずくだけです。「あ、そう。あ、そう」。
(会場笑)
僕はなぜこの作品を撮ったのか、どのようなキャリアを積んで来たかについて熱弁を振るいましたが、やがてそういったことは時間の無駄だということに気づき始めました。しかしすばらしいことがありました。
僕はレジェンダリー・ピクチャーズ(映画会社)に行きました。『ダークナイト(2008)』『インセプション(2010)』など、クリストファー・ノーランのポスターが掲示された廊下を歩いて部屋に通されると、経営者のトーマス・タルが「今週はどんな予定が入っていますか」と尋ねました。僕は「ミーティングがいくつかと、スクリーニングです」と答えました。
「ではすべてキャンセルしてください。もうミーティングは不要ですから。今後はレジェンダリー・ピクチャーズで映画製作をしてもらい、制作費はすべて当社が持ちます」。
僕は泣き始めました。
(会場笑)
とても恥ずかしかったです。本当のことです、嘘ではありません。どうしても泣き止むことができなかったので「すみません、少し席を外してよいですか」とお願いしました。
僕はこれまで生きてきてずっと、誰かにそういうことを言ってほしかったのです。それが実際に起きた時、これほどまでに衝撃を受けるとは、思ってもみませんでした。
短い面談の後、僕は『GODZILLA ゴジラ(2014)』を監督することになりました。『GODZILLA ゴジラ』は、僕の初監督作品である『モンスターズ/地球外生命体』とはスケール的に大きな差がありました。低予算映画を撮ることにおける有利な点と不利な点を挙げたい場合は、双方を取り換えてみればわかりますが、本当に正反対です。
これまで話したことのなかった逸話をお話ししますね。『ゴジラ』の撮影はカナダで行われたのですが、撮影スケジュールは、作業が膨大であるがために、常に遅れ気味です。スケジュールに間に合わせるために、いつも大急ぎです。
さて、その日も僕たちは遅れ気味で、1時間半ほどかかる撮影場所に向かっていました。僕とDOPスタッフ、アシスタント・ディレクターやアシスタントその他の人々と一緒に、急いで移動していました。
みなさんもご存じのとおり、カナダはロケ現場としてはとても人気のある場所です。セットで撮影が終わったら、次の撮影隊が来るため、大急ぎでその場を空けなくてはいけません。
さて僕たちは、大遅刻で現場に向かっていました。「たいへんなことになった、急げ!」と森の中の大きな湖に向かいました。田園風景をひたすら進みました。全員が道に不案内であったため「道はどちらだ? 急げ!」と、ひたすら道路標識に従って進みました。ところが、セキュリティの人が出てきて止められそうになりました。
映画を撮影していて気分のいいことは「監督を乗せているんだ!」と誰かが叫んでくれれば「さあ、どうぞ! お進みください!」と道を開けてもらえることです。とても気分がいいですよ。
(会場笑)
「さあ、奥へどうぞ!」と言われ、大勢の人々の脇を通過し、カメラや撮影機材のある場所に到着し、車から降りてあたりを見回しました。すると、頼んだ覚えのないセットが建っています。ロケ現場の人と、この奇妙なセットについて話そうとあたりを探すと、顔を見知った人は1人もいません。なんと『猿の惑星』の撮影現場に迷い込んでしまったのでした。
(会場笑)
気が付くと、クルー全員が、僕たちをじっと見つめています。僕たちは、すごすごと車に戻り、ドアを閉め出発しました。僕たちのセットは、丘の反対側だったのです。あれは恥ずかしかったですね。
映画は完成しヒットし、みんな喜んでくれました。しかし、やはりユニコーンや虹は現れませんでした。
奇妙に聞こえるかもしれませんが、宣伝ツアーをしている間、何ヶ月にもわたり5つくらいの同じ質問をされるので参りました。ちなみに、低予算映画では、9ヶ月も宣伝をするので、頭がおかしくなりそうでした。宣伝ツアーでは、バックにいるスタッフが、「このツアーでは多くのことを学びました」などと話さなくてはなりません。「もうこんなことには耐えられない、僕本人にしゃべらせてくれ」と思いました。僕はくたくたに疲れてしまいました。
