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kintone AWARD 2023 ⑤<九州・沖縄地区> 北九州市役所 井上望 氏(全1記事)

昼は終わらない事務作業、夜は膨大な書類整理 約1.8万時間の工数削減に成功した、市役所職員の苦労と工夫

提供:サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社が主催する「Cybozu Days 2023」。同イベントでは、全国のkintoneのユーザーのなかから選ばれたファイナリストたちが活用事例を発表する、「kintone hive tokyo vol.18/kintone AWARD」が行われました。本記事では、北九州市役所 保健福祉局の井上望氏が、コロナ禍で挑んだ膨大なバックオフィス業務の効率化について語りました。

コロナ禍に対応した、市役所職員の実体験

井上望氏(以下、井上):みなさん、どうもこんにちは。今日はこの話を聞きに来ていただき、ありがとうございます。それではご説明いたします。北九州市役所の中の保健所の話になります。押し寄せるコロナの波の中、保健所がどのように変わっていったかをお話しさせていただきます。

まずは自己紹介になります。私は北九州市の係長をしております、井上と申します。実は昔からパソコンなどでシステム化して、手作業や業務を楽にするのが大好きでして。20代くらいからボランティアでいろんな所に行って、我流でシステムを作ったりしております。

ちなみに今回のイラストは私の妻と娘が描いてくれております。今日は家族ぐるみでアワードに参加させていただくことになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

さて当時の私は、新型コロナの担当部署でバックオフィスをしておりました。業務の特徴なんですけど、みなさんもご存知かと思います。ニュースなどでもあったと思うんですが、どんどん取り扱いが変わって、事務も変わってしまいます。

そして、重症化の危険がある方がいらっしゃるのでスピード勝負。さらに実はコロナの業務はいろいろありまして、係がたくさんに分かれていることが特徴です。

こちらは北九州市の1日の陽性者のグラフなんですが、見ていただくとわかるように、流行のたびにどんどん波が高くなっていきます。さらに、どのような形で波が動くかわからない。これが非常に大きな特徴になります。

情報の多重管理、増え続ける紙台帳

井上:さて、kintoneが入る前の保健所の状況ですね。だいたいこれぐらいあたりまでの話になります。

まず医療機関から陽性者の方の発生届がFAXで届きます。そのFAXの内容を読みまして、電話して実際に陽性者の方から詳細を聞き取って、重症化リスクなどを勘案して入院か自宅療養かを判断します。その上で自宅療養になった方は最大10日間、電話をかけて体調確認をするかたちになります。

見ていただくとわかるんですけど、真ん中の写真のように全部紙なんですね。この紙に、健康観察をする方はリアルに付箋で管理しています。一人ひとりファイルが取ってあって、電話をかけてファイルを取り出して確認したあとに、夜になったら次の日の健康観察の付箋をつけて、この箱に収めるといった流れです。

当然、日中はこちらのファイルが持ち出されてしまいます。ほかの業務の担当はファイルを見られませんから、みんなファイルをコピーしたりExcelに入力したりして、独自に管理をしておりました。

このような手作業だとどうなるか、みなさんも想像がつくかと思います。まず情報の多重管理。情報を得た時点によって微妙に違う。さらにアナログな共有ですね。そして増え続ける紙台帳。探すのも片付けるのも大変な状況になります。

でも、この波が来た期間には増員で対応できておりました。それでよかったんですが、そうもいかない事態が起こってきます。

こちらを見ていただくとわかるんですけど、第5波の時はなんと200件を超えてしまいました。前の2.6倍ですね。こうなってしまうとどうなるかというと、もう日中はひたすら事務処理をしながら電話をかける。夜遅くになって、ようやく膨大な書類の整理をするということで、みんな残業だらけという状態です。

また波が大きくなってしまったら、次は本当に業務ができるんだろうかという感じで、みなさん心配な状況になっておりました。

“魔法の道具”のはずが、否定的な意見が圧倒的

井上:さて、そんな中でkintoneとの出会いと、独りkintone担当というお話になります。実は北九州市は、2021年9月にサイボウズ株式会社とDX推進に関する連携協定を結びました。この中でkintoneの活用募集が行われまして、これは渡りに船だということで、私たちの課が申し込んだというかたちになります。

たまたま私がパソコンに詳しいこともありまして、システムの部署から「じゃあ伴走支援を受けながら、実際に自分たちで作ってみたらどうですか」という話になって、インフォメックスさんというところの伴走を受けながら、実際にシステムを作るようなかたちになりました。

さっそく現場の要望を受けて、脱紙管理ということでkintoneを作ってみたんですが、うまくいきません。これは私が最初に作った陽性者の管理台帳アプリなんですね。ジャン、ジャン、ジャン、ジャン。「いや、長ぇ!」と。入力する場所をどう探したらいいんですかっていう話なんですけど、みんな大事な情報なので、この枠を減らすこともできないんですね。

