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トライセクター・リーダー公開対談 渋谷区長・長谷部健氏(全8記事)

博報堂から行政へ--渋谷区長・長谷部健氏が政治の世界で学んだ“焦らない”ことの大切さ

日本政策学校学長 金野索一氏と株式会社フロンティアインターナショナルが共催している「トライセクター・リーダー公開対談」。第6回は渋谷区長・長谷部健氏を迎え、企業、NPO、行政の3つの分野で活躍してきたこれまでのキャリアについて振り返りました。質疑応答では、3つのセクターを通ってきたからこそわかること、今後やっていきたいことなどについて語りました。

政策はちゃんと伝わるのか?

金野索一氏(以下、金野):たくさんいろんなキャリアの方がいらしてるので、ここからは質疑応答にいきたいと思います。

(会場挙手)

ほかにいます? じゃあ、まず○○さん。

質問者1:日本政策学校に所属します、○○と申します。今日はありがとうございます。

政策について学んでいる私たちなんですが、今日のお話をのなかで、区議に立候補した時に……。今、ちょうど参議院選挙で選挙争いをやられている方は、ほとんど政策というのを語らずに相手のことを批判したり、名前の連呼をしている。そうではなくて、政策をちゃんと語るようにしたとおっしゃっていたんですが、政策は伝わるものなのかなというのをすごく疑問に思いました。

僕たちは政策について学んではいるけれど、政策じゃ人にはなかなか伝わらないんじゃないかなと思ったんですが。政策は伝わるものかどうかというのは、考えをお聞かせ願いたい。

長谷部健氏(以下、長谷部):伝わるものだと思うし、伝えなければいけないものだと思ってやっています。政策も毎回毎回作って、ホームページを見ていただくと出ているんですけど、わりと企画っぽい。表参道のイルミネーション復活をさせたり、それをやる時には「今度は環境に配慮したこういうかたちで、明治神宮の光の奉納にしましょう」とか。さっきの公園の話もそうですけど、「最近の公園は禁止ばかりだから、遊べる公園を作りましょう」とか。

あとは、渋谷区でスポーツ振興というと、新しくグラウンドを作ったりするのは不可能なんですよ、広い土地がないから。でも、トッププロをいっぱい見ることができる場所はたくさんあるんですよ。国立(代々木競技場)とか、(明治)神宮(野球場)とか……。まあ、神宮は新宿区だったりしますけど。そういうプロ野球チームとかプロサッカーチームとかとタイアップして、学校に来てもらったりとか。

だいたいジャイアンツ戦と阪神戦以外は結構空いているんですよ。子供を無料で呼んで見てもらえれば、向こうにとってもスポーツマーケティング上、小さい子のファンを獲得できるのは大切ですから、そういう機会になるとか。とにかく、アイディアを書きました。全部自分の言葉で書いて、イラストと一緒にわかりやすく。

だから、選挙のチラシも全部(ほかの候補者)みんなA4の裏表で、バリアフリーとか耳ざわりのいい言葉しか書いてないけど、(自分のものは)それに全部コメントがついていて、企画で、本当に冊子です。2回目からは新聞みたくタブロイド版で8ページ立てにして、そこに「おもしろいアイディア集」みたいな感じで出しました。

それをちゃんと読んでくれた人は(票を)入れてくれているなという感覚があって。最初の選挙は2,400票だったのが次は2,800、3期目は3,600になって。1等賞を続けたというよりは、政策集を読んでくれて響いた人が増えてきているなという通信簿的なところもあると思うので、そういう実感はすごくうれしかったです。だから、伝わると思いますよ、やり方によっては。

企業、行政、市民を正三角形に

金野:次、質問がある方。

質問者2:○○と申します。今日は、すばらしいお話をありがとうございました。私も渋谷区民で、区長になられていろいろ新しい政策を打ち出しておられて、ますます私の渋谷愛が増えているところです。おうかがいしたいのは、非営利セクターについてです。今日はトライセクター・リーダーということで、すべてを見渡せるリーダーという観点だと思うんですけれども。

それぞれに所属している人たちがどう連携できるのかという観点で見た時に、日本は行政と企業がすごくエスタブリッシュだと思うんですけど。非営利のところにはやはり人材も少ないし、資源も少ないし、3つがぜんぜんイコールになっていないと思うんですよね。この重要な3つのステークホルダーがイコールパートになるために、重要なことはどんなことだと思いますか?

