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日本から世界へ: イチゴ植物工場が生みだす200兆円産業(全5記事)

NYで「世界最大のイチゴの植物工場」を運営する、日本人起業家の野望 倒産続きの業界の中で生き残るための戦略とは

アメリカ・ニューヨークを拠点にする植物工場ベンチャーであるオイシイファーム(Oishi Farm)は、日本生まれの甘いイチゴを工場生産して高い注目を集めています。創業者CEOの古賀大貴氏と、オイシイファームの初期投資家の川田尚吾氏が、日本発メガベンチャーの可能性を語りました。本記事では、24時間工場内をロボットが走行しデータを管理する、オイシイファームの植物工場について解説します。

日本初・世界最大のイチゴの植物工場

後藤直義氏(以下、後藤):みなさん、こんにちは。NewsPicksの後藤と申します。これから始まるセッションが、「SusHi Tech Tokyo」最大の目玉セッションであることに気づいていたみなさんはすばらしい。今日は、すばらしいゲスト2名をお迎えしていますのでご紹介します。

今、世界最大のイチゴの植物工場をニューヨークの近郊で運営して、24時間365日、日本発のめちゃくちゃ甘いイチゴをニューヨーク中にばらまいてはビジネスにしている、Oishii Farm創業者のCEOの古賀さんをお招きしています。古賀さん、簡単にごあいさつを(お願いします)。

古賀大貴氏(以下、古賀):よろしくお願いします。新卒までは日本でコンサルティングをやりまして、その後2015年にアメリカのUCバークレーという、サンフランシスコにある大学に留学しました。

在学中に起業して、2017年からニューヨークに移り住みました。今、紹介にありましたとおり、そこでイチゴの植物工場のスタートアップを立ち上げて、今は7年ぐらい経つタイミングになります。今日はどうぞよろしくお願いします。

後藤:古賀さん、ありがとうございます。ちなみに古賀さん、なんか袋がありますよね。

古賀:これは、今日アメリカから逆輸入してきた日本のイチゴを持ってきたんです。

後藤:これ、日本ではまだ買えない?

古賀:当然、日本ではまだ買えないです。

後藤:食べることもできない?

古賀:食べることもできないです。

後藤:100万円積んでも買えない?

古賀:買えない。

後藤:前列の方々には後ほどご賞味いただきますので、楽しみにしてください。

ニューヨーク近郊で巨大なイチゴ工場を運営するOishii Farm

後藤:次にご紹介するゲストの方は、川田尚吾さんです。あのディー・エヌ・エーの共同創業者でいらっしゃいまして、同じくエンジェル投資家として活躍されています。

そして、このOishii Farmが本当にまだ何もない時期に資金を出して、言ってみたらOishiiを作る土台を提供した投資家として、今日はお招きしております。川田さん、一言ごあいさつをお願いします。

川田尚吾氏(以下、川田):川田です、よろしくお願いします。今、簡単にプロフィールに触れていただいたんですが、僕は機械工学を専攻していて、大学院でPh.D(博士号)まで取っていたので、どちらかというとテクノロジーに非常に興味があるんですね。しかも、ハードウェアの。

時代背景もあって、ディー・エヌ・エーも含めてIT系の領域が多かったんですが、心の奥底ではリアルとかハードウェアに対する熱い思いがすごくあって。初めて古賀さんのビジネスアイデアを見た時に「これだ!」と思って、出資させていただきました。

ずっとそこからの縁なんですが、今日はこういう機会をいただきまして、非常に楽しみにしています。よろしくお願いします。

後藤:川田さん、ありがとうございます。ニュース等で、ニューヨーク近郊で巨大なイチゴ工場を運営していることを知っている方はいらっしゃると思いますが、見たことがある人はまだほとんどいないと思うんですね。

ここで古賀さん本人から、今から動画を使ってバーチャル植物工場ツアーをお見せします。これは初公開だと思いますので、ぜひ聞いてみてください。古賀さん、動画を回しますので、よろしくお願いします。

24時間、工場内をロボットが走行しデータを管理

古賀:これが今、我々が出荷しているメインの農場です。実はこれからさらに大きい農場を稼働していく予定はあるんですが、これがすでに稼働しているものです。もともとこれは、バドワイザーのビル工場だったところを居抜いて、今はその中でイチゴを育てています。

