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スタジオジブリ名プロデューサーに学ぶ「仕事術」(全4記事)

「仲間を増やすほど仕事はおもしろくなる」ジブリを支えた名プロデューサー鈴木敏夫氏の仕事観

スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫氏と、元ジブリで鈴木氏の弟子にあたる石井朋彦氏のスペシャル対談「スタジオジブリ名プロデューサーに学ぶ『仕事術』」。ジブリ流の仕事術を叩き込まれた石井氏が、鈴木氏から教えられた独自の仕事観を語ります。「仲間を増やすほど仕事はおもしくなる」「他人から必要とされる自分が自分である」など、悩めるビジネスマン必見の言葉が目白押しです。

仕事は仲間を増やすほどおもしろい

藤巻直哉氏(以下、藤巻):次行きますね(笑)。じゃあ次のキーワード、その2。「仲間を増やせ」。これどういうことなんですか?

石井朋彦氏(以下、石井):やっぱり僕、団塊ジュニアなんで自意識過剰の先駆けですよね。なんとしてでも自分でやろうとか、負けるものか、とかね。ライバルとは違うことをやろうみたいな。自意識過剰なわけですよ。それじゃだめだと。

「仕事っていうのは仲間を増やせば増やすほどおもしろいんだから、とにかく仲間を増やして得意技を決めろ」って言われたんですよ。「お前の得意技はたぶん、AさんからBさんになにかを伝えることである」と。それ以外はあんまりなさそうだったんですけど(笑)。

藤巻:(笑)。

石井:「お前に無いものを持っている人って必ずいるから、そいつと組め」って言われたんですよね。それで、得意技の見つけ方を教えてやろうって話になったんですよ。「宮崎駿の得意技はなんだ?」って言われたんですよね。「アニメーションの天才ですよね」、「でもアニメーションの天才っていっぱいいるだろう」と。

「スピルバーグもいれば高畑さんだって天才かもしれないじゃないか。そんなんじゃだめだ、もっと細分化しろ」って言われて。「宮さんの得意技は実はストーリーでも企画でもなく、誰も見たことがないおもしろいキャラクターを思いつく名人なんだ。これだけは世界で唯一、宮さんしかない突出した特技だ」と。

「だから俺は宮さんにそういう企画をやるように仕向けてきたし、宮崎さんがそうじゃない得意技でやろうとした時は『いや、ちょっと違うんじゃないですかね』って言って、常に宮崎さんがそういうふうになるようにしてきた」と。

藤巻:なるほど。

石井:だから自分の周りのいろんな関係者の得意技を、その人にしかない得意技まで全部言葉にして、それをいっぱい集めると仕事はおもしろい。そうすると相手のことも尊敬できる、というような教えでしたね。

藤巻:そういう仲間を増やせと?

石井:増やせ。うん。

藤巻:じゃあ自分とかぶるような、人のあれをそのまま伝える能力、に長けた能力を持ったやつはいらないと。

同世代の飲み会には意味がない

石井:一番あれなのは、僕も当時22、23歳なんで飲み会に誘われるわけですよ。同世代飲み会。これは鈴木さんに同世代の飲み会に行くのを禁止されたんです。

藤巻:ふうーん。

石井:「行くな」って言われたんですよ。

藤巻:それは意味ないってこと?

石井:「同世代が同じ夢を持って夢を語ってても、その世代にできることなんかないんだから人の悪口言ってるだけだろう。だから組むんだったら自分より上の人か、決定権のある人か、もしくは自分に持ってないものを持っている人か。同世代の飲み会っていうのは一番無駄だから行くな」って言われたんですね。

藤巻:そんなこと言ったんだ。びっくりするね(笑)。

石井:でも確かにそうなんですよね。楽しいし楽だし、終わった後はなにかした気になるんだけど、別になにもならないわけですよね。鈴木さんは「俺は若いころ1回もそういうとこに行かなかった。俺は常に自分より若い人か、自分より年上と仕事してきたんだ」。確かにあんまり鈴木さんの周りに同世代いないですよね。

藤巻:確かに。

鈴木敏夫氏(以下、鈴木):(藤巻とは)同世代じゃん。

藤巻:ぜんぜん違いますよー。

石井:(笑)。

藤巻:何言ってんの。もうすぐ70(歳)じゃないですかー(笑)。

鈴木:今の石井の話で宮崎駿の得意技は何かって言われて、僕も考え込んじゃったんですよ。

藤巻:(笑)。宮崎さんの得意技?

