CLOSE

セカンドキャリアに幸あれ!! 久保竜彦×玉乃淳 “それしかできん”(全1記事)

「こないだ鹿と喧嘩した」元サッカー日本代表・久保竜彦のセカンドキャリア

サッカー解説者の玉乃淳が引退後のサッカー選手の生活に迫る「セカンドキャリアに幸あれ!!」。今回は、元サッカー日本代表で“ドラゴン”の愛称で親しまれた久保竜彦選手のインタビューを紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

元サッカー日本代表・久保竜彦の現在

玉乃淳氏(以下、玉乃):タツさんご無沙汰しています。超会いたかったです!

久保竜彦氏(以下、久保):元気しとったか?

玉乃:はい! めちゃくちゃうれしいです。急に現役に復帰されましたね。ニュースではいつも気にしていました。今、メインの仕事はなんですか?

久保:そのチーム(廿日市FC)で、小学生のシュート練習を見とる。

玉乃:シュート練習!? ほかの練習は?

久保:シュート練習ばっかり。それしかできんけんね、俺。

玉乃:まるでイメージができないです。タツさんが指導って……。

久保:ホンマ?

膝の怪我に苦しんだ現役時代

玉乃:持病の膝は、もう大丈夫ですか?

久保:ぜんぜん、大丈夫。

玉乃:本当ですか? 横浜FC時代、僕はタツさんの地獄のようなリハビリを近くで見ていましたからね。持病というよりも、なにか大きなアクシデントがあったのですか?

久保:いや、もう蓄積って感じよね。やっぱり身体の使い方が悪かった。痛みがなかったのは23、24歳までじゃないかな? サンフレッチェやマリノス時代も、1年目ぐらいまでは大丈夫やったけど。

玉乃:その後に原因不明の痛みが襲ってきたわけですか?

久保:うーん、だけん最初はそう思ったよ。「なんで痛いんやろう」って。レントゲンとか撮ると、やっぱり膝が割れとって、生まれつきかなんかかなって。

玉乃:生まれつき?

久保:みんなはそう言いよったけど、やっぱり違ったんだよね。ある先生に会ってわかった。指がおかしかったって。足の指が使えていなかったって。

それからは足を強くしていったら、痛みがなくなった。最初は屈伸もできんかったけど、正座もできるようになったし、腰も治った。やけんホンマに助かったと思った。

玉乃:昔、学生時代とかスリッパ歩きしかしてなかったとか、そういうのが原因なのでしょうかね?

久保:やろうね。ほんとにそんなん。癖で指が浮いてるとか。指先を使わんけんって、ちょっと小さめの靴を履いたりとか。つっかけで歩いたりする。今の子供もそうやってる子が多いって。

玉乃:確かに日本は昔、足袋を履いていましたからね。お相撲さんも最後の踏ん張りは足の指でやるらしいですから。

久保:そう! 足の指を使う機会がなくなってな。畳もなくなっているしね。でもほんと、その先生に会って変わったよね。自分で痛みを出しとるんやけんって。だから自分で元に戻さないかんて言われて。

脱臼した指の荒療治「ガキン」「バキッ」「なんやコイツ!」

玉乃:その先生に出会ったのはいつですか?

久保:横浜FCに解雇される年やった。御殿場で合宿したやん、そのときにもう引退しようと思っていて、とぼとぼ歩きよったら、「うい〜」とか言って声をかけてくれて。

玉乃:タツさんに「うい〜」って(笑)。

久保:もっと昔に会っとったことがあって。「この足やと絶対終わるよ」って言われとった。でもそんなん、そんときは聞かんじゃん。まだ動くし。で、「面倒見てやるよ」と言われて。1週間行ってみたんけど、いきなり指をガーンて曲げられるんじゃけど、バキって割れてむっちゃ腫れるんよ。

玉乃:なんですかそれ!?

久保:むっちゃ腫れて、「どうや、痛くなくなったやろ」って。こっちが痛すぎるけ、膝の痛みを忘れているだけで、そういうテクニックじゃないんですかって言って。それを毎日するんよ、ガキン、ガキンって。で、腫れが引いたのが1ヶ月後ぐらいで、自分でも立てるようになったん。立てるようになってからは、もう膝が痛くなくなった。

玉乃:うそー(笑)。それ以来、ぜんぜん痛くないですか?

久保:そう。痛みがとれたっていうのがむっちゃうれしかったよね。力とか瞬発力はなくなるけどさ、やっぱり痛くなくて動かせるっていうのはこんなに楽しいのかって。4、5年ずっと痛みがあったけんね。

最初ガキっていって、ポキっていって、「なんやコイツ!」と思っとったけど、「お前の足はさ、こっちに脱臼しとるんよ」と言われたのね。それを戻すために、逆方向に脱臼せないかんやろって。それもむっちゃ痛い。もうやばかったよ。

玉乃:タツさん……(久保の素足を見ながら)それにしても足の爪が伸びすぎじゃないですか?