見ていただくとわかるとおり多段式になっていて、太陽光がいっさい入ってこないところで、代わりにLEDを使って空調とかを使ってコントロールしている。サッカー場ぐらいの大きさがあるんですが、多段式になっているので、普通の農場に換算するとかなり大きな農場になります。

これはマンハッタンから車で15分ぐらいのところに建設しています。通常はイチゴって、アメリカだとロサンゼルスでしか工場を作れないので、ロサンゼルスから5,000キロとか6,000キロ運んでニューヨークまで来るんですが、我々はマンハッタンから15分のところで作ることができています。

当然、フードマイレージも少ないですし、より新鮮な状態でおいしいもの(を消費者に届けられる)。特に日本品質のイチゴって、すごく柔らかくて輸送性に優れないので、消費者のすぐ近くで作ってあげないと届けることができないんですね。なので、それをやっています。

さっき(映像の中で)ロボットが走っていたと思うんですが、自動走行するロボットです。24時間、農場の中の気温データや気象データに加えて、すべての苗の画像データを1個1個取って、そのデータに基づいてどれだけ収量が出てくるかも40日後まで予測したりしています。

あとは、「健康状態がこういうふうになっているから、もっと気候を変えよう」「今日はこういう状態だからハチをもっと出そう」と「受粉をしなきゃいけないので、今日はハチをこれ以上出しちゃダメだ」といったことをAIが判断してやっています。既存の農場だとなかなかできないことが、この植物工場だからこそできるというところを逆手に取ってやっています。

5年間で、1パック50ドル→10ドルまで価格を落とすことに成功

古賀:もう1つの特徴として、365日気候をコントロールできるので季節性がいっさいなくて、世界中どこでも電気さえあれば作ることができるところが大きなポイントかなと思います。これまで植物工場ではレタスがメインで作られてきたんですが、イチゴとかトマトは花が咲いて受粉をしなきゃいけない。

だけどハチって、一般常識的にはどうしても植物工場の中では飛ばないと言われてきていたところ、我々は一生懸命なんとか研究開発をやって、植物工場の中でハチをきちんと飛ばして受粉をするという技術を開発したことによって、植物工場の中でイチゴを量産することに成功しました。

後藤:ありがとうございます。これ、アメリカではどれぐらいのお店で売っているんですか?

古賀:今は東海岸を中心に、だいたい150店舗ぐらいの大きいスーパーとか、あとはレストランでも一部販売しています。なので、上はボストンから下はワシントンD.C.ぐらいまで、ニューヨーク、フィラデルフィアを含めてという感じですね。

後藤:なるほど。お店に行くと、だいたいどれぐらいで売っているんでしょう?

古賀:今は1パックだいたい9ドル99とか、10ドル前後で販売しているので、かなり(手頃な値段です)。5年前はこれを50ドルで販売していましたから、そこから5年で10ドルまで落とすことに成功しました。5年でここまで来られるということは、あと5年でどこまでいけるか? というのは、想像していただければと思います。

後藤:いやいや(笑)、そう簡単には。でも、高く売りたいでしょう? 川田さん、これを食べられたことはありますか?

川田:ありますよ。僕は最初の実験ファームで作られたやつを食べたんですが、その時に1パック50ドルだったから。

古賀:そうですね、まだ。

川田:「1個1,000円か」とか思いながら、震えながら食べました。

後藤:(笑)。

川田:これ、その時とは味は変わってないよね。

古賀:基本的には同じ品種ですので、変わってないですね。

イチゴと同レベルの糖度のトマトも栽培中

後藤:そうしましたら本題に入る前に、この中で「Oishiiのストロベリーを食べたことがあるぞ」という方がいたら、手を挙げてください。

川田・古賀:いない、いない。

後藤:お、後ろに2人ぐらいいましたね。「いやいや、食べたことあるぞ」と得意げに思いましたよね? そうはいかないですよ。この中で、Oishiiが作っている次世代秘密兵器である、超甘いミニトマトを食べたことがあるっていう人、手を挙げてください。いますね!

川田:(笑)。

後藤:絶対に今日はあげません(笑)。そうしましたら、先ほどお約束したとおり、ある分だけですが、前列にいるみなさんから古賀さんにイチゴをお配りいただきますので、食べていただいていいですか。(パックごと)渡しちゃいましょうか。

古賀:よろしければ(パックごと)取っていただいて。

後藤:みなさんで。

川田:回してください。

古賀:たぶん香りがすごいと思うんですよ。

後藤:今、これはお金を出しても買えませんからね。めちゃくちゃ甘いという話です。じゃあトマトもいきましょうか。

古賀:はい。じゃあ、この2つを。

後藤:これがさらにレアなトマトなんですね。ちょっと行き渡ってないところが……。

川田:(笑)。賞味会みたい。いいね。

後藤:これはおいしいトマトです。

川田:ちょっと、トマトは俺もちょうだいよ?