鈴木:うん。なんだろうって。

石井:(笑)。

鈴木:石井が答えを教えてくれるのを待ってたんですよ、今。

藤巻:忘れてたってことですね。

鈴木:そう。忘れてたんですよ(笑)。

一同:(笑)。

鈴木:奇妙奇天烈なものを作る、そういうキャラを目指すことだって言われて。確かにその通りだよね。

藤巻:それ以外は大したことないってことですか?

石井:それ以外はライバルがいる。それ以外は宮崎さんと同じか、それ以上の人がいると。

鈴木:やっぱ宮さんってねえ……、あ、これLINE LIVEですよね(笑)。

藤巻:これも内緒に(笑)。

一同:(笑)。

鈴木:お話は、まあまあですよね。

(会場笑)

藤巻:知らないですよ、これ(笑)。

鈴木:1番いい話しますよ。

藤巻:Yahoo!ニュースとかありますよ。

『となりのトトロ』制作秘話

鈴木:わかりました(笑)。端的に言うと、『トトロ』を作ってる時、実は同時に『となりのトトロ』って高畑勲監督の『火垂るの墓』と2本立ての映画だったんですよね。同時にスタートなんですよ。僕は立場として両方に関わらないといけない。

宮崎駿って人はすごく人が何をやってるか、とくに高畑さんに関しては気になってしょうがない。「鈴木さん、『火垂る』はどうなってるんだ」と。自分は自分で『トトロ』の企画考えてんですよ。でも一方で『火垂る』のことが気になってしょうがない。

僕が「『火垂る』はだいたいこんな感じになりますかねー」って言ったら「何それ」ってすごい真剣な顔になったんですよ。「それ文芸作品じゃん」って。「まあそうですよね、文芸作品ですね」「そんなに本気でやってんだ」って。

石井:(笑)。

鈴木:「どうしたんですか」って言ったら、とっくにいろんな設定できてたんですよ。設定っていうのは「トトロ」はこういう人だとか、「猫バス」はこうだとかね。「トトロ」がコマに乗って空へ飛ぶとか。そしたら「鈴木さん、猫がバス? そんなばかなことやってられないよ」って。

一同:(笑)。

藤巻:え、本当ですか?

鈴木:本当。

石井:「猫がバス?」ってすごいですね(笑)。

(会場笑)

鈴木:「向こうが文芸大作やってんのに、猫がバスなんてばかなことやれないよ」「『トトロ』がコマに乗って空飛ぶ? 冗談じゃない、もうそういうのは全部やめる」と言い出した日があったんですよ。

藤巻:へえー。

鈴木:ちょっと違うのは「トトロ」だけ。後は俺も文芸でやると。これ大変だったんですよ、説得するのに。

高畑勲監督と、宮﨑駿監督の関係

藤巻:たぶんご覧になってるみなさん、高畑さんと宮崎さんの関係ってよくわかってない。

石井:高畑さんが師匠ですよね。

藤巻:高畑さんは宮崎さんの東映動画の先輩で、宮崎さんの才能をいち早く見出した方なんですよね。

鈴木:そのとおりです。

藤巻:だから宮崎駿さんも鈴木さんの言葉を借りると、高畑勲さんを尊敬してやまない。だから今でも宮崎さんの師匠みたいなものであると思うんですよね。だからちょっとどこかでライバル心があって、今の話だと『火垂るの墓』の内容を聞いて、ちょっとメラメラ。

鈴木:顔色が変わったんですよ。

藤巻:あれ、尺もあったんですよね?

