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篠田真貴子さんとザッソウ第2回 |「航空自衛隊の組織には、ベンチャーや新規事業に近いところがある」(全2記事)

裁量を持って、自律的に働く会社員が備える「大前提」 組織が瞬時に重要な判断をする人材を増やすために必要なこと

ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が、毎月さまざまなゲストを迎えて「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回はエール株式会社の取締役・篠田真貴子氏がゲスト出演。瞬時の判断を求められるという航空自衛隊の特徴や、組織の根幹を支える「ドクトリン」について語りました。

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「全部わかる」と思っても、人に説明できない話

仲山進也氏(以下、仲山):しのまき(篠田真貴子)さんが「この(航空自衛隊の)考え方はいいなと思って、他のところで説明しようと思ったけど、あんまりうまくできない」と書いてあったじゃないですか。

篠田真貴子氏(以下、篠田):そう(笑)。

仲山:あの感覚って大事だよなと思って。僕も航空自衛隊の伊藤(大輔)さんという、まさにああいうフレームワークを作っている人とトラリーマン対談をしたんですけど。話を聞くと「全部わかる」って思うけど、やはり体系的に理解していないと、つまみ食いみたいなのはできないですよね。

篠田:そう。やっぱり自分の生身の経験にはないから。少なくとも航空自衛隊で言われる「統御」のリアリティを知らないからうまく言えないし。

号令とか命令の話もそうですよね。「意図をちゃんと聞く」とか、「意図を伝えるようにする」とかは、同じかどうかはわからないけど、自分の経験の中でできていたり、意識したりしていたから、それくらいはしゃべれるんですけど。

仲山:でも、ふだん自分で「今は号令だ」とか、「今は命令だ」とか、「今は訓令だ」と思って、使い分けてはいないですものね。

篠田:いないです、いないです。だからそうなると、「らしいんですよ」みたいなところで止まる(笑)。そういう意味では、あの記事が出てすごく良かったと思って。みんなに「これを読んでください」って配ればいいので。

倉貫義人氏(以下、倉貫):(笑)。

篠田:井筒(俊司)さんは1991年の湾岸戦争の多国籍軍とかでお仕事もされていて。イギリスの人が上官だったのかな。いろんな国の人で1個のチームにならなきゃいけなくて、「その時に」みたいな話とかもちょっとしてくれて。

経験の厚みがただただ自分の想像を超えているなと思って。一生懸命わかりやすく、この子に伝えたいなと思って言ってくださることを含めて、本当にありがとうございますという感じなんですよね。

倉貫:(笑)。

仲山:(笑)。

篠田:自衛隊の方だから、普通に定年があって、定年になったら退官されるので、退官されたら「もっとみんなで井筒さんの叡智を学ぼうぜ」って話は、今からすごくしているんですけどね。

倉貫:いいっすね。

篠田:でしょう?

瞬時の判断を求められる航空自衛隊

倉貫:自衛隊の中の仕事とかコミュニケーションとか、なんかイメージと違ったんですよね。

篠田:がくちょは、伊藤さんとはどうやってつながったんですか?

仲山:伊藤さんは、中国古典研究家の守屋淳さんという人がいるんですけど、会計士の田中靖浩さんつながりで、守屋さんとつながって。

篠田:(笑)。

仲山:Facebookでつながって見ていたら、守屋さんのコメント欄にたまに出てくるおかしな人がいて、孫子ゲームみたいなのを自分で作ってやっているみたいなのが見えるんですよね。「なんか変な人がいるな」と思って見ていて。それで守屋さんのイベントに行った時に初めてリアルで会って、というつながり方ですね。

篠田:へえ。そうか。それまでは、「航空自衛隊ってこういう感じ」とかいうイメージはない感じでした?

