2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ヌーバー・アフェヤン氏:コーンブルーシュ学長、理事や教授のみなさん、学生やそのご家族、学友のみなさん。このすばらしい大学に関係する学者や研究者のみなさん。共にこの場にいることを誇りに思います。
卒業生のみなさん。かつて私も、得るのが難しいMIT(Massachusetts Institute of Technology:マサチューセッツ工科大学)の卒業証書をとうとう手に入れた喜びと達成感を胸に、今のみなさんと同じ席に着いていました。ご卒業おめでとうございます。
(会場拍手)
ご家族のみなさん。私もタリーンとレナという2人のMITの卒業生の父であり、今のみなさんと同様の誇りと感動を経験しました。教授のみなさん。上級講師を16年間勤めた身としましては、学生の卒業後の身の振り方について、どれほど親身になられたか、よくわかります。理事のみなさん。共に働ける栄誉に感謝いたします。
私は幼少期をレバノンのベイルートで過ごしました。アパートの9階で、アルメニア系の立派な家族3世代で暮らしていました。大おばと共有していたベッドルームの窓からは、ローマン式、オスマン式、ビザンチン式の建物群の洋瓦の赤い屋根と、はるかに地中海の海を見渡すことができました。
1975年に内戦が勃発すると、当局は厳格な夜間外出禁止令を発令しました。それまで3時間しか放送がなかった国営放送のテレビは、ほぼ24時間アメリカのテレビ番組を放映するようになり、家で軟禁状態になっていた私や弟たちには、格好の気晴らしになりました。中でも、ある番組に私は夢中になりました。テーマ曲を聞くだけで胸が躍ります。みなさんもきっとご存知でしょう。
(『ミッション:インポッシブルのテーマ』の生演奏)(会場拍手)
そうです。『ミッション:インポッシブル』です。(元となった)テレビ番組『スパイ大作戦』を知らない方でも、トム・クルーズ扮するエージェント、「イーサン・ハント」が活躍する映画シリーズは見たことがあるのではないでしょうか。
エージェントに送り付けられる「自動的に消滅する暗号メッセージ」は、毎回同じセリフで始まります。
「もしこのミッションを受けるのであれば……」。どんなに難易度やリスクが高くても、エージェントたちはミッションを受けるのです。50年経った今でも、私は実現が不可能に思えるミッションに惹かれます。そしてそれはきっとみなさんも同じであろうことを、これからお伝えしましょう。
2024年卒業生のみなさんは、すでに非常に難易度の高いミッションを達成しましたね。「MITに通わずにMITの勉学を積む」というものです。大学に通わずに大学の学問を修めるというミッションは、自ら望んで受けたわけではありませんが、そうせざるを得ませんでした。
キャンパスに来た方もわずかにいましたが、そういった方もマスクをしたり、検査を受けたり、ソーシャルディスタンスを保ったり、バーチャル授業を受けたりと、まるで見知らぬ外国に適応するかのようでした。
Q-week(医療用語で毎週の略)や、SCUFFY(MITのバーチャルキャンパス案内サイト)などがMITの語彙に新たに加わりました。次に何が起きるか、事態がいつ収束するのか、誰にもわかりませんでしたが、努力を続けました。
がんばって授業を受け始め、主にバーチャルで友達を作りました。(MITの所在する)ケンブリッジ市でMITのルームメート3人とルームシェアをした、みなさんのクラスメートであるアンバー・ヴェレズの言葉を借りると、みなさんは「広大な海で世界中に散らばったクラスメートと、小さな救命ボートに乗り合わせてつながった」のです。
みなさんが入学した年の、入学の少し前に、大学にほど近いケンダル・スクエアにおいて、私もまた、モデルナの同僚と共に実現不能と思われるミッションを与えられました。人命を救って経済を立て直すべく、安全で効果的なワクチンを1年以内に開発することです。さらにそれを数十億本製造し、世界中に流通させ、人々の手に行き渡らせなければなりません。
ひとたびこの試練を受ければ、持てるすべての力が求められることは明らかでした。進行中だった10品目の医薬品開発プロジェクトを後回しにして、新型コロナウィルスワクチンに力を集約しなくてはならないのです。そして、私たちはミッションを受けました。
同僚にして友人のランガー博士が列席していることを、ここにお伝えします。彼は、このプロジェクトの主力を務めました。モデルナは、新型コロナウィルスのスパイクプロテインの遺伝子塩基配列を解明し、その48時間後、有効なワクチンの生産のため、mRNAのテクノロジーを公開しました。
2ヵ月足らずのうちに、最初の患者に臨床治験を行いました。そして11月16日、新型コロナウィルスに対する94.5パーセントの有効性がワクチンに認められたのです。モデルナのワクチンは、パンデミック中200万人以上の命を救ったというデータがあります。
(会場拍手)
では、モデルナはどのようにこれを実現したのでしょうか? これには日を改めてまた別のスピーチが必要となってきます。
とにかく、私がお話ししたいのは、実現不能に思えるミッションを受けるには何が必要かということ、そしてみなさんにはMITの卒業生として特にその資質があること、さらにはそのようなミッションを受けるべき使命を担っているということです。
世界が危機に陥った時のみなさんのミッションは、失われたものを奪還し、避けられないと思われていた結末を回避して地球を救うことです。そして、映画に出てくるエージェントたちのように、不可能と思われるミッションを受けることです。
勝ち目はなさそうに思えますが、このポリクライシス、つまり複合危機の時代は、実は多くの可能性を秘めています。AIやマシーンラーニング(機械学習)、量子コンピューティング、その他の最新のテクノロジーが世界を予想以上に急速に変えていくからです。
みなさんは、SFを現実の科学に変える力を特に備えています。想像力と革新力をもって奇抜な解決策を見出し、的確な思考により障壁や勝ち目のない戦いを乗り越えることで、ミッション:インポッシブルは実現可能なミッションとなるのです。
では、それはどのように実現するのでしょうか。今日から、世界が必要とするエージェントとなるにはどうしたらよいのでしょうか。みなさんがすでにそのスタートを切っていることは、きわめて明白です。
みなさんは、今日MITを卒業するではありませんか。それは知識、才能、ビジョン、情熱、不屈の精神など、21世紀を担う精鋭のエージェントに必要とされる豊かな資質の証です。私たちMIT出身者は、肩ひじを張らず、友好的な気質であり、ソーシャルスキルに秀で、あらゆる点で冷静です。これは、忘れてはならない私たちMIT卒業生の特徴です。
実際のところ、みなさんが教育を受けた科学、数学、工学、テクノロジーなどの分野は、きちんとしたコントロールとサポートを受けてさえいれば、どんなに解決不能と思われる問題でも解決できます。まだ自覚はないかもしれませんが、MITの教育はみなさんにスーパーパワーを与えています。
「X線ビジョン」のように、一見不可能に思わせる幻覚を看破し、解決策の設計図を映し出せる力です。現に、今日はもうすでにスパイ道具「暗号制作指輪」、つまり別名、卒業記念指輪「ブラスラット」だって手にしているではないですか。
(会場笑)
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