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Stanford Graduate School of Business Elizabeth Holmes: Theranos: Transforming Healthcare by Embracing Failure(全2記事)

「代替策を考えた瞬間、成功できないと認めたようなもの」人生を決める決断について、エリザベス・ホームズ氏が語る

米医療界で第2のスティーブ・ジョブズと呼ばれる、Theranos(セラノス)社CEOのElizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)氏が母校スタンフォード大学で講演を行いました。2年生の夏にはスタンフォードを中退し、保健医療会社セラノスを起業したホームズ氏は、大学での学位やMBAのスキルは重要であると述べつつも、「自分の好きなものや使命感を持てる仕事を行ない、社会に変革をもたらそう」とMBA生にアドバイス。ホームズ氏にとって仕事とは、人生とはどのようなものなのでしょうか?

誕生日に貰ったのは、バービー人形ではなく組み立てツールキットだった

司会:お越しいただいて、光栄です。このような素晴らしいキャリアを築かれただけでなく、アイディアを着想し、会社を起こし、ここまで成長させ、それを30歳までに成し遂げたことにはいろいろ考えさせられますね。

ひとつには、同世代の人はみんなこの部屋を出るときにとても謙虚な気持ちになり、もっと高みを目指そうと刺激を受けるでしょう。もうひとつは、お聞きしなければならないことがたくさんあるということです。

そこで今日は主に3つのことについて話をうかがいます。まずは経歴と、どうして起業しようと思ったのか。次にセラノス社の現在と未来への展望について。最後に、ここにいる多くの方々が起業とリーダーシップに興味をお持ちなのでそれについて。いかがでしょう?

エリザベス・ホームズ氏(以下、ホームズ):もちろんです。

司会:学部長が述べたように、幼い頃からとてもモチベーションが高く、科学技術に興味がおありだったようですね。そして色々なところから影響を受けたとおっしゃいましたが、その2つの性格特性、または関心事に大きな影響を与えたのは何だったでしょう。

ホームズ:「自分にできないことはない」と信じさせてくれるような家庭に育ったのは、とても恵まれていたと思います。また、兄とともに育ったので、女の子がみんな誕生日プレゼントにバービー人形をもらっていたのに、私は工学の視点からあらゆるものを組み立てるツールキットをもらったのです。

私にとってはそれがごく当たり前という環境に育ったのが幸運でした。幼い頃から子どもたちに「できないことはない」と伝え、そのように扱うことは、強い影響を与えると思います。私はごく幼い頃からタイムマシンを設計するのだと決意し、実現するためにとても立派な設計図を描いたりしていました。

退学の決断は難しくなかった

司会:おいくつのときですか?

ホームズ:ほんの子どものときです。家族は真剣に聞いてくれて、これが本当に実現する、私が本当にタイムマシンか何かを作るのだと信じてくれました。そんなふうに信じてくれたことは、非常に貴重な贈り物でした。

同様に、両親の仕事──主に災害救助だったのですが──にも触れる機会がありました。それで「どうやったら世の中に影響を及ぼすことができるだろうか」と自問自答し始めたのです。そう考えて長い時間を過ごしました。

司会:ご両親は公務員だったのですね。スタンフォードに入学され、2年生の夏には大学を中退し、保健医療会社を起業することにしたのですが、なぜその決断に至ったのでしょう。19歳で中退するというのは大変な決断だと思うのですが。

ホームズ:全然難しい決断ではなかったですよ(笑)。

司会:今ならそう言えるでしょうが(笑)。

ホームズ:人に「なぜそうしたのですか」と尋ねることには大きなメリットがあると思います。私はスタンフォードが最高に好きでしたが、起業に必要なトレーニングを短期間で受けられましたし、社会に出て影響力を及ぼすことのできるために必要なツールも持っていました。

私にとっては100パーセント起業が可能なときでしたし、実際、もう既にそれを100パーセント始めていました。両親が高価な授業料を払ってくれていたのに、私は授業を受けていなかったのです。

それで、退学の決断をするのは難しくありませんでした。スタンフォードはこの点とても素晴らしいところで、次の学期は受講しないという欠席届を提出することができました。しかも、二度と戻ってくるつもりはないと言わなくてもよかったのです。ただ、次の学期に再登録しないだけで。

司会:このアドバイスについては、学部長は異論があるでしょうね。

ホームズ:もちろん学部長は賛成しないでしょう。

「使命」こそが最重要である

司会:ところで、代替策はありましたか? 失敗した場合に備えてどんな代替案を考えていたのでしょう。代替案はお持ちでしたか?