仲山:僕、楽天の新卒研修で急に丸投げされて、1回海上自衛隊へ行ったんですけど、その時に陸と海と空はけっこう違うというのを教わって。

みんながイメージしているのって陸のイメージですよね。海は全員で1個の船を動かす、要はチームワークが問われるからという話を聞いて、「あ、そういうことか」とすごく腹落ちをしたんですけど。その後も伊藤さんから、空って要はOODAみたいな話とか。

篠田:1人でジャッジをしなきゃ。

仲山:「瞬時に判断をしなければいけなくて」という話を聞いて、「あ、自分の好みで言うと、空が一番合っているな」と思ったんです。

倉貫:(笑)。

仲山:サッカーとかとも近いし、楽天のスピードの速いビジネス環境とかも空っぽいなって思って。

倉貫:現場の判断が尊重されるやつですね。

仲山:そうですね。

倉貫:いちいち確認を取れない。

仲山:そんなに歴史もないというか、前例とかもない、誰もやったことがないみたいなことに取り組むことも多いので、それこそ「何の目的でやっているんでしたっけ?」みたいなところがちゃんと軸にないと、判断できないみたいな。

会社員なのに、裁量を持って自律的に働く人が備える「大前提」

篠田:本当にそう。航空自衛隊の考え方って、ベンチャーだったり、新しい領域の事業を作っていく時とけっこう似ているところがある。

仲山:似ていますよね。組織のネコとかトラみたいな、組織にいながら自由みたいな働き方って、「そんなのは組織が成り立たなくないですか?」ってすごく言われることがあるんですけど、まさに要は、「意図取り」をちゃんとできているかどうかが大前提になりますよということですね。

倉貫:なるほど。

篠田:まさにまさに。

仲山:「この会社って何のために存在していて」みたいな、「この事業は何の目的で」とかいうのを、社長と同じレベルまでは行かなくても、十分理解はしているので、委任戦術が成り立ちますってことですね。だから「自由に動いていいよ」ってなる。

篠田:そうなんですよね。

倉貫:そこがわかってないと、ただのネコになるってことですね。

仲山:そうそう。わがまま放題になってしまうという。

倉貫:(笑)。

篠田:そうそう。意図って、まだ具体的な行動が起きていないわけだから、どうしてもちょっと抽象度が高くなるじゃないですか。これを「お互いにわかっているよね」と思える状況にするってけっこう大変で。そこをずっと訓練しているんだなという印象だけ持ち帰ったんですよね。

私が初めてその構造に気づいてめっちゃ感動したのは、実はアメリカの海兵隊のほうで。海兵隊って陸海空の装備を一応全部持っていて、とにかく先陣を切って、だいたい海側から陸にがーんって上がって、本軍が来られるような状態を作るのがミッション。

だから状況がわからない中、とりあえず行って、状況即応型で動かなきゃいけないという意味で言うと、たぶん航空自衛隊とその状況は似ているんですよね。

倉貫:近い、近い。

篠田:日本だと野中郁次郎さんが海兵隊が大好きで、けっこう本を書かれているんですけど。「ドクトリン」という、自分たちが定義する「戦争とは何で」というところから始まって、具体的に何ができると目標達成なのかとか、200ページぐらいのそんなに厚くない概念整理の本が1冊あって。これがまずベースにあった上で、個々の戦略の意図取りが乗っかるんですって。

同じような構造でできている企業はすばらしいな、みたいに思っていた中で、井筒さんのお話を聞く機会があったので、「あ! 日本だとこの人たちだった!」みたいな。

倉貫:(笑)。

仲山:(笑)。

篠田:「日本にもちゃんとあるじゃん!」とすごくうれしくなって。

ドクトリンの意義

倉貫:さっきの海兵隊の、コアになる200ページぐらいの本……本なんですか?

篠田:「ドクトリン」と言って、文章なんですよね。

倉貫:その文章ってどんなことが書いてあるんですか? いわゆる会社で言うと、どんなものに当たるのかなって。

篠田:会社であそこまで書いてある文書は、ちょっと見たことがないですね。いわゆる規定よりはぜんぜん抽象度が高くて。

倉貫:そうですよね。

篠田:まず、「戦争」とは何か、「戦闘」とは何かみたいな。そこでは何が成し遂げられるのか。自分たちの存在目的は、戦争になったら戦争を遂行するんだけど、まずその前段にこういうことがあって、戦争はしないほうがいいんですみたいな。戦争というものに対する思想的構えみたいな話がまずあって。

戦争ってなった時には、やっていいこと・やっちゃいけないことの境界線を決める話があり、その前提でこの役割分担があると。大きく言うと、上官は何をしなきゃいけなくて、その下は何をしなきゃいけなくて、現場は何をしなきゃいけなくて。そういう基本思想が書いてある感じ。

倉貫:ふうん。価値観とかそういうニュアンスに近い?