長谷部:たぶん、非営利セクターはおもしろい人材が今、どんどん増えてきている。若い人たちはとくに、非常に感じます。だから、楽観的ですけれども、あと10年もすれば変わるかなという思いが1つ。15年前に自分がgreen birdを始めたばかりの時も、「NPOなんて怪しい」と今よりもっと言われてました。

だけど昨日、日経のソーシャルイニシアチブ大賞という、NPO・NGO系の人たちの表彰式に行ってきたけど、やっぱりそうそうたる人たちが出てきているし、おもしろいなと思いますね。だから人材についてはどんどん時間をかける。企業や行政ほど歴史がないですから、できてくるのを待つことも必要。

ただ、やっぱり成功事例のNPOをもうちょっと作らなければいけないというか。そこで生活できるとか、起業したらこうなれるとか。そこは「卵が先か、鶏が先か」かもしれませんが、徐々にでき始めているかな。

行政の視点から見ると、行政の人がNPOとつき合うのがヘタクソというところが正直あって。やっぱり「まだ怪しい」とか。確かに怪しい団体も、実際あるんですね。でも、さっき言った公園じゃないけど、「ダメな人に水準を合わせるのはやめようぜ」ということです。いいところはいいと評価しなければいけない。

僕が理想と思っているのは、企業、行政、市民とあったら、これを正三角形にするということです。正三角形にするためのバランスを取ったり、そこの橋渡しをするのがNPOじゃないかと思っているんです。もちろん、違う考え方もあるんでしょうけど。NPOというのはこの3つのところにポジションする必要はなくて、それぞれに関わる、それぞれの媒体を媒介する、そういうことが大切かなと思いますね。

そういうところができているところが成功しているというか。例えばフローレンスという、駒崎(弘樹)くんがやっている……。今、病児保育から(それ以外の)保育まで大きくやってますよね。あれも非常に行政的な視点を持っていて、行政と強くやってる部分もあれば、お金をちゃんと回すという企業的な視点もあったりして、どれか1つに寄ってないですよね。民の力をうまく活用していくという。そこをうまく繋げていく手腕があるし。

green birdもそうですね。企業からお金を集めて、行政から掃除をする場所をもらって、参加するのは市民。そこで汗かく人たちを繋げているとか。なにかそういったことが、これからもっともっとそういう成功事案が出てくるといいんじゃないかなというのは、個人的に思っています。ただ、これは正解かどうかわからないですね。

質問者2:ありがとうございました。

行政を経験して学んだこと

(会場挙手)

金野:じゃあ、今、お2人いらっしゃいましたので、連続して、お2人まとめてどうぞ。

質問者3:○○と申します。私は、社会人になった時に楽天という会社で働いていて、その後、起業しまして。今、ICTの教育をするNPO法人の代表しています。

先ほどの話のなかで、博報堂時代に合意形成、全部自分でやらないということを学んだとお聞きしたんですけど。いわゆる行政というか、今の区長さん、区議の立場で一番学ばれた要素というのを教えていただければと思います。

質問者4:○○と申します。外務省に勤めている役人なんですけれども、質問が2つあります。広告代理店におられたので、やっぱりアメリカだと選挙では政策を売るのも商品を売るのも似たような戦略ですし、ITを相当使って(バラク・)オバマは当選しましたけれども。