作品が完成し、友人を招いて大きなパーティが開かれ、会場で映画が上映されました。みんな個々人はいい人たちですが、一斉にこんな質問をします。「プリンストン出のブレーンと働く気分はどうだい?」「零細映画から超大作を手がけるようになった気分は?」。そういった同じ質問が、2ヶ月間ノンストップで続くのです。最後には、脳が拒否反応を起こすようになります。
「これはたまらない」ということで僕たちは逃げ出し、ほかにもすっかりうんざりしてしまった仲間3人と、ダウンタウンのバーへ繰り出しました。すっかり酔っぱらって、騒音の中にいる時。(重低音のドラムの口真似)なぜだかはわかりませんが、僕は携帯を取り出し受信メールを見ていました。なにかすばらしいことが、空から降って来ることを期待していたわけではありません。
僕は、知らない間に1通のメールを受信していたことに気づきました。ピーター・ジャクソンのアドレスからでした。開いてみると、動画が添付されており、現れた灰色の髪とひげの男の姿に「これはガンダルフか?」と思いました。
(会場笑)
騒音でなにも聞こえないので、外に出ました。イヤホンをつけ再生してみると、それはスティーブン・スピルバーグを撮影した動画でした。スピルバーグが『ゴジラ』を見て、その様子を撮影しているピーター・ジャクソンに、誉め言葉を言っているのです。僕はそれを見て、また泣き出してしまいました。
(会場笑)
僕はその場に崩れ落ちてしまいました。僕にとって、それは全世界を意味していました。自分にとってのヒーロー、長年尊敬していた人が、自分の業績を見てくれたのです。とても大きなできごとでした。
その後、僕は大手映画会社の超大作からしばらく手を引き、ファンのプレッシャーから離れることにしました。そして、あの低予算の意欲作です。みなさん、よくご存じでしょう。
(会場笑)
冗談は、これでおしまいにしてよいですか。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016)』です。
(会場拍手)
まるで夢のようなできごとでした。でも慣れるんです。どんなに信じがたいできごとであっても、3週間経つと日常になります。僕の場合は、子どものころから『スター・ウォーズ』のおもちゃなどで遊んでいたからということもありますが。
さっき、バーの話をしている時に、重低音のドラムの真似をやってしまって、失敗しましたね。このタイミングで披露するべきでした。その後の6ヶ月間は、僕はずっとカメラのフラッシュに晒されていました。これは嘘です。
『スター・ウォーズ』の騒ぎが、だんだん落ち着いていくのは僕たちも当たり前だと思っていました。エピソードの狭間の『スター・ウォーズ』を撮影しない、というわけにもいきません。子どもたちに約束しましたし、パンフレットにも撮影すると約束してありますからね。
初日に、アシスタント・ディレクターのトビー(トビー・ホフマン)が、大事なことを忘れないうちに確認をしておこうと言い、デス・トルーパーのヘルメットやストームトルーパーのデザインについてミーティングを開きました。1時間ほど詳細に話し合った後、トビーが「本当に申し訳ないが、このミーティングを一時中止させてもらいたい」と言い出しました。
「どうしたんだ」と僕が問うと、彼はこんなことを言い出したではありませんか。「こんなにすばらしいミーティングは、生まれてこのかたしたことがない。考えてみてくれ。ストームトルーパーについて話し合って、給料をもらえるんだぞ!」。
(会場笑)
「そう言われてみればそうだ。すっかり忘れていた。確かにそうだ!」。
さて、脚本家のゲイリー・ウィッタが、ストーリーに出てくる文物の名前を考えていたのですが、最終的には飽きてしまいました。「ギャレス、君が名前を考えてくれ」。僕は、彼がそう言うのを待っていたのです。「オーケー! なんの名前を考えればいいんだ?」。彼は「映画終盤のアクト3で舞台となる、惑星の名前を頼む」と答えました。
僕は「これはすばらしい! たいへんな責任だ。ちょっとコーヒーを買って来る。惑星の名前を思いついて帰るよ」と言いました。
大手コーヒーショップへ赴き、どんな名前にしようかとさんざん知恵を絞りました。さて、バリスタに「お名前を教えてください」と聞かれた僕は「ギャレスです(“It’s Gareth”)」と答えたようなのです。しかし相手には「スカリフ」と聞こえたらしく、出て来たコーヒーカップにはそう書かれていたではありませんか。
(会場拍手)