後藤:はい。

川田:これ、もらっていいですか?

古賀:どうぞどうぞ。

後藤:食べてください。川田さんは、トマトは初めてなんですよね。

川田:トマトは初めてです。いただきます。

後藤:忖度抜きの感想はどうですか?

川田:めっちゃ甘いし、香りがすごく濃くて、トマトっていう概念を増える。これ、フルーツですね。

後藤:フルーツ。

川田:じゃあ、もう1個。

古賀:このトマト、(糖度が)イチゴと同じかそれ以上あるぐらいなんですよね。

川田:だよね。なんだろう、これ。なんかベリーというか。

古賀:チェリーみたいな感覚なんです。

後藤:さくらんぼみたいな感じですよね。

古賀:そうですね。

日本の植物工場ブームが過ぎ去っていった背景

古賀:次にいきましょう。

後藤:いきましょうか。まずは古賀さん、今まではポジティブな話ばかりでしたが、「本当にこれってたくさん売れてるのか?」「そんなにスケールするのか?」「本当に他の企業はまねすることはできないのか?」と、いろいろ疑問が浮かびますよね。今日はそれを一つひとつ聞いていきたいと思います。

まず前提として、1問目ですが「なぜイチゴなのか?」。植物工場というのは、これまでレタスや青物、葉物と言われてきた野菜ばかりでしたが、Oishiiはイチゴでアメリカで勝負している。なぜイチゴなのか? 古賀さん、お願いします。

古賀:そうですね。まず植物工場自体は、日本では20年ぐらい前から商用化されている技術で、実は日本のお家芸です。なので日本の大企業さんで言うと、パナソニックさん、シャープさん、東芝さんとかが、電気を使って室内で野菜を育てるということをやってきていて。

先ほどお話ししたとおり、技術的にどうしてもレタスしか作ることはできなかったんですよね。「(植物工場は)けっこうイノベーティブでおもしろいね」ということにはなったんですが、どうしてもレタスだと高い値段がつかないので、コストばかり高くて、ビジネスとしてなかなか儲からない。

なので、「おもしろいね」って一瞬盛り上がったんだけど、ここに書いてあるようにがーっと盛り上がって、たぶん植物工場が国内に何百個かあったんですけれども、それがほとんど全部潰れて数社になっちゃいました。

長期的な視点で見る植物工場の可能性

古賀:実はそこから10年遅れで、今度は海外で植物工場のブームが来て。なぜかと言うと、気候が安定しない、水が足りない、農地が足りない、これ以上農薬を使えないという問題で、農業を取り巻くサステナビリティの環境が圧倒的に劣悪化していって。

植物工場だとこれが全部解決されるので、自動車がガスから電気に行ったように、「農業も新たなパラダイムシフトが必要なんじゃないか?」ということの解として、日本から10年遅れで(海外の)植物工場のブームが来たんです。

ちょうどそのタイミングで私はアメリカへ留学していて。何が起こるかな? と考えると、「どう考えても日本とまったく同じことが起こる」と。まずはみんな一番簡単なレタスから始まって、そこにものすごいお金が投資されるんだけど、たぶん5年後ぐらいにはほとんど誰も黒字化できなくて、投資家がお金をわーっと引いていって、倒産ラッシュに入っていく。

ただ、30年、40年というスパンで考えると、植物工場は外でやる農業よりも絶対に安くなっていくので、必要になってくる。そうなった時に、みんなが倒産していく中で「いや、うちだけはちゃんと儲かってますよ」とやることが非常に重要だろうと思って。「じゃあそうなるためには、レタスじゃなくて何でやったら儲けることができるのか?」ということを考えて。

まさにこのハイプ・サイクルが、欧米では2015年ぐらいから植物工場ががーっと盛り上がって、2023年ぐらいにバブルが弾けて、この12ヶ月で上位10社のうち6社ぐらいが潰れたんですよ。なので今、ちょうど我々が底にいるタイミングでこのセッションをやっている状況なんです。

後藤:そうですか。

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