2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
Stanford Graduate School of Business HP CEO Meg Whitman on Integrity & Courage in Leadership(全4記事)
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司会:本日の来場者の多くがおそらくテクノロジーに関するバックグランドを持たずに会社を引っ張って行くポジションに就くことになると思うのですが……テクノロジービジネスに関して多くの経験を持たない人間はどうすればよいのでしょうか? 良きアドバイスをお願いします。
メグ・ホイットマン氏(以下、メグ):はい、いくつかアドバイスできることがあります。ひとつはビジネス原則というのは、ジャンルの垣根を超えて応用が利くのです。私は他の様々な会社のCEOたちと多くの時間を共にしてきましたが、すぐに打ち解けて会話を楽しめましたよ。そう、ジャンルは違っても、結局、ビジネスはビジネスなのです(笑)。
正直なところ、あなたがプロクター&ギャンブルにいようが、Twitterにいようが、ヒューレット・パッカード社(以下、HP)にいようが、はたまたウェルスファーゴ銀行にいようが、キャタピラートラクターにいようが、ビジネス原則は全く同じなのです。
テクノロジー業界において言えば、あなたは、自身が優秀な科学技術者になるか、もしくは優秀な科学技術者をブレーンとして雇う必要があります。なぜなら優秀な科学技術者は、次にどの様な新技術が到来するのかイメージできるからです。
ですので、もしあなたがテクノロジーのバックグランドを持っておらず、技術者でないのであれば、社内で、あなたが将来のテクノロジービジョンを描く手助けができる人材を見つけることです。これが私からのアドバイスです。
あ、それともう1つ、技術者たちに何かを質問するときはためらってはいけません。技術者というのはあなたが何かをごまかしてもすぐに見破ってしまいます。ですので、彼らの前で知っているふりはしないでください。
メグ:ここで、ひとつエピソードを紹介します。私がeBayに勤務していた当時、マイク・ウィルソンという優秀なCTO(最高技術責任者)がいました。彼はeBayの発展に大いに貢献してくれました。彼は会議でも積極的で協調性も備えていました。そして全面的とはいかないまでも、私のCEO就任にも肯定的でした。
そして忘れもしないあの事件が起こったのです。あれは1999年6月10日の5時頃のことです。その日、eBayのシステムは大規模な機能不全に陥ってしまいました。はい、昨日のことのように覚えています(笑)。
システムの機能不全自体はよく起こることですので、私はそれまでの経験に基づいてシステムにあとどの程度の容量が残っているのか確認しようとしました。まあ、それがこのようなケースでの常ですから。
ところがマイクはそうは思わなかったようで、私の質問に答えようしませんでした。そこで私は、自身の製靴会社での経験を例に出し、「もし韓国に自身の工場があるのなら、本社がそこで何足の靴を出荷できるか把握するのは当然でしょう?」という様な話をしました。
しかし、彼は一向に考えを変えようとしませんでした。それで私たちは色々とやり合ったのですが……。実はその数日後、彼からクッキーという件名のメールが届きました。そこには「メグは、我が社が製菓工場か何かだと思っているらしい」ということが書かれていました。ええ、私もさすがにこれにはムカッとしました。
メグ:そして、ここがあなたが自分の立場をはっきりさせるべきところです。彼らの凝り固まった考えに妥協するのではなく、突っぱねるべきは突っぱねる。eBayの創業者のピエール・オミダイア氏もそうでした。彼ももこの点に関しては決してぶれることはありませんでした。特に、もしあなたが創業者兼技術者というスタンスで仕事をするのであれば、この姿勢は会社を発展させて行くのに役立つでしょう。
司会:素晴らしい! ビジネススクール、プロクター&ギャンブル、ベイン&カンパニー、ウォルト・ディズニー・カンパニー、ハズブロ等での経験がeBayに繋がっているのですね。ところで、私たちが卒業後の最初の仕事について考えるとき、何か気を付けるべきことはあるでしょうか?