ホームズ:いいえ。代替策を考えた瞬間に、成功できないと認めたようなものですから、代替策は好きではありませんね。

(会場拍手)

司会:それは、勇気がありますね。起業をする動機はいくつかあったようですね。ひとつには人類を変えるという大きな観念的な目標、人類が知らなかったものを発見させる、つまり保健医療制度を変えること。もうひとつは血を採られることが嫌いだと公言されていますが、そのような実際的、実践的な課題にも関わってらっしゃいました。

ホームズ:ええ。

司会:この2つともが起業に欠かせない動機だったのでしょうか。2つとも重要だと思われますか。どちらかがより重要でしょうか。

ホームズ:私は、使命こそが最重要だと思います。その使命によってたまたま、私も他の人々も腕に太い注射針を刺されずに済むのであれば、それは素晴らしいことですが、それは目的を達成するための手段であって、わが社が焦点を当てているのは、すぐに使用可能な医療情報にアクセスできるという要素です。

それは早期発見を可能にする手段であるからです。保健医療制度の現実を変えることができるというのが、私にとっての使命です。病状が悪化しない限り、その人が本当に病気であるかどうかわからないし、病状が悪化してしまったら、できることはほとんどないですから。

自分が生涯かけてできる最大のことは、それを変えることでしょう。自分の愛する人がそのような目にあったら、私にとってはそれが何よりも大切だからです。それこそがわが社の使命なのです。それに対してこれまで、検査にかかる費用を変えたり、伝統的な静脈切開に伴う苦痛を取り除いてきました。これらはその使命を実現するためのツールです。

私たちがセラノス社について知っている3つのこと

司会:では、会社と製品に移りますが、セラノス社について人々が知っているのは、1つが血液検査を行う会社であること、2つ目に評価額が90億ドルであること、3つ目が非常に秘密主義的であることでしょう。

製品自体は非常にわかりやすいものですね。ほんの少量の血液を採るだけで、素早く、安く、痛みもなく血液を分析してもらえる。それでどうしてそのような巨額の評価を得ているのでしょう。先ほどこのアイディアの可能性についてお話しされましたが、そのアイディアについてお聞かせいただけますか。

ホームズ:今日の米国の保健医療制度について考えるとき、何らかの病気の症状を示していなければ、検査をしても検査代が保険でカバーされないでしょう。ということは、医師が優先したいと思っているような症状でない限り、検査代が支払われないのです。セラノス社はどんな人でもこのような検査を受けられるようにしたいのです。

私たちは検査センター業界にいます。臨床判断の80パーセントが研究センターのデータに基づいてなされるからです。価格や利用しやすさを変えることで、人々がその情報を利用できるようになれば、わが社にとって、それは透明性を高めることであり、検体の量を減らすことや、検査センターを便利なロケーションにしたり、検査の経験を一般消費者向けにすることなのですが、結果を変えることができるのです。症状を示しているときではなく、疾患進行の初期の段階でこういった検査の結果を得られれば、それに対処することができます。保健医療制度の中で、それは画期的なことです。

自己の情報へのアクセスに伴うリスク

司会:この製品が解き明かす可能性があるものは、血液検査で膵臓癌が数十年も前に発見できるということです。糖尿病ならもっと早期に発見できるでしょう。可能性は本当にあるでしょうね。セラノス社の製品の可能性の一方で、批判や警告の声も聞かれますね。

先日TEDMEDスピーチの中で、情報へのアクセス、自己の体へのアクセス、知る権利は患者の権利だと述べていらっしゃいましたが、他にもWebMDのようなものがあって、たくさんの情報があふれているので、私の父親のように、あらゆる症状を読んで、自分が何かの病気ではないかと怖じ気づく人もいますし、予防し過ぎ、注意し過ぎだという人もいます。

現時点では貴社の製品は医師を通じて利用されていますが、将来的にはもっと幅広く利用されるようになりたいとお考えですよね。情報へのアクセスに伴うリスクについてはどのようにお考えですか、そしてどう対処されているのでしょう。

