2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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村上要氏(以下、村上):とはいえ、今、紹介したラフ・シモンズは、超忙しいデザイナーの1人なんですが。世の中には、きっと彼と同じくらい忙しいけど……。
藪野淳氏(以下、藪野):うまくやりこなしているというか。
村上:そうそう。
藪野:方がいますよね。
村上:その代表と言ってピンとくるのは、表紙にもなった「セリーヌ(Celine)」というブランドのフィービー・ファイロというデザイナーであったり、あとは「サンローラン(Saint Laurent)」のエディ・スリマンなんかもきっとそうなのかなって思うんですが。そんなお話をしていきたいと思います。
フィービー・ファイロですね。この(『WWD Japan』最新号の)表紙に、カール・ラガーフェルドと一緒にイラストを並べてみたタートルネックにコートを羽織っている女の人です。この人の話をしてみたいと思います。
フィービー・ファイロは、今セリーヌというブランドのデザイナーを手がけています。彼女もまた、最初に見てもらったsacaiの阿部千登勢さんと一緒、働くママさんデザイナーで、フィービーは1人どころじゃなく、子どもが3人?
藪野:3人くらいですかね。バックステージにいつもね。
村上:ママであり、妻であり、そしてデザイナーであるっていう複数の顔を持った、実に忙しいデザイナーさんなんですね。だけれども彼女は、うまくセリーヌというブランドのトップを務めながら、妻であり母であるという仕事をこなしていて。
「その秘密はどこにあるんだろう?」と考えると、実はフィービー・ファイロは、アトリエをロンドンに持っているというのが大きなポイントなのかなと。
藪野:そうですね。イギリス人ですもんね。
村上:フィービーは、イギリス人のデザイナーで。でも、セリーヌというブランドは、フランスのブランドなので。本当だったらフィービーは、きっとセリーヌのトップなのでパリで働かなくてはいけないはず。
藪野:恐らく、「パリのアトリエに来てくれ」とは言われているはず。
村上:「パリのアトリエに来てくれ」と言われたはずなんですね。
だけどフィービーは、子どもがまだ小さいし、自分らしい生活を送りたいっていうのは、きっと1番の理由だったと思うんですけど、パリに移住することは「できない」と断って、代わりにメゾンに、なんとロンドンにアトリエを作ってもらっちゃった。
本当に恵まれたデザイナーでもあるし、逆にセリーヌはそれくらいのことまでをしてフィービーというデザイナーと一緒に働きたかったんだと思うんですけど。
彼女はアトリエをロンドンに構えることによって、夕方までロンドンのアトリエで一生懸命働いて、その後はすぐに自宅に帰って子どもと一緒の時間を楽しむっていう、ワークライフバランスって最近言いますけれども、そんな生活ができるようになったデザイナーの1人です。
同じように、サンローランというブランドのエディ・スリマン。サンローランも、パリのブランドなので、普通だったらサンローランも「やっぱりエディさん来てください」って、きっと言うんだと思うんですけれども。エディの場合は、「僕、LAが好きだから」っていうね、さらにパーソナルな理由で。
彼もまた自分のアトリエをロサンゼルスに構えるということをかたくなに譲らなくて。サンローランはそれを認めて、「じゃぁエディ、その代わりロサンゼルスで思いっきり働いてくれ」って頼んで、アトリエをロサンゼルスに作りました。
エディの下で働いているデザイナーは、結構な頻度でパリから洋服をたくさん抱えて、ロサンゼルスまで飛んで、ロサンゼルスのエディの前にその洋服を見せて、エディが「こうこうこうね、これはこうだね」って言ったら、その洋服をまたエディの指示と共にパリに持ち帰る。そして、洋服を改良したら、またそれを見せに行くっていう、LAとパリをすごい勢いで行き来する生活を送っているらしいんですけれど。
藪野:そこまでブランドにさせるってすごいですね。
村上:本当に! それくらいエディは才能があると、物語っているストーリーでもあるんですけれど。
彼はそういうスタイルを貫くことによって、自分らしさとか、あとは自分のアイデンティティーとか、自分のクリエイションみたいなものを大切にしているデザイナーの1人です。
今のサンローラン人気の理由って、エディがLAに住んでいるからこそキャッチできるLAのアンダーグラウンドなムーブメントであるとか、スタイルであったり、音楽であったり。イケてる人たちの情報をキャッチして、それをうまくミックスしているからすごく人気のブランドなんだと思うんです。
