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ボストン大学 卒業式 2012 エリック・シュミット(全1記事)

Google会長が卒業スピーチで語った、「人とつながること」の本当の意味

グーグル社のエリック・シュミット会長が母校ボストン大学で行った卒業スピーチです。「オンラインで繋がっていられるのは、嘆くべきことではなく、感謝すべきこと」「君たちは、世界のボーダーを変えるチャンスがある時代に生きている」とITの可能性と力を語った上で、直接のヒューマニスティック・コミュニケーションの大切さを説いています。激しく移り変わる時代を前向きにたくましく生き抜くヒントに満ちた、力強いスピーチです。

君たちは最もチャンスに恵まれた時代を生きている

エリック・シュミット:ありがとう。このような晴れの舞台にお招きいただき、次世代のBU(ボストン大学)卒業生の皆さんにスピーチをさせていただけることは、大変光栄なことです。

まず、ある言葉を紹介します。

「私は人生の崇拝者です。もし精一杯生きられなければ、私は顔よりももっと低いどこかにキスしなければならないでしょう。理解できる人に、これ以上説明は要らないでしょう」(原文:I am a true adorer of life, and if I can’t reach as high as the face of it, I plant my kiss somewhere lower down. Those who understand will require no further explanation.)

卒業生の皆さん、説明させてください。これは皆さんご存じのボストン大学元教授で作家のソウル・ベロー氏の小説『Henderson the Rain King』から引用しました。私は今日、自分を“人生の崇拝者”と考えている人として、皆さんの前に立っています。私は、精一杯生きた人生にキスをすることがどのようなものか知っています。私は経験からわかります。一度それを理解することができれば、ベロー教授が正しいことがわかるでしょう。

これ以上の説明は必要ではありませんね。これは彼が生涯を通して残した数ある素晴らしい文章のほんの一節ですが、平凡な人生を優雅さ、愛、尊厳に満ちたものに変えるパワーを持つ言葉だと思います。言葉は、「人生を愛し、精一杯生き抜く」と言い換えることができるかもしれませんね。そして本大学のような素晴らしいキャンパスで学んだ皆さんに、最もふさわしい言葉でしょう。

科学者、技術者、作家、アーティスト、企業家、役人、オリンピックメダリスト、オスカー受賞者、政治家など、彼らも本学を経てスタートし、文化、社会、様々な分野においてそれぞれ偉業を残しているのです。光栄なことに、かのマーティン・ルーサー・キング牧師も、本大学で博士号を取得しています。

そして、次に続くのは、他でもなく、ここにいる皆さんです。今ここで太陽を浴びていて明日のセルティックスの試合のことを考えている皆さんです。この中の誰かは、明日二日酔いを介抱しているかもしれないね。プレッシャーですか? 自分に何ができるだろう? どうすれば自分の人生を崇拝できるだろう? それは皆さんが答えを見つけるのです。私には何もしてあげられません。

しかし私には確実にわかっていることがひとつ、あります。親や兄弟、姉妹を選べないのと同じで、時代を選べた卒業生はいません。どの時代にも、その時代の課題があります。そして、それぞれ歴史を作るのです。これは何ら違いがありません。しかし違いがあるとすれば、歴史を作るうえでのチャンスです。この点において、あなたがた世代は、近代のどの時代よりもチャンスに恵まれています。あなたたちはすべての人がわかるコードが書けます。皆さんは先人たちが夢にも想像できなかった方法で繋がっています。それらの繋がりを使って、人と人を結ぶ見えない絆をより強め、私たちを取り巻く世界に対する理解を深めています。

今までの世代は、偉業を果たした先人たちが次世代の人々に道を教示し、次世代がこの足跡をたどっていくものでした。いいですか、皆さん。これからは違います。あなたがたが導いていくのです。皆さんの世代は、今までのどの世代も経験することのなかった真新しい、世界中が繋がった世代なのです。朝起きたら最初に何をしますか? 携帯チェック? それともパソコン? メールを読んで、SNSの確認? 「今起きたなう」。繋がった生活、オンラインの生活です。こうして私がスピーチしている間も、携帯メールを送ったり、このスピーチをツイートしていたり、ステータスをアップしている諸君がいることでしょう。ほら笑って。モニターに映ってるよ。

(会場笑)

