2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「メディアとプラットフォームの今後はどうなる?」のセッションの模様をお届けします。本記事では、ChatGPTが普及した今、虚偽の情報に振り回されないために必要なことについて語りました。
藤代裕之氏(以下、藤代):山田さんたちと口コミの自主的な取り組みを作った時に、全事業者が賛同してくれたわけではないんですよね。みんな、自分たちのビジネスのやり方は変えたくないですから。
その中で、どういうふうにしたらお客さんや消費者と信頼を作れるのかというと、やっぱり事業者側も意識を変えないといけないんですね。そこはだいぶ苦労したところかなと思いますし、議論を見ていてなんとなくそんな感じがしませんでしたか?
山田メユミ氏(以下、山田):おっしゃるとおりですね。現時点でも、ステマをされたい業者さんとの闘いはエンドレスですね。
津田大介氏(以下、津田):そのへんのライン引きについて、たぶん内部ですごく侃々諤々の議論があると思うんですが、どういうところが対立軸になるのか。ちょっと紹介してもらって。
山田:そうですね。明確なお答えかはわからないんですが、以前に「食べログ」で「アルゴリズムを公開するかしないか」という議論が巻き起こったじゃないですか。
津田:ありました。あれは裁判にもなりましたからね。
山田:結果として「しろ」という方向に行っていると思うんですが、我々からするとものすごくリスクがあると思っていまして。アルゴリズムが開示されることによって、攻略する人たちが出てくるんです。
津田:SEOができますからね。
山田:はい(笑)。そうすると、ある特定の方に利益のある恣意的な投稿が寄せられて、ランキングも恣意的なものに寄っていくので、ずっとそうさせないようにしてきた歴史があります。
アルゴリズムをブラックボックス化し続けなければならなかったのは、我々からすると信頼のためなんです。でも違う側面から見れば、「ブラックボックスで勝手にやってないか?」と思われるので、最終的に企業としてどう信頼していただけるかっていうところに帰着しちゃうんですよね。
瀬尾傑氏(以下、瀬尾):とても丁寧な説明が必要ですよね。
瀬尾:それでは、せっかくいっぱい来てくださってるので、ここからは会場から質問を受け付けたいと思います。質問のある方は、どうぞ挙手でお願いします。
津田:4人あげてましたね。
瀬尾:4人、じゃあいっぺんに。
質問者1:ジャーナリストの教育についてのご質問をしたいなと思っております。例えば、最近の新興メディアにいらっしゃる方も、元テレビ記者や新聞記者の方とかが多いかなと思ってました。
僕もテレビ(業界)出身なんですが、実質的に教育を担ってるのはテレビ、新聞のオールドメディア側なのかなという印象があるんですが、なかなか教育に費用がかけられないという現状があります。
このままだと、本当にガーシーさんや滝沢ガレソさんの一人勝ち状態になってしまうんじゃないかなと思っていて。この教育の問題について、みなさんはどうお考えでしょうか?
質問者2:公共性のあるメディア、オールドメディアや文春、『FRIDAY』とか、さまざまなメディア媒体がある中で、やっぱり「住み分けだけはしなければならない」と言われています。私はメディアで働いたことは1度もないんですが、一消費者や国民の目線で見ます。
文春砲や『FRIDAY』で出ていたような記事が、これまではオールドメディアの記者クラブとか、ある意味普通の一般国民からすれば「談合によって隠されてきた部分もあったんじゃないか」という不信感も、正直言うとあるにはあります。
ジャニーズの問題にしても、権力者をおもねって報道ができていない中で、オールドメディアに本当に公共性があるのか? と疑問に思われているのが、率直な感想としてあります。
SNSやオールドメディアも含めて、今は一般消費者の方もYouTubeでも発信できる時代において、本当の意味での格付けや信頼性をどう定義していくのかというところを、具体的にお聞きしたいと思います。
質問者3:情報の信頼性と、そのコンテンツの単価の話をお聞きした時に、食品で言うとやっぱりトレサビ(トレーサビリティ)の問題が大きいかなと思いました。情報の供給サプライチェーンを考えた時に、そういったものの価値を見出していくというのも、今のSDGsの流れの中で1つの潮流としてあるのかなと思うんです。
そういう流れや法規制って、ヨーロッパとかから広がってくるのかなという感覚がありまして。海外に目を向けた時に、今はどういう流れになってるのか、もしご存じであれば教えていただければと思います。
質問者4:情報の受け手である我々についてご質問させていただきたいのですが、情報の消費者である我々としましては、「このメディアは正確な情報を提供している」というのはなかなか判断しづらいと思います。