そんなようなことを考えていくと、渋谷区というのはすごく都会ですし、そこが故郷になってるという面で、すごく区長に一番いいフィールドだなと思うんですけど。そこから見て、地方創生と言っている人たちが、どういう違った要素を入れるといいかなというのをアドバイスいただきたい。それが1つ。

もう1つは、成功体験について。そういうのがアメリカだとちょうどエビデンス・ベイスト・ポリシーといって、全部数値で成果を出している。行政側が用意してるんですけれども、おそらくそんなことを考えていらっしゃるんじゃないかなと思います。

要するに、効果。こういう介護者が減ったとかそういうのが行政で(把握)できて、成果が出たらそこに少ない予算を投じられるような仕組みを、なにか考えられているのかなという想像をしているんですけど(笑)。その2つです。

長谷部:最初のことで言うと、行政と政治で学んだことというのは、焦らないこと。社会人の時とかは、すごいスピード感のなかで仕事をしていたんですよ。行政に関わると、急に夢の中で走るとうまく走れないというような感じで、スローモーションのなかで仕事をしているように感じて。

それは批判的に聞こえるかもしれないけど、その大切さもちょっとあって。だから、僕みたいなせっかちな人はそこのところで焦らず、だけどスピード感持ったらいいということを学びました。

あとは、やっぱり大きな合意形成を作りたいんだけれども、なに言ってもわかってくれない人というのはいるわけ。これは切り捨てるつもりはないけど、そこにあまり時間をかけていてもしょうがないなというのも、実はあって。難しいところですね。だって、戦争は反対だと思うけど、戦争をやれという人もいるのと同じように、やっぱりどうしても相容れないところがあるんですよね。そこは難しいなと思う。

ただ、こっちとしては「対話の窓口は持っているよ」という、「ちゃんと窓を開けている、ドア開けているよ」というスタンスをちゃんと取りながら。それでも誹謗中傷はくるんだけれど。でも、そこは少し学んだところ。博報堂にいる時は、僕の話は全員聞いてくれる。そりゃ、プレゼンだもんね。ちゃんとみんな話せばわかってくれると思っていたけど、世の中はそうじゃないなということもわかってきた。

だから、なにを言ってもダメで、それは諦めているわけではなくて、そういう現実なんだということを学びました。ただ、そこで閉ざしてしまうのでなく、アプローチはちゃんとしなければいけない。できるだけ時間をかけて改善できるところもあったりするかもしれないから、そういったことは大切かなと思うようになりました。

地方創生に向けてできること

2つ目の質問で、1個目はなんでしたっけ?

質問者4:田舎の……。

長谷部:ああ、地方創生! これは、地方創生については、ぜんぜん頭が回ってないと言っちゃいけないけど(笑)。例えば、ふるさと納税。渋谷区は10億円ぐらい持っていかれちゃっているんで、「チクショー!」という感じ(笑)。経営する立場からすると、「10億あったら、いっぱいできることがあるぜ」と思う。

ただ、もちろん両方ががんばらなければダメだと思っていて、そういう意味から言うと、お金の原資を集めてくるのは都心のわけだから、都心ががんばらなければいけないし。でも、ここでできることと……渋谷区でできることと地方でできることの違いというのは当然あって。

例えば、宮下公園の改修というのは前の区長の時に決まって、僕が引き継いだ案件ですけど、宮下公園を3階建ての商業施設の上に作るんですね。公共の施設、場所を民間に定借で貸し出して、30年でやるんですけど。それで年間5億の収入が入るんですよ。それはなにかに充てられますよね。そういったことは、渋谷だからできるのかもしれないけど。それをちょっと置き換えて、地方だって別にできるなあと。

例えば、公園の維持管理。地方の田舎のスーパーマーケットの近くに公園があったとします。例えば……具体的に言ったほうがいいな。じゃあ、今だと……コープがやっています。スーパーがあったとして、その公園の管理をコープに任せて、「コープ公園です」と。渋谷区みたいなお金はもらえないけど、公園の清掃くらいはやってくれるはずだと。だって、コープ公園と名乗っているのに汚かったら、コープの名がすたるわけですよね。

