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スペシャル対談 樹林伸×玉乃淳(全2記事)

「天才は音楽と数学の分野にしかいない」漫画原作者・樹林伸がヒット作品を生み出せる理由

サッカー解説者の玉乃淳がスポーツ・ビジネス界の第一線で活躍するキーマンの半生をたどる「スペシャル対談」。今回は、漫画原作者、小説家、脚本家・樹林伸氏のインタビュー後編を紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

講談社で働いた12年間

玉乃淳氏(以下、玉乃):ある意味、一度は目標であるフリーライターになったわけですよね? そこからあえて講談社に入社されたのですね?

樹林伸氏(以下、樹林):そう。大きなところで修行したほうがいいだろうという思いで。当然、入社前にはすでに技能みたいなものは身についていたけれどね。当時ライターが少なかったから、かなりの仕事量だったんだよ。

人づてで、どんどん仕事が入ってきてね。そのままフリーでやってもいいかなという思いもあったけれど、まず大きいところに行こうと最終的には考えた。

玉乃:幼少期から脚本家を目指して着々と準備を進めていたわけではなく、偶然も含めたいろいろな経緯でこの職に導かれたのですね? 少し意外でした。

樹林:そうそうそう。すごくいい加減な選び方。それで、そこから12年間講談社で働いた。性にあっていたんだろうね。とにかくおもしろかったよ。

玉乃:「書く」ことに取りつかれているような方だとうかがっております。ある種、「書くマシーン」のような方だと。

樹林:仕事量は多いよね。1日で原稿用紙100枚書いたこともあるしね。『金田一(少年の事件簿)』のノベルスを書いているときもとにかく書いたなぁ。トランス状態になるんだよね、そういうとき。呼吸を止めながら書いている感じになってくる。

「締め切り、嘘つかれているんじゃないかな?」って思うくらい、ぎゅうぎゅうで来るわけよ。「あり得なくない?」みたいな。でも書くしかないからね。あんまり寝ないでさ。

まず取材期間を設けるでしょ。それで頭の中では、ずっと起承転結を作るの。ある程度それが固まったら「ウワッと」書き出すんだよ。それが一番効率的。

もちろん、いろんな作品があるし、今は4つの連載を同時にやったり、ドラマの脚本や小説をやったりしているから、少しずつ分けながらローテンションさせて、その作業をやっているんだよね。

漫画原作者に求められる資質

玉乃:どうやって作品ごとに頭を切り替えているんですか? サッカーの漫画を書いていたと思ったら、次の瞬間には頭の中を殺人事件にしなければならないわけですよね? しかも難解なミステリー。その思考回路はいったいなんなのでしょう? 

樹林:「ああ、1つ書いたなぁ」って一息ついたときに、「ふっ」と閃いたりするのよ。世の中で起こることって何かが少しずつ重なりあっているので、なんと言えばいいか言葉が見つからないけど、雰囲気のようなものかな?

ほかのことをやったあとのほうが、次がよかったりするんだよね。同じことばかりやっていると絶対煮詰まっちゃう。サッカーやワインのことを書いていると、また今度はミステリーやりたくなったりね。

その逆もまた然りでね。幼少期から飽きっぽくて、「読むこと」以外すべて飽きちゃったような性格だからさ、オレにとってはたぶんそれぐらいがちょうどいいんだろうね。

玉乃:大変お恥ずかしい話なのですが、僕も一時期漫画の原作者を目指して活動していたことがありました。だから漫画の原案を作るのにどれだけ膨大な時間がかかり、膨大な量の取材が必要で、造詣の深さをも求められるのかを知っているつもりです。

樹林:そうなんだってね。以前に漫画の原作者を目指したことを聞いてビックリしたよ。『神の雫』は、話した通り、趣味の延長上にある作品だから、いわゆる「日常」の状態で取材の多くが済むから、それにかける時間もあまり仕事だと思ったことがない。

ほかの作品は、たしかに好きなことの延長ではあるけれど、やっぱりそれなりに取材の量は多くなるよね。

でもまぁ、それこそ幼稚園に通っていたときから本をひたすら読んでいたからね。ある意味、ずっと取材を続けているようなもので、そう考えると蓄積だよね。なんでも積み重ねの延長だよ。

「天才」は音楽と数学の分野にしかいない

玉乃:今回の取材で一番知りたかったのは、樹林さんがサイコメトラーのように特殊な能力を持った「天才」タイプの脚本家なのか、それとも12年間講談社に勤続されたことから推測できるように、努力を積み重ねる「秀才」タイプの脚本家なのか、というところでした。

樹林:もし「天才」がいるとしたら、ジャンルで言うと音楽と数学の分野にしかいないんじゃないかなぁ。でもそういう人たちは、得てして何か欠けていたりするよね。モーツアルトなんて、よい例じゃないかな。天才だけれど社会性「ゼロ」みたいな。

この(漫画の原作や脚本の)分野で長くやっている人というのは、社会性はもちろんあるし、むしろ社会からいろいろなことを吸収して自分の力に変えていくような力を持っているタイプのほうが多いと思うな。

玉乃:そうですよね。幼稚園に通っていたときから、好きで本をひたすら読んでいたのですよね……愚問でした。すみません、勝手にサイコメトラー扱いしてしまって(笑)。

樹林:漫画の原作者もそうだけれど、ライターを長くやるのであれば、15~16歳までに数多くの本を読むのが大切なのかもしれないね。

作品の結末は自分でもわからない

玉乃:ところで、最初に頭の中で起承転結をつくる段階で、どれくらい先のストーリーまでイメージを固めているのでしょうか? 

