2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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藪野淳氏(以下、藪野):皆さん、『ディオールと私』という映画はご覧になられましたでしょうか? 見たという方?
村上要氏(以下、村上):きっといると思います。
藪野:あれは、初めてのオートクチュールコレクションを作るまでの8週間を追ったムービーだったんですけれども。8週間でも、50体以上のオートクチュールコレクション作るには、極めて短い期間なんです。
けれど、最後のほう、ラフ・シモンズは、3週間くらいで1つのコレクションを作っていたとも言われているくらい……。
村上:(スクリーン映像で)今、見ているこのコレクションは、ほぼ3週間くらいでできあがっているという。
藪野:という話も出ているくらい、本当に多忙だったみたいですね。
村上:なるほど、わかりました。そんな多忙なラフ・シモンズの最後のコレクションが、今見てもらっているコレクションで。
僕、ラフ・シモンズが一番最初に手がけたオートクチュールコレクションを実際にランウェイ、現場に行って見てますし。その後もクチュールを中心に何回かコレクションを見てますけれど。
正直に、本当に忌憚なく言えば、今回のコレクションは、その時ほどの感動は実はあんまりなかったなって思ってます。とてもつまらないとは言わないですけれども、きっとラフには「もっとできたはず」っていうふうに。
藪野:突き詰めれば。デザイナーですからね。
村上:思わざるを得ないところは端々にあって。もしかすると、今、藪野さんが言ったみたいに、多忙すぎる。3週間っていう限られた時間しか、彼には与えられなかった環境が、今回のベストではなかったと思われるコレクションの結果に、影響しているのかなと見ていて正直思いました。映像ありがとうございました。
では、次はパワーポイントを示しながらお話をしていきたいと思います。
今、藪野さんから、ラフ・シモンズがこのコレクションを作るのに3週間くらいしか時間がなかったというお話がありましたけれど。
なぜ、ラフ・シモンズには、3週間しかこのコレクションに費やす時間がなかったのかっていうところを、これからお話をしていきたいと思います。
ラフ・シモンズの、ここ3年くらいの1年間のスケジュールになってます。ラフ・シモンズがディオールのデザイナーを務め始めてから、3年半でしたよね。過去3年はこんな感じのスケジュールで、きっとコレクションを発表していたのかなというのを表にまとめたものです(スライドを指して)。
ラフ・シモンズは、自分のブランド、メンズの「ラフシモンズ(RAF SIMONS)」というブランドと、あともう1つ、ディオールというブランド、2つのデザイナーのクリエイティブ・ディレクターを務めていました。
なので、まず1月を見てもらうとわかりますが、自分のブランド、ラフシモンズというブランドのコレクションの発表があって。当然、ラフシモンズ、秋冬のコレクションがあれば、春夏のコレクションがあるので、6月にも同じように自分のコレクションを発表している。
合わせて、今度は、3月と10月のところを見てもらいたいんですが、今動画で見てもらった通り、3月と12月には、ディオールのウィメンズのコレクションを発表しなければならない状況でした。
さらに、ディオールというのは、オートクチュールというラインが。
藪野:映画でも出てきた。
村上:映画『ディオールと私』で作っていたのは、まさにオートクチュールのコレクションでしたが。
オートクチュールという別のライン。お客様のために1点もののドレスであったり、洋服を作るスペシャルなコレクションというのがあるんですけれども、そのコレクションのデザインを手がけなければならない人だったんですよね。
1月のラフシモンズの秋冬コレクションが終わると、ショーの1週間くらい後なんですけれども、「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」というオートクチュールブランドのコレクションの発表が待っていて。
