2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、東芝・島田太郎氏、日本アイ・ビー・エム・山口明夫氏、そしてコテンラジオの深井龍之介氏が登壇したセッションの模様をお届けします。3回目は、リーダーに必要な現状認識の秘訣などが語られました。
君島朋子氏(以下、君島):(優秀な人たちの中で自分がリーダーに選ばれたことについて)島田さんはいかがでしょうか。
島田太郎氏(以下、島田):どう考えても僕より頭のいい人のほうが多いんですよ。それに対して、僕は悩んだことは1度もないんです。幼稚園児の話と一緒です。役割なので。
でも、社長は偉くなるじゃないですか。絶対に祭りあげられるんですよ。あえて違う情報を入れて「社長、どう思われますか?」と言われたり、いろいろあるわけです。
大事なのは「自分は能力がない、無知である」ことを常に意識すること。ある人から「こういう話を聞きました」と言われたら、必ず3人ぐらいに「この話はどう思いますか?」「どうでしょうか?」と聞くようにしています。
自分は「こうだな」と思ったとしても、ほかの人に聞くことでものすごくいいフィードバックが得られる。要するに大局観を形成できるところがポイントだと思いますね。
例えば、会社の中に自分がめちゃくちゃ信頼している人がいたとします。それはいいことなんですけど、絶対に嫌なことを言う人の話も聞いたほうがいいですよね。それをやっていないと、おそらく祭りあげられてしまって、変な決断をしてしまうことになると思います。
君島:「自分の無知を意識せよ」と。そして「嫌なことを言う人の話をきちんと聞け」と。心すべきアドバイスをいただきました。
君島:ここで深井さんにお聞きしたいんですが、今のお二人の中にあるリーダーとして大事なところ、普遍的なところはどんなところだとお感じになったか。ぜひ教えてください。
深井龍之介氏(以下、深井):お二人ともすごくフラットであることを大切にしていらっしゃるなと。歴史上、ここ100年間ぐらいはフラットなリーダーもけっこう出ているとは思うんですが、150年以上前の身分制がある時代は、誰がトップをやるのかは「血」で決まっていたんですね。そうすると、フラットな環境は作れなくなります。
そういう意味では、フラットであることは現代的なリーダーの特徴なんだろうなとお聞きしながら感じていました。もちろん昔からいろいろな話を聞くリーダーはいたんですが、ただの役割だというのは現代の特徴かなと。
君島:フラットに優秀なメンバーの意見を聞いて活かしていく感じは、非常に現代的だということなんですね。
島田:ただ中国の唐の時代の皇帝の話『貞観政要』を読むと、「結局現場で起こっていることが皇帝の耳に入らなくなった時に国は滅びていく」と書かれているわけです。
それでもなんとかもちこたえているリーダーもいたんだと思うけど、最初に言われたように、本当に世の中を変えるリーダーは正確に現場からのインプットを……。
深井:現状認識ですね。
島田:現状認識を拾い上げて、大局観で間違わないのが大事ではないかと。
今のテクノロジーの時代で一番面倒くさいのは、ものすごいスピードで動いているのを正しくすばやく認知せねばならない。僕はちょっと危惧を覚えますが、多くの大企業の社長がSNSをやらないとかね。これは現代においては、情報の非対称性における危険性をはらんでいると思います。
それが本当に正しいかどうかは別として、いかに情報を自分の耳で正しく理解するか。偏った情報でなく取り入れられるようにするのか。これが、今のテクノロジー時代に非常に重要だと思います。
君島:冒頭で現状認識が大事だと深井さんがおっしゃっていましたが、昔の中国の皇帝だって、ちゃんと現場の戦況を理解しなければ勝てなかったよと。同じように現代のリーダーも現場の状況をきちんと理解しなければ勝てないと。
動きや変化が速い非常に時代なので、リーダーが正しく現状認識することがとても難しくなっているんですかね?