久保:爪もさ、切り過ぎたら駄目なんよ。力を出すために。爪が一番重要なん。そういうのも教えてくれた。切り過ぎたらもう力が出ん……にしても、これは伸びすぎやけどね。

玉乃&久保:はははは(笑)。

久保:まあ、もうなにも気にせえへんけんね、足のことも。やっぱり痛みなくサッカーをやれるんわ、ホンマ楽しかった。

トラックの運転手になる夢は叶った?

玉乃:タツさんが死ぬほどサッカーが好きなこと、僕は知っていました。J1に昇格した07年の横浜FC時代、ほとんどメンバー外だった僕はリハビリ中のタツさんの一番傍にいましたからね(笑)。

でもあの痛みのなか、開幕戦であのシュートですもん。しかもあのヒョットコダンス!! 半端じゃない。屈伸できないのにあのシュートを打っちゃうんですから。

唐突ですけど、なにかのインタビューで、「夢はトラックの運転手になる」みたいなことを言っていましたけど、あれはなんですか? すみません、今ふと、思い出しました(笑)。

久保:うん、なりたかった。いろんなところに行きたくて。トラック野郎が好きだったから。

玉乃:日本のいろんなところに行ってみたかったのですか?

久保:行けるやん、トラックやと。高校のときまで、サンフレッチェも入れそうになかったんじゃけん。ギリギリ入って、だけん「入っても無理やろ」みたいに周りは言うじゃん。もうみんなすごいやつばっかりで。だったらトラックやろって。

玉乃:では、引退して時間ができたら夢が叶いそうですけど、実際はどうですか?

久保:やらんね。なんでやろうね。現実があるやん。トラック、絶対きついやろ。俺の妹の旦那がトラックの運転手で、もうきついって。あれ、荷物も自分で降ろさなあかんねん。すごいらしいよ。

お小遣い制で「カネちょうだい」

玉乃:タツさんのセカンドキャリアほど、予測できないものはないですね。引退後のイメージとか、なにかありました?

久保:考えてなかったね。

玉乃:やっぱりそうですか。“なんとかなるやろ”って感じでしたか?

久保:うん。

玉乃:別にお金の心配とかないですもんね。現役中に一生分の……。

久保:嫁に任せてるけんね。

玉乃:奥様がお金の管理を?

久保:うん。たぶん嫁はちゃんとしとるやろ。

玉乃:いつ結婚したんでしたっけ?

久保:21歳のとき。で、お小遣い制。「カネちょうだい」って言ってもらう。

玉乃:引退後ですが、奥様からこうしてほしいみたいな要望はあるんですか?

久保:嫁が俺に? 出さんやろ。

玉乃:なにかしてほしい、みたいな。

久保:なにも言わんよ。

玉乃:好きにすれば、みたいな?

久保:うん。でも子供がテニスとサッカーをしよるけんね。それの練習とか、ウォーミングアップはやってとか言われる。

玉乃:それにしてもタツさんが「カネちょうだい」って(笑)。奥様とはどこで知り合ったんですか?

久保:高校よ。同じ高校で同級生。

玉乃:ずっとラブラブなのですね?

久保:普通よ。最初はしょっちゅう逃げよったよ。俺、飲み過ぎるけ。飲み過ぎて朝帰ってきて。そこらへんで寝とったりするけん。それ見て何回も家出しよったね。おんぶするのが大変とか、恥ずかしいとかで。

日本代表は息苦しかった

玉乃:“タツさん伝説”はいっぱいありますもんね。ぜひ、代表のときの話も教えて下さい。話せる範囲で。

久保:最初のときはあれよ、行きたくなかったね。

玉乃:え?(笑)。

久保:まず、知らん人ばっかりやん。で、トルシエも面倒くさいやつだしさ。本当、むっちゃ面倒くさいんよ。しかも先輩ばっかりで、井原(正巳)さんとか、ゴンさん(中山雅史)とか、秋田(豊)さんとか、城(彰二)さんとか。息苦しかったのよ、飯のときとか。

玉乃:えー!? でもめっちゃかわいがられているじゃないですか、そういう上の人たちから。

久保:今はね。でも現役のときはJリーグでバチバチやってたから。なんなんコイツとか、絶対に思われてると思って。

玉乃:そんなに普段のJリーグでもやり合っていたんですか?

久保:それはあったな。

玉乃:なんか言われたりするんですか? それともタツさんから仕掛けるんですか?

久保:どうじゃろう。どうやったんやろ。わからん。覚えとらん。レッドカードばっかりやったからな、若いときは。最悪よ。

玉乃:やられたらやり返す精神が強いんですかね?

久保:そうやね。自分からやることもあったやろうね。

玉乃:闘争心が半端じゃないってことですかね、負けず嫌いというか。

久保:わからん。でもなんか大久保(嘉人)の気持ちがわかるもん。似てはないけど、あいつもむっちゃ良いやつやん。こうやって喋ったりしたら。やけども、試合になるとカーッてなる。たぶん、あんなんやったよ。

玉乃:見ているほうからすれば、それが魅力でもありますもんね。なにかしてくれるのではないかって。そういう選手っていますよね。とくに、スーパーな選手に多い。でも、代表でチームメイトになれば、相手はそんなに気にしなさそうですけど?

