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なぜ「つい買ってしまう」のか? 調査を通じて顧客理解を深める具体論(全3記事)

本人も自覚していない“無意識下の本音”を言語化する方法 人が行動を起こす“隠れた理由”を知る、顧客理解のカギ

企業のDXの取り組みや組織設計、マーケター育成などをテーマにトップマーケターを招くグロースXのセミナーに、『なぜ「つい買ってしまう」のか? 「人を動かす隠れた心理」の見つけ方』の著者で、同社執行役員の松本健太郎氏が登壇。「調査を通じて顧客理解を深める具体論」をテーマに、成果を出すチームと成果の乏しいチームの違いや、因果関係を起点に考える顧客理解について語りました。

「顧客理解」の2つのアプローチ

松本健太郎氏(以下、松本):グロースXの松本と申します。ここからは、今日のテーマである「顧客理解」についてお話しします。「顧客理解」というワードは、「未顧客理解」でもいいですし、「消費者理解」でも「人間理解」でもいいと思うんですが、「対・人を知る」という定義にした際に、大きく2つのアプローチがあると思います。

1つは、スライドAの群やマスなどの「結果」を理解すること。この意味での顧客理解は定量調査を使いますよね。もう1つは、Bの「N=1」と呼ばれる個の理解。こちらは「原因」の理解です。定量調査で群を理解する顧客理解と、定性調査で個を理解する顧客理解の大きく2つに分かれると思います。

僕自身リサーチャーとして、副業を含めて何十社と支援をしていますが、「顧客理解」と言うと、どうしても「お客さんの声を聞くことですね」「お客さんが何を考えているのかを知ることですよね」というお話をいただきます。当たっていると思いますが、さらに突っ込んで言うと、対お客さま、あるいは対お客さまの集合である群の解像度を高めることが顧客理解ではないかと考えます。

「ある特定のお客さまがちょっと変わった行動をしている」、あるいは、「ある特定の顧客クラスターが想定外の動きをしている」となった時に、「なぜそんなことをしているのか?」を、社内の人間が答えられる状況が顧客理解が深いと言えると思います。

先ほど「群と個の理解で、定量と定性を使う」というお話をしましたが、これは群だけでも駄目ですし、個だけでも駄目で、定量と定性を行き来することが極めて重要だと考えています。顧客理解が「ああ、なるほどな。うまいな」と思う組織は、(スライドの)1番と2番の両方が組織に「型」として定着していると思います。

成果を出すチームと成果の乏しいチームの違い

「成果を出すチームと成果が乏しいチームは、具体的に何が違うんだろう?」と考えると、「スーパーマーケターがいるかどうか」や「市場が伸びているかどうか」というよりも、対顧客に向けた施策の施行回数が多いか・少ないかによるのではないかと感じています。いわゆる手数が多いか・少ないかですね。

「なぜ手数が多いのか?」「なぜ手数が少ないのか?」と考えると、手数が少ない会社は、社内の会議や調整が極めて多いことがわかります。顧客インタビューの場合、「そもそもなぜインタビューをする必要があるのか?」という問いが重要です。定量調査なら、「どんなことを聞かなければならないのか?」を明確にする必要があります。

顧客理解に対する解像度が高く、かつ対事業部、対リサーチ専門部、コンシューマーナレッジチーム、そして現場の間で共通言語ができていないと、調整に時間を取られて施策に時間を割けないことが多いのです。

今日視聴されているみなさまの多くは、顧客理解という観点において社内で相当スペシャリストの立場にあるのではないかと思います。しかし、みなさん以外の方々と顧客理解に対する共通言語がない状態だと、説明に多くの時間を要することになると思うんですね。

ですので、顧客理解と言えば、「ああ、はいはい、あれですよね。わかっています、わかっています」という状況になると、自ずとスピードも上がるし、手数も増える。手数が増えるということは、PDCAのサイクルが回るので、よほどのことがない限り、打率が上がって、成果が上がっていく。成果が上がると組織の一体感が生まれて、会社に行くのが楽しくなってくるということにつながるのではないかと思います。

「心が行動を生む」という考え方とS-O-R理論

ここからは「顧客理解、最初の一歩」について、「ここまで知っていたら、顧客理解について少なくとも60点です」というところを実例をベースにお話しします。

「リスキリングしない人って、なんでしないんでしょうね?」と。顧客理解という観点で、仮にこんなお題目がみなさまに降ってきたらどうでしょうか? 非常にふわっとしたお題ですが、調査というところで考えた時にベースとして考えるべきなのは、「心が行動を生む」という考え方だと思います。

書籍によっては「態度が行動を生むのではなく、行動が態度を生むんだ」というお話もありますが、僕はどちらかと言うと物理学の観点に立っていますので、基本的には「心が行動を生む」と考えます。言い換えますと、「原因が結果を生む」と。

ですので、先ほど「リスキリングしない人って、なんでしないんでしょうね?」というところは、恐らく1個ではなく、複数の要因があるなと。

原因Aが70パーセントぐらい、原因Bが20パーセントぐらいみたいな複合要因で、「リスキリングはしません」と、なんとなく思っている方もいるでしょうし、同じく「○○の理由、○○の理由で、リスキリングをします」と考える方もいると思います。

ここに関しては、僕自身は学術的な裏付けをよく使います。認知心理学の領域に、S-O-R理論というものがあります。

「S」は刺激(Stimulus)、「R」は反応(Response)を表します。「O」はオーガニズム(Organism)と呼ばれ、論文では「有機体」と表現されていますが、僕はこれを「心理」と置き換えています。

