2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
ハーバードビジネススクール 卒業式 2012 シェリル・サンドバーグ(全1記事)
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ハーバードビジネススクールの素晴らしい先生方、親族の皆さま、ご来賓の皆さま。そして2012年卒業生の皆さん、門出の日にお招き頂き本当に光栄です。
学校長からこのお話を頂いたとき、「私より若くてクールな若者たちの前で話すのね? 簡単よ! そんなの毎日やっているわ」と思いました。彼らに「インターネットなしの学生生活ってどんな感じだったんですか?」「シェリルちょっと来て! この機能を“年輩”の人がどう思うか、意見を聞きたいの!」などと言われるとき以外は、若い人と一緒にいるのはとても楽しいです。
(会場笑)
実は今月ここにいられてとても光栄な理由がもうひとつ。17年前、私がこの学校の学生だったとき、キャッシュ・ランガン先生からソーシャル・マーケティングを学びました。彼女はこの国の臓器提供者の数がどれだけ少ないか、そしてそれが毎日18人の死に繋がっているということを例に挙げて、ソーシャル・マーケティングを説明していました。今月の初めにFacebookは臓器提供をサポートするツールを発表しました。これはランガン先生の研究のおかげです。ランガン先生、ありがとうございます。
なので、私が学生だったのはそんなに前のことではないんですよ。でも世界はものすごく変わりました。私がいたセクションBはAOLのチャットルームとダイアルアップサービスを使って、ハーバードビジネススクール初のオンラインクラスを立ち上げようとしました。ダイアルアップサービスが何かというのは後でご両親に聞いてください。
当時は、インターネット上に実名を載せるなんてとんでもないことでしたので、皆にスクリーンネームを割り当てていました。でも成功しませんでした。90人の人間が同時にオンラインでコミュニケーションを取るには、まだ時代が追い付いていませんでした。
でもそこに私たちは未来を感じたのです。テクノロジーが私たちをもっとよい世界に連れて行ってくれる。同僚や家族、友たちと繋がることになるのだろうと。昔は私たちの周りの人以外と繋がるには限界がありました。それは裕福でパワフルな人々―セレブ、政治家、CEO等―に許された特権だったのです。
でも世界は変わりました。今や誰でも世に自分を発信することができる。携帯電話があって、Facebookやツイッターにアクセスできれば、誰でも。これまで制度や上流階級が握っていた力が個人に移ってきた。歴史的強者から歴史的弱者へと。ものすごい勢いで世の中は変化しています。そう、私が皆さんの席に座っていたときには想像もつかなかった変化です。ちなみに私が卒業を迎えたとき、マーク・ザッカ―バーグはまだ11歳でした。
(会場笑)
皆が世界と繋がるようになり、階級封建社会に変化が起こったことによって、キャリアのあり方も変わってきました。2001年それまで政府で働いていましたが、シリコンバレーで働こうと思って引っ越しました。でもタイミングがあまりよくなかったんですね。ちょうどバブルがはじけて、小さな企業はつぶれ、大きな企業は従業員を一時解雇していました。
当時ある女性CEOに言われました、「あなたみたいな人、誰も欲しがらないわよ」。引っ越して少し経ち、いくつか仕事のオファーがありました。どの仕事を受けるか決めるため、私はMBAの特技を活かしてスプレッドシートをつくります。縦の段に仕事を、私の基準を。会社の役割やミッション等を見比べました。
そこにはグーグル初のビジネスユニットにおけるジェネラルマネージャーのオファーがありました。今でこそそれが素晴らしいオファーであるとわかるのですが、当時は消費者向けインターネット会社など儲からないと、誰もが思っていたものです。しかもそこで一体何をマネージすればいいのか? グーグルにはビジネスユニットなどなかったのですから! しかもグーグルでの仕事は他のオファーよりも格下のポジションでした。当時同社のCEOになりたてホヤホヤだったエリック・シュミットに相談しました。「このスプレッドシートを見てよ! この仕事は私の条件に何も当てはまらないわ!」彼はシートを見て言います、「よく物事を見ろ!」。とてもいいキャリアアドバイスですね。
シュミットは言いました、「ロケットに乗っかれ! 企業が軌道に乗ってどんどん成長したら、キャリアもそれについてくるさ。企業が上手くいかなくなったらそのとき考えればいい。ロケットに乗って突っ走らないか? と誘われたら、あとは乗っかるだけさ」。