深井:現状認識は当たり前のことだという感覚があるじゃないですか。だから、現状認識ができない感覚はあまりないと思うんです。島田さんが今さらっとおっしゃってすごく大事だなと思ったのは、たぶんやるのはすごく難しいことなんですよね。僕は歴史を勉強してそれを理解したので。
正しい現状認識は、放っておいたらまず絶対にできない。自分からかなりの努力をするか、自分の認知を歪める阻害要因をしっかりと認識して気をつけていないとできない。現状認識が大事だというよりは、現状認識の難しさを知っていることがすごく重要だなと。
島田:だから僕はものすごく忙しくても、京都まで来るんですよ。
深井:(笑)。
島田:そういうことなんですよ。京都まで来たかいがないですから、みなさん、ちゃんとフィードバックしてくださいね(笑)。
君島:ぜひ島田さんに、みなさんの現状をお伝えいただいて、フィードバックをしていただければと思います。
君島:今、深井さんから「現状認識が難しい時代だ」とうかがいました。お二人とも非常に変化の速い産業のど真ん中で会社を率いていらっしゃる。そこでどうやってお二人は現状認識しているのか。会社がどっちに動いていかなきゃいけないかという大切な方向性を、どうやって決めているのか。ぜひ現状認識の秘訣をうかがいたいなと思います。
山口明夫氏(以下、山口):例えば、ファイナンス面で経営の状態や数字は、いちいち聞かなくても全部データベースで見るから、自分から聞きに行く必要はない。今、私がメンバーに言っているのは「あなたがたは一番何の役に立っていますか?」と。
例えば、数字が目標にいかなかったら「なぜいかないんだ?」と聞いたところで意味がない。あなたの目標を達成するために「どうマネジメントすれば役に立つか」を考える。私もそうなんです。日本IBMのビジネスや目標にいかないケースについては、自分で何ができるかを考える。それをひたすらみんなに聞いて、常に考えていこうとする。
メンバーから役に立つ人のところに情報が入るんですよ。この人と会話をしたらもっと新しい情報が得られる。自分の仕事のやり方を変えることができる。新しい解決策が見つかるとか。もちろん嫌なことも入ってくる。でもその文化を今、作ろうとしています。だいぶ雰囲気が変わったことは確かです。
IBMは外資なので、数字で詰めて期末には「30日までに数字を上げてこい!」という会社だと思っていらっしゃる方がこの中の大半かもしれませんけれど。今はそうじゃないんです。2年前からIBMコーポレーションで同じ議論をして、そんな詰めて上がるような数字は、本当の数字じゃないと。本当にお客さまのためになるビジネスをやるために、「全マネジメントがどういう動きをするのが一番いいのかを考えよう」と言って、ガラッと変えたんです。
ほとんどのマネジメントが、自分はそのメンバーに対して役に立っているか。それをどうすることで本当に役に立つのかを考える。もうそればっかりになりましたね。経営の数字はいちいち聞かなくていいんです。全部データベースで見られるので、数字の達成状況の報告会議も意味がないからやりません。
逆に「あなたの事業部はどうですか?」と私が聞くことはタブーなんですよ。聞かなくても自分で見れるから。それよりも事業部のみんながもっとエンゲーメントを高めて仕事ができるためにはどうすればいいか。データベースを見て「数字が足りないなぁ」とわかったら、どうすればいいかを一緒に考えるんです。
そうすると、びっくりするぐらい情報が共有されるようになります。嫌な情報も入ってきますし、「うわー、こんなことが起きていたんだ」ということもあります。それが1つですね。
山口:もう1つは私は毎日Slackのチャンネルで、ざーっと思っていることを書いてるんですよね。ちょっとしたメッセージに写真をつけています。
例えば、「今日あすか会議でこんなことを話した」「いや、あのメッセージ、ちょっと失敗したかなぁ」「戦略はここが正しいと思う」とか自分の思っていることや失敗したこと、感じたことを全部共有する。
トップが何を感じているかを、みんなにつまびらかにどんどん共有しています。そうすると心理的安全というか、社員たちがこんなことを考えている人の下で自分が働いてるんだとわかる。いろいろなことを言いやすくなるんですよね。
全員レスポンスも返せるので、直接メールを送ってくる人もいるし、全社員が見るところで「山口さん、その意見は違うと思います」と書いてくる社員もいっぱいいて。それに「どうやって返そうかなぁ?」と思いながらね。
全社員がそういうやり取りを見ることでヘルシーな環境を作っていく。そんなことを今、心がけています。
君島:すごく透明性のある組織文化をお作りになっているんですね。だんだん時間がなくなってまいりました。島田さまにもぜひ。
島田:そうですよね。AIで「MLOps(エムエルオプス)」と言うじゃないですか。MLOpsは知っています? 知らないですか? グロービスは大丈夫ですかね(笑)。
(会場笑)
君島:がんばりましょう。
島田:AIはデータを食わさないと腐って、精度が落ちてしまうんですよね。常にデータをアップデートしないといけない。だから、今の時代は「大変だ」と言いますけど、楽になっていることもものすごく多いんですよね。
昔だったらわからなかったことが、山のように情報として入ってくる。僕の部下は10万人くらいいるんですけれど、いろいろな人によく「いつも島田さんから見られているような気がする」と言われるんですよ。例えば、何かの発信を見てやりとりしたり、社内のSNSで投稿のやりとりをしたり、アップデートしていくことが極めて重要です。それが今は簡単にできますよね。
もう1つ、今後テクノロジー企業としてやっていく上で非常に重要な点は、当たり前のことなんかしていちゃダメだということ。経営者として、まだ世の中に存在していないもの、しかし必ず来ると予測できるところに張っていく。これが今後テクノロジー企業としてやっていく上で、最も重要であると私は考えています。我々はすでに具体的にやっていますし、投資もいっぱいやっています。
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