2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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瀧本哲史氏(以下、瀧本):どうもご無沙汰しています。
山梨広一氏(以下、山梨):テレビではよくお見かけしていますが、かなり久しぶりですよね?
瀧本:おそらく山梨さんは憶えていないと思いますが、僕がマッキンゼーに入社するときの面接官が、山梨さんだったんです。
山梨:そうでしたっけ? 何年入社ですか?
瀧本:僕は97年入社で、96年の12月24日に面接を受けました。山梨さんともう1人の方に、3時間近いインタビューを受けたんですよ。
山梨:よく日付まで憶えてますねえ。
瀧本:さすがにクリスマスイブでしたからね(笑)。「この人たちは、こんな日にまで仕事してるんだ!」と驚きました。あとになって思えば、クライアントが休んでいる日に面接を設定せざるをえなかったんでしょうけど。
山梨:ええ、そういう事情だったんだと思います。
瀧本:それで採用決定の電話をいただいたとき、担当の方から「瀧本さんは、非常に突出した部分と、まったく欠けている部分があります。欠けている部分については、入っていただければ身についていくでしょう」と言われたんです(笑)。
山梨:それが96年とか97年か。僕がマッキンゼーに入ったのは90年なんです。そして96年というと、たしかパートナーになってから2年目あたりですね。当時はリクルーティング担当のパートナーでした。普通、面接といえばもっと若いスタッフが担当するんですが、たぶん瀧本さんが優秀だったから、僕が出ていって1回で決める、みたいな流れだったんじゃないかと思います。
瀧本:入社後も、プロジェクトをご一緒させていただいたことはほとんどありませんでしたね。
山梨:でも、瀧本さんの噂はよく聞いていましたよ。当時は半年に一度くらいパートナーが集まって、若い人たちを評価するミーティングを開いていたんですけど、「瀧本さんはものすごく変わってるけど、ものすごく頭が切れる」と。たしかに、マッキンゼーを離れたあとのご活躍を見ても、その評価が正しかったことは証明されていますよね。
瀧本:そう映っているのだとしたら、ありがたいです。
山梨:マッキンゼーはおもしろい組織で、早い段階で辞めていった人間のほうが成功しているんですよ。25年も勤めた僕が言うのもおかしな話ですが(笑)。
瀧本:いや、あそこの第一線で25年間も走り続けるのはすごいことですよ。
山梨:でもね、マッキンゼーから離れていった人たちがその後どうしているのか、調べたことがあるんです。コンサルタントとして独立する人、金融系に転身する人、起業する人、大企業に入る人、いろいろいますよね。それがベテランになっていくほど、卒業後の進路が画一化してしまう。
具体的には、金融系かコンサル系に集約されてしまう。きっと、長年のマッキンゼー生活で「そういう身体」になっているんでしょうね。NPOをはじめとした、社会的なフィールドに身を置く人も増えてきている。
瀧本:それは世代論や時代の変化だけでなく、山梨さんたちが築き上げてきた、日本オフィス特有の文化だと思います。ひと言でいえば「そういう人たち」に狙いを定めて採用されていた。
山梨:それはあるかもしれませんね。
瀧本:たとえば面接で「他にどんな会社を受けているんですか?」と訊かれて、他のコンサルティングファームをずらずら列挙するような人は、あまり歓迎されない。むしろさまざまな分野の、さまざまな仕事や研究に興味を持っていて、たまたまマッキンゼーの門を叩いた、という人のほうが重宝される。
山梨:まったくそのとおりですね。
瀧本:僕とマッキンゼーの出会いはアルバイトだったのですが、当時はマッキンゼーのこともほとんど知らないまま「5日間で8万円もらえるバイトがあるぞ」と飛びついただけでした。マッキンゼーはもちろん、コンサルタントという仕事にも何の興味もなかった。おそらく山梨さんたちは、そういう人間を意識的に選んでいたのではないでしょうか?