先ほど藤代先生のお話にもありましたが、基準作りもうまくいっていません。一方で情報の提供側がディープフェイクのような、まことしやかな情報が非常に増えている。「我々はどの情報を信じたらいいのか」というのが、なかなか難しい時代になってきているのかと思います。
こういう中で、より正確な情報を入手するためにはどのように対応していけばいいのか、ぜひ教えていただきたいと思います。
藤代:順番ですから、まずは藤代からお答えします。ジャーナリスト教育に関しては、私は友人たちと一般社団法人で日本ジャーナリスト教育センターという、まさしく、そのまんまの名前の法人を持ってます。
海外からの文献翻訳や、ローカルで発信する人のガイド等を出版していました。昔は、津田さんとかにもワークショップに来てもらっていたりもしましたが、最近はちょっと活動を止めていました。
やっぱりプラットフォーマーのパワーというか、ガーシーとかのパワーが強すぎて、がんばってもぜんぜん届かないな感じがあったり。「バズるほうを教えてほしい」というニーズがものすごく高まってしまって、あんまりできなかったんです。
藤代:ただ、来年度にガイドは改訂する予定ですし、もうちょっと取り組みを進めていきたい。信頼について、ChatGPTの影響は大きかったなと思っていて、議論ができるようになってきたかなと思っています。
もちろん、他にやってる先生方ともネットワークをたくさん持っているので、もう1回再起動して、さまざまなジャーナリスト教育や機会を提供できるように、私も取り組んでいければと思っています。個別に知りたい人は、聞いていただければ「こんなのありますよ」という感じでご紹介もできます。
それこそ「スローニュース」の熊田安伸さんの、すごくよくできているデータのガイド本(『記者のためのオープンデータ活用ハンドブック』)。私は3冊ぐらい買いましたが、ぜひ買ってください。今度は有料で災害報道の本も作るということで。
瀬尾:そうですね。今、スローニュースで連載が始まってます。
藤代:僕もすごく楽しみにしてます。今は取り組みが本当に進んできて、古田大輔さんとかが作っている団体(デジタル・ジャーナリスト育成機構)もありますし、個別に言っていただければいろんなところを紹介もできますので、ぜひお声がけください。私もがんばっていきたいと思います。
瀬尾:ありがとうございます。今、どんどん外部化されたものができてますよね。
瀬尾:じゃあ、山田さんお願いします。
山田:ありがとうございます。信頼性の定義って本当に難しく、ここに関わってきたからこそ、すごく難しい答えのないものだなと思ってます。理由は、「誰が主体者であるか」によって、信頼できるものが変わると思っているからです。
ニュースで言うとフェイクはダメだと思うんですが、例えばアットコスメのようなものもそうですし、「情報を知りたい」という能動的な欲求に対して回答しようとすると、その方がどういう人で、どういうシチュエーションでその情報を見に来てるかによって、解が変わってしまうんですよね。
それをメディアサービス運営会社側が決め打ちで出すことに対して、私はものすごく抵抗があって。なので、パーソナライズとレコメンデーションのやりすぎによるネガティブって絶対あると思うんです。
アットコスメもそうですし、いろんなメディアさんを見る中で、自分としても自問自答しながらやってきたんです。最終的には、これだけ価値観が多様化している中で、情報のソースを1つに求めすぎないことは絶対だと思います。
今、これだけオンラインでできることが増えて、コロナもあって、リモートワークも進んでいる中ですが、あらためてリアルの価値がすごく見直されてるとも思います。
我々の世界で言うと、例えば店頭に行って、お店の人やプロフェッショナルから実際に自分の肌を診断してもらって、商品を勧めてもらうということも廃れないし、やっぱりニーズが大きいんですよね。
複数ある情報源を、その時その時で複合的にうまくチョイスをしながら見ていくことが、あらゆる点において必要なんだろうと思います。メディアに頼りすぎないということは、常に意識しなければならない時代じゃないかなと思っています。
瀬尾:ありがとうございます。
瀬尾:じゃあ、津田さんお願いします。
津田:これはたぶん、藤代さんも異論があるかもしれないかなと思いますが、ネットの情報にトレーサビリティを取る。
つまり、陰謀論やフェイクニュースが多いから、ちゃんとしたオールドメディアや信頼性があるメディアが作っている情報にマークを付けて、情報リテラシーを向上しましょうという、オリジネーター・プロファイルっていう議論が進んでいる。
読売新聞とかはがんばってやろうとしているんですが、正直、ほとんど意味がないんじゃないかと思っていて。焼け石に水ぐらいの効果はあると思うんだけど、やらないよりはやったほうがいいぐらいの感じで僕は捉えています。