同じように、6月の自分自身のラフシモンズというコレクションが終わると、また1週間後にはクリスチャン・ディオールというオートクチュールブランドの発表が待っている。
年に4回やらなければいけないはずのコレクションに、さらに2個加わっていたというのが、非常に大きなポイントです。
藪野:そうですねぇ。
村上:さらにさらに。
5月と12月にプレスプリングというプレフォールというのがありますけれども。最近、ファッション業界は、「プレコレクション」っていうのを発表しなければいけないっていう定めに、ほぼなっていて。
実は、このコレクションがすごく重要になっていて。デザイナーとして、このコレクションにも魂を注がなければいけないので、結果、ラフ・シモンズは、ますます多忙になってしまっていたというのが、ここ数年の大きな状況でした。
「プレコレクションって何か?」というのをお話すると。
今、ここに画像が2つあって、左にあるのが「プレスプリング」というコレクションです。右にあるのが、今動画で見てもらった「スプリング&サマー」というコレクションです。
プレコレクションというのは、春夏とか秋冬よりも前。前というのを英語で「プレ」って言いますけれども、前に発表したり、発売したりするコレクションで、最近すごく重要になっています。
どんな特徴があるかというと、今見てもらっている「スプリング&サマー」や、「フォール&ウィンター」のメインのコレクションに対して、比較的ベーシックなデザイン。だから、値段がちょっとお手頃なんですね。
ベーシックで値段がちょっとお手頃で、メインのコレクションよりも早くブティックに並ぶので、実は売上では、今見てもらっているプレのコレクションのほうが、右側にあるメインのコレクションよりも高いブランドがほとんどになっていて。
ディオールとか、ほかの「グッチ(Gucci)」とか「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」とかのそうそうたるラグジュアリーブランドでは、およそこのプレコレクションで、半年間で7割を稼いでいて。すごくスペクタクルな演出で発表するメインのコレクションが3割くらいに今はなっているんです。
藪野:どちらかというと、イメージを伝えるという意味のほうが強くなってきていますね。
村上:メインのコレクションでイメージを伝えて、プレのコレクションでみんなが着られるようなちゃんとした洋服を発表して、そこでビジネスを作っていくというのが、当たり前の状況になってます。
ということで、先ほどの表に戻りますけれども、ラフ・シモンズは、プレと呼ばれるコレクションにも全力投球をしなければいけないことが求められて。
最近、彼はプレのコレクションを発表するに際しても、ファッションショーを開かなければいけない。
藪野:ここ数シーズンで、どんどん変わってきてますね。
村上:本当に発表しなければいけないということで。ラフ・シモンズは今、冷静に振り返ってみると、なんと年に8回もファッションショーを開いていたということで。正直、「そりゃ、大変だよね」という感じが正直します。
ラフ・シモンズは、1年でどれくらい洋服を作っていたのかという話をすると。
ラフシモンズというメンズのブランド。だいたい1回のファッションショーで40ルック、40スタイル発表していました。
当然、春夏と秋冬の2シーズンがあるので、ラフシモンズというブランドでは、40×2ルック発表していて。
ディオールというブランドは、春夏と秋冬で50〜60くらい。
藪野:60くらい。
村上:50〜60ルック発表していて、当然、春夏と秋冬で×2。
さらに、今お話をしたプレと呼ばれるコレクションも、今すごく重要になっていて、65ルックくらいを1シーズンに発表していたので、65×2で。
さらに一番最後、オートクチュールの春夏と秋冬というのが55ルックくらい出てくるんですけれども、55ルック×2というのを作らなければいけなくて。
全部足していくと、彼は420ルックくらいを1年で作らなければいけなかった。
藪野:1日に1ルック以上ということですね。
村上:1日に1ルックじゃ足りない!
