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佐渡島庸平×石川善樹 「大胆な仮説を全力で実現していくということ」 『ぼくらの仮説が世界をつくる』刊行記念(全6記事)

ニートを卒業してハーバードに進学 石川善樹氏が異色のキャリアを振り返る

作家エージェント「コルク」経営者の佐渡島庸平氏による初の著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』刊行記念イベントが下北沢B&Bで開催。予防医学研究者の石川善樹氏をゲストに迎え、東大卒業後、ニートを経てハーバードへ進学した石川氏の異色のキャリアについて語りました。

佐渡島氏と石川氏の馴れ初め

石川善樹氏(以下、石川):なんだかんだで、こういう対談は始めてですね。

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):まじめな会話は。

石川:あんまりやったことない。

佐渡島:今日、この僕の本(『ぼくらの仮説が世界をつくる』)を、もう読んでくださっている方、どのくらいいますか?

(会場多数挙手)

ぼくらの仮説が世界をつくる

佐渡島:じゃあ、僕と善樹がどういう関係かというと、本のあとがきに友人・各務が亡くなったっていう話を書きました。

その友人の大親友が善樹で、その友人が僕に紹介してくれて、お見舞いなどで会うようになり、よく話すようになりました。善樹はその時点ですでに経営者だったんだけれども、僕はまだサラリーマンで。

最近、6~7人の会合に行くと「あれ、善樹がいる」みたいな感じで、偶然会うことも多いです。200~300人のパーティーに行っても「あれ、善樹がいる」ってなって、約束していないのに、よく会う関係です。

石川:僕からいくと、まず、友達の各務くんというのが間にいて、大学1年生のときの知り合いだったんですけど、そこから一緒の部活をして、同じポジションを争うという仲だったの。

佐渡島:ラクロスね。

石川:ライバルだったんですよ。彼のほうがうまくて、最初、試合でも活躍したりしたんですけど、なぜかそのラクロス部を3年生のときに辞めちゃったんですね。

僕はその各務くんがいるから「あいつに任せておけば大丈夫だ」くらいに思っていたのが、突然いなくなっちゃったから、自分ががんばらざるを得ないというので、ラクロスをがんばっていたんですよね。

おかげで、ラクロスに夢中になり過ぎちゃって、将来のことをあんまり考えてなくて、大学卒業したあとにニートになったんですよ。同じ時期にちょうどニートになったのが、その各務くんだったんですよ。

佐渡島:各務がニートっていうのは、起業しようとしていたんじゃないの?

石川:起業の前にちょっとニートがあった。大学には一応所属していたんだけれども、そこから逃げ出して「どこにも行きたくない」というので、お互い「社会から外れたね」というので、仲良くしていたと。

ニートからハーバードに

佐渡島:そこから善樹は、どういうふうに起業したの?

石川:そこからは、ちょっと話すと、ニートしているとニートの友達がいっぱいできるんですよ。例えば、大学とかの集まりに行っても、みんなスーツ着て名刺を持っているから、友達になれないんですよね(笑)。

ニートの友達が集まってやっているときに、ある人のニートの先輩っていうのが来てくれて、「お前らには悪いけど、俺、ニート卒業する」って言ったんですよ。

どういうことかというと、日本では定義上、34歳を越えるとニートじゃなくなるんですね。

佐渡島:どういう意味?

石川:34歳まではニートなんですね。35歳からはニートにはなれないのね、もう。SNEP(注:スネップ、solitary non-employed persons)ってなるの。エスエヌイーピーていう名前が(笑)。

ニートは定義上34歳までで、「俺はもうまっとうして、卒業する。明日からはSNEPだ」と。

(会場笑)

石川:「ニート生活を総括して、お前らに伝えたいことがある」って、そういうトークがある会に、俺と各務で行ったんだよ。渋谷のデニーズなんだけど(笑)。

そこで言われたのが、「お前らはまだニートなんて騒いで喜んでいるかもしれないけど、そろそろやばいよ」ということで、「いい加減、社会復帰できないよ」と言われた。それを言われて、各務も俺も、ちょっと焦って。

「やばいぞ、なんとかせんといかんぞ」と。それで、各務は起業のほうにいき、僕は日本を脱出するという道を選んだんです。

佐渡島:それでハーバードに行ったんだ?

