2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
スペシャル対談 夏野剛×玉乃淳(全1記事)
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玉乃淳氏(以下、玉乃):はじめまして、夏野さん。よろしくお願いいたします。1年前にJリーグアドバイザーに就任されたニュースを見て以来、すごくお会いしたかったです。
夏野剛氏(以下、夏野):ありがとうございます。今日はなんでも聞いて下さい。
玉乃:Jリーグアドバイザーという肩書で、具体的にはどんな活動をされているのですか? 夏野さんといえば経済界の人であり、慶應SFCの教授、サッカーとは完全に畑違いの方、というイメージです。「そんな方がなぜJリーグアドバイザーに?」という思いでいました。
夏野:今回、5人がアドバイザーに指名されました。ホリエモンとか、企業再生のプロの冨山(和彦)さんとか、統計学のプロとかね。いわゆるサッカー界の外の人が選ばれています。これはサッカー自体をもっと広義にビジネスとして捉えたりするためだと思うのです。
例えば、日本全体という大きな枠組みや広い視野でJリーグを見たり、どうあるべきかを議論したり。そういうことをしたいというのが、村井(満)チェアマンの思惑なんですよね。
僕はね、そのような視点がサッカー界に欠けていたなって思います。やっぱり今までの日本サッカー界っていうのは、サッカーをやってきた人、サッカー経験者のためのコミュニティみたいになっていた。でもサッカー経験者というのは、日本の人口からいうと数パーセントにすぎないですよ。その数パーセントで無理矢理サッカーコミュニティを作っていると。
一方で、イングランドとかドイツ、スペイン、イタリアなどヨーロッパの国そして南米の国を見ると、国民の半分ぐらいでこのコミュニティが作られているわけです。
コミュニティが小さいということは、選手のその後のキャリアがあまり保証されることもないから、選手たち当事者にとっても優しくないし、なによりサッカーそのもののおもしろさも半減させてしまう。より多くの人と盛り上がれたほうがサッカーを見る楽しさも増しますよね。つまり、サッカーの本来持っている魅力が、小さなコミュニティでは100パーセント出しきれないんです。
でも、そんな小さなコミュニティの日本サッカー界も、日本代表に目を向ければどんどん強くなって、ワールドカップに出場するのは当たり前、世界ランキングは50位前後までなりましたし、国民の関心は、一昔前に比べれば非常に大きくなったとは思っています。
その日本代表に対する関心の高さをJリーグにもちゃんと反映しなければいけないな、というのが僕の問題意識です。
玉乃:欧州や南米並みにサッカーコミュニティを形成するポテンシャルが日本にもあるということですか?
夏野:そうです、ポテンシャルはあります。今の日本のサッカーコミュニティは2つに分かれていると思っていて、僕が小さなコミュニティと言った、Jリーグを支えるコミュニティと日本代表に関心があるコミュニティです。問題はこの2つがあまり一致していないこと。
逆にここをくっつけることができれば、Jリーグに日本国民の半分くらいの関心を向けられることになる。だから、ここをくっつけることが重要なのです。なので、今言ったように「Jリーグを大きなコミュニティにしていこう」という観点から、僕はリーグに対してさまざまな提案をしています。
玉乃:どういった内容ですか?
夏野:あまり詳しいことは言えないのですが、ちょろちょろホリエモンが喋っているので言うと、「東京の都心にクラブがないって、どういうこと?」とかです。
Jリーグの「地域に深く根差すホームタウン制」という開幕当初からの理念がありますよね。すごく素晴らしい理念だと思います。各地域の人たちがトップレベルのプレーを観ることができて、裾野から日本全体で盛り上げていくというね。
実際、開幕から20年以上経て、日本全体で盛り上げる仕掛けはできた。けれど一方で、「肝心の観客動員はどうなのだろう?」と思うのですね。
こんな観点からも、大票田の東京23区にスタジアムがない、チームもない、これはものすごくもったいないことです。多くの人が都心に通っているわけだから、勤務帰りに観戦できるチームもスタジアムもないことは、サッカーファンを広げる大きなチャンスを失っている感じがしますね。
玉乃:東京23区をホームタウンにするチームですか。チームと言えば、ヴィッセル神戸の取締役をされていたこともありますよね? やはりチーム側の事情というのもふまえてJリーグへ提案されるのですか?
