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なぜリーダーは歴史を学ぶべきなのか? 求められる「現状認識」と「フラットなリーダーシップ」(全4記事)

古今東西の歴史でわかる、「絶対に失敗するリーダー」の特徴 ビジネスケーススタディだけでなく、歴史を学んでわかること

グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、東芝・島田太郎氏、日本アイ・ビー・エム・山口明夫氏、そしてコテンラジオの深井龍之介氏が登壇したセッションの模様をお届けします。最終4回目は、歴史を学ぶ時の留意点や、「人よりもさらに先」を目指すために必要なことなどが語られました。

前回の記事はこちら

どんな時代でも絶対に失敗するリーダーの特徴

君島朋子氏(以下、君島):ここからは会場のみなさんからのご質問をいただきたいと思います。

いただいた質問の中から、数の多いものを3つほど私からご紹介して、パネリストのみなさんにお尋ねをしてまいります。今からパッと書いていただければまだ間に合いますので、ぜひ質問を入れていただき、「いいね」を押していただければと思います。

では「いいね」の数の多い質問を独断と偏見で、振らせていただきます。「『歴史から学ぶリーダーシップ』が本セッションのタイトルですが、深井さんから『未来はわからないから過去から学ぶ』というご発言がありました。あらためてぜひ、なぜ歴史からリーダーシップを学ぶのか。それは歴史からしか学べないのか。実際にどのように学ぶのか。教えていただければ幸いです」ということです。

次に、この質問は島田さんと山口さんにうかがいたいと思います。

「『役職が人を作る』という言葉があるかと思います。みなさんもそんな側面があると思いますが、私も役職が上がったから見えたこと、芽生えてきたことがあります。そこで質問ですが、もし今の役割になられる数十年前のご自分に、『これをやっておけ』というアドバイスができるとしたら、どんなアドバイスをいただけるでしょうか?」ということです。

今の役職に就いていない数十年前のご自身にしたいアドバイスを教えてください。では、深井さんからお願いします。

深井龍之介氏(以下、深井):歴史からしか学べないこと。なんでビジネスケーススタディじゃダメなのかという話もしていきましょうか。例えば古代でも中世でも近代でも、まずその時代特有の失敗と成功があるんです。

逆にすべての時代で共通している、成功と失敗があったとするじゃないですか。あるんですけど、それらは歴史じゃないと絶対に学べないですよね。つまり「これをやったら、どの時代でも失敗するんだ」ということがあるわけです。

わかりやすい例でいくと、内部ステークホルダーの現状認識ができていないリーダーは絶対に失敗します。内部の人が何を考えているかをわかっていないリーダーは、古今東西成功したことがないんですね。現代でも、それを自分がやっていたら成功できるとは思わない。

時代によって違うこともありますが、それも歴史を勉強しないとわからないですよね。

ビジネスケーススタディではわからない領域

深井:繰り返しになりますけど、今は歴史上最速で変わっている時代です。こんなに速いスピードで、人の常識が変遷していくことは過去になかったんです。中世や近代であれば、300年単位で経験していたような変化を、今、僕たちは15年くらいで経験しています。それぐらいすごいスピードで変わっています。

今、自分が経験しているスピードが、過去の人間は経験していないということも、歴史で勉強しないとわからない。当たり前ですが、スコープを広げないとわからないことが存在します。

もちろんビジネスケーススタディでわかることもたくさんあるけど、それではわからない領域も必ず存在する。そこもリーダーにとって重要だから、歴史を勉強するのは非常に大事です。

どのように勉強するかというと、今は基本的に本を読むしかない。でも、それだと勉強するコストが高すぎるから、もっと簡単にアクセスできるように僕たちはデータベースを作っているわけです。

山口明夫氏(以下、山口):あと深井さんのポットキャストも聞いたらいいよね。

深井:ありがとうございます(笑)。ポットキャストでも勉強できますので。

歴史を学ぶ時の留意点

君島:ぜひポッドキャスト「COTEN RADIO」を聞いていただければと思います。ポッドキャスト以外で「こんなことをやって勉強しなよ」というアドバイスもいただければ、ぜひ。

深井:1つお伝えすると、勉強する時は同じ題材について3冊以上本を読むことを鉄則にしたほうがいいと思います。

君島:同じ題材について3冊以上?