そしてkintoneの特徴なんですけど、誰かが開いていたら保存ができないし、そもそも開いているかどうかがわからない。さらに年齢計算、和暦表示。よく役所では重要になるところなんですけど、これができない。

極めつけは印刷してもただのWeb画面ということで、帳票印刷っぽくないと。「今までExcelでできたのに、どうしてできないんですか?」「これじゃ使えないよ」という否定的な意見が圧倒的でした。

私は実際にkintoneでシステムを作っていたので、どういうものかをわかっていたんですが、現場はとにかく忙しかったんですね。忙しくてみんなと情報共有ができないので、「kintoneは魔法の道具」と誰かに言われた言葉から、アップデートされない状況がずっと続いています。

みなさんの中にはご存知な方もいらっしゃると思うんですけど、「じゃあ、kintoneをどこかに開発してもらったり、プラグインを使ったらもっと便利になるんじゃないか」という話があります。でも、コロナのお話ってすごく動きが速いんですね。

要件定義しようとしても、気がついたら通知が来てしまって、もうやり方が変わってしまう。さらにプラグインを使おうとしても、行政のシステムなので、セキュリティの高いLGWANというところで作っているシステムになります。そうなると使えるプラグインがすごく限られてしまって、これもできない状態でした。

苦肉の策で取り組んだ「内製カスタマイズ」が成功

井上:でも、もう紙の管理は限界だったんですね。じゃあどうしようか、というかたちで考えた結果がこちらです。「自分でなんとかカスタマイズして、みんなが使える状態にしてしまおう」という話になります。

内製カスタマイズって、実は諸刃の剣なんですね。スピーディーですけど属人化のリスクも高いですし、何かバグが混ざることもあり得ます。ただコロナ関連の業務はきっと、ずっと続くわけではないはずだと。なので、最後まで私が面倒を見ればなんとかなるということで、お願いをしまして、例外的にカスタマイズの許可をいただきました。

とはいえ、古い言語はやったことがあるんですけど、私はJavaScript自体は未経験だったんですね。「なんとかできそうかな」という気持ちはあったんですが、残業のあとはずっと、家に帰って情報収集と独学の日々が続きました。

そして、その中で良いものが見つかりました。情報収集した結果、今日こちらにいらっしゃるんですけど、スマイルアップ合資会社(現:ストックDX総研株式会社)さんがスクリプトを出してくれていました。

こちらを実際にインストールしますと、この矢印のようにタブが出てきます。これをクリックすることで情報を切り替えられるようになり、入力画面が長すぎる問題を解決できました。

さらに、年齢や和暦計算については、まだまだ欠点はたくさんあるんですけど、私がなんとかスクリプトを組むことで、運用でカバーしながらアプリを稼働させることができました。これによって台帳管理が不要になって、コピーやファイルも不要になりました。

その結果がこれですね。作業時間が約2,700時間。費用については1,000万円程度、コピー代やファイル代の削減ができました。とにかくコロナ陽性者の方の人数が多いので、ちょっと最適化するだけでも効果が大きいのが特徴になります。

コロナ第6波襲来で、ついにプロジェクトチーム発足

井上:「めでたし、めでたし」と言いたいところなんですけど、そうはいきませんでした。次の波ですね。今度は第6波のところを見ていただくと、ついに4桁ということで前回の4.4倍になってしまいました。

こうなるとどうなるかというと、もう私が作ったシステム化の効果なんか圧倒的に上回る波がやってきます。いくらほかの職場から応援職員を呼んでも、保健所の機能はどんどんひっ迫していきますし、職員の疲弊もひどい状態でした。

さて、この状況を打破するきっかけになりました、プロジェクトチームの発足とコミュニティの力というお話になります。

この状況を案じた副市長から、組織の垣根を越えてプロジェクトチームを作ろうという指示がなされました。今まで情報部門からはたくさん支援をいただいていたんですけど、実際にプロジェクトチームとなったことによって、さらにたくさんのいろんなものが強化されました。

そして大きかったのが、私の上席が現場責任者として指名をされたんですね。これによって現場責任者に情報が収集されるようになり、業務全体の事務フローを分析したり、OODA(観察・状況判断・意思決定・実行)ループを回して改善することが可能になりました。

残された難題にも立ち向かい、業務効率は約3倍に

井上:良いことづくめなんですけど、私にとっては困ったことも起こってしまいました。どんどん問題が解決してくると、最後は難しい問題が残ってしまう。なんとかカスタマイズして解決したいという話が、すごくレベルが上がってしまったんですね。

ボトルネックは、電話で聞き取った情報を調査票(からkintone)に手入力している作業だと。なのでOCR読み込みしてkintoneに連携したら簡単じゃないかという話が出たんですね。ちょっとご存知の方には、これはかなり無理筋な話というか、大変な話というのがわかるかと思います。

