2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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遣田重彦氏(以下、遣田):それからもう1つ、店長さんは若いのにものすごく権限を持ってると思うんですね。というのは、ルイ・ヴィトンの場合、小さいショップインショップでも部下が20人はいるんです。大きなお店になると80人から100人いるんですよ。
林芳樹氏(以下、林):1つの部、課ですよね。
遣田:ひとつの店舗にそれだけの社員がいて、店長さんというのはその責任者なんですよね。例えば上場企業であれば、35歳では係長がいいところですよね。部下が何人いるかって言ったら、せいぜい2人とか3人ぐらい。
ところが店長さんは1つのお店の売上の責任を持って、それだけたくさんの人を管理していて、これはものすごいやりがいのあるおもしろい仕事だと私は思っていまして。このぐらいの若さでそういう立場になっていくっていうのは、ほかの職種じゃなかなかできない。
店長さんのあとは、今度はデパートとの交渉等をする、営業のリージョナルマネージャーになるという風に昇っていくケースももちろんありますし。あとはそこからまたCRM関連の部署に移っていく、マーケティング関連の部署に移っていくとかいろいろあるんですけども。
私がこの10年ぐらいで実感してきているのは、ブランドの社長さんのプロファイルが前よりずいぶん変わってきてるなと思うんですよ。
林:どういうことですか?
遣田:と言いますのは、私が93年に入った頃から10年ぐらいは、デパートのエグゼクティブといい関係を築いていて、知己が多い、ネットワークがある方がだいたい社長になってるんですよね。
林:わりと泥臭い営業の方ですよね。
遣田:営業で、「伊勢丹のなんとかさんをよく知ってる」とか、「三越のなんとかさんをよく知ってる」というような、非常に個人的な関係を持っている方。ただ、その方々のほとんどは販売をやっていた経験がないんですよ。
林:昔は?
遣田:昔はそういう方々が社長になってたんです。ところがこの10年ぐらいでなにが起こっているかというと、デパートが冬の時代になっちゃってなかなか成長が望めなくなっちゃってるんです。ということで、昔は言わなかった「坪効率」みたいなことをものすごく心配し始めたんですね。
ブランドがいくら坪効率で売ってくれるかということがキーになってきますから、昔のように「ご祝儀でこのスペースあげますよ」っていうようなことができなくなってしまったんです。
なにが起こっているかというと、与えられた場所でいい商品を最も効率よくたくさん売る、こういうスキルを持ってる方が社長になってきているんですよね。
林:販売の現場を知らないと始まらない、と?
遣田:そういうことですね。私どもでも人を探すという前に、なかなかそういう人はいないんですよ。販売のオペレーションの経験がある人。あるいは、商品系の人も社長になる可能性がありますね。
すなわちどういうものがお客様に支持されるのかっていうのは、インチュイティブのなかでわかるんですね。こういう人が求められると思いますけど、やっぱり販売の現場の経験がものすごくこれからブランドを経営していく上で大事になっていくのかなぁと私は実感しています。
また、実際にどういう方々が今、各ブランドの社長になり始めているかって言うと、やっぱり店舗の経験がある方が、なり始めている。
林:そうですね。私も取材をしていてもそれは感じます。社長の話をしても会場のみなさんには遠い話かもしれませんけども、やっぱりブランドの意思決定に関わるような立場には、小売を経験している人たちでないとなかなか今の時代はなれないというような状況になっています。
加福さんにお尋ねしたいのは、販売員さんってすごく母数も多い、なっていく人も多いんですけど、そういう人たちが長く続くように業界としてもサポートしていかないといけないわけですよね。
加福真介氏(以下、加福):そうですね。
林:そのために、企業や業界としてはどういう取り組みをされているんですか?
加福:実際に業界で取り組んでいることと、業界外に伝わっているイメージに若干ギャップがあるなと感じますね。
林:販売員ってすごくキツいんじゃないかとか、拘束時間が長くて大変じゃないかとか、給料安いんじゃないかとか、いろいろ心配があるかと思うんですが……。
加福:私どもの会社について少しだけ触れさせていただくと、研修も本当に力を入れてやっていますし、福利厚生もほかの業界と比べて絶対負けないトップクラスの福利厚生をしていっています。
林:どんな福利厚生をされているんですか?