ネットで繋がっていられるのは、感謝すべきこと

こんなジョークがあります。機嫌悪いとき、しかめっ面をする前に、「ちょっと待って。ステータスアップして、むかついてるってことみんなに知らせるから」。これはテクノロジーが、いかに今の世代の個性と、世界と繋がる可能性において大事かということ。個性と繋がりとは、使い古された概念で、今の私たちを形成しているそのものです。それは私たちの時代を形作り、人間の条件を定義します。個性と繋がりという使い古された概念をまた活気づけ、新しく、エキサイティングなものにするのは皆さんの役目です。皆さんにはそれができます。ボストン大学はプラットフォームで、ここから実現していけます。

疑っているでしょう? 決して好景気とは言えない経済状況です。だけど皆さんにはアドバンテージがあります。生まれながらにテクノロジーマスターなのです。過去の世代の人が持ち得なかった、繋がりを作り、育てていける可能性を持っているのです。これは強いスキルです。皆さんの世代を、コンピュータスクリーンの前で1日のほとんどを過ごし、常に何か、または誰かと繋がっている、と嘆く人もいます。彼らは間違っています。繋がっていられるのは、嘆くことではなく、感謝すべきことなのです。

実際に世界のあらゆる問題も解決しています。今日の世界では、54もの戦争と紛争が起こっており、15億人が1日1ドル以下の生活を強いられ、何億もの子供がお腹をすかせて眠りについています。ひどいことです。世界の半分の人だけが、民主的な政府のもとで生きています。私たちが権利を謳歌できているのは稀なことで、当たり前ではないのです。インターネットに関して言えば、我々は“誰でも”ネットに繋がっていると思いがちですが、世界ではたった10億人だけがスマートフォンを手にでき、20億人がWEBにアクセスできる環境を享受しているにすぎません。ネットカフェでインターネットができる人も限られています。

しかし今世紀、世界のボーダーを変えるチャンスがあるのです。携帯電話などの新しい形の繋がりが、すべての人を繋げる可能性を秘めています。繋がりは、政治、社会、経済を革命的に変えることができるのです。世界を繋げることは世界を自由にすることです。この力で、世界のあらゆる重い問題、困難を解決することができ、明滅する光しか見られない数億の人々に希望という光を当てることができます。皆さんはそんなパワフルなツールをポケットに入れて持っているのです。

コンピュータはあくまでツール

私たちは確かにすべての知識を指先に携えていますが、昔の人より多くを知っているからといって、問題が解決されるわけではありません。未来はコードで書かれているわけでも、アルゴリズム、XやYの公式にはめられて作られるものではありません。コンピュータ・テクノロジーはそれだけで成り立つものではありません。あくまでツールです。あなたがたはその力を利用するのです。そこにはイノベーションと起業家精神が必要なのです。イノベーションは時に破壊的です。

ひとつ言っておきましょう。あなたがイノベーションを起こそうとするとき、人々はあなたを心配するでしょう。卒業生の皆さん、どうかあなたの両親ではなく、周りの人を心配させてください。起業家精神は新経済の活力源であり、社会をより繁栄させるためのエンジンです。今、3分の2の新規事業が小規模ビジネスからスタートしています。私は皆さんに、この小規模ビジネスにぜひチャレンジしてほしいと思います。

起業サポートに関しては、Google製品が役に立てると思っています。皆さんには新しい価値を作るチャンスがあるのです。誰かのビジョンや、アイデアにただ従うのではなく、新たな新モデル、新しい形、新しい考え、これこそ、我々が皆さんに期待するものです。必ずしもいい会社員や先生になる必要はありません。

もちろん彼らのことは尊敬しています。技術者になる必要もありません。もちろん彼らのことはサポートしますが。皆さんの誰もが新たな基準とイノベーションを生み出すことで、偉業を達成できるのです。そしてそれらの基準は、かつて想像できなかった形で広がるのです。私たちの社会知識の集合は、我々のバージョンの“VOGUE”は、かなり特別です。

基準と価値がシェアされる新しい社会を想像してください。それは大陸を越え、私たちを結びます。完全に繋がっていることで、あなたはユニークでいられるのです。これこそ真のアメリカンドリームだと、私は確信しています。 コンピュータや、今ポケットに忍ばせている携帯が驚くべき働きをするのです。あなたがたの尊敬するご両親、祖父母が想像もしなかったことを。コンピュータはスピードと膨大な記憶力、とても複雑な回路を備えています。

