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起業家によるパネルディスカッション(全3記事)

日本に蔓延る「起業を否定する文化」若手起業家らは周囲のプレッシャーをどう乗り越えたのか

2016年12月11日に開催された「ビジネスコンテストTRIGGER2016」のなかで、起業家たちによるパネルディスカッションが行われました。登壇したのはライフイズテック・水野雄介、AMF・椎木里佳氏、READYFOR・米良はるか氏、ラブグラフ・駒下純兵氏。モデレーターはジャーナリスト・キャスターの堀潤氏。本パートでは、4人それぞれが起業して初めにぶち当たった壁について語りました。

法人化は覚悟が決まってからでもいい

堀潤氏(以下、堀):今日は冒頭の基調講演で、クルーズの小渕(宏二)さんが、会社の表面と、そして個人の起業ヒストリーの裏面ということで、本当は現場はどうだったのかなど、いろんな苦労話も合わせて教えてくださったんですね。

みなさん、いろいろやっているサービスって、間違いなくど真ん中のニーズがあると思うんですけれども、一方でそれぞれ経営者として苦労してきたこと、課題だったこと、乗り越えようとした、それは今も悩んでいるなど、いろいろあると思うんですよね。法人化して、そしてビジネスを成長させていく上で、一番悩んでつらかったこと、それぞれどうでしょうかね。米良さん、いかがですか?

米良はるか氏(以下、米良):つらかったこと。そうですね。いろいろあるんですけど。ちょっとその前に今、法人化の話のところでちょっと言いたいことあって。

:ぜひ。

米良:私、先ほどお話したとおり、サービスを立ち上げて、自分が起業するところまで2年間くらいかかってるんですよね。起業して、会社の法人格を立てて、自分が社長になってやろうって思ったまで。

:何年でしたっけ?

米良:2011年にサービスを立ち上げて、14年に会社を創業しています。もともと、こういうことやりたいなっていう、完全な「思い発車」でサービスをスタートしているんですよね。そのときに、ビジネスモデルがどのくらいスケールにするか、どのくらいのマーケットがあるかがわからなかったんです。

私も大学院の1年生のころですし、ビジネスモデルをどう作るか、それこそ初めてビジネスプランを書いたときとか「これで正解なのかな」「これで本当に合っているのかな」と思いながら、エクセルで1.1倍ずつとか叩いていました。でもそんなお金が回る市場ってどういうものなのか……と思ったり。

:規模感がわからない。

米良:そう、わからないんですよね。

:しかもクラウドファンディングの業界って、その当時は国内でもまだなかったんですよね?。

米良:そうです。私たちが日本で一番最初ににスタートしていたので。ある種、プロジェクトみたいなかたちでスタートして、その中で、「自分がこの事業をやっていくのがすごく楽しいな」と思う瞬間がたくさんあって。そして、自分の中で決意が固まっていきました。それがサービスを立ち上げてから2年後や2年半後とかのタイミングだったんですよね。

起業するとなると、どうしても法人を立てなきゃいけない、会社の社長業をやらなきゃいけない。けっこう堅苦しく考えて、なかなか踏み出せないと思うんです。

そもそも私がやっているクラウドファウンディングの仕組みもそうですけど、もっと緩くいろんなプロジェクトでスタートできるような時代に今なっていると思うんです。変に「会社の経営をしたいんです」じゃなくて。もう少し、なにがやりたいのかなとか、本当に軽く始めてみて、その中で自分が「本当にこれがやりたいんだ」「何年後に自分がこういう世界を築きたいんだ」が見えたら会社を作る、というかたちでもいいんじゃないのかなと思っているので。

会社というと、すぐに株式会社とか法人格の想像しちゃうと思うのですが、あまり囚われなくてもいいんじゃないかなという感じもします。「覚悟が決まったらやるのはすごくいいなと思っている」というのを言いたかったんです。

「応援してくれるべき人が応援してくれない」

:いや、すごく大事なポイントですよね。箱があっても中身がなかったらなにもならないですよね。椎木さんいかがですか? 今の米良さんの話を受けて。

椎木里佳氏(以下、椎木):そうですね。自分が法人化するときは大変だったというか、みなさん、たぶんぶち当たる壁だと思うんですけど、「応援してくれるべき人が応援してくれない」ということですかね。

私の場合だと、当時は中3だったんですけど、一応高校で事業が本格的にスタートしたというかたちで。高1のときの担任なんですけど、その担任の先生に、入学式のときに呼び出されたんです。「椎木さん、来なさい」て言われて。

:やだねぇ。

椎木:もう、すごい嫌な雰囲気だなと思って。とろとろと行って。

そうしたら、「あなた、これどういうことですか?」と言われて、私のブログを全部コピーしたやつを、ぶわーと並べられたんです。「これはどういう意味なんですか」と、「全部マーカーで線を引かれていて。

:僕がNHK職員のときに勝手にTwitterやっていて、上司が全部そうやって見せつけてきたのに似てるなって思って。

(会場笑)

PTSD(心的外傷後ストレス障害)になりそうでしたけど。それを学校の先生が?