その6年と半年後、私はグーグルを去ることになるのですが、彼のアドバイスは心にしっかり残っています。様々な企業からCEOのポジションでオファーがありましたが、私はCOOとしてFacebookで働くことを選びました。「なんで23歳の若僧のところで働きたいんだ?」と言われました。これまでキャリアは上にあがるための「はしご」に例えられてきましたが、もうそれは通用しません。もう年功序列や役職がものを言う時代ではないのです。
Facebookに移って間もない頃、1997年ハーバードビジネススクール卒業生のロリ・ゴーラーはE-bayのマーケティングで働いていました。私は彼女のことを少し知っている程度だったのですが、ある日彼女から電話がかかってきました。彼女は言います、「Facebookで一緒に働く可能性について少し話せない? 電話して何ができる、これができる、私はこんなにすごいのよ、こんなことがやりたいの! という話をしようかとも思ったけど、そんなことしたら他の皆と同じでしょ。だから聞くわ、今一番の問題は? どうしたらその解決のお手伝いができるかしら?」
もう開いた口がふさがりませんでした。そのときまでにかなり多くの方を雇用してきましたが、誰もそんなこと言わなかったし、私もそんなこと言ったことがなかったのです。ロリは自分本位に、自分がどれだけ優れているかを売らなかった。なので、私は言いました、「よし、あなたを雇うわ! 私の一番の問題はいい人材を確保することだったけど、あなたが解決したわ」。
ロリはまったく新しい業界でまったく新しい仕事を始めました。さらに、それは今までよりも低いポジションからのスタートとなりました。その後頭角を現し、今では多くの人を管理しています。ロリは言います。「キャリアははしごではなくジャングルジムね」。
常にチャンスを探してください。成長、影響、そして自分のミッションを探すのです。横に動くこともあれば、上に上がったり下に下がったり。レジュメの見た目を良くするのではなく、スキルを積んでください! 自分の役職ではなく、自分には何ができるかをきちんと見極めて。色々な仕事をしてみてください。計画はあまり立てすぎずに。そしてすぐに自分の仕事への見返りを求めない。もし私が卒業時に完璧なプランを立てていたら、今の私はなかったでしょう。
皆さんはこれからビジネスの世界に入っていきます。私のときはインターネットが始まりかけていた頃でしたが、皆さんの今の時代はインターネット時代です。私のときも競争は激しかったですが、皆さんの時代はもっと激しい競争社会です。私のときも物事の変化は早かったですが、皆さんの時代はさらに目まぐるしい変化の時代です。昔のような体制主義ではなくなった今、リーダーのあり方も変わる必要があります。封建階級主義の一点主義から、責任の分散へ。命令やコントロールから、人の意見を聞くこと、そして導くことへと。皆さんはこの学校でビジネスの知識だけではなく、人をリードすることも学んだはずです。
これから入るビジネスの世界で、皆さんは自分の持つ学位や自分の人格に頼ってはなりません。自分の知っていることに頼るのです。皆さんの強みは書類ではわかりません、皆さんの強みは、人との信頼関係と尊敬を得ることから来るのです。これから才能、スキル、想像力、そしてビジョンが必要とされますが、何よりも一番大切なのは、心から本当の意味でのコミュニケーションを取ることです。周りの皆を刺激する話ができると同時に、周りの皆の話をきちんと聞くことができる人になることが大切です。
子供はとても正直ですよね。私の友人ベッツィーには五歳の子供があり、その時は2人目を妊娠中でした。5歳の子は彼女に聞きます、「ママ、赤ちゃんはどこ?」「赤ちゃんはおなかの中よ」。彼はまた聞きます、「ママ、赤ちゃんの腕はママの腕の中にあるの?」「違うわよ、おなかの中に赤ちゃんはいるの」。「赤ちゃんの足はママの足の中?」「違うわよ、赤ちゃんはまるごとママのおなかの中にいるのよ」。「そうなんだ、でもママ、それならなんでママのお尻はどんどん大きくなるの?」
(会場笑)
大人はここまで正直にはなれないですよね? でもそれは必ずしも悪いことではありません。私も子供を2人産みましたので、ベッツィーの気持ちがよくわかります。正直でいることが必ずしも良いことであるとは限りません。特にリーダーは真実を話し、真実を聞く必要があります。職場で真実を語ることは難しいですよ。いかにフラットに上下関係のない職場を目指したところで、そこには確実に「上と下の関係」が存在します。
つまり、どこでもある人の功績は他の誰かの主観によって評価されているのです。このような世界では正直でいるほうが難しいのです。職場で人がどのような会話をするか考えてみてください。「その事業拡大計画には反対だよ! そんなことバカげてる!」という代わりに人は「新しい事業に挑戦する理由はたくさんありますよね。マネージメントチームが事前アセスメントをしての結果だと思いますし。ただ、時期尚早なのでは……? 再考の余地があるように思いますが……」と言うでしょう?