司会:そうですね。私が1979年にビジネススクールを卒業したときと現在では若干状況が違うとは思います。まず、当時は、今日、シリコンバレーやオースティン、テキサス、ボストン、マサチューセッツ等によく見られる様な企業文化が全くありませんでした。つまりハーバードビジネススクールを卒業しても、誰も本気で起業とか新規事業への参加を考えることはなかったのです。
今日とは全く状況が違いました。あなた方の多くは起業、もしくは新規事業への参加を考えていますよね? つまりそういうことです。話を戻しましょう。
当時、卒業後私たちが考えていたことは、将来のキャリアを考慮して、いかに質の高いトレーニングを積めるか、いかに無駄なく必要とされる事を積み重ねて行けるか、ということでした。
そこで私は、最も興味のあったマーケティング分野で最高の会社であると思えたプロクター&ギャンブルに入社したのです。前述しましたが、私は大学と大学院との間に就業経験がありませんので、トレーニングこそが全てだったのです。
そして、現在私はプロクター&ギャンブルの取締役に名を連ねています。ちょうど一周して、原点に戻って来たわけです。そう考えると、とても愉快なことですね。
私がプロクター&ギャンブルで学んだことは、今日までずっと私を支えてくれました。そう考えると、私は最高の会社で、最高のトレーニングを受けてきたと言えます。
メグ:もし私が卒業後、今日の様な状況に身を置いていたならば、何をしていたかは分かりません。しかし、私はベイン&カンパニーで働いた9年間が私にとって最高の経験であったと確信していまさす。
その間に、私は、費用競争、競合他社、戦略等に関するほとんど全てを学習することができました。そしてHPでも自身の戦略について見つめ直すことができました。
あなた方は、自身が学校を卒業する、この時代で勝負していかなくてはなりません。当然、過去の状況とは様々な点で異なります。私だったら何をするか、ということを明言するのはとても難しいと思います。なぜなら、私はあなた方が持っている機会を全て把握しているわけではないからです。
しかし、これだけははっきりと言うことができます。極端に走るのではなく、起業するということと、堅実にキャリアを積み重ねていくことのバランスを取ることが、必ずあなたを良い状況に導いてくれます。
また一方、今日の状況の方が良い点もあります。それは、失敗したときのダメージやお決まりのコースが無いという点です。例えば、あなたがビジネススクールを卒業して新規事業に参加し、それが失敗したとしましょう。確かに良い状況ではないでしょうが、それで人生をふいにすることはありません。
ところが私がeBay入った当時は、「起こりうる最悪な状況は、現在のビジネスに失敗して転職すること」と言われていました。私は、自身の置かれた状況、自分自身、チャンス等に対して、あなた方はある程度のリスクを負うべきだと思います。
司会:これはあなたのリーダー哲学についてお話いただく良い機会だと思います。世間ではあなたのことを「炎に向かって突っ走れ(Run to the fire)」という格言を体現している人物だと見る向きがあるのですが……つまり決して物事から目を背けない人物だということですね。あなたの成長過程で、今日のあなたを形成するに至った要素は何だとお考えですか?
メグ:幼稚園から高校卒業までの間で、と言うことですか?
司会:ええ、だいたいそんな感じです。
メグ:そうですね、おそらく私はビジネススクールやロースクール、メディカルスクールに進学し始めた女性たちのいわゆる走りの世代に属すると思います。もちろん私たちより前にもそういう女性はいたでしょうが、そういう女性はごく稀で、数の上である一定数に達したのはやはり私たちの世代辺りからだと思います。
しかしある一定数と言ってもあくまでも相対的ですが……。実際、プロクター&ギャンブルに入社時、私の同期は100人いましたが、そのうち女性はわずか4人でした。
私の母は私たち兄妹に「やろうと決めたことは何でもやり遂げることができる」と信念を植え付けてくれました。ここで、母に関するちょっとしたエピソードを紹介します。
もう既にご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、第二次世界大戦中、彼女は国のために何かをやりたいと思ったそうです。ただ、戦争ですので女性にできる仕事はあまり多くはありません。
そこで、彼女は赤十字に参加することにしたそうです。そして彼女は太平洋方面のニューギニアに送られることになりました。軍艦に乗せられ、1000人もの女性と共にサンフランシスコからニューギニアに送られました。
基地に着くと挨拶もそこそこにこう言われたそうです。「現在、飛行機とトラックの整備士が不足している。誰かやりたい者はいないか?」と。私の母はそれまで機械をいじったことはおろか、車のボンネットの中すら見たことがありませでした。
しかし、母は周りを見まわし、これこそ今一番助けを必要としているところだと感じ、手を挙げて自ら志願したそうです。そしてその後の4年間で、彼女は飛行機整備とトラック整備の資格を与えられるまでになったそうです。
彼女はそこでの経験を私たち子供に分け与えてくれました。彼女は言いました「私が飛行機の整備士になれたのだから、あなたたちもやりたいと思ったことは何でもできるのよ」と。それは私にとって常に励みになりました。
そして、チームスポーツにいそしんだことも私にとってはとても有益な体験でした。私は少女時代から大学にかけてずっとチームスポーツをやっていましたが、特にリーダーシップを養う上で役に立ったと思います。
ですので、あらゆることに挑戦する勇気は比較的早い時期に形成されていたと思います。勇気というのはビジネスをやる上でとても重要な要素です。もちろん、同時に賢明さも要求されますが。
ただ、州知事に立候補する勇気はまた別の種類の勇気ですので少し注意が必要です。また、今にして思うと、リスクを厭わない精神も早くから培われていたのだと思います。HPへの入社にもリスクは伴いますし、州知事に立候補したことにもリスクは伴います。
率直に言えばeBayへの入社にもリスクはありました。結局、そのうちの幾つかがうまくいき、ひとつが失敗したというだけの話です(笑)。
司会:では次に、例の出来事について聞かせてください。何があなたを政治に……(笑)。
メグ:構いませんよ。さあ、話しましょう。
司会:何があなたを政治の世界に駆り立てたのですか? また、選挙での敗北を通してあなたは何を学んだのですか?