石川:それでハーバードに。

ハーバードで言われた「勉強なんかしてんじゃねえ」

佐渡島:それでハーバードに行けるところがすごいよね。普通、ハーバードに行けないもん。

石川:行けない行けない。でもね、ハーバードって、実力よりも運の要素も大きいんですよ。2回出しているのね。

佐渡島:願書を?

石川:1回目は落とされていて、2回目に願書の内容はほとんど同じだけど、なぜか今度は受かった。

佐渡島:しっかり聞いたことなかったけど、それでハーバードに行ってどうしたの?

石川:そうそう。ハーバードは、最初は研究者になろうと思って行ったんだよ。「よし、勉強するぞ」と思って乗りこんだら、入学初日に、先生と面談がある。どうするかっていう。

「一生懸命がんばって勉強します」って言って、「ニートだったので休養は十分です、がんばります」と言ったら、「だから、日本人はバカなんだ」と怒られたんですね。ハーバードに勉強しにくるやつが多すぎるって言ったんですよ。

「お前らが高い金を払ってここに来ているのは、勉強するためじゃなくて、ここで世界のトップクラスの教授たちと一緒にプロジェクトをやるためだろう」と。勉強なんかしてんじゃねえって怒られて。

「確かにそうだな」と思って、そこから授業はやりつつも、それぞれの先生がどんなことやっているのかなっていうのを調べて、一緒に研究プロジェクトをやりませんかという提案をするという日々を、2年間、ずっとやったのね。

ハーバードとかMITとかいろんなところで研究プロジェクトをやって、そうこうしているうちに卒業しちゃったの。「同じパターンだ」と思って。2年間で、「あれ、卒業しちゃった」となって。

ビジネスや経営に興味のない社長に

石川:ニートをやったことあるっていう人、います? (会場に)やっぱりいますよね。すげえ、うれしい。ニートって本当にうっかりしているとなるの。目の前のことに夢中になっていたら、「ハッ!」っていうことが、2回連続で起きちゃった。大学のときとその留学のとき。

やっべーなと思っていたら、そのビジネススクールの人が、「善樹、じゃあ一緒に会社やるか」って言ってくれて、「やります」って言って、結局、会社をやることになったの。

佐渡島:なるほど、それで会社を始めたの? すごくいい加減な感じだよね、なかなか。日本でつくろうってなって、始めたの?

石川:そうそう。日本で公衆衛生っていう、予防医学っていうエリアの会社をやろうっていう。それも本当言うと、会社をつくりたくてやったわけじゃないの。「一緒にプロジェクトをやろう」って言われて。

プロジェクトをやるときって、他からお金が入ったりするんですよね。お金が入るときは法人格を持たないといかんと言われて、だったら、会社をつくるかってことになって。

佐渡島:それで、今、一緒に会社やっている友達と始めたの? 彼に一生懸命動かしてもらっていて、善樹、まだ研究者というかニートっぽい感じのまま?

石川:そうそう、僕はビジネスとか経営には興味がないというか、興味をもてないと思いますと。「研究という側面から支援します」ということで、やってもらっているのかな。

佐渡島:すごいね、それで社員が社長を許してくれて。社長だよね?

石川:あー、最初に始めた会社は副社長で、子会社でやっている研究所では社長もやっている。

佐渡島:なるほど。でも、もう1人の友達が頑張っていて、それを許してくれている。善樹の友達力、すごいね。

各務が亡くなりそうだなってなったら「半年間、こいつとの思い出を大切にするぞ」って言って、全部の仕事をなしにして、ずっと各務と過ごし続けたって聞いたけど、もっと詳しく教えてよ。

会社より友達を選んだ石川氏の友達力

石川:そうそう。みなさんも経験するとわかると思うんですけど、むちゃくちゃ大事な友達が死ぬかもしれないときって、朝起きたときに、仕事に行ったほうがいいのか、友達と会ったほうがいいのかって悩むんですよね。