ホームズ:先ほど申し上げたように、私には心から信じていることがあります。この国の全てではありませんが、州によっては、女性として私が妊娠しているかどうか妊娠テストを依頼することが違法となるのです。

私が銃を買ったり、軍用戦車を買ったり、自分を撃つことができるというのに、おかしいと思います。自分の体に関する情報を入手することができないだけでなく、違法だと言われるなんて。個人へのアカウンタビリティが結果の変革に欠かせないというのに、どうやって保健医療制度を改革できるのでしょう。

ですから私たちにとっての第一歩は、自分と自分の愛する人々の健康と幸福を守ることは基本的人権である、あらゆる人にとって最も基本的な人権のひとつであるということです。ですから、法律によって自分でお金を払って自分自身の体に関する情報を得るための検査を受けることを妨げられているなんて、道理に合いません。

ヴァージニア州のように、州によっては消費者が検査を受け、検査に関連する医師団体のための賠償金に関して医師を守る素晴らしいモデルを作り上げたところもあります。私たちのモデルは医師中心であり、意図的に医師中心にしてあります。

なぜなら、医師が正確に解釈するための情報にアクセスできる能力についても、同様に固く信じているからです。しかしながら、今日アメリカ人の40パーセントから60パーセントが、医者に検査を受けるように言われても行きません。

問題は人々が検査データを持ち過ぎていることではなく、あまりデータがないことなのです。もしも個人がそのことを理解できるようになれば、私たちはすぐに利用可能な情報を医師に提供できるのです。

ですから、先ほど述べた2つのことが互いに矛盾するものではないと思っています。非常に根元的な、基本的人権の問題があり、わが社が医師を、検査データを提供してエンパワーする制度を生み出す機会があるはずです。これら2つはちゃんと両立します。

リスクを取らなければ、変革は起こせない

司会:これまでライバルの大企業や政府からどのような抵抗にあってきましたか。このビジネスモデルによって影響を受ける人々や、企業があります。そのことにどう対処されてきたのですか。

ホームズ:そうですね。いろいろな人々がいろいろなことを言いますから、私たちの姿勢は、目立たないようにするというものです。私たちには、なぜ自分たちがこれをなさねばならないのか、非常に明白な使命があります。

日々、治療を受けられる能力と、私が拷問に等しいと考える伝統的な静脈切開を受けずに済むことにおいて、これが何を意味するかを考えています。私たちはそれに、そのことだけに焦点を当てています。もしもこれを一人ひとり続けていけば、この使命を実現できるからです。

司会:セラノス社のサクセス・ストーリーは素晴らしいですし、あなたのサクセス・ストーリーも素晴らしい。でも、製品を開発するのに11年という長い期間がかかりましたが、失敗寸前まで追いつめられたことはありませんでしたか。もしあれば、その具体例をお尋ねしたいのですが。

ホームズ:もちろん。しょっちゅう失敗しています(笑)。常に失敗を受け入れなければ、こういうことはできません。チームともたくさん話し合います。私たちのアプローチは、できる限りたくさん打席に立つというものです。ホームランもたくさんありますが、三振もたくさんあります。

ですが、同じ間違いは二度としません。しょっちゅう失敗して時々はヒットも生まれるからといって、何もできないという考え方はしません。ですから、どのビジネスの分野においても、失敗しても結果的に本当に素晴らしいものを作り上げてきました。私たちはあえてリスクを冒してきたのです。リスクは非常に大きいものですが、変革を起こすようなことを成し遂げることができるでしょう。

司会:リスクを冒すことには抵抗はないようですね(笑)。確かに、私たちみんな見習わなければならないと思います。さて、セラノス社は研究開発の段階からより商業的な段階に移行中です。ちょっと利己的な質問で恐縮ですが、会場には保健医療に興味を持っているMBAもたくさんいることを知っているので、MBAで培ったスキルセットがセラノスではどう役立つでしょうか。

この世界で役割を果たしたり、影響を与えるためには、MBAに加えてスキルセットが必要でしょうか。どんなMBAスキルセットが、どんな価値が現段階でセラノスに役に立つと思われますか。

ホームズ:