例えばそういうことをやってみるとか。別に渋谷みたいに高額な金が動かなくても、大きな企業と組まなくてもできるんじゃないかな。渋谷でやりたいなと思っているのは、木造密集地域があるんですよね。そこは火災が起きたら危ないので、小さい土地を買いたいんですよ。小さい土地を買って、なにもしないで空き地にしてももったいないので、木を3本植えて森と言い張ろうと思ってるんですよ。森という字は、木が3本なので(笑)。

(会場笑)

それを、オーナーを募集して、すぐ近所の○○さんという人がやってくれると言ったら、その人の名前の森でいいとするとか。こういうのだったら、別に田舎でもできるんじゃないかな、こういう発想は。全部お金に頼らない。これはNPOで学んだことに非常に近いですけど、人の力とか持ってる善意を寄せ集めたらけっこうなパワーになるので、なにかそういったことを。

あとは、土地に対する愛着。だから、ふるさと納税なんかうまくやってますよね。こっちは痛手でしょうがないので、どこかで作戦を考えているんですけど。

ビッグデータをもっと活用したい

あとは、数値は考えてますけど……。それは、副区長が一生懸命考えています。PDCAの話と近いと思いますけど、そうやってサイクルを回していくのは必要かなと思っていますし、目標を作るというのも当然いいでしょうと思ってます。

でも、もっと思っているのは、ビッグデータをもっと活用したい。やっぱり、データによってわかることがけっこうあって。例えばだけど、ハロウィンには渋谷にえらい人が集まって来ちゃっています。

例えば、携帯会社が持っているビッグデータで調べて見てみたら、どういう人たちが来ているのだろうと思ったら、渋谷区民はほとんど来てないんですよ。日本中、主に関東周辺から来ている。やっぱりそういうのを見ると、区民への対応じゃないので、やっぱり税金を使うよりは「企業からお金を集めて、みんなの善意で対応したほうがいいだろうな」という判断材料にしていたりとか。

カウントダウンとかも、自然と人が集まって来ちゃうんですよね。それもビッグデータで調べてみると、カウントダウンのほうがまだ少し近所の人がいる。でも、やっぱり地方から来てる人が多いし、外国人も多いですね。その人たちに向かってなんとかするよりも、税金よりも違うやり方がいいかなとか。そういうことは考えたい。

せっかくあるデータ、行政の持っているリソースと企業の持っているデータをかけ合わせるだけで、もしかしたら普通じゃわからないことがわかってくるかも。要するにマーケティングです。行政にはそれが欠けていると思うし、そういうところはやっぱり得意分野じゃないけど、得意な人を頼って。そういったことはやっていきたいなと思ってます。

金野:ほかにありますか?

(会場挙手)

質問者5:○○と申します。今日はありがとうございました。今日はトライセクター・リーダーというお話で、(長谷部氏は)3つの分野でご経験されている。それぞれの分野で仕事のやりがいとか、学んだこととか経験とかあると思うんですけど。あえて、今までの営利、NPO、区長のなかで1つだけ選ぶとしたら、どれが一番やりがいのある仕事なのでしょうか?

今日は3つだったんですけど、私たちほとんどの人がそのなかで1つか、せいぜい2つしか知らなくて、3つ経験された区長にあえておうかがいしたいと思います。

長谷部:それを言うなら今、区長かなと思います。ただ、これが20代の時だったら代理店と言ってると思うし。その経験を積んだから、こういう立場に立たせてもらって、ありがたいことに応援してくれてる人たちの気持ちも感じるし。区長ですね。本当は僕、一生毎日運動して暮らせたらそれでいいなと思うクチなんで。毎日体育だったらいいなと思うんですけど、それじゃあ生きていけないからしょうがないですけど(笑)。

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