さらに良くないことに、こちらの帳票は聞き取りに特化しているので、枠は細かいですけどこのままでやってくれと。さらに見ていただくとわかるんですけど、2つのアプリの情報が混在しているという、非常に困った状態でした。

ちょっと今の状態は自分には荷が重いということで、いろいろ試してもうまくいかず、だんだん日々が過ぎる状況だったんですが、これを打破するきっかけになったのがこちらです。まさにここなんですけど、kintone hiveですね。

福岡のkintone hiveに何か情報がないかということで行ってみたんですね。その結果がこれです。実はkintoneには、非常に充実したコミュニティがあります。

特に私がお世話になったのはこの3つです。特にdevCampとimoniCampは初心者向けのカスタマイズの勉強会とコミュニティということで、当時の私にとってはまさに地獄に仏という感じでした。

これらに行って答えがあるわけではありません。でもいろんな仕事のコツがありますし、さらに同じようなことで悩んでいる仲間がいます。これによって知識欲、心理的安定性、やる気などを得ることができました。

みなさんの中にもいらっしゃるかもしれないんですけど、独り情シスさんにはとても大切なことじゃないかなと思うので、もし困ってる方がいらっしゃいましたら、コミュニティに参加してもいいんじゃないかなと思います。

そしてついに最大の波ですね、今度は3,000件。これがきたんですが、それでもコミュニティの力とチームの力を使うことによって、最大の波を乗り切ることができました。6波と7波はだいたい200人体制だったんですが、ほぼ同体制でいけたということで、だいたい業務効率が3倍上がったと言っていいんじゃないかなと思っております。

約18,000時間分の時間短縮を実現

井上:さて、どんな改善をしたかですね。こちらはAI-OCRを使いまして、データをkintoneに読み込み、確認・修正を行って、私が作ったカスタマイズでそれぞれのアプリに振り分けました。これによって効率が1.6倍ぐらいに上がりました。

さらに陽性者の方にいろんな情報をお伝えするんですけど、電話越しなので大変です。今度は電話で受け付けようとしても、いざ陽性者が増えると電話がふさがってしまってつながらないと。

これらについても、ジチタイワークスさんのジチタイSMSと、トヨクモさんのkViewerとフォームブリッジを使うことによって情報を入力したり、情報をいつでも見られる状況にするかたちで、業務を改善できました。

こちらの効果がこれですね。両方合わせて約18,000時間。件数が多いので、とにかく効果はすごく大きいものになります。職場にも変化が現れました。業務を効率化するために自分でアプリを作ってみようという方や、効率的にデータを収集しようと考えたり、分析に興味を持つ方も増えてきました。

そして、今回のきっかけでチームワークの輪が広がったというのが一番大きいのではないかと思います。さらに今回はアワードということで、新しい情報ですね。kintoneが北九州市の全庁導入、8,000名にライセンス付与ということで決定いたしました。私たち以外にもたくさんの部署がありまして、そちらでもいろいろな効果が出たところが大きいんじゃないかなと思います。

さて、最後になります。kintoneの強みは「その人にできる範囲、その人が得意な方法」で、プロじゃなくてもできる範囲でアプリが作れることです。悩んだ時、行き詰まった時、コミュニティには同じ道を歩む仲間がいます。

来年はDXへの魔法を身につけたあなた方が、ここで語っているかもしれません。道は違えど、みんな仲間です。一緒に一歩を踏み出しましょう、ということで発表を終えさせていただきます。ありがとうございます。

(会場拍手)

司会者:井上さん、ありがとうございました。

井上:ありがとうございます。

各部署で効果が出たことが、北九州市全庁導入のきっかけに

司会者:私もコロナの時のことを思い出しながら、変化の激しい中でkintoneがその役に立てていたと思うと、非常にうれしい気持ちで発表をおうかがいしておりました。ありがとうございます。

1つ質問させていただければと思うんですが、最後に大きなニュースをいただきました。最初はコロナの対応ということで、限定的な用途でkintoneをご導入いただいて、そこから全庁に。この大きなポイントはどういったところでしょうか。

井上:もともと北九州の連携協定があったことと、その連携協定の中で試験的に導入した部署ですね。私たちもそうですし、ほかにも業者さんで実際にカスタマイズをしてもらったところもあります。こういったところでいろいろ効果が出まして。

いわゆるスピーディーにやらないといけないこととか、今Excelでやっていることを置き換えると、すごく便利になるんじゃないかということで。やはり職員全体でDXを加速していこうという話で、市全体の決定になったんじゃないかなと思っております。

司会者:なるほど。同時多発的にkintoneの価値を感じてくださっている人数が増えてきて、結果全庁導入につながったというところですかね。

井上:そうですね。行政の効率化について、たぶん今一番良いんじゃないかという判断になったんだと思います。

司会者:すばらしい発表、ありがとうございました。井上さんのご登壇、以上となります。ありがとうございました。

井上:ありがとうございました。

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