ちょうどそのときタイミングがよくて、大きな仕事をやりきった直後で、燃え尽きてたんだよね。

だから仕事したくなかったってのもあるし、各務、友達のこともあったので、「これはいい機会だ」と思って、結果半年間、その友達とゴルフをしたりゲームをしたり、何もせずに過ごすっていう半年間で。

佐渡島:すごいね。普通は、どうしても仕事に行っちゃうよね。

石川:そのときは、さすがに怒られたのね。社長にというか一緒にやっている友達に。「お前、いい加減にしろ」って。仕事しろって怒られて、お前はもうクビだみたいになったんだけれども。

佐渡島:それで、善樹はどういう対応だったの?

石川:そんなに怒っていること知らなくて、「しばらく休みます」と言って。

佐渡島:友達が怒ると想像してなかったんだ?

石川:そうそう。ぜんぜん想像してなくて、自由にやらせてくれるものだと信じていたんだけど。意外とやっぱりそうじゃなくて、仕事をすることを期待されていた部分があって。でも、結局、堪忍袋の尾が切れる直前に俺は戻ったんだよね。

佐渡島:なるほど。

石川:そのときに戻って、なんとかことなきを得て今に至るっていう。

佐渡島:善樹の人生、なんか楽しそうでいいな。

石川:そう!?(笑)。まあ、人生はすごい楽しいね! でも楽しくさせてもらってるのは、やっぱりご縁の力が大きいかなぁ。僕がやっているエリアの1つにソーシャルマーケティングというのがあるんですよ。「マーケティングを社会をよくすることに活用する」みたいなことで、そのエリアの研究をして論文を書くんだけど、そこからのご縁が面白くて!

論文を書いたら、ちょっと見てもらおうと思って。マーケティングの(フィリップ・)コトラーっていう……。

佐渡島:知っている。有名だよね。

石川:そう! たまたま当時一緒に研究していた友達がコトラーと知り合いで、なんと会いに行けることになって。そうしたら、「うち、来なよ」ってなって。彼、フロリダにマンション持っているんですよ。そこに呼んでくれたの。

佐渡島:友達力もそうだし、年上の人にかわいがられるよね。半端ないね。

がん検診の受診率を伸ばすためのマーケティング

石川:あ、そういえば思い出したんだけど、コトラーは根付がすごく好きなんだって。根付って印籠についているやつ、今でいうストラップみたいな。

それで、紹介してくれた友達が上野で根付を買って、フロリダまでもっていったら、キャーキャー言って喜んでくれて。

さらに色々話していると、「今度、僕、ソーシャルマーケティングの本を出すから、善樹たちのケース載っけてあげるよ」って言ってくれて。

佐渡島:そうなんだ、公衆衛生の話?

石川:そうそう。コトラーが出しているそのソーシャルマーケティングの本に、日本からの唯一の事例として載っけてもらったんだよね。

佐渡島:すごいね。

石川:「載っけてもらいました!」って、ハーバードのときの先生に見せに行ったら、「これいいね」って。「ハーバードのケースにしよう」って言って、ビジネススクールのケースになったんですよ。

(会場笑)

佐渡島:どういう公衆衛生の事例なの?

石川:それは「日本でがん検診の受診率が低い」という問題があるんですね。がんは死亡の原因の第1位なので、早く受ければ早く助かる病気なのに、みんな受けないんですよ。なんでかっていうと、日本の医療が素晴らしすぎるっていうのがあって。

佐渡島:この中でがん検診受けたことある人はいますか? 

石川:ちょっとみんな若過ぎますけどね。みんな、まだ受けなくていいですよ。

佐渡島:(会場の挙手は)3~4人か。

石川:40歳以上なの、基本的には。

佐渡島:へえ。

石川:そこまでは、まだちょっと受けなくてもいい。各務のこととかもあって、日本に戻ってからは「がん検診の受診率を伸ばそう」って、ソーシャル・マーケティングをコツコツやってったのね。

そうしたら「ちょっとこれいいから、国の方でもとりいれてみよう」となって。もうそれは、研究者冥利に尽きるというか、ありがたいことだなと。

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