椎木:そうなんです。入学式の日にやってきたので。

:やってきたねぇ。

椎木:はい。それで一応、「自分はこういうことをやりたくて、まだ事業はぜんぜんできてないんですけど」っていう話をしたら、「いやー、うちの学校はバイトOKだし、芸能活動も禁止してないんだけど、起業っていうのが初めてのケースだから、ちょっとどうなの?」みたいなことを言われて。

「それって、要するにやめろってことですか?」「いや、別にやめろとは言ってないけど、どうなの?」みたいな。

:もう、ほぼほぼ。

椎木:暗にやめろっていうことを言われてたんですけど。

その先生はずーっと、担任の間は、授業の終わりに私を呼び出して、「今、なにやってるの?」「昨日テレビ見たけど、タレントとしてやっていくわけ?」とか。すごい嫌み言われたりとか。

:それ、悲しいですね。本来、感度のいい先生だったら、「椎木がやっているようなビジネスのことってみんなと一緒にシェアしたいよね、どういう話ができるかディスカッションしてみる」とか、いい方向にいくらでも展開できるはずなんですけどね。

椎木:そうなんですよ。すごく抑圧されまくって、周りの生徒の子たちも「若干いじめっぽくなってない?」みたいな感じになって。

:本人は本人で話題になっていくから、当然メディアにもどんどん出ていく。でも学校って日常生活の中ではちょっと状況が違う。

椎木:学校では、直接担任の先生と自分の父親の2人で話してもらって。私がいくら事業のことを説明してもわかってもらえなかったので、父親の口から説明してもらったんです。それでやっと、「そういうことなんですね。まぁ、いいでしょう」みたいな感じで、納得してもらって。結局、高校卒業するまで「あんまり応援しないよ」みたいなことを言われたり。

:それは寂しいですねぇ。逆にそういうときは、なにが支えになったから続けられたんですか?

椎木:支えになったのは、自分。あとは家族、友達ですかね。

責任を負うことが一番大変

:いいですね。まず支えになったのは真っ先に自分。いや、すごく大事なことかもしれないですね。今日のTRIGGERでも、とにもかくにも自分のハート、ここを見ますからっていう話でした。そのあたり、駒下さんいかがですか?

駒下純兵氏(以下、駒下):そうですね。起業して大変だったことは、やっぱり仕事もいろいろあると思うんですけど。僕が一番感じたのは、「人の人生を背負うという責任を持つこと」と思っています。やっぱり、優秀な人を採用すればするほど、「もしかしたらこの人は、もっといい人生があったかもしれない」と。

:なるほどね。

駒下:もちろん、わくわくと不安、どっちもあるんです。でも、その責任を負うことが一番大変なことなのかな。とくに最初の社員に対しては、「自分の人生はどうなっても自分の責任だけど、この人にそんな思いをさせるのは……」みたいなことを考えると、そこは大変だったなって思います。

:それって、今、自分の中でその感覚からはなにか折り合いはつけられたというか。

駒下:そうですね。そこでいうと「社長の仕事ってなんなんだろう」と考えたとき、僕は大きく2つあるなって思っているんです。

1つは事業を大きくすること。事業を大きくして、より多くの人にサービスを届けるみたいなことがたぶん社長の仕事かなと思っていて。もう1つが、社員を守ること。これができればたぶん、社長としての仕事はばっちりなのかなと思って、それだけにフォーカスしています。

:社員のみなさんは今、何人ぐらいになるんですか?