樹林:例えば、『金田一』はまるまる一話についてエピソードを考えてからスタートしないとならない。トリックがあるからね。それでも書いている途中でだいぶ変わるよ。『サイコメトラーEIJI』なんてけっこうひどくって、途中で犯人も変わっちゃう(笑)。

玉乃:ええええ。それじゃ僕ら推理しようがないじゃないですか(笑)。

樹林:だから普通に読んでいる人は相当ビックリするよね。オレも結末知らないんだから(笑)。

玉乃・樹林:(笑)。

玉乃:ドラマ『24-TWENTY FOUR』(以下『24』)もモロにそうですもんね。シリーズごとに、つくっている人も違いますからね、わかるわけないですよね、あれ。相当ムカつきましたよ(笑)。

樹林:確かに(笑)。ニーナ・マイヤーズなんて本人聞かされてなかったらしいよね。犯人役が「自分は犯人じゃない」と思って演技しているわけだから、そりゃ演技完璧だよね。

『金田一』ではそういうのはなかったけれど、サイコメトラーでは普通にあって、ブラッディ・マンデイでもあったかもしれないね。どうだったかなぁ(笑)。

玉乃:樹林さんが『24』にドはまりされていたとき、ドラマの撮影現場にジャック・バウアーとして登場されたという都市伝説を聞いたことがあるのですが本当ですか?

樹林:それ半分事実かも(笑)。大好きでね。打ち合わせ中にジャック・バウアーのモノマネやっていたもん。(立ち上がって)「手を頭の上にあげろーー!」なんて言っていたからね。

玉乃:メチャクチャお茶目じゃないですか(笑)。

樹林:楽しくなってきたね。ちょっと呑みながらやろっか!?

玉乃:え? よろしいですか!? ぜひぜひ(笑)。

樹林:これは日本のスパークリングなんだけれど、キザン(機山洋酒工業=山梨県甲州市塩山にある家族経営のワイナリー)のもので、うまいんですよ。どう? 甲州のぶどう。うまいでしょ? 本当によくできている。色もいいでしょ? 

玉乃:……ここ一番でまったくコトバが出てきません。『神の雫』のシーンのように、太陽にかざして色を確かめ、口にした感覚で評すべく、家で練習してきたのですが。

樹林:(笑)。

伝説のサッカー漫画『シュート』誕生のきっかけ

玉乃:それにしても、本当にこの取材最高です(笑)。サッカーとの出会いも教えていただけますでしょうか? 伝説の大作『シュート』はもちろん、連載中の『エリアの騎士』も読みました。

樹林:留年してライターのアルバイトをしていたときに、メキシコワールドカップがあって、夜中テレビでマラドーナの5人抜きを見たんだよね。これがサッカーとの出会い。「なにこれ? 漫画かよ」って思って、それから、とにかくマラドーナのことを調べるようになったんだよね。

マラドーナとサッカーが好きになって、いろいろ調べているうちに、Jリーグを立ち上げるという話を知った。それで講談社入社が決まった時点で、時流にのるという意味でも絶対サッカー漫画をやろうと思って、それで入社間もなく準備し始めて、『シュート』が始まったんだよね。

玉乃:そもそも、どうして入社間もない新人がいきなり原作のストーリーづくりを任されるんですか? そんな大役、普通は……。

樹林:勝手にやっていたの。新人だから。もうガンガン勝手に。とにかくおもしろかったから。周りの先輩たちにも恵まれてね。とにかく会社にいる人たちがよくて、いい会社だったよ。そりゃ、すぐ辞めるつもりで入ったのに12年間もいさせてもらうよね(笑)。

玉乃:そんな素晴らしい会社から、いざ独立を決心したときの心境は?

樹林:週刊少年ジャンプを追い抜くまで、講談社の社員としてやろうと思っていて、それを達成したので、もうこれでオッケーだろうと思ってやめたんだ。もうここでやる仕事は全部済んだと思って独立したんだよ。

でも講談社時代は社員だったけれど、完全に作家業みたいなことをしていたから、「独立」という強い意識みたいなものはなかったかな。

好きなことの延長じゃないと長続きしない

玉乃:ものすごく謙虚ですよね。12年間も社員の給料で仕事されていたわけですから。独立すれば数億という数字が見えていたのに……。

樹林:まあ、いいかなって思っていた。お金はあればあるに越したことないんだろうけれど、有る無しによって幸福感が変わることはないじゃない。

この前、中田ヒデ(中田英寿)が一緒に飲んでいるときに同じようなことを言っていた。「僕、働いたことないんですよ」って彼は言うんだよね。「何を言っているんだ、あなたは?」って思うよね。

でも彼にとって、趣味の延長がそのまま仕事になっていて、サッカーが好きでやっていたら、いつの間にかそれが仕事になっていたし、今も日本酒が好きで……。

つまり「お金もらうための仕事」って割り切る感じで働いても幸福感は得られないと思うんだよね。ヒデと話していて、「ああ、今思えばオレもそんなだっかな」って振り返っていたんだよね。

講談社の1年目から変わらず好きなことをやり続けてやっているうちに、それが次第に仕事になっていっただけ。好きなことの延長上じゃないと長続きしないよ、何事も。

そのことをあまりピンとこないままで、やっている人というのは、なんとなく遊びに走っちゃったり、ずれていったりするんだと思うよ、きっとね。

【樹林伸(きばやし しん)プロフィール】漫画原作者・脚本家・小説家。早稲田大学政治経済学部卒業後、1987年講談社に入社し、「週刊少年マガジン」編集部で漫画編集に携わる。その後、漫画原作者として数々のヒット作を世に出し、1999年に講談社を退社、独立。現在「7つの名をもつ原作者」として引き続きヒットメーカーとして大活躍中。この10月(2016年)から、市川海老蔵主演で、テレビ東京系列で放送予定の「石川五右衛門」などの脚本も手掛ける。

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