加福:いろんな保養所があるとかそういうことは当然のこととして、例えば託児所と提携をしていたり。若いうちだけじゃなくて、歳を重ねていってもどんどんキャリアを積み上げていけるようにしたいと思うんです。そのブランドに愛着を持っている方を。
なので、長く続けられるように託児所のこととかもサポートしたいということでやっています。
林:なるほど。今のお話ですと、ブランド側も優秀な人材をずっと長く雇用するためは、今後はそういったところにも力を入れていかないとダメだという機運が高まっているんでしょうか?
遣田:日本のデモグラフィクスを見ると、若い人がだんだん少なくなって、私のようなおじさん・おじいさんが増えてきている。こういう世の中ですから、やっぱりまず1つは女性の社会進出が容易にできるような環境整備を、国の施策として、あるいは企業の社会的な責任としてやっていくことがますます重要になってくると思いますね。
一方で、もちろん移民をどうするかっていうような問題も、もう少し真剣に、我々国民が本当にまじめに考えなきゃいけない時期にどんどん来てるんじゃないかなと。
ですから、まずいちばん大事なのは特にリテンションの絡みで言いますと、やっぱり母性保護の支給金ですよ。国が法律も作るというのは最低基準でございますから、それをさらに上乗せして、どういったものを提供していくのかっていうのは企業としては当然考えなきゃならない。
それからもう1つは、やっぱり女性には子どもを産んでもらいたいっていうのが国の政策だと思いますし、そういう希望のある女性もいらっしゃると思うんですが、そのなかで今後どういうかたちで女性のリハイアリング、再雇用ですね。一回、子育てのためにうやむやになってしまうのは……。
林:もったいないですよね。
加福:お子さんが小さいうちは一度家庭に入ろうとも、その後もう一回職場に戻りたいっていうときに、どういうかたちで促進していくのか。その仕組みを、やはり企業としてやっていく必要があると私は日頃思っていまして。
その方々の持っているスキルがオブソリートというか、陳腐にならないようにしていく、そういう仕組みがやっぱり必要だと思いますね。それは通信教育なのかもしれないですし、Webを使ったらいいのかもしれませんし、あるいは定期的なコミュニケーションかもしれませんけども。
そういったものをベースにしながら、お子さんを「育て終わった」とは言いませんけども、ある程度、手がかからなくなる段階でどういうかたちで職場に復帰するのかということを考えていく、こういう必要があるんだろうと思います。
林:一生の仕事としてちゃんとキャリアの道を歩めるような、労働のインフラをちゃんと整えるということですね。
遣田:やっぱり一種の企業の社会的責任ですよね。もちろん国もちゃんと本腰入れてやらないといけないですけど、最近少子化担当とか女性担当の大臣さんも作ってますけど、本当にお金をかけなきゃならないのはそういうところだと私は思っています。
林:そういった将来的な目標も含めて、新しい組織を発足したと聞いています。「ファッション販売員協会」ですね。我々も最近の記事で取り上げたんですけれども、これはどういった協会なんでしょうか? なんのために作ったのですか?