駒下:社員は今、7人とかですね。

:7人の人生を自分が背負う、腹を括ったということですね。水野さんいかがですか。水野さんはどんどん会社が大きくなっていく中で、責任も増えていくでしょうしねえ。

水野雄介氏(以下、水野):そうですね。ただ、けっこうポジティブなんで。

:ポジティブ。

水野:失敗とか、あまり覚えてなくてですね。起業してから成長しているっていうのがあると思うんですけど、いい思い出しかないんです。本当に起業してよかったなって。

:逆にいうと、武勇伝的な、「あの逆境をよく自分は乗り越えたな」とか「ふつうならピンチだろうなっていうところをチャンスにしたな」という話とかは? 自慢を聞きたいです。

水野:自慢というか、すごく印象に残っているのは創業当時、カヤックの柳澤(大輔)さんですね。カヤックの理念は「つくる人をつくる」なんですよ。

こういう講演の後にぱっと行って、「時間ください」「僕ら中高生のつくる人を増やすっていうことをやるんです」と言って、それで時間もらって。「そういうことやるんだったら、うちのホームページを作ってくれるのはカヤックさんしかいません」っていうところで。

カヤックさんってそのとき、ユニクロから1,000万とか、そういう単位でしか受託してなかったんです。

:もともと知り合いだったの?

水野:いや、もともと知り合いじゃなかったです。

:飛び込みで?

水野:はい。

先輩起業家へ突然の1分プレゼン。しかし……

:最初はどうやって、タッチしたんですか? Facebook? メール?

水野:最初は、こういうの講演会を狙っていって。この後ろで。もう、その1分が重要なんですよ。そこで、名刺交換して、その1分で「こいつおもしろいな」と言わせるのが大事で。その後、すごい重要なメールを1本打って。

「5分だけ時間ください」っていう感じで。その15分もらったときに、その話をして。それで、「言い値でいいよ」と言ってくださって。でもそれが、昔は、アメリカのキャンプっていうのをフランチャイズでこっちで展開するっていうビジネスモデルだったんです。

:あ、ライフイズテックの初期。

水野:はい。最初の頃です。でも、アメリカでそれが結局うまくいかなくて、すべてオジャンになっちゃったんですよね。だからもう、カヤックの中でも人が動いて、デザイナーもエンジニアも動いているなか……。

:あー、総取っ替えというか。

水野:はい。だからそれを、「すみません、一回できなくなりました」というのをカヤックの柳澤さんに謝るときが、すごくきつくてですね。でも、その1年後とかに、「また書き換えるんだったら来て」と言ってくださって、その後、キャンプでも講演に来てくれたりとかって、ずーっと支援していただいて。

そういう、ピンチのときにこそ、助けてくださったというか。それでもずっと応援してくださっている方に対しては「すごいありがたいな」というか。

:1つのターニングポイントですね。

水野:でしたね。

:それぞれ、でもみなさん、あるんじゃないですか? いろいろな事業を続けていく中で、ターニングポイントというか、今振り返ったらもう1回やるのはちょっときついかもなと思いつつ、あれよくやったなっていう。

今の、まさに水野さんのエレベーターピッチ的な、瞬時に人の心の中に入っていける。相当な怖さもあったと思うんですけど、やったわけですよね。

水野:そうですね。もう、そればっかやってましたね。

:そうですか。けっこう他の場所でもやってる?

水野:はい。孫さんにもやったし、藤田さんにも。

:孫さん!? 藤田さん!?

水野:「あのときに行ったんですけど」とか、その後も仲良くさせていただいているので行ったんですけど、ぜんぜん覚えてなかったり。「いや、企画書もらったかなぁ?」「ちょっと覚えてない」みたいな。そんなこともありつつ。

:どうですか、椎木さん。

椎木:いや、すごいですね。なんか、マライア・キャリーみたい。

:マライア・キャリー(笑)。

椎木:マライア・キャリーって、自分のCD音源を持ち歩いてて、いつでも会えたら営業できるようにずっと準備してたっていうのを聞いて。

ちょっと水野さんは、マライア・キャリー入ってない?

水野:それはすごいよね(笑)。

周囲のプレッシャーや反対意見が出る文化

:今ですね、カズさんという方からTwitterで、水野さんに「さっき椎木さんの話していた、起業などを否定し続けるような人の可能性を否定する教育をする教師、またはそういう教育があることについて、その原因など、思うことがあれば知りたいです」と入りました。

逆にこれは椎木さんのケースだけじゃなくて、なにか新しいことをやろうと思ったときに、それは学校も会社もそうですし、社会もそうかもしれない。「それ無理じゃない?」「それやめたら?」と言う人、いますよね。

水野:はい。

:これ、根源はなんなんでしょうね?