夏野:チーム側にとってみると、Jリーグは制約条件が極めて多いリーグなので、その中でどう運営していくかを考えます。本来こういったスポーツとかアートの世界って、昔からスポンサーが手弁当で大きな支援をして、たくさん選手を集めるようなかたちだったわけです。
日本のサッカーってJリーグ発足前は実業団制でしたし、海外ではロシアの大富豪が乗り込んできてドカンとやっちゃうみたいな事例も多い。健全経営を志向するJリーグのクラブライセンス制度のもとでは、思い切ったことをやろうとするクラブやオーナーが現れたら、実は対応できないのですよ。このような事例も、もっと柔軟に考えていく必要があるじゃないかという話もしています。
玉乃:外資が入ってきたり、それこそドワンゴさんがサッカーチームを買われたりとかはありえますか?
夏野:今はないですね。外資については事実上大丈夫なのだけど。チームを買うかどうかの視点で見ると、今のJリーグでは、チーム経営をすることにメリットがまったく感じられないです。
玉乃:夏野さんが実際に試合観戦をしてどうですか? おもしろいと感じますか?
夏野:うーん、どうでしょう。「観る」という意味で1993年の開幕当初と大きく変わったのはワールドクラスの選手がすごく少なくなったこと。
ジーニョ、サンパイオ、ジョルジーニョ、レオナルド、ドゥンガなど世界レベルの選手がかつてはいました。そして、日本人の良い選手もヨーロッパに移籍しちゃいましたよね。
本田圭佑、香川真司、長友佑都、岡崎慎司。日本人選手の海外移籍は日本にとって良いことでもあるけれど、Jリーグのことを考えると難しい側面もある。スター選手がいない場合、お金が回るビジネスモデルがないと、チーム経営はなかなかうまくいかない。先ほどのチームのスポンサーの話と同様にお金が回りやすい仕組みが重要だと考えています。
でも実際、ライブのコンテンツというのは、行ってみるとおもしろい。Jリーグも国内組と言われる日本代表選手が出場していたりすると、コアなサッカーファンじゃなくてもけっこうおもしろいと感じられるわけです。観ていて自然と盛り上がりますよ。行けばね。ただ、みんな「行かない」。
玉乃:行くまでが、かなり高いハードルになっているわけですよね。
夏野:そう、だから行く前の「関心」というレベルでもっと盛り上がる仕掛けをしなきゃいけない。当然メディアの露出も増やさなきゃいけないだろうし。でもまず思うのは、チームが多すぎますね。一般の人たちは覚えられないですよ、選手や監督の目まぐるしい移籍も含めたら。
今はチームが多くて力が分散している気がするし、そうなると各チームへの関心も薄まる。力が分散していなければ、J2から昇格したチームがいきなりJ1で優勝することもなくなるでしょう。
野球の話になってしまうけど、巨人がV9達成してそれを倒すために他のチームがチャレンジして盛り上がったりするわけです。サッカーにもそんな「常連感」みたいのが欲しいかな。
ACLでJリーグのチームが勝てないのも、Jリーグのチームが多すぎて力が分散されていることが大きな要因だと思います。レベルはアジアナンバーワンなのに勝てないのだから。
玉乃:実際にそういう声はチェアマンの耳に届いているものなのですか?
夏野:思いっきり届いていますよ(笑)。目の前で言っていますからね(笑)。
玉乃:具体的にどういった仕掛けが今後なされていくのでしょうか?