自分らしい生活を送ることができたからこそ、人気につながっているというところで、この2人はすごく素晴らしいし、うらやましい働き方をしているデザイナーだなって思いますね。
藪野:そうですね。
村上:一方で、逆にそれができなかったデザイナーというのが、アレキサンダー・ワンで。アレキサンダー・ワンは、自分のブランドをニューヨークで手がけているので、基本はニューヨークベースの人なんですが。
バレンシアガというワンがこれまで携わってきたブランドは、「週に3日はパリに来てよ、パリで働いてよ」と、ずっとワンに求め続けていたそうなんですね。ワンは、それをどうしても受け入れることができなくて。
ちょうど、アレキサンダーワンという自分のブランドもスタートしてから10年を迎えて、これからより力を入れてやっていきたいっていうタイミングだったので、週の半分をパリのバレンシアガのメゾンに捧げるということが、どうしても最後までうまくバランスを調整することができなくて。結局バレンシアガというメゾンを離れる決意をしました。
そういう決別という選択をすることになったので、このスライドを見てもらうと、本当にフィービーやエディというのは、うまくワークライフバランスを確立できて。それに対して、ラフやワンというのは、残念ながらメゾンとの折り合いがうまくつかなかったのか、もしかしたら別の事情があるのかもしれませんけれども、理想の働き方というのを、そのメゾンでは確立することができなくて、ブランドを去っていったのかもしれないなということが、見えてくるかなという気がします。
藪野:そうですね。
村上:ということで、前置きが長くなりましたが。というくらい、今、働き方とファッション。今のデザイナー、クリエイションの話ですけれども、ファッションってすごくリンクしているんですね。
そんな思いがあって、私たちは今回この「幸せに働くって何だろう?」という特集を作って、みんなが幸せに働くことについて考えるきっかけにしてくれればなと思って、この特集をいたしました。
藪野さんが、この「幸せに働く」というキーワードを考えてくれましたけれど、その心みたいなものを、ちょっと教えてもらってもいいですか。
藪野:僕は、このWWD Japanで働き始めて3年になるんですけれど。最初入った時って、ちょっとでも成果をあげたいとか、ちょっとでも成長したいとか、何か結果を残したいっていう気持ちでバリバリ働いていて。今も、それはそんなに変わらないんですけれども、やっぱりちょっとプライベートも充実させたいなとか、そういう気持ちが。
昨年もこの働き方特集というものを担当させていただいて、そういう気持ちが芽生えてきて。でも、「幸せに働く」っていう定義って、別にワークライフバランスが実現できているから幸せっていう人もいれば、それこそ夢が叶えられるから幸せであったりとか。育児と両立できるから幸せとか。それぞれ幸せのかたちって違うのかなっていうところからスタートして。
だから、制度とかというよりは、もっとパーソナルな部分、自分のなかでの自分らしい働き方であったりとか、幸せな働き方っていうのをそれぞれが見つけられたらいいなっていうところから、今回の特集は「幸せに働くって何だろう」がいいかなと。
村上:あとで誌面をじっくり読んでいただけたらと思うんですけれど。それぞれの幸せのかたちについて考えているっていうのが、今回の特集の大きなポイントになります。
10〜11ページには、3年前くらいの藪野さんに似ているのかもしれませんけれども、「バリバリ働くのが今の僕の幸せだ」っていう人たちですね。特に若い世代で責任のある仕事を任されていて、今は本当にやる気になって、この目の前の仕事に燃えているような人たちを取り上げています。
その次、ページをめくってもらうと、今度はバリバリ働くだけじゃなくて、仕事以外の生活も持っている人。一番上にいる下中さんという方は、やっぱりsacaiの阿部さんとかフィービーのような。
藪野:お子さんが小さいので、仕事と育児を両立して、でも「ハウスコミューン(House_Commune)」というブランドを今ディレクションしているんですけれども。そのブランドは17時には帰りたいけれども、17時までの間でバリバリ働くというスタイルですね。
村上:その下、「マンオブムーズ(MofM, manofmoods)」っていうブランドは、これまたかなり異色の自分らしい働き方をしているデザイナーさんで。