水野:根源はやっぱり、「新しいものを変えるのが一番いいよね」っていうところの文化作りかなぁと思ってます。それを変えるのにはかなり時間がかかります。僕は学校教育という意味ですごく変えていきたいと思ってチャレンジしていきますが、今それを、じゃあどう打破するかっていうと、やる側がなにか否定されたとき、「じゃあお前、聞かなくていいよ」と心の中で思っているぐらいのタフさがないといけない。

:なるほどね。

水野:今は、それを打破するには難しいのかなと。でも、本質的なところでいうと、これまでこそ進化の歴史なので、そうったものを否定したら人間じゃなくなっちゃう。

:そうですね。

水野:その進化っていうものが日本の中での文化を作ってきました。そういうところが重要なのかなと思います。

:米良さんはまさに開拓者の一人ですよね。どうですか、今の話。

米良:Readyforには、なんらかの新しいことを始める方々ばかりで。でもだいたい、なにか始めるときは、周りの人や家族から、やっぱりネガティブなことを言われてしまうことはよくあるんですよね。

:あ、やっぱりあるんだ。

米良:あります。本当になにかをやる一番のハードルって、精神的なものが一番大きいなぁと思っていて。実は、お金がないとか、人が足りないとかじゃなくて、周りからのプレッシャーや反対意見とかで、だんだん心が折れてしまう。

それによって始められない方が本当に多いと思っていて。なので私たちも、サービスの中でなにかを始める人たちに対して、チャレンジすることがすごく素敵なものになるようなコミュニティづくりやサポートなど、Readyforの中でもやってます。

ベンチャーへの入社を反対する親御さんを説得

あと、もう1つは、ベンチャー経営をやってると、新卒などで毎年新しいメンバーが入ってくるわけですけど。そこで、家族の方を納得させるのがけっこう大変なことの1つだったりして。

:親御さんはどうしてもね。優秀な子になればなるほど、「大丈夫?」って。

米良:そうです。有名な大学を卒業して、素晴らしい会社から内定をもらっていて。そこでReadyforに行くって本人が決めても、親がなかなか納得してくれない。2年前くらいにある子がうちに決めたと言ってくれたんですけど、家族がベンチャーにはいることに対して心配しているということでした。なので、私が今までREADYFORが出たメディアを全部集めて、事業計画書も作成して、「お父様にお渡しください」と言って……。

:親御さん向けプレゼン。

米良:はい。「もし駄目だったらすぐ親に挨拶しに私が行くから」と話をして。それはOKだったんで、大丈夫だったんですけど。でも、気持ちはわからなくもないですよね。

:確かにね。

米良:新しいビジネスで、ご両親が大手の企業とかにずっとお勤めだったりすると、自分の子供がまさか知らない企業に行くなんて……となってしまうと思うのんです。もうそこは本当にコミュニケーションをしっかり取って、ちゃんと納得して、ご家族にも応援していただいてがんばっていくことが大事かなって思うんですが。その、がんばる人を応援するコミュニティ作りというのがすごく大事だと思います。

:確かに。起業する主体者側になったら、しばらくサービスを立ち上げて、膨らましていく過程では本人ががんばればいい。だんだん大きくなってくると新たな人材を、どういうふうに自分たちの仲間にしていくのか。これはやっぱり、経営者たる所以というか、マネジメント能力を問われるわけですよね。駒下さん、いかがですか?

駒下:そうですね。そこでいうと、うちの場合だと、かなりビジョンが強烈っていうのもあって。

:えぇ。明確っていえば明確です。他に類を見ないサービスではありますよね。

駒下:僕、会社には大きく4つあるかなって思っています。

1つが、ユーザー・ドリブンな会社。たぶんユーザーがこういう課題抱えてるよねっていって立ち上がるユーザー・ドリブンな会社です。もう1つがマーケット・ドリブンな「この市場が熱いから」と立ち上がる会社。もう1つがテクノロジー・ドリブンで「この技術が熱いからこの市場、この技術で勝負しよう」いう会社。そして最後にビジョン・ドリブンな会社がくるかなと思っていて。

:ビジョン・ドリブン。

駒下:まずビジョンが決まって、その手段として、このサービスが作るっていう会社。それでいうと、うちらも完全にビジョン・ドリブンな会社かなと思っています。

要するにうちは写真が撮りたかったわけではなくて、結局は「人を幸せにしたかった」みたいなものが先にあって、その手段として僕は目の前にカメラがあった。そして「そのカメラを通して人を幸せにするってことができたらいいよね」と立ち上がっている会社なんです。

「その手段の部分は、みんなに任せるよ」と。目的さえみんなで一緒だったら、みんな一緒にやっていけるよねという世界観の会社であるんです。

:そうですねぇ。

駒下:人材採用するときは、そこさえ合っていればもうなんでもいいかなと思っているって感じ。

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