遣田:英語ではFashion Associations of Sales Professionals、FASPAという肩書でやろうという話を今進めていて、これが正式になるかまだわからないですが、そういう案を持っています。
やっぱり販売の重要性を考えますと、質のいい人にたくさん入ってきてほしい、そして長く勤めてもらいたいと。そのためになにが必要かということですよね。
私は21年この業界にいまして、そのためにはなにが必要かというと、販売のなかでもコンサルテーティブな販売をしていきたい。どこかのファストファッションのお店で単なる接客をするんじゃなくて、やっぱりお客様の立場になってCRMとかも十分に駆使しながらやっていく。そういう販売員の地位を向上させていくことがいちばん大事だと考えています。
加福さんのお父様とは実はLVMHのグループでご一緒していまして、親しくさせていただいているんですが、そういう関係で加福さんとお話をしたりしていまして、それでファッション販売員協会を立ち上げようじゃないかと。
今回、日本で初めての試みなんですが、まず参加企業を、ブランドと、日本のアパレル産業と、百貨店と、あと加福さんのようないわゆる派遣業ですね、全部で11社に集まってもらいまして、将来の理事になってもらう。先日、発起人会というのを開きまして、ファッション販売員協会を作ると決めたわけです。
初めての試みということで、まず百貨店から三越伊勢丹の大西さんとか、大丸松坂屋の好本さんとか、それから高島屋の木本さんという方に入ってもらいまして理事になってもらって。それから海外のブランドからはLVMHの私のボスだったんですがエマニュエル・プラットと……。
林:お写真に出ていますね。
遣田:それからシャネルのコラスさんとかですね、エルメスの有賀さんという、この辺はみんな私が昔からお付き合いしていた方ですが、理事になってもらって。
それから日本のアパレルからも、私はこの辺りはネットワークがなかったんですがいろいろお手伝いいただきまして、オンワードの廣内会長とかですね、三陽商会さんとか、TSIホールディングスの三宅会長なんかにも理事になってもいただいて。
あとiDAの加福様、それからあと、Institute for the Fashion Industries、IFIという財団法人があって、これは日本のファッションのことをいろいろ振興するためにやっている財団法人なんですが、ここの理事長さんにも理事になってもらって、この協会を来年を4月を目標に立ち上げようと決まっています。
なにをやるかというと、1つはやっぱりPR活動をやっていこうと。ですからPRマネージャーをこの協会に置いて、こういう機会も含めてどんどんキャンパスや就職セミナーに行って販売の仕事のおもしろさをPRしていく。既卒の方々にもいろんなセミナーとかの講演会等をやりまして、PRをしていくと。
そのなかで販売員の仕事のおもしろさを伝え、販売員になる方々の質を上げて、なおかつパイを大きくしていくということをやっていきたいなと思っております。
それからもう1つは、販売のトレーニングをやっていこうと考えていまして。先ほどからコンサルテーティブセリングと言っていますが、このためには相当幅広い知識が必要になってくると思うんですね。
ですから人文科学的なトレーニングプログラムを作ってみようかなぁと思ったりしています。
例えば、今、為替がどうなっているかとか、あるいは諸々のテロの話であるとか。ルイ・ヴィトンのプレタポルテを買いにいらっしゃるお客様は当然ヨーロッパに旅行に行ってらっしゃる方々ですから、ヨーロッパのテロの話を販売員の方ができなければ、顧客とのいい関係は作れません。そういう意味でそういった基礎的なトレーニングをまず提供する。
それ以外にも、いわゆる販売に関するいろんなスキルのトレーニングですよね。リーダーシップのトレーニング、コーチングのスキル、それからビジュアルディスプレイのトレーニングもあるでしょうし。CRMのトレーニングもあるでしょうし、店舗の経理財務のような知識も必要です。そういったさまざまなトレーニングプログラムを作っていきたいなと。
最終的にはこの協会で販売の資格制度みたいなものを作っていって、販売の本当に実際の力を持っている方々に資格を差し上げて、その方々の実力を証明できるようなものを用意したい。というようなことをこの協会を通してやっていこうじゃないかと考えております。
WWDさんでも取り上げていただいたのは、非常にユニークな取り組みであるというところが1つ。
それからもう1つはやっぱり百貨店と、日本のアパレルと、海外の高級ブランドがみなさん軌を一にして、販売員の重要性に気がついて、こういうアクションを取ろうとしているっていうことに対してWWDさんが興味を持ってこういう記事を書いてくださったと私は理解しています。
林:そういった1つ1つの活動が加福さんのおっしゃるような販売員の地位向上につながっていくということだと思います。お話は尽きないんですけれども、そろそろお時間でして。Webサイトなんかもできるんですね?
遣田:今、作る予定でおります。
林:ご興味のある方はぜひご覧いただければと思っております。ではお2人とも今日はどうもありがとうございました。
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