久保:していない。俺だけよ。俺、友達が本当におらんかったけんね。アツさん(三浦淳寛)が唯一、部屋に来てくれて仲良くしてくれて。そのときはむっちゃホッとしたもん。その後に西澤(明訓)とかが入ってきだしてからやね。落ち着けるようになったんは。

ファンが望んだW杯での活躍

玉乃:僕としては、ワールドカップでタツさんの姿を見たかったんですが……。

久保:出たかったよね。本当にがっかりよ。予感はあったよね。その前の2試合は本当に膝が痛くて、ぜんぜん動けんかった。なんとかしようと断食するところに行って、その帰りやったもんね。新幹線の中で代表落ちを聞いた。

玉乃:海外でやりたいとか、そういう想いはありましたか?

久保:行きたかったけど、痛いけんさ。寒いけん、痛くなるって思っとったし。やっぱり1年間はこの膝じゃ無理やろうなっていうのはあったよね。やってみようかというのもあったけど、絶対壊れるなっていうのもあったけん。

玉乃:実際に海外に移籍する話も?

久保:ベルギーから来とるとか、イングランドの下のリーグから来とるとかあったよ。ロシアとか。でもロシア、寒いやん。

玉乃:ただ金沢に行くとか、普通だったら痛過ぎるから辞めちゃおうってなると思うんですが。サッカーが半端じゃなく好きだってことですかね?

久保:うん、サッカーしかないじゃん、俺。

昔は選手と喧嘩、今は野生の鹿と喧嘩

玉乃:現役時代に見せていたあの闘争心は、いまだ健在ですか?

久保:こないだ鹿と喧嘩した。

玉乃:は? あ、ごめんなさい。意味不明すぎてつい、タメ口になっちゃいました(笑)。

久保:本物の野生やけん。奈良の弱いやつじゃないんよ。ピョンピョンしとるやつよ。すごいんじゃけん、グアーとかっていって。鹿、やばい。

玉乃:なんで鹿と喧嘩を?

久保:子供がおったけんさ。子供とキャンプしとるときに、たまたま遭遇しちゃったけん。それで、鹿がバーって来ちゃって。

玉乃:お子さんたちを守ったわけですね!! タツさんも無事でよかった。

久保:強いよ、野生は。やっぱり人間も山に行ったら強くなるんやろうね。だから山に行くよね。山で修行したりするよね。わかってる。わかってるやつが山に行くんやないかと思う。だから山で練習すればいいと思う。今だったら筋トレとかせんでも、本当の強さっていうのはやっぱり山よ、山。

玉乃:別に山に行って、鹿と喧嘩しなくてもいいんですよね?(笑)。

久保:うん、走るだけでいいよ。

サッカー指導者としてのセカンドキャリア

玉乃:野生の鹿と喧嘩したこと以外で、熱くなったりするものとか、目標や夢とかってあるんですか?

久保:なんもないね。子供のテニスとサッカーを見るとか。それぐらいか。ボーっとしとるか、家で酒飲んどるか。で、夕方から子供の練習を見て、そんなんやね。なんもない、ホンマに。みんなから言われるよ、「なにしとん?」って。でもホンマ、なにもしていない。おもしろい練習が浮かんでこんかなと思って、たまに走ったりはしているけど。

玉乃:指導者としてですね?

久保:そう。子供が食いつく、飽きんような練習。でもなかなかないね。こればかりは難しいな。

玉乃:それにしても、ちゃんとご飯を食べています? 痩せられましたよね?

久保:筋肉が全部落ちたけん、昔に戻った感じよ。最初の頃だって、もうひょろひょろよ。代表に行ったりしてからやね、筋肉を付けたんは。外人とちゃんとやりたいと思ったけん、付け始めたんよ。

玉乃:タツさんでも外国人選手にはフィジカルで負けているという感覚だったのですか?

久保:うん。やっぱりね。なにもできんかったイメージがあるもんね。とくにデサイーとか、フランス人はやっぱりすごかった。日本のCBじゃ考えられんような感じで。

玉乃:具体的に、なにが違うのでしょうか?

久保:グンッてくる。なんなんやろうね、あれ。人間というより、変な意味じゃなくて、動物っぽいよね。弾かれたような感覚があった。

玉乃:やっぱり山ですね! タツさんが教えている子供たちも山に連れてかなきゃですね。

久保:おう。

玉乃:(笑)。

【久保竜彦プロフィール】生年月日 1976年6月18日福岡県出身「ドラゴン」の愛称で多くのファンから愛され続けている元日本代表のサッカー選手。サンフレッチェ広島、横浜F・マリノス、横浜FCなどで活躍。現在は指導者として、サッカー界の未来を担う子供達にサッカーを伝授している。

(サッカーダイジェスト 2014年11月11日号にて掲載)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大手は緩やかな衰退に直面している 『地方副業リスキリング』著者と語る、企業人が地域課題に取り組む意義

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!