戻って来た僕は、ウィッタにコーヒーカップを滑らせて渡し「惑星の名はスカリフだ」と言いました。
この名がTシャツなど、あらゆる物にプリントされているのを見るのは、不思議な気分でしたが、コーヒーカップに間違って書かれた自分の名だとは、誰にも言えませんでした。
(会場笑)
この名付けの手法はなかなかおもしろいと思ったので、何度か同じことを試してみました。例えば「キャラメル・マキアートをください」と言うべきところを「むむむむ」と言ってみました。すると店員さんが「なんですって?」。僕は「とにかく聞いた通りに書いてみてください」。
(会場笑)
もちろんこんな方法では名前をつけはしませんでしたよ。
このように、製作のプロセスはとても奇抜で、柔軟性に富んでいました。僕は、超大作『ローグ・ワン』であっても、僕の初監督作品と同様に、オーガニックに映画を撮影したいと願い、やってみました。いろいろなことがありましたが、1つの例を挙げます。
僕たちは、どのようにカメラを動かしても、どんな場所でもどんな瞬間でも撮影できる、360度展開するセットを作りました。ちなみに、僕の初長編作品でも、同じものを作っていました。
ところが「カメラを左にパンさせて」と言うと、バックグランドにクルーが映り込んでしまい「しまった! カメラを止めて」と中断することになります。再度撮影を開始しても、またもやクルーが映り込んでしまいます。
この二の舞は踏みたくない、ということで、なんとかできないかと知恵を絞りました。マイティは「大丈夫、なんとかするよ。明日には解決方法を思いつく」と言ってくれました。「オーケー」と僕は承知し、翌日に撮影を開始しました。
向こうにクルーがいるのが見え、「困ったな」と思いながら「カメラを左にパン」と指示を出してみました。しかしクルーは移動してくれません。なんと、クルーは全員が、スター・ウォーズの衣装を身につけているではありませんか。
(会場笑)
みんながジェダイの格好などをしているのです。映り込んでもなんの問題も発生しません。キャラクターとして生きてくるのです。「これはいい考えだ」。
そうです、僕が『スター・ウォーズ』製作の指揮を執ることができたのは、たいへん幸運なことでした。オーガニックな手法というのが、最良の表現だと感じます。僕たちはとてもアクティブで、すべての資源を活用しました。ベストなスター・ウォーズを撮影するために、いろいろなことをやりました。
僕たちが最後に撮影したのは、ダース・ベイダーのシーンでした。エディターのジェイ・ベイズがアイデアを出し、キャシー(キャスリーン・ケネディ)に「もう1回撮影が必要だ」と言ったのです。彼女はすっかりいらいらしてしまいました。僕たちは、セットに3日間、缶詰になりました。
そんな時、僕はピーター・ジャクソンが同じ町にいることを聞きました。ジェイ・ベイズが、彼の作品『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビット』などのエディターを務めていたからです。
僕は、ピーター・ジャクソンに「スター・ウォーズの撮影中なので、もしよかったらぜひ来てください。大歓迎です」とメールを出してみました。ところが、しばらく返事が来ませんでした。
撮影も終盤に入ったので、僕は「もう1回だけ連絡をしてみよう」と思い、「あと30分でダース・ベイダーのシーンを撮影開始するので、もし来たいのであれば、ラストチャンスですよ」と、再度メールを送ってみました。すると、速攻で返事が来ました。「30分ですぐ行く! 今から車に乗る!」
(会場笑)
ところが僕たちは、ピーター・ジャクソンがこちらに向かっているということをすっかり忘れてしまいました。反乱軍の背後で、ダース・ベイダーがライトセイバーを点灯するシーンなのですが、まさにそのシーンの撮影を開始しようというところでドアが開き、ピーター・ジャクソンが入って来ました。「今、何を撮っているところだ?」そして彼はすぐに「しーっ!」と言いました。その瞬間「アクション!」と撮影が開始しました。
カメラが入ってライトセーバーが「シュッ」と光り、ダース・ベイダーが次々と殺戮を続けます。とてもかっこいいシーンです。彼は「世界で最高のシーンだ」と言ってくれました。
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