深井:そうですね。例えば十字軍について勉強しようとしたら、十字軍について1冊じゃなくて3冊読む。そうじゃないと視点が固定化されてしまう。先ほど島田さんが、「いろいろな人からフィードバックをもらう」という話をしていたじゃないですか。それとまったく同じです。ある事象に対して違う意見を複数集めないと、事象が立体的に見えてこない。

島田太郎氏(以下、島田):本当はイスラム側の本も読みたいんだけどないんだよね。存在しない。

深井:ほとんどないですね。

君島:いろいろな事象の本をバラバラに読んでいくよりも、「1つの事象について、3つ4つ、違う視点の本をきちんと読むべし」と受け止めてよろしいですか?

深井:いろいろな事象を勉強したほうがいいです。

君島:両方ですね。

深井:でもいろいろな事象を勉強する時に、1つの事象で3冊以上読まないとわからないということ。3冊読んでもわからない時もいっぱいあるんですけど、目安として3冊。

君島:目安として3冊は同じ事象について、違う見解の本を読む。そしてなるべくたくさんの事象を学ぶ。

深井:そうしたほうがいいです。やればやるほどいいですね。

君島:そうやって学ぶことから時代特有の状況も理解できるし、一方で時代に通底する成功・失敗を学んでいける。そんなところを抽出しながら読むということですね。ありがとうございます。みなさん、ぜひポッドキャストの「COTEN RADIO」を聞いていただければと思います。

昔の自分に送るメッセージ

君島:お二人、お待たせしました。「数十年前の自分にどんなアドバイスを送りますか?」ということで、アドバイスいただきたいと思います。山口さんからお願いしてもよろしいですか?

山口:十数年前というか、私は社長になって5年目なんですね。最近いろいろなお客さまのところを訪問させていただいて、「次の会食をしようよ」とどんどんつながりが増えてきています。それはとてもありがたい。

社長になった1年目は今から振り返ると恥ずかしいなと思います。今がすごくできているとはまったく思っていないんですが、「あれぐらいの知識で『社長だ』とお客さんのところに行っていたんだ」と思うと恥ずかしくなるんですよね。

何も知らなかったなと。経済安全保障のことをちゃんと話ができますか? どれだけ理解できていますか? 今の円安の状況はどうですか? もちろんテクノロジーについては、36年間ずっと仕事をしてきたのである程度お話はできますけど、「なんと知識と経験のない、勉強していない、バカなやつだったんだな」とすごく思うんです。

私は36年間IBMで働いていますが、今が一番勉強していると思います。量子コンピューターや半導体の歴史も勉強しています。量子コンピューターは実際にニューヨークにアクセスして使っています。そうでないと、やはりついていけないから。

何を言っているかというと、ポジションや役職、ロールが人を成長させるのは確かだと思います。だけどそのロールの中で必要と思うことを勉強しなかったら、絶対に成長しない。

私は常にA4の方眼紙を持っています。AIだったら新聞やネット、論文で読んだAIのキーワードをダーッと書いているんですね。経済安全保障だったら、経済安全保障のことだけをバーッと書き出す。こっちは人口減の問題でそのことをずっと書いています。

最新の量子コンピューターについても、IBMのことだけじゃなく、ほかの研究の発表なども、カテゴリごとに常に頭に入れて整理をしています。これをもっと若い頃からやっていたら、もうちょっと違っただろうなと思います。だから10年、20年前の自分には、プロジェクトマネジメントだけじゃなくて「ほかももう少し幅広くやっておきなさい」と言うのかな。

あともう1つは、今日学んだんですけど、ちょっとぐらいは歴史を勉強しておこうかなと思います(笑)。「山口さん、どの歴史の人物が一番いいですか?」と質問されて答えられるようにはなりたいなと。今ここの壇上にて思っています。

君島:歴史についても勉強する。そしていくつかテーマを決めて、それについて幅広く「間に合ううちから勉強しておけよ」というメッセージをいただきました。

「人よりもさらに先」を目指すために必要なこと

君島:島田さんもお願いいたします。

島田:僕は正直言って、「自分の人生に後悔なし」ということで、自分に対して言うことはないです。でも言いたいことはあって。実際に仕事が人を作ることはあります。でも絶対にそんなことを言っちゃダメです。

少なくともあすか会議に来ているような人が、そんな弱々しいことを言っていてはダメである。自分で上の人に対して「俺はこれをやるからこれをやらせろ」という提案をすべきである。すでにやられている方もいらっしゃると思いますが、そういう気概でなければ、人よりもさらに先を目指すことはできない。