真実を語るときにはシンプルに。昨年からマーク(ザッカーバーグ氏)は中国語を習っています。勉強の一環として、社内の中国語ネイティブスタッフとよく話をしています。ある日、中国語ネイティブスピーカーのひとりが、マークに彼女のマネージャーについて話をしました。彼女は長々と説明をしましたが、マークは「もっとシンプルにお願いします、何があったんですか?」と聞き返しました。彼女はまた同じことをマークに伝えましたが、マークは「まだわからない。もっとシンプルに話してください」。これを何度か繰り返し、ついに彼女はキレました、「私のマネージャー、役立たずなんです!」。
(会場笑)
シンプルでクリア。これがマークが求めたものでした。こんな風に職場でクリアに、正直に話すことなんてないでしょう。特に役職が上がって、重要な地位につくと、人はクリアに話してくれないだけではありません。ちょっと何かを言っただけで過剰に反応します。
私がFacebookに入ったとき、Facebookの素晴らしい社風をできるだけ崩さずにビジネス面を強くすることに集中しました。まずは私とのミーティングの際にプレゼンテーションにパワーポイントを使うのはやめてほしいと皆に言いました。話したいことのリストを持ってきて、と。でも皆がそれを無視し何か月も何年もパワーポイントプレゼンテーションを続けるので、大体2年経ったぐらいの時に、「オッケー。ルールをつくるのは嫌いだけど、仕方がない。私とのミーティングにパワーポイントは禁止! これはルールにします!」と宣言しました。
それから一か月後、グローバルセールスチームとの大きな会議においてステージ上で演説をする際、あるスタッフがこう言いました「ステージに行く前に聞いてください、皆が怒っていますよ、クライアントとの会議でパワーポイントが使えないなんて!」。「なんですって!?」、私は思いました。檀上にあがり最初に言ったことは、「私は、私とのミーティングでパワーポイントを禁止だと言ったのです。そんなことより何より大切なのは、次にこんな馬鹿げた話を聞いたら、それをそのまま信じずに、真相を確かめてください。または馬鹿な話だと思ったら、それに異論を唱えて下さい! または無視してください! たとえそれが私やマークが言った話だとしても、です!」。
よいリーダーは、人がリーダーに意見するのを好まないことを知っているので、異論を唱えやすいように環境を整えます。従業員からのフィードバックを積極的に求める、と言うのは簡単ですが、それをやるのは難しいのです。なぜなら残念なことにフィードバックは率直ではないからです。
グーグルで仕事を始めて間もなく、私のチームは4名でした。私は一緒に仕事をする以上、皆を知る必要があると信じていました。チーム4人と面接をし、お互いを知り合いました。しかし、チーム規模が大きくなり、チームの数が100人に達したとき気が付きました。時間がかかりすぎるし、もう全員と面接する必要ないのかもしれない。そう思い、会議で言いました。「もう面接はやめようと思います。皆さんもきっとその方がいいでしょう?」。会議にいた皆が拍手しました。さらに、私は皆の迷惑になっていたことまで教えてくれました。
(会場笑)
恥ずかしかったし、私は怒りました。その後数時間は、静かに気持ちを落ち着かせる必要がありました。「なんで彼らは私を迷惑に思っていることをもっと早く教えてくれなかったんだろう……。もっと早く言ってくれれば改善できたのに」。
でも気が付きました。これは私のせいだと。私がもっと皆の意見を聞き入れる姿勢を取っていれば、もっと批判にもオープンになっていれば、こんなことにはならなかった。リーダーになると、周りは正直な意見をなかなか言ってくれません。「お願いだから正直に……」と言ったところで変わりません。そこで私は私が先に自分の欠点を認めれば、皆もそれを認めやすくなることに気が付きました。私は解決していない問題を目の当りにすると、不安になり、イライラすることが多いです。過去に誰からも「どうしたの? 静かすぎるよ?」と言われたことはありません。
(会場笑)
自分のイライラ、不安になる傾向を認め、その欠点にオープンになることで、周囲の人もそれを指摘しやすくなります。もし私が私の欠点を認めなければ、Facebook内の誰が、「ヘイ、シェリル! 落ち着けよ! 君がイライラすると皆がイライラするんだ!」などと言ってくれたでしょう? そんなことは絶対にあり得なかったでしょうね。
皆さんは今日卒業します、これからどんなリーダーになりますか? シンプルでクリアな言葉を使うでしょうか? 誠実で正直であることを求めるでしょうか? 正直な意見/批判に対し怒りで反応するでしょうか? それとも率直な意見に感謝するでしょうか? コミュニケーションに誠実さ・真実を求めるだけでなく、色々な意味で「真実」を求めなくてはなりません。仕事で、自分のすべてを見せてください。