山梨:一方で2000年代に入ってからは、商社やメガバンク、テレビ局なんかと一緒にマッキンゼーを志望してくる求職者が増えてきたんですよ。要するに、ブランド志向の秀才たちが、マッキンゼーの門を叩くようになった。
瀧本:ああー。
山梨:リクルーティングの人間たちと「これはまずいぞ」という話になりましたね。瀧本さんみたいな、いい意味での変人が少なくなった。
瀧本:(笑)。
山梨:みんな能力は高いんですよ。でも、人間としてのユニークさを見極めないと、ただの「優秀なコンサルタント」になっちゃう。それだとマッキンゼーでは通用しない。
瀧本:そこを見抜くのはむずかしいでしょうね。
山梨:だから僕は、面接そのものはさっさと終わらせることにしていたんです。仮に1時間の予定でも、早いときには30分で終わっちゃう。それで最後に聞くんです。「では、以上で終了になりますが、なにか質問はありますか?」。
瀧本:なるほど。
山梨:つまり、「質問する力」ですね。「課題発見の力」と言い換えてもいいかもしれません。その人がどんなことに興味を持っていて、どんな問題意識を抱えているのか。長い時間だらだらと面接するよりも、ずっと正確な「その人」が見えてきますよ。
瀧本:少なくとも、そこで1つも質問が出てこないような人は、マッキンゼーには向いてないでしょうね。
山梨:一発勝負の面接だから、緊張していたり、考えすぎてしまったり、いろいろあるのはわかります。正解があるような問いかけではないし、質問をしなかったから不採用というわけでもない。でも、そこで質問が出てこない人、ここぞとばかりに疑問や提案をぶつけない人は、採用されたあとに苦労するでしょうね。
瀧本:そこで測られているのは「どれだけ知的な刺激を求めるか」なんだと思います。もしもお金がほしいんだったら、マッキンゼーよりも投資銀行に行ったほうがいい。
マッキンゼーをキャリアステップの踏み台と見なしている人は、結局コンサルタントとして大成しない。コンサルタントに向いている人、特にマッキンゼーに向いている人は「知的な刺激」に飢えている人ですよ。
山梨:そうですね。
瀧本:そして山梨さんが25年もマッキンゼーの第一線を走ってこられた原動力は、この仕事や会社に向いていたという以前に、知的な刺激に飢えていたからだと思います。それは最新刊の『いい努力』を読むとよくわかりますね。入社するときだけでなく、25年間ずっと飢えていた。
山梨:マッキンゼーという会社で生きていくことについては、後輩たちに質問されたとき、よくスポーツにたとえて説明していました。
たとえば陸上をやっていた人が、マッキンゼーという野球チームに移籍してきた。ドラフトで指名されたり、フリーエージェント制度を行使して入団したり、みんな自他ともに認める期待の新戦力ですよ。ところが、野球のルールをひとつも知らない。コンサルティングの会社に入ってきたのに、「コンサルってなに?」という状態からはじまる。
瀧本:スタートはそうですよね。
山梨:それで右も左もわからないから、先輩に言われたことだけをやる。僕もそうでした。ところが、「まずは来た球を打て」と教えられても当たらない。これって運動神経の問題じゃないんですよ。バットの振り方さえ知らないわけですから。それで延々と素振りをくり返して、ようやく当たるようになる。たのしいですよ、本人は。「当たるようになった」という実感があるわけだから。
でも、こんなものはぜんぜん野球の本質じゃない。だって、ボールを打つだけじゃダメですよね。その場にじっとしていたらアウト。左に走ってもアウト。右の、ファーストベース方向に走らなきゃいけない。
瀧本:(笑)。
山梨:いや、笑っちゃいますが、そんなことも知らない状態なんですよ。
瀧本:ええ、そうですね。
山梨:そしてボールを打って、ファーストに走る。大きな当たりだったらセカンドに走ってツーベースヒットを狙う。そのあたりの、野球の全体像がわかってくると、ようやく野球というゲームのおもしろさを理解できるようになる。
瀧本:点をとる、点を与えない、というゲームの本質が見えてくる。
山梨:マッキンゼーでいうと、プロジェクト・マネージャーくらいになってようやくゲームの本質が理解できる。そこからもう一歩進んでパートナーになると、先発ピッチャーを誰にするか、打順をどう組み替えるか、といった監督的な思考を含んだ仕事になる。
そしてシニア・パートナーになると、今度は「長いペナントレースをどう戦うか」や「シーズンオフにどんな補強をおこなうか」が見えてくる。野球でいうとゼネラルマネージャーに近い発想が求められる。
瀧本:野球という1つのスポーツに対して、ステージごとに取り組み方が変わるわけですね。
山梨:まさに。自分の仕事を、自分で定義する。その定義も、数年ごとに更新していく。これをくり返していくと、仕事の本質がわかるだけでなく、仕事に飽きずにすむ。人生に飽きなくてすむ。
瀧本:マッキンゼーに転職してくるだけでも相当価値観を揺さぶられるのに、ステージごとに大きなシフトチェンジを迫られるわけですね。
山梨:しかもそれは、自分自身で意識的にやらなきゃいけないことですしね。
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