特に私は雑草ですので、マッキンゼーや東京大学を出ているわけでもありません。その中で自分がのしていくためには、常に3年先、3年間で成果を出す。成果しかない。結果しかない。それに対して自分が「次は何をするのか?」を自分で提案する。これしかないと思っています。

だから、私は終わったことに対しては言うことはなし。それよりも、未来の自分に対して「絶対に攻め続けろ」と言いたいです。

君島:「みんな、常に未来の自分に対して攻め続けろ」というメッセージをいただきました。

名残惜しいんですが、終了の時間が近づいてまいりました。最後にもう一言、ぜひ深井さんからみんなに「歴史からこんなふうに学ぶんだよ。こんなふうに考えていったらいいよ」とアドバイスをいただければと思います。

そして質問の数がどんどん増えてきて、最後に山口さんに聞きたいようなので一言。「山口さんが嫌な情報と真剣に向き合っていらっしゃる姿に、島田さんがおっしゃった『死を恐れていない』という姿を見ました」と。「これに向き合うための勇気をどうやって培っているんですか?」というご質問がたくさん上がっております。

今、島田さんにアドバイスをいただきましたので、お二人からも最後に一言いただいて、終わりにしたいと思います。深井さん、お願いします。

深井:歴史の学びですよね。僕の会社の存在意義は「人文知と社会の懸け橋になる」なんですね。「人文知」にはいろいろなものが包含されるんだけれども、主には哲学と歴史です。

島田さんもおっしゃったみたいに、これほど変化が激しい時代においては、現代のリーダーは哲学と歴史を勉強したほうがいいと思っています。歴史を学ぶと自分の世界観が形成される。世界観がないと決断ができないじゃないですか。世界観を更新していくために、歴史と哲学は、ぜひ勉強していただきたいなと思います。以上です。

君島:世界観を養うために「歴史・哲学を勉強していこう」というアドバイスをいただきました。

経営のバランスを見るために確認する“7つの丸”

君島:では最後に山口さん、どうやって勇気を培っておられるか、みんなにメッセージをお願いします。

山口:どうやって勇気を培っているか。別にあえて勇気を振り絞って「こうしたい」とやっているわけじゃないんですよね。やりたいと思っているし、やらなければいけないと思っている。ただ1つ言えることは、すごく「ありがたい」ということ。

例えば、お客さまに対してはIBMとビジネスをやっていただけること自体がうれしいし、社員に対してもこの時期を私とともにしてくれるのもうれしい。もっと言うなら今日ここで登壇させてもらって、みなさんと会話できるのも1つの縁だし、「すごいことだな」と思うんですよね。「感謝」というか、それだけは絶対に忘れないでいきたい。

それを前提に、自分は、日本IBMは何のために仕事をしているんだろう。最近よくパーパスと言われますけど、自分は役に立っているのかとしっかり考えながらやっています。

実は自宅の机の前に7つの丸を描いているんですよ。1つは「お客さま」、もう1つは「ビジネスパートナー」、それから「社員」「株主」「アカデミアとか政府」、そして「メディア」「社会」と。

経営はバランスが大事で、どれかに偏ってはいけない。株主ばかりを考えてもダメだし、社員だけを考えてもダメ。自分は経営者として「今正しい判断ができているのかな。みんなに対して責任を果たせているのかな」と常に考えています。

正解はなくても、常に悩みながらその時ベストな解を出そうとしている。そんな感じです。

君島:ありがとうございます。最後に島田さんからも一言お願いいたします。

島田:ありがとうございます。私の言葉は強すぎるから、みなさんに勘違いしないでほしいので1つだけ申し上げますが、犬死は絶対にダメです。わかりますか? わけのわからないことに取り組んで「自分がやったんだ」と思ってはいけないと。

みんなが仲間になるような、「これは本当にやるべきだ」ということを選ばなければならない。そうすると初めてそれは大義になるわけです。2023年6月29日にBiSHが解散しましたね。あれは必要だったんです(笑)。それがなければあれだけのパフォーマンスは結集していかない。以上。

(会場笑)

君島:ここで終わるとは思いませんでしたが、登壇者のみなさんからいろいろなメッセージやアドバイスをいただけたと思います。ぜひどのアドバイスが一番自分のやるべきことだったか、自分にとってどんな学びがあったかを、考えてみていただければと思います。

それでは本会を終わりにしたいと思います。パネリストのみなさまに、ぜひ大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

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