モニターの光のなかに人生はない

しかし、コンピュータには決して手に入れることができないものがあります。それは「心」です。テクノロジーなしに、デジタルで結ぶ人間の繋がりは成り立ちません。同時にあなたがたの心がなければ成り立ちません。皆さんには心があり、未来は皆さんなしに開けません。お間違えのないように。私はコンピュータが世界をよりよいものにしていくに違いないと強く信じています。そして皆さんがコンピュータを支配し、最大限に生かしていくものだと信じています。しかし、決してコンピュータに支配されてはいけません。そこでアドバイスを。

1日1時間は電子機器のスイッチを切りましょう。難しいのはわかります。でも1時間でいいから。まず電源オフのボタンを覚えましょう。スクリーンから目を離し、そして大切な人に目を向けてください。あなたの大切な友達や家族とリアルな会話をしてください。「いいね」とボタンをクリックするのでなく、実際に「いいね」と口に出して相手に伝えましょう。クリックひとつでモノを動かすのでなく、あなたの身近なものに目をやり、匂いをかぎ、手に取って感じてください。

モニターの光の中に人生はありません。人生は、ステータスのアップデートの繰り返しをすることではありません。人生で大切なのは友達のカウントではなく、あなたが本当に頼れる友達がいるかどうかです。人生とは、誰を愛し、どのように人生を生きてゆくのか、誰とあなたの人生を共に過ごしてゆくのかです。家族、仲間、友人です。人生はまず実社会の経験です。

そしてそれは人々との交わりから生まれるものです。1時間後には、また電源を入れても構いません。現代社会は移り変わりの激しいものですが、ヒューマニティはこの先も失われません。失われてはいけないものなのです。

本大学を卒業される優秀な皆さんは誇りです。周りを見てください。数年前、あなたは彼らとスタートを切ったのです。彼らとキャンパスで苦楽を共にしたのです。皆さんは、自力で未来に素晴らしい軌跡を残すことができるほど、苦楽を共にした友達、授業中うっかり寝てしまった自分にノートを貸してくれた友情は一生モノです。

ここで出会った友人は、人生で最も強く近く結ばれた友になるでしょう。私にとってはそうでした。そんな友人と共に、強く結ばれたまま未来に向かって歩みましょう。彼らと一緒に未来を創るのです。先の道を険しいと思ったことがあったかもしれません。でも、こう考えてみてください。今までの険しい道のりを歩んできたではないですか。あとはもう半分進むだけです。

「YES」と言おう

そこで、皆さんにアドバイスさせていただきたいのは、「YES」という姿勢をもつことです。新しい国へ行くことに、新しい人々に会うことに、新たな言語を習うこと、スポーツを習うことに「YES」と言ってください。「YES」こそが、新しいキャリアにチャレンジする方法で、人生のパートナー、そして家族を築く方法です。

たとえ困難な道でも「YES」をいうことは、新しいことにチャレンジしていたり、新しい誰かに会ったり、あなたの人生、または他人の人生を変えることなのです。「YES」はあなたを前向きで、ポジティブに保ち、周りの人が助けや、アドバイスを求めてやってきます。「YES」が私たちを若く保ってくれます。「YES」は大きなことをできる、小さな言葉です。頻繁に言ってください。

もうひとつ、アドバイスさせていただきたいのは、失敗を恐れないこと、また同じく成功を恐れないこと。私の好きなイタリア語のフレーズに、尊敬するサーカスパフォーマーを表す「salto mortale」という言葉があります。これは、「セーフネットなしで宙返り(=決定的な飛躍)をする」という意味です。

卒業生の皆さん、これをしてください。セーフネットなしで働くのです。あなた方ならちゃんと着地できるはずです。大それたことをしようとしている、という人には耳をかさない。勝算がないと言われても果敢にチャレンジしてください。「どうやってやるの?」と言われたら、彼らの目を見て「なんとかしてみせる」と言ってください。

そして、何より、自分の人生の崇拝者になってください。これ以上の説明は要りませんね。皆さんが大人の世界に仲間入りしたことを歓迎します。私の前に座っている皆さんが、大きな力と可能性、知性を秘めたエネルギーとITの力で、人間性で新しい今日を築いてください。

皆さんの多大なる知識が新しい時代を築くでしょう。皆さんの新しい現実を作るでしょう。未来に繁栄をもたらしてください。皆さんの力が、今までになかったような繁栄をもたらすでしょう。皆さんはこれまでの世代が辿りつけなかったような高い場所まで辿り着けるでしょう。皆さんは人生の最高点まで辿り着けると確信しています。卒業おめでとうございます。ありがとう。

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