鈴木:そうですよ、もう。

藤巻:2本立てだから、時間も短い。

鈴木:僕は本当は2人に60分で作ってほしいと。そうすれば期間に間に合うかな、なんてやってたら。高畑勲っていうのは丁寧な言い方すると「一生懸命に仕事をする人」なんですよね。一生懸命に仕事をするから気が付くと長くなってるんですよ。

一同:(笑)。

石井:深い、言い方ですね。

『トトロ』の上映時間は60分だった

鈴木:細かい話なんですけど88分。僕は頼んだの60分なんですよ。関係ないんですよね。88分なんですけれど実際、最初の絵コンテは100分近くあったんですけど、ま、それは置いといて。それで宮さんが「『火垂る』はどうなってんだ」と。「尺は何分だ」と。「80分ちょっとですかね」と言ったら、「だめだ鈴木さん、今の案じゃ」と。「俺も60分では作れない」と。

(会場笑)

鈴木:俺も80分にするよって。ああそうですか、どうやってやるんですかって言って。「どうしよう?」って。

(会場笑)

鈴木:これおもしろいから言っちゃうんですけれど、今でこそ「さつき」と「めい」っていう姉妹の話。実は最初の案では女の子は1人だったんですよ。僕を前に彼もいろんな話するうちに思いつくんですね。「わかった! 姉妹2人にしよう!」って。姉妹にすれば長くなるって(笑)。

(会場笑)

鈴木:だからさっきの「猫バス」とかそういうの、説得大変だったんですよ僕。絶対おもしろいんだから。

石井:だって120分が160分になっちゃうわけですもんね、最終的には。

藤巻:だから2本続けて観たらすごい時間。

鈴木:そうそう。

石井:このあいだ、これも鈴木さんと宮崎さんと高畑さんが誰が一番長生きするか、って宮崎さんがシミュレーション始めたんですよ。言っていいですか、鈴木さん?

鈴木:どうぞどうぞ(笑)。

石井:まず一番最初は鈴木さんだと。

鈴木:なんで俺が先に(笑)。

石井:次は俺だと。最後、高畑さんは誰もいなくなって、自分で棺桶のふたを閉めて本を読む、って言って終わったんです(笑)。

一同:(笑)。

藤巻:読みながら死ぬ?

石井:いや、死なないって(笑)。それくらいやっぱり、仲間かライバルなんでしょうけど大事なんでしょうね。

藤巻:まあ仲間ってある意味、ライバルも含んでるのかもしんないですね。

自分のことじゃなくて、人のことを考えろ

石井:あともう1つ。「自分のことばっか考えてるやつは、ちょっと言葉があれですけど、広義の意味では、いわゆる病名じゃなくて鬱になるんだよ」って、鈴木さんよく言ってて。「人のこと考えてみ。人のこと考えてる間は絶対にそうはならないからな」って。

だから朝起きたらまず自分のことじゃなくて人のこと考えろ、というのは今でもやってますね。朝起きたら自分のことを考えずに、今日は誰にどういうふうに過ごしてもらおうかな、みたいな。誰と打ち合わせするか、どういう話をするのかなーとかしてるうちに、だんだんテンション上がってきて楽しくなるんですよね。

鈴木:熱血漢だから。

藤巻:立派なこと言ってますね。

石井:鈴木さんが。

鈴木:僕は言って……あ、僕が言った。

一同:(笑)。

他人に必要とされる自分が自分である

藤巻:時間もあれなんで、次のキーワードに行きますよ。「他人に必要とされる自分が自分である」。

石井:鈴木さん、おっしゃったことは覚えていらっしゃいますか?

藤巻:覚えてるわけないですよね(笑)。

鈴木:少しは覚えてる(笑)。

藤巻:これはどういうことですか?