外からの刺激「S」に対して、自分の心に浮かんだこと、あるいはそれをベースにして起こす行動を「R」(レスポンス)と表現します。真ん中の「O」は、今まで積み重ねてきた経験・知識に基づく内的反応であり、心理状態を表していると考えています。

例えば、最近はあまり見なくなりましたが、「大人の○○」みたいなのを見た時に、「ああ、あったあった。昔あったね。ふーん」と無視する人もいれば、「ああ、あったあった。懐かしい!」と買う人もいると思います。これは、基本的には0.5~1秒ぐらいで判断されると言われています。

因果関係を起点に考える顧客理解

ここで重要なのが「態度変容」です。「昔あったよね。ふーん」と無視する人に対して、さらに外的刺激を与えます。ここで言う「S」の部分ですね。

「ほら、子どもの頃に買った懐かしいあの味ですよ」とか、「あの頃を思い出すでしょう? 大人になった自分自身を褒めてあげましょうよ」と言うと、例えば「ああ、確かになぁ。40年前のあれかぁ。懐かしいな。じゃあ1本買ってみようか」という反応が出てくるかもしれません。「O」の部分には、「昔あったよね」という心理や、「懐かしいな」という心理、「ふーん」という心理、「あまり思い出したくない」という心理などがあるでしょう。

その中で、「懐かしいよね。買いたいよね」という心理を引き当てるために必要なのが、(スライドの)上の黄色枠のマーケティングコミュニケーションですし、「S」の部分も「大人の○○」だけではなくて、「懐かしいでしょう? あの頃を思い出しませんか?」というコミュニケーションをすることで、態度が変わっていくんだろうなと。

ここが認知心理学のS-O-R理論をマーケティングに応用した考え方で、「S」「O」までが原因で、「R」が結果だと考えた時に、リサーチにおいても、この「原因」と「結果」の観点で考えることが極めて重要です。

因果関係を起点に考える背景は、人って「何らかの理由」をきっかけに行動を起こしますよということです。

これは潜在的な領域もあれば、顕在的な領域もあります。そしてこの「何らかの理由」を突き詰めて、突き詰めて、突き詰めて考えると、インサイトにつながりますが、インサイトを発掘する手法と顧客理解は、僕は別物だと思っています。

重要なことは、「何らかの理由をきっかけに行動を起こす」となった時に、その理由を定性調査を通じて総花的に見つけようということだと思っています。「顧客理解の先の先の先に、インサイトがある」という前提の下で、まずは個(人)、そして群を理解するために必要なところに焦点を絞って、今日はお話しします。

定性調査、すなわち個ですね。「N=1」でもいいですが、今のテーマは「リスキリングってなんでしないんでしょうね?」なので、特定の人の肩をぽんぽんと叩いて、「なんでリスキリングしないんですか?」と聞いても、その人から出る回答は、自分の中で腹落ちしている、あるいは一定言語化できた内容になると思います。

言語化できない「モヤモヤ」を聞くためのアプローチ

事業としてわかっている範囲だけじゃなく、わかっていない範囲も知りたいですし、そのためには本人自身も言語化ができていないような、もっと「モヤモヤ」「ドロドロ」したものを聞きたい。

ここに関しては、さまざまなアプローチがあります。例えば「事実」からたどり着くアプローチとして比較的有名なのが、エスノグラフィー調査。観察をするというアプローチですね。

もう1つが、投影法。文章完成法や写真投影法などの主に心理学で使われる研究手法を用います。ここに関しては、先ほどのS-O-R理論に若干近い部分があると思います。比較的あいまいな刺激を被験者に与えると、被験者はその刺激を自分なりに解釈して意味を求めます。その「解釈」の部分に、マーケティング的に有効な回答が出る場合があります。

文章完成法で“無意識下の本音”を引き出した事例

例えば文章完成法で、こういう文章の枠があります。

重要なところはかっこにしているので、このかっこの中を埋めてくださいということです。

これは僕の回答です。私は子どもの頃は、「本太郎」と呼ばれていました。下の名前が「健太郎」なんですけど、「健」じゃなくて「本」だったんですね。

理由は、外出する時にいつも本を持ち歩いていたことです。当時はKindleとかがなかったので基本的には紙です。電車の中とか歩きながら本を読んでいました。小学校の通学中もそうですね。

親からは「本なんて買うんじゃなくて、図書館で借りろ」と言われていたので口答えはしなかったんですけれども、自分では本は手元にあるから知識が次につながっているような感覚を持っていました。図書館の本だと戻してしまうと、体内にある知識が引き抜かれるような感覚だったわけです。

僕はなかなか持っている本を売る機会がなくて、「なんで売れないのかな?」と思っていたんですけれども。5年前に、「ああ、そうか。本を売るってことは、単純に売るだけじゃなくて、『書籍が家にあるから、知識を保有している』と僕が認識しているから、『売ってしまうと、その知識がなくなってしまう』と思ってしまうんだな」とわかりました。

1,000冊ぐらいあったのが、だいぶ減らして今は300冊ぐらいになったんですけど、700冊はビッと裁断してPDFにして保管しています。裁断したために売れなかったんですけど、処分をしたのでスペースが生まれて非常にハッピーでした。

僕自身も「売りたいし、スペースないんだよな。でもなんか本を売るのは嫌なんだよな」とモヤモヤした心境が2~3年続いたんですけど、自分自身の内面を知ることができたので、かなりスッキリしたという事例です。

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