夏野:まあ、いろいろやりますから(笑)。具体的な話はできないけど、見ようと思えば必ず見られるという仕組みを作りたいですよね。とにかく、BSとかCSとか契約しなくても見られるというのが大前提。だってもうそういう時代ですから。
それで、なおかつお金も回るようにしなければならない。サッカーを取り巻く環境はいいですよ。やっぱりライブコンテンツっていうものは、もう世界中で価値がどんどん上がっていますから。だってバスケットボールにあの値段がつきますからね。Jリーグはもっと思いっきりいけますよ。
ライブコンテンツ、スポーツコンテンツの価値は成熟社会になると上がっていく。ネット配信も民放ぐらいの威力を持てるようにしたい。 あとは、スタジアムの問題もけっこう大きいですよね。
市が運営しているような競技場なんて行かないでしょ。でもガンバの新しいスタジアムに一度行くと、「また行こう」ってなるじゃないですか。
ピッチのまわりに陸上トラックがあるようなところじゃ見たくない、選手は米粒サイズですし、迫力にも欠けます。アーティストのコンサートじゃないのだから、「レディガガかよ」って(笑)。もうちょっと間近で見たいでしょ。あれでは本人かどうかわからない。
玉乃:「レディガガ」はスタジアム問題を語る際の持ちネタですか?(笑)。
夏野:埼玉のスーパーアリーナって席が意外と遠いんですよ。「これじゃあ豆粒じゃん、レディガガ?」みたいな(笑)。飛び跳ねているのは果たして本物かなって(笑)。陸上トラック付きのスタジアムもまさにそんな感じですよ。
玉乃:内部にいると意外としがらみがあって、そういうことを思ったとしても言えない環境なんです。
夏野:それはそうかもしれませんね、だからこそ我々が代弁しているんですよ。やれば、ガンバみたいなスタジアムをちゃんと作れるわけだから。あれは民間のお金を使って、上手いこと枠組みを作ってできたスタジアム。
1つ吹田みたいなスタジアムができたということは、光明がさしていると思いますよ。ただ欲を言えば、吹田は交通の便が悪すぎます、遠すぎる。まあ隣が三井のショッピングモールですからまだいいけれど。
玉乃:日本のサッカー界って、ピラミッドのトップの人たちがもっと潤えるようなサッカー界にしていかないと厳しいと思うんです。
引退する平均年齢が25歳前後ですから、そこで引退した人たちにとっては難しいセカンドキャリアが待っていますからね。夏野:まさにそこですよね。これまでと同じことをやっていちゃダメなので、さらに一段上に行くためにやれることはすべてやりたい。
今、観客動員数が1チーム平均1万人台。それが3万人台にできたらビジネスとしては倍増なのですよ。その周辺でやれることも増えるし、その影響力も増えるわけです。そうすると引退して解説者になるだけじゃなくて、いろんなビジネスができるようになります。
すでに国民的スポーツになっているサッカーの周辺産業を作っていくためにも、もっともっとサッカーをお金の回る「産業」にしていかなければならない。お好み焼き屋とかラーメン屋を開くとか、サッカーから離れた方向に行くんじゃなくてね。
玉乃:経営者の観点から見ると、25歳で引退しました、学歴もない、社会経験もない、そんな僕たち元プロサッカー選手はどう映りますか? そこから、どう這い上がっていけばいいのでしょうか。
夏野:実を言うとこれは、「25歳で東京大学を出ました、どこかの会社に3年間勤めています」っていう人と同じなのです。
引退して自分のキャリアの作り方にポジティブに向かえる人はいいですけど、折れちゃう人もいます。だから折れないっていうことを、選手で早くに引退された人に植えつけて欲しいのです。
野球界でもそうなのですけど、日本っていうのは、名選手が良いコーチであり良い監督であるっていう誤解が多くある。それって嘘じゃないですか。
選手とコーチ・トレーナー、これはぜんぜん違う。欧米諸国を見ると、名選手じゃない人が名監督・名コーチになっているケースが非常に多い。選手としての序列がセカンドキャリアにも影響するというのはちょっと安易すぎると思います。
逆に言うと、選手経験者からレフェリーになったり、指導者になったりするケースをもっと多様化して作っていくべきじゃないかと。海外にコーチとして行ったり、海外で指導者としての道を学んだり、選手たちにはセカンドキャリアにも貪欲でいて欲しいです。