石井:さっきの話に近いんですけど、自分がやりたい仕事とか、自分探しとか、自分がやりたい仕事は別の仕事の気がするといって、やめている人が多いんですよね。それはジブリもそうだし、たぶんよそもそうなんですよ。そんなバカなことはないよね。

だって誰かに必要とされて初めて自分がいるんだから、いわれた仕事を一生懸命やればいいじゃん、と。最初、僕にはわからなかったんですよ。それはきれごとだろうと思ったんですけど、実際にはそうなんでしょうね。人からいただいた仕事のほうがうまくいくし。あと鈴木さんは「自分でやると自分で責任を取らなきゃいけないじゃん」というんですよ。

一同:(笑)。

石井:自分で決めて自分でやるとなると、自分の責任を取らなくちゃいけなくて大変じゃん。でも人に言われたことをやっているうちは責任もないし、でも頑張れるし楽しい。人から必要とされることをやれと。お前がやる仕事は、俺がやる仕事なんだから。

藤巻:それを一生懸命やれと。

石井:一生懸命ということですね。これが本質だと思いますね。

鈴木:今日のトーク、いいトークですね(笑)

藤巻:そりゃ、だって今日は鈴木さんヨイショのトークしようっていったんですからね(笑)

鈴木:何を言いたいかというと。いつも藤巻さんと話していると、その場で思いついたことしかしゃべってないわけだよね。ところが今日は構成案があるんですよ。

藤巻:作っていただきました。

鈴木:藤巻さんだってそれにそってやっているわけじゃん。

藤巻:そうですよ。そうですよね。

鈴木:やっぱり構成案って必要なんだね。

藤巻:だいたいそうですよね。鈴木さんの講演とかを聞いていると、何か話が脱線、脱線、脱線……。戻ってこないのね(笑)

鈴木:すみません(笑)

藤巻:これがあると戻れるというのはありますね。

鈴木:たしかに。

オリジナリティーなんて、ない

石井:あとオリジナリティー。「自分の創造性にこだわるとか、自分にしかないアイデアとか、そんなのはないんだから、そういうことを考えるのはやめな」というのは鈴木さんから。

藤巻:僕は宮崎駿さんもすごいなと思うんですけど、久石さんもそうです、「俺のオリジナルなんかなにもねーよ」と。それは生きてきた中で吸収したものを自分なりにどうアウトプットしているかだけで。世界の宮崎駿が「俺のオリジナルはないよ」なんて言うんだと思って。すごいなって。

石井:宮崎さんはバトンのようなものだといっていますよね。人からもらったバトンをしばらく持って走って、それを人に渡すのが俺の仕事だといっていましたね。

鈴木:かっこいいよね。

一同:(笑)。

藤巻:でも、宮崎さんはすごいなと思いますよね。そういう哲学的な話を聞くにつけ、この人はすごいなと思います。

鈴木:思っているの?

藤巻:思いますよ。

石井:ただこれも、こないだNスペ(注:2016年11月13日放送のNHKスペシャル)で紹介されましたけど、宮崎さんは次の新しいお仕事に向かっているじゃないですか。

藤巻:企画書を鈴木さんに渡しましたよね。あれがどんな内容だったんですか? 中を見せてもらってなかったんですけど(笑)。

石井:やっぱり鈴木さんに読んでほしいんですよ。

藤巻:宮崎さんはね。

石井:でも鈴木さんは読まないんです、わざと。先々週読まれたんですか、鈴木さん。

鈴木:読んだよ。

石井:(宮崎さんが)「読んでくれたんだよ」ってうれしそうに。

鈴木:アハハハハ!

制作が難航している新作「毛虫のボロ」

石井:だから去年の年末も『毛虫のボロ』がけっこう大変なことになって、僕ら年末はおおわらわだったんです。

鈴木:今、美術館用のアニメで『毛虫のボロ』というのをジブリで作っているんですけど、実は今石井は別の会社にいながらも全面的に手伝ってくれていて。

石井:現場のお手伝いをしているんですね。年末には、もう……これは言っていいですかね?