このデザイナーさん、当然デザイナーという仕事をしていたので、これまでずっと東京にいたんですけれども。2年前に東京・代官山から、なんと群馬県のみなかみに、自分だけじゃなくて会社ごと移ってしまった。
藪野:会社ごとっていうのが、もうすごいですよね。
村上:自然に囲まれながら自分の人生をデザインすることが、自分のクリエイションにつながるって彼は考えて。自分の人生をデザインする時に欠かせなかったのが、都心ではなく郊外で生活することだったんだと思うんですけれども。
これまでの既成概念とか、みんなが当たり前だと思っていた考え方とは全然違う、ちょっと新しい働き方をしている人たちなんかにも、ここではフォーカスをしています。
藪野:特に今、インターネットが発達したりとか、SNSがあったりとかで、情報面でも東京で会社にいないとできないということが徐々に減ってきていて。
家に帰っても仕事ができるし、極端に言えば、みんながみなかみに移っても、情報は入ってくるし電話がつながるしというところで。やはり、そういうものが発達したことが、新しい働き方を助けているのかなと思いますね。
村上:一番最初に見てもらったsacaiの阿部千登勢さんは、メンズのコレクションも最近はパリで発表しているんですけど、あの人メンズのコレクションの時、パリに来ないんですね。その理由は、まだお子さんが小さいから、日本でお留守番をしていたいから。
藪野:見届けているという。
村上:お留守番をしたいからっていう理由で。代わりにメンズの期間中は、旦那のカラーの阿部潤一さんがパリに出張して、千登勢さんが出張に行くのはウィメンズのコレクションの時だけで。
逆にその時は、阿部潤一さんのほうがお留守番をしているんですけど。
僕は、ずっとメンズのコレクションをパリで見てますけれども、「デザイナーがいなくて、ショーって大丈夫なんですか?」って聞くと、これだけネットが発達して、Skypeであったりとか、LINEであったりで、あらゆる人と国境をも超えて、時間も超えてコミュニケーションすることが、全然できる世の中になったから、今のところそんなに不便だと思っていないみたいで。
「それがまたsacaiですから」「私が行かないのも、またsacaiなんです」みたいにおっしゃっていましたけど。そういうふうに既成概念に縛られずに、それを超越してしまう強さっていうのかな。そういうものを、いつも彼女から感じます。マンオブムーズのデザイナーさんなんかも、もしかしたら、そんな。
藪野:朝、情報収集するんですって。朝、SNSを1時間はわーっと見て情報収集して、世の中から遅れをとらないように。
村上:なるほど。そういうツールをうまく使うことによって、郊外に住んで自分らしい生活を追求するデザイナーのお話であったりとか。あとは一番最後、19ページですね。
3人の東京のデザイナーさんに出てもらっていますけれども。この3人は「旅」っていうのをテーマに毎シーズンコレクションを手がけているデザイナーさんで。当然、彼らにとって旅は欠かせないので、旅を1週間、数日間、なかには3週間くらい行く人もいるみたいですけれども。
そんな旅で得るものを聞きつつ、さらには1週間とか3週間とかオフィスをあけて大丈夫な仕事術みたいなね。堂々と旅に出るための秘訣みたいなのを聞いています。
いろんな切り口から、それぞれの幸せな働き方にフォーカスをしていますので、ぜひ今日の「ファッション・カレッジ」が終わったら、誌面に全部目を通して、「自分だったらどうなのかな?」「僕の幸せな働き方ってどんななのかな?」と考えていただければと思います。
藪野:それって、あれですよね? ライフステージによっても変わるかなと思っていて。今こう思うけど、もしかしたら、女性だったら、妊娠したりしたら、また考え方も変わるし。「それをターニングポイントに働き方が変わった」って方も、取材してきた方にすごくいっぱいいらっしゃったし。40歳になって、また変わる方もいるだろうし。
村上:本当にそう思います。
この後、3時間目の授業では、社会人2、3年生と、5年生くらいの人と、12年生くらいの方が出てきますけれども。きっとそれぞれのライフステージに応じた今の仕事みたいなお話も聞けると思うので、ぜひこのまま講義を受け続けていただければと思います。
ということで、最初の授業「幸せに働くということ」について考えるお話を終わりにしたいと思います。
藪野さんありがとうございました。
藪野:ありがとうございました。
(会場拍手)
司会:村上さん、藪野さん、ありがとうございました。
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