モチベーションとは好きなことをやることから派生します。それに加えて、好きな人と一緒に好きな仕事をすることからも生まれると信じています。でも誰かを好きになるには、その人を知らなければなりません。その人は何が好きで何が嫌いなのか、何を考えているのかだけではなく何を感じるのか。誰かの心を捉えたいと思ったら、こちらも心をひらく必要があります。
私は月曜から金曜日が仕事用の自分、週末が本当の自分、という考えに賛同しません。おそらくこのように自分を分けることはできないのではないでしょうか? 私は仕事場で泣いたことがあります。人に仕事場で泣いちゃったと話したことがあります。ニュースで「マーク・ザッカ―バーグの肩でシェリルは泣いていた」と報道されたこともあります。まあこれは事実ではありませんが。私は周りの人と夢と恐れについてお互いに語り合います。いつでも自分自身でいたいのです。自分の強みと弱みに正直になる、そして周囲の皆にもそうするように奨励する。プロフェッショナルであることと自分自身でいることは両立するのです。
最近になって、私は女性の働き方について話すようになりました。ここまで来るのに、皆と同じようにしたんです。「誰にも私が女だってバレないようにした」のです。ちょっと家に戻って子供の世話をする間も、オフィスの電気はつけたままにしました。カンファレンスコールの間に、後で子供にあげるためにおっぱいを吸引していました。「何の音ですか? 何か鳴っていますよ?」と聞かれれば、「あ、消防車です」と言いました。
(会場笑)
でもこの10年ほどで、事態は何も変わっていない。ここで私は勇気を出して女性と仕事について話し始めなければならないと思いはじめました。私は95年に卒業しましたが、同期の誰かがこの卒業式の檀上に立つ頃には女性も働きやすくなっているんだろうと信じていました。管理者レベルの女性は15-16%程度。これがこの10年、数字に動きがないのです。
50%なんてほど遠いです。ハイレベルなリーダーシップにおいてジェンダーが未だに問題になることを認め、これを議論し続けなければなりません。平等の約束があるからといって、それが真の平等であるわけではないのです。これを話し始めなければなりません。女性が自身の価値を過小評価していること、そして女性の成功と人気度は反比例すること。女性は成功すれば嫌われるのです。つまり女性には男性とは違ったサポートが必要ということです。
しかし、サポートできる成功した地位の高い女性の数が少ないというのが現状です。これは女性だけの問題ではないですよ。今日卒業する男性の皆さんもジェンダーについて話すだけではなく、女性をサポートして下さい。「あの女性は、仕事はできるけど、なんか苦手……」等とコメントを聞いたときには、ひと呼吸してそれが何故なのか、考えてみて。
私たちは皆フレキシブルに、仕事とプライベートの両方を楽しめるようになることを考える必要があります。取材の方と数週間前にお会いして、「5時にはオフィスを出て、子供と一緒に夕食を食べます」と話したのですが、ものすごい反響でした。友人は「斧で殺人を犯してもこんなに大きく世間に取り上げられないんじゃないの!?」なんてジョークを言っていました。
この事件はジェンダー問題が深く残っていることの何よりの証拠です。この学校の卒業生も含め、トップを目指す女性が男性よりも少ないことも話し始めなければならないのです。リーダーシップのジェンダーギャップについて話す前に、プロとしての願望、野望のジェンダーギャップについて話し始めなければなりません。もっと多くの女性が大テーブルの主賓席につく必要があるのです。ただニコニコ座っているのではなく。
今日は、この学校が女性を受け入れ始めて50周年だと聞きました。皆さんの学校長は女性のリーダーを育てる事にとても熱心で、今日私が呼ばれたのはそれもあってのことです。学校初の女性グループのひとりに会ったことがあります。当時は男子トイレを女子トイレに改造する必要があったとのこと。でも女子トイレに男性立小便器は残されたそうです。それはもう女子トイレにはありません。そこに絶対に戻ってはならないのです。
皆さんの巣立ちの日に覚えていて欲しいことが4つあります。
1つ、皆とFacebookでずっと連絡を取り合ってくださいね。これが未来への成功の鍵になります! あとは広告のひとつやふたつ、クリックしていってください(笑)。
2つ、簡単に物事を信じない、疑ったら真実を求めて立ち上がる、疑問を投げかける。
3つ、常に「本当の自分」であること。そして「本当の自分」にオープンであること。
4つ、私たちの世代でできなかったことを皆さんに託します。男性が家事をこなす家庭が50%になるように、組織の50%は女性主導になるように、世界を変えて下さい。
皆さん、ご卒業おめでとうございます。
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