なぜかと言うと、やっぱりChatGPTなんですよね。まさにトレーサビリティというところで、「信頼性がある情報の価値をちゃんと高めて、検索でも上に来るようにしましょう」みたいな話は、そういう情報しか流通していなかったら意味があるんです。
でも、そもそも一次情報をずらして出てくる情報はChatGPTで作成できてしまう。しかも、それがどんどん流通するような世界になっているので、本当に難しい議論になってきていると思います。
津田:だから今は大学も「ChatGPTどうするのか」ってすごく迷っていますよね。僕が教員をやっていたのは2020年までだけど、その頃は大学でレポートのコピペ問題があったんですよ。
でも、今はもう大学のシステムの中にコピペのチェックソフトが入っていて。「8割ぐらいGoogleでコピペして作られてます」とか、コピペで作ったレポートは「これはもう不可ね」みたいな判断が簡単にできた。
ですが、ChatGPT時代になっちゃったので、検出がほとんど不可能になった。その話を松尾豊先生に聞いたら、「いや、もう無理です」と言っていたので。そうなると評価基準を変えなきゃいけないし、そもそも「トレースをして信頼性を確保しよう」ということが、もはやできない時代になった前提で考えなきゃいけない。
じゃあ、どうやっていくのかということで、たぶん参考になるのが、2018年にヨーロッパで「陰謀論や虚偽情報に対してどう対応していくのか」について、すごくいろいろなセクターの人たちが集まって、かなり膨大な報告書を出したんですよね。
その時に書いていたのが「複合的にやるしかない」。1.情報源や情報流通の透明性の向上。2.ユーザーのメディア情報リテラシーの向上。3.ジャーナリストの情報技術活用のための支援。4.報道の多様性と持続可能性の保護。5.虚偽情報の影響に関する継続的な研究。
この5本の柱を立てて、どれも特効薬にはならないけれども、やらないよりかはマシなので複合的にやっていく。
津田:一番良くないのは、陰謀論とやChatGPTで精巧に作られた情報が出てきた時に、それを一律に見えないように規制しようっていうのが一番まずい、という報告書を出していたことです。
本当に大変な時代にはなってきているけど、やっぱり多元的にアプローチをしていくことでしか特効薬はないので。ある種の弥縫策を積み上げながら状況を塞いでいくしかないという、そんな時代に我々は生きてるんだろうなとは思いますね。
瀬尾:最後のご質問の「正確な情報収集はどうやってやるのか」は、今、津田さんが話していただいた話でもう十分だと思います。
僕らは必ず騙されますよね。騙されないことはないです。間違えることはあります。フェイクニュースだけじゃなくて、例えば今は正しいと思っていた科学が、後になってみたら違うことだってあったりするわけですよ。
常に間違いは起こりうる。前提として、まずは僕らが「間違える人間」であることを知る。そういう社会行動だと思ったほうがいいですね。「自分は常に思い込みを持つものだ」「社会は常にバイアスを持ってしまうものだ」という前提で生活することが大事だと思うんですよね。
逆に言えば、自分と違う意見の人も無下に耳を塞ぐのではなくて、そういう存在もいることも常に意識する。そうすると、さっき津田さんが言ったようにある種の多元的な情報が入ってきますので、そうやって判断していくことが重要だと思います。
瀬尾:ネットニュースってすごくいろんな問題があるんですね。例えばアディクションの仕組みがいろいろあったり、エコーチェンバーになったりする仕組みもあったり。そのビジネスモデル自体、「変なコンテンツにも広告が出る」みたいな問題があるんです。
ただ、1つのいいところは、いろんな情報が手に入りやすい。1つのメディアを見てるよりも、いろんな情報や違う意見もどんどん入るので、そういうところも含めて見ていくことが大事だと思います。
その中で、もしも基準になるものがあるとするならば、あえて言うと歴史に学ぶところはすごく大きいと思うんですよね。「昔は社会がどうだったか」とか。
今は死ぬほど本がいっぱい出るようになって、本もネットと同じようにどんどん消耗される商品になっていますが、その中で長く残ってる本や古典は、それだけの価値があるものがすごく多いんですよね。
僕らの社会は過ちを常に繰り返す。間違えることも繰り返されるものだということを古典に学びながら、最新の情報を摂取していくことが大事なのかなと思います。
今日は本当に短い時間でしたが、情報、ニュース、プラットフォームの責任、メディア、ガーシーや『FRIDAY』のことまでお話しできました。山田さん、この炎上上等なメンバーの中に入っていただいてありがとうございました。
(会場笑)
瀬尾:藤代さん、津田さんも、あらためてありがとうございます。今日は聞いてくださって、質問してくださった方もありがとうございました。あらためて、パネラーのみなさまに拍手をお願いできればと思います。
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