メグ:はい、え〜、残り時間はあとどれくらいですか?(笑) 私は常日頃から政治に興味を持っておりまして、そんな折、友人のミット・ロムニー氏の選挙運動に参加する機会に恵まれました。ちなみに彼はベイン&カンパニー時代の上司です。2〜3週間後にここに登場する予定だと聞いています。
とにかく、私は彼の上院議員選、州知事選、そして大統領選を間近で見ることができました。そして彼が大統領選の最初の選挙で負けたときにはもうかなり選挙運動に没頭していました。それで、ジョン・マケイン氏の選挙運動にも企業人として参加することにしました。
そういう経緯もあり政治にはかなり関心を持っていました。そして同時に、カリフォルニア州の抱える問題にも関心がありました。正確ではないかもしれませんが、2010年には州の財政赤字は約1680億ドルに膨らんでいたはずです。
また教育制度も急激に悪化しており、これらは現在も改善されていません。教育制度について言うと、1956年にはカリフォルニア州の公立校の制度は全米一でした。それが現在では全米50州中なんと49位にランク付けされている有様です。
また今日私たちが直面している水に関する様々な問題ですが、2010年当時からその兆候ははっきりと表れており、私たちは水関係のインフラを整備すべく行動を起こすべきでした。
私は自身のビジネスのバックグラウンド、そしてこれまで培ってきた問題を解決するスキルを考え、私は民主主義国家の一市民として、ビジネスと政治にそれぞれバランス良く貢献できる良い例になれるのではと考えたのです。それで、州知事選に出馬する決意をしました。
メグ:敗戦から私が学んだことですか……。そうですね、教訓その1。民主党支持者が多い州では、共和党から出馬してはいけないということですかね(笑)。
まず、あなたはそれを計算しなくてはなりません、それでその数字を信じなさい。カリフォルニア州以外の州からいらっしゃっている方のために申し上げますと、この州は60パーセントの民主党員と40パーセントの共和党員で構成されています。巨大な無党派層もおりますが、彼らはどちらに転ぶかわかりません。
ですので、立候補する場合は、不安要素を抱えての出馬となります。教訓その2ですが、政治の世界である程度キャリアを積んできている方々に申し上げます。それが絶対に正しいことであると主張したいわけではないのですが、私にはビジネスの世界においてものごとを本能的に判断する力が備わっています。
これは私がビジネスの世界に長年身を置いてきた故なのですが、政治の世界でも同じことが言えると思います。残念ながら、政治の世界でのキャリアが浅い私は、政治に関しては何の力も持っていませんが……。ただ、どの世界でも、そこでの経験は非常に重要な要素になります。
あなた方は政治家が尋ねられた質問にほとんどまともに答えてないということに気付いたことはありますか?(笑) それは決して彼らが悪人だからではありません。また彼らが質問の答えを知らないからでもありません。
それは、その質問にそれぞれYESと思う人、NOと思う人の割合が表記されてないからです。結局、彼らにしてみれば、全てが票を得るか失うかの二択なのですから。
そして、政治家があの様に行動するのには理由があります。市民としてはイライラさせられますが……。私は過去、何度か質問にきちんと答えてしまうという基本的なミスを犯してしまったことがあります。
メグ:しかしこれらの過酷な経験が私をさらに打たれ強くしてくれました。私は記者会見での面の皮の厚さには自信があります。私がHPに来たばかりの頃ですが、私が来たことに対してかなりの批判がありました。ある新聞の見出しなどこうです「メグがHPのCEOだって〜、という笑いがシリコンバレー中に響きわたっている」
そして私をCEOとして招聘した取締役会のメンバーに至っては、新聞に目を通し、私に対して気の毒そうにしている。しかし、私はこれらの新聞を読んでも全く平気でした。何しろ直近の過去2年半の中で読んだ新聞の中ではかなり良い方でしたので(笑)。
そう、全ては関連し合っているのです。そして私たちは選挙に出馬してくれる人々に大いに感謝するべきです。なぜなら、それは私が経験した中で最も困難なことだったからです。
はっきり言ってHPを運営することより選挙で戦うことの方が100倍大変です。州知事選を戦っていたときの最悪な日々はさらにもっともっと過酷でした。私たちは同僚と、そして前へ進もうとする人々と喜びを分かち合うべきです。なぜなら自分の名前を投票用紙に書くようなことをしなくてもよいのですから……。
まあ、この気持ちは、あなたが実際に出馬してみないことにはわからないと思います。とにかく、あの敗戦は私に実に多くのことを教えてくれました。
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