鈴木:(頷く)。

石井:いろんなことがあって制作中止か、そこまでなったんです。

藤巻:去年末ということ?

石井:そうです。大晦日、僕らは大騒ぎになって。鈴木さんは、わざと宮崎さんに会わないんですよ。僕だったら会っちゃう。会って何とか解決しようとするんですよ。正月1日2日3日と僕も眠れない夜を過ごすし、宮崎さんだってそうなんですよ。これまでやってきたんだからね。

藤巻:一方、鈴木さんだけ寝ていると。

石井:そうそう(笑)。ジブリの始業開始が5日だったのかな。鈴木さんは、わざわざ4日に朝早く宮崎さんの事務所に行って……待ってるんですよ。

鈴木:よく知ってるな(笑)。

藤巻:作戦。

石井:宮崎さんは誰もいないはずで入ってきたら鈴木さんが待っているから、そこで「鈴木さん!」と言って、そこで初めて話を聞いてもらって、翌日から何事もなかったように制作再開になる。

藤巻:そういうところ感心するところですよね(笑)。

一同:(笑)。

鈴木敏夫氏の交渉術

藤巻:本当に! この男は何を考えているんだというのは昔からですけどね。『もののけ姫』というのがあって、夏休み公開をして、普通だと冬休み前に終わるんですよ。だけど『もののけ姫』というのは当時の映画業界的にはすごく人が入って、これについても語りたいことがあるんですけど。

やっぱり鈴木さんのまったく映画業界じゃない人の発想でやったので、『もののけ姫』も当時では異例の200億という数字をたたき出したんですね。知りたい方は『ジブリの仲間たち』を読んでもらいたいんですけど。

石井:ぜひぜひ。

ジブリの仲間たち (新潮新書)

藤巻:僕は東宝に試写室というのがあって、それをたまたま正月、年末、12月の頭くらいだと思うんですけど、見終わって出てきたところでばったり鈴木さんに会ったんですよ。それで鈴木さんが「これから暇?」というので「暇ですよ」と言ったら「ちょっと付き合って欲しいんだよ」と言って、当時、専務がいたんですけど、その専務の部屋に一緒に連れていかれたんですよ。

実は『もののけ姫』というのは、電通が広告会社として出資していたんですね。僕は当時博報堂にいて、博報堂の映画でも何でもないので関係ないんですけど、一緒に連れていかれて。その西野さんという専務に「これから『もののけ姫』を正月興行したい」と。正月というのは、映画業界的にも夏休みに次いで大きな興行なので、大作がくるのでいろんな映画館を空けなきゃいけないわけですよ。

それを『もののけ姫』を、今のまま正月を越してくれ、という交渉を東宝とする話合いの場だっただんですね。そこに何の関係もない俺を連れて行ったんですよ。俺は何だかさっぱりわけもわからないんですよ。試写から出てきたらそこに引っ張って連れていかれて。

それで交渉成立したみたいでね。帰りに「なんで俺が『もののけ姫』のためにあそこにいったんですか?」「あれは電通が出資している映画だから、博報堂の藤巻さんが行くだろう。西野さんは、『えっ? 何でこんなやつが来ているんだ?』と思うじゃん。そこにスキが生まれるんだよ」。

(会場笑)

藤巻:はぁ? みたいな(笑)。

石井:そこですよね(笑)。

その一瞬にすべてをかける

藤巻:今の話も、たぶん正月に宮さんよりも先に事務所に行っていればびっくりするじゃない(笑)。

石井:だって1日遅かったら宮崎さんは現場で前作中止と言っていたかもしれないですね。ここですよね。

藤巻:それもたぶん何も考えてないんだと思う。

鈴木:考えてないなんて(笑)。

石井:本当に考えていたら、事前に俺に連絡してこの時間に東宝に来てくれないか、というのがあると思うんだけど、たまたま俺が試写室からぶらっと出てきたらばったり会って、「これから暇? ちょっと付き合ってくれない?」というわけですからね。