藪野:そうですねぇ。
村上:過酷。この話、聞くだけでも、「やばくない、これ?」っていうね。それくらい働いていたデザイナーだったんですね。
多忙で、これだけの洋服を作らなければならないので、彼が1つのブランドの1つのシーズンに対して、そこまで力とか時間を割くことができなくなっていたってみんなが考えても、それは不思議ではないのかなって思っています。
さらに、最近のデザイナーというのは、実は洋服だけを作っていればいいのではなく、こんな仕事もしなければいけないというのが、彼らラフ・シモンズたちデザイナーの置かれている状況なんですね。
一番上は、洋服のデザイン。今、お話したみたいに、彼は1年間で400以上のルックを作らなければいけなかった仕事をしていたんですけれど。
加えて、最近のデザイナーは、ショップ、ブティックのイメージを監修したり、広告ビジュアル、いろいろなファッション誌とか、Webとかを見ていて、すごく美しいビジュアルが何度も何度も出てきますけれども、ああいうビジュアルのイメージを頭に思い浮かべて、それをスタッフに伝え、カメラマンとモデルという人たちにも伝えて。そういう仕事も彼はやらなければならなかった。
あとは、イベントの監督。今言ったみたいに、ファッションショーを彼は年に8回開かなければいけなくって。最低、年に8回大きなイベントが待っているので。
藪野:しかも、海外でショーをやったりしているので。
村上:そうそう。最近は、プレコレクションというのを海外で発表するっていうのが、このディオールというブランドはちょっとブームになっていて。ちょうど1年前くらいですかね?
藪野:そうですね。2013年、2014年くらいですかね。
村上:ちょうど昨年の12月には、この日本でファッションショーをこのブランドは開いたんですね。当然、ラフ・シモンズは日本でファッションショーを開くために、パリもしくはベルギーなのかな、そこから日本にやってきて、ファッションショーの監督みたいな仕事も当然していたわけですけれども。そんな仕事もしなければいけなかったし。
あと最近はSNSですね。
藪野:そうですね。
村上:出ました! SNSと言えば、TwitterとinstagramとFacebookと。Pinterestとか、いろいろありますけれど。
SNSという新しく発達してきたメディアのイメージのコントロールですね。さすがに、ラフ・シモンズが携帯でTwitterからいちいちコメントをしているわけでは、きっとないと思うんですけども、「Twitterではこんなことを伝えたらいいんじゃないかな。それに対してFacebookは、こういうふうに使ったらいいんじゃないの?」みたいな。
SNSを使って、どうやってブランドのイメージというのをより大勢の人たちに伝えていくのかみたいなことについても、当然彼はデザイナー、クリエイティブ・ディレクターとして携わらなくてはならなかったという状況です。
あとは、取材も世界各国。
藪野:うちもよく申し込みますけれども(笑)。
村上:そうそうそう。
藪野:世界各国の数ある媒体から「インタビューさせていただきたい」っていうリクエストがきますし。
村上:そうですよね。我々は、ほぼほぼ毎シーズン、ラフ・シモンズに「ぜひ、インタビューさせてくれ」ってオファーをし続けていますけれども。きっとそんな媒体が、日本だけでもいくつかあるでしょうし、世界で言えばもっとたくさんあって。
当然、その全部を受けるわけではないでしょうけれど、やっぱり外に向けてイメージとか情報を発信する立場の人なので、そのいくつかには真摯に応じなければいけなかっただろうし。
そう考えると、年間400以上のルックを生み出しながら、この仕事をやっていくって、ねぇ……。
藪野:もちろん、チームがいたとしても。
村上:もちろん。
藪野:結果、自分が見なければいけないところって、すごく山のように仕事が山積みっていうのが事実だと思います。
村上:様々な業務があったせいで、さっき言ったように、1つのコレクションに対してわずか数週間しか時間を割くことができない状況に、彼自身は追い込まれてしまって。
きっとラフって、本当に完璧主義者で、すごく理想の高いデザイナーなので、3週間という限られた時間だと、自分自身どこか妥協しなければいけないような点とかっていうのが、きっとたくさんあったんだと思うんですけれど。
いくつか妥協しなければいけないようなクリエイションに、ちょっと疲れてしまったのかなってみんなが考えるのが当然だったなって思います。
これに対してラフ・シモンズは、「そうなんだ、僕はこんなに仕事を抱えていて耐えられなかったんだ」というようなコメントはしていないんですけれど。「個人的な趣味であるとか興味みたいなものに、さらに時間を費やしてみたくて」というような話を、正式なステートメントとしてラフ・シモンズは発表していました。
そんなステートメントの背景には、きっとこんな状況があったんじゃないのかなと思っています。
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