そのためにはせっかくサッカーやっているのだから、語学はやっておいて欲しいですよね。英語だけじゃなくて、もう1ヶ国語ぐらいは欲しい。スペイン語とか中国語とかですかね。語学っていうのはまったく頭の良さは問われない。やるかやらないかですから。
僕はね、このセカンドキャリアの問題というのは、サッカー界と選手、両者に問題あると思うのです。サッカー界はシステムを整えないし、選手も引退時はあまりポジティブじゃないし、サッカー以外のことを学ぼうとしない。モデルと合コンばっかりやっているから悲惨な目にあうんですよ(笑)。
玉乃:大変失礼ながら、インタビュー前は、サッカーというスポーツを理解されないで、好き勝手に過激な発言をされているのではないかというイメージを持っていました。本当にすみません。謝ります。ものすごく精密に内情把握されていますね(笑)。
夏野:もちろんですよ、サッカー選手ひいてはスポーツ選手の方々はリスペクトしています。そんな選手たちに対して思うのは、「試合中の真摯さを引退後ほど大切にしていったほうがいいよ」ということ。スポーツを極めた者だし、体格にも恵まれているんだから。だからこそ、それを生かして一生やれる仕事につなげることが重要です。
コーチは一生やれる。海外で語学ができたらもっと通用する。今後はチームや協会の運営側もどんどん人が必要になってくる。解説者ももっと人が必要になる。全試合生中継やりますから。
そうやってお金が回り始めたら、産業としてもサッカー界の未来は絶対明るいですよ。アジア圏の優秀な選手をバンバン獲得したりとかね。もちろん一枠とか言わないで、無制限に。アジア圏の選手だけで構成されたチームなんていうのもできたらいいじゃないですか!(笑)。
玉乃:夏野さんとお話ししていたら、少し人生がイージーに思えてきました(笑)。
夏野:そうだよ! 悩んだり立ち止まったりしたら、もったいない、もったいない。東大卒のドワンゴの3年目と、元Jリーガーの25歳なんてなんら変わりはない。「俺のピーク終わった」って悲観しないほうがいい、引退後。なんにも終わっていないから。
玉乃:ありがとうございます。僕もちょうど平均引退年齢の25歳で引退して、ずっと付き合ってきた彼女にフラれて、その後その子が東大卒のお医者さんと結婚してしまったという過去があって(笑)。
夏野:それは彼女が正解だったかもね(笑)。 冗談冗談(笑)。腐らないで、ポジティブでいれば道は絶対明るい。
僕なんて大変ですよ。32歳で会社を潰して、財産もなくして、プライドもズタズタで、奥さんにも逃げられ、そこからですからね。一生懸命やって、まだまだ道半ばではあるけれども。
大事なのは、最大限に努力してチャンスをつかんで120パーセントの力を出すこと。とにかく腐らない。腐らない人にはいくらでも光が当たる。
本田選手みたいにチームを買っちゃうとか、長友選手も会社を作りましたよね。こうなってくるとおもしろい! 選手として成功した人は会社はうまくいかなくて、25歳で引退した人のほうがうまくやれるかもしれない。こういうのがあっていいじゃないですか!!
【夏野剛(なつの たけし)プロフィール】1988年、早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。1993年にペンシルバニア大学経営大学院(ウォートンスクール)へ留学し、1995年同校にてMBA取得。IT系ベンチャー企業の副社長を経て1997年NTTドコモへ。「iモード」「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げる。現在は慶應義塾大学、政策・メディア研究科で特別招聘教授をつとめるほか、カドカワ、トランスコスモス、セガサミーホールディングス、ぴあ、グリー、DLE、U-NEXT、日本オラクルなどの取締役を兼任し、経済産業省所轄の未踏IT人材発掘・育成事業の統括プロジェクトマネージャー、一般社団法人未踏の理事などIT系有識者として数々のポストをつとめる。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与をもつとめるスポーツ界にも一石投じる超著名ご意見番。2015年にJリーグのアドバイザーに招聘される。
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