石井:それで決まったんですよね。

藤巻:単なる思いつきで生きていると思うの。さっきから言っているように鈴木さんはそんなに考えて生きていないから。ただ、僕は鈴木さんがプロデューサーとして最高の能力は運が良いということだと思う。本当に(笑)。

鈴木:藤巻さん(笑)。

藤巻:一言で言うとね。

石井:ただ運の引き寄せ方を教えてもらったとしたら、自分1人でやらないことですよね。そこで鈴木さんがめん玉ひんむいて自分1人で突っ込んでいたら、たぶんその結果にならなかったんじゃないですか。

藤巻:それは必ず。

鈴木:僕ね、誰かに学んだんですよ。誰かに学んだと言うのは、その一瞬にすべてをかける。だからいつも今が大事だと思ってるの。今ここが。

藤巻:かっこいいじゃないですか。

鈴木:今と一緒。本当なんですよ。だからあまりごちゃごちゃ考えて何かやろうとすると、それはたいがいうまくいかない。だからたまたまいたでしょう。いいなって。

藤巻:おお! いいやつがいたよって(笑)

鈴木:そうそう(笑)

藤巻:たしかにそれで東宝の専務は俺が一緒に入っていったら、「なんでだろう」と思ってひるんだんですよ。「そこにスキが生まれるんだよ!」って(笑)。

鈴木:いや、もうちょっと言い方は品が良かったですよ(笑)。

藤巻:いやもっとその時はひどかったですよ(笑)。「この人は下品な人だな」と思いましたね(笑)。

大切なのは、今

石井:その他で僕が一番思い出すのが、なにか仕事がぐちゃぐちゃすると「なにが大事だったの」とずっと言うんですよ。「なにが大事だったの」「なに? なに?」とみんなに聞いていくんですよ。結局ちゃんとした本質に戻ろうとするんですよね。

やっぱり自分自身も思い込んでいることもあるし、まわりもいろんなことを忘れてしまってぐちゃぐちゃなときに、みんなを集めてなにが大事なのかということをずっと話して言葉にして。

藤巻:今LINEのコメントで、「鈴木さんはきっと脳のそろばんを弾くのが早いんだろう」といううまい表現をしてますね。

石井:そこは鈴木さんどうですか。

鈴木:いや、そうですかね? ピアノは弾けないですけど。だからギターは弾けます。あのね。なんていうんだろ。さっき一番初めに石井くんに言ったことがあるじゃない。

石井:なんですか?

鈴木:なんだったっけな。さっきおもしろいなと思って聞いていたんだけど、一番初めに。

石井:公私混同。自分を捨てよ、と。

鈴木:そう、それも今の話と関係あるなと思ったの。やっぱり今ここに。全部を考えない。

石井:先のことは考えないってね。

鈴木:そう。先の事は考えるな。だからといって過去を考えてくよくよしても仕方がない。そうするとそれはなにかというと、今とここということじゃない。それって、最近いろんな人がそういうことに興味持っていますけど、禅の教え。

藤巻:禅?

鈴木:そう。

藤巻:またそんな(笑)

鈴木:禅は何が大事かといったら、今なんですよ。

藤巻:へー。

鈴木:要するに先のことを考えて今いると、ろくなことにならないんですよ。過去のことを考えてくよくよしていてもだめでしょ。やっぱり今とここに集中なんですよ。

藤巻:なるほど。

鈴木:そう。

石井:たぶん鈴木さんの決断が早いのは、もちろんいろんな経験とか積み重ねとかもあるんですけど、こんごらがってぐちゃぐちゃになってないんだと思うんですよね。この瞬間何が大事なのというのをパーンと答えを出すので、まわりからすると「はやっ!」となるんですけど。

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