篠田:そうそう、価値観に近いですね。価値観なんだけど、わりと現実的な定義が書いてあって。

倉貫:ふわっとしたお題目じゃなく。

篠田:そうですね。

仲山:伊藤さんと対談した時に、自分の仕事の説明で「ドクトリンの開発をしています」というので、「ドクトリンって何ですか?」って僕が聞くと、「法令とか政府の方針の範囲内で、より良く任務を達成するために、空自隊員の考え方や行動の土台となる知的基盤のことです」と。

篠田:そう(笑)。そういう感じ。

倉貫:なるほど。へー。片仮名で聞いたことはあったけど。

仲山:要は考え方とか行動規範。

篠田:野中郁次郎さんが『知的機動力の本質』という本を書いていらっしゃって、それの後半は海兵隊のドクトリンの翻訳なんですよね。だから、本を買えば日本語でも一応読めます。あと、今はDeepLがあるから、ドクトリン自体はPDFとかで普通に、原文が出回っているので、それをDeepLに突っ込めば、「こういうことが書いてあるんだな」ぐらいはわかると思う。

ドクトリンをビジネスで使う

倉貫:「宗教上の教義や教理を意味している」というのが、もともとの言葉の意味らしいですね。

篠田:そうですね。

倉貫:確かに「ドクトリン」という言葉を、ビジネスで使ったことはないな。

篠田:企業でそこまで文書化してある会社があるかはわからないですけど、「自分たちにとって事業とは何か?」みたいなところに、出てくるんだと思うんですよね。

「利益のためにやっています」みたいな会社もあるでしょうし、「三方よしです」みたいな会社もあるでしょうし、「地域の雇用の維持が大事です」とか、「事業って我々にとって何か?」って、実はけっこう違う。例えばその事業をやるに当たって、絶対やらないと駄目なこととか、やってはいけないこととか。そうすると、行動規範的なものもちょっとは入ってくると思うんですけど。

例えば「取締役とは、それこそ商法で決まっているのはこれだけど、うちの会社においては、取締役はやはりこういうことをやらなきゃいかん」とか、「マネジャーというのはこうあらねばならん」とかいうことが、全部一貫している感じ。

倉貫:なるほど。言語化されているんだ。

篠田:言語化されている。

倉貫:ちょっとドクトリンを作ってみたくなったな。

篠田:(笑)。イェーイ。倉貫さんのところとか作れるんじゃないですか?

仲山:作れると思います。

倉貫:よくある会社のミッションや価値観に当てはめようとしても、うまくしっくりこなかったんだけど、ドクトリンってちょっとしっくりきた感じがあるなと思って。

篠田:ミッションとかがしっくりこない感じというのは、どのあたりだったんですか?

倉貫:僕らの会社は、もともと社内ベンチャーをやっていた5人が路頭に迷いかけて、「もう会社を作るしかない」と言って独立して始めたんですね。

なので、特別「社会をなんとかしよう」とか「お客さんをなんとかしよう」でスタートしたというよりも、まず自分たちが生き延びるために会社を作ったみたいなところから始まっているので、ミッションらしいミッションなしで始めちゃったんですね。

仲山:志が低いという(笑)。

倉貫:そう、志が非常に低い(笑)。「生存のため」みたいな。ただ、プログラミングが好きな人たちだったので、「プログラマーを一生の仕事にするとかはできたらいいよね」とかって言ったんだけど、これはめちゃくちゃ内向きなメッセージで、別にお客さんのための話でもないし、世の中のための話でもないから、なかなか言いにくいなと。

「貧困をなくす」という会社だったら、もうちょっとかっこよく言えるけど、「うちでなかなかそれは言えないな」とずっと思っていたけど、もしかしたらドクトリンというかたちだったら、自分たちなりの言葉の定義なので、表現として書けるんじゃないかなという感じがちょっとしましたね。

パーパスを作る際のポイント

篠田:今「パーパス」が流行っているから、けっこう多くの会社が困っているんじゃないかとちょっと思っていて。

倉貫:最近はパーパスにすべきなのかとか、流行り物に迷ったりもしたんですけど(笑)。

篠田:もちろんいいんですけど、パーパスってなぜか20字以内みたいな短い言葉にするものが多くて、どの会社も同じみたいになっちゃって、なんか「うーん」と思うところがあり。

倉貫:すごくわかる。

篠田:もちろんああいう短い言葉もいいんだけど、それだけじゃなくて、ドクトリン的なものだとそれなりの文量がないと、自分たちも何を言っているかわからないと思うんですよね。

倉貫:それ、すごくわかりますね。パーパスもそうだし、ミッションとか価値観とかでさえ、「もっとわかりやすく書きましょう」みたいな圧があって。今回僕らも「価値観をブラッシュアップしよう」みたいなのを会社でやって、外部の方にちょっと意見をもらった時に、「倉貫さん、メルカリみたいな『Go Bold』とか、一言二言で言える感じにしませんか?」と言われて。

「いや、うちはそんな簡単に言えないな」と言って、結局長ったらしい文章になっちゃって。でも、「確かに、かっこよさはないし、すぐわからないけど、でもこのわからなさがうちだからな」と最後は納得させたんですけど。「それでも良い」と言ってもらっている感じがして(笑)、なんかうれしいですね。

篠田:海兵隊の方の書いたものとかを読んでいると、短い言葉で表すみたいなこともやられているんですけど、ドクトリンの裏付けがちゃんとあるので、けっこう理解しやすいなって思いますね。

ちなみにメルカリは、私は社外から見ていて、ちょっと感心するところがあって。行動指針、バリューが3つあって、そのうちの1個が「Go Bold」なんですけど、本当にみなさんの意思決定の指針になっているんですよね。だから、ポイントは短くすることというよりも、本当にみんなが使っているものなら、別に長くてもいい。

「戦略」と「戦術」の違い

倉貫:自分たちのものになっているかどうか。

篠田:そう、なってさえいえば、長い・短いではないなと。

倉貫:そうですね。だから、僕らの場合は、自分たちのものになるのに時間がかかるものなんだっていう。

篠田:うんうん、ずっとじんわり育てて。

倉貫:そうそう、じんわりかかる面倒くさい会社なんだなっていうことが自覚的にわかったな(笑)。

仲山:結局、全体が体系化されていることが大事っていうことですよね。

倉貫:なるほど。

仲山:なので、用語もちゃんと定義されていると。だいたい、「戦略」って何を指しているのか定義されていないまま、「戦略」ってみんな言っていますよね。

篠田:おっしゃるとおり。そうなんですよ。

仲山:「戦略」と「戦術」を同じ意味で使っている人もいるし。軍事のフレームワークだと、「戦略」の「戦術」の間に「作戦」があるよねっていう体系化がされていたりとかするし。

倉貫:確かにな。言葉って人によってイメージするものが違うので、「これはこういうものですよ」と言わないと、うまく伝わらないことが多々ありますね。

篠田:私、この本をもう1回読もう。

仲山:どの本ですか?

篠田:『知的機動力の本質』。でも、私は好きなんだけど、若干だらだら長いんだよな。野中郁次郎さんが書いている『アメリカ海兵隊』という本も、海兵隊の話がわりとコンパクトにまとまっていておもしろいんですけど。内容的にリッチなのは『知的機動力の本質』のほうで、けっこう始めの100ページぐらいは海兵隊の歴史だから、興味のない人は飛ばしてもいいみたいな(笑)。

仲山:(笑)。

篠田:(笑)。独立戦争の頃からの話が念入りに書いてある。

倉貫:なかなか硬派な本ですね。

篠田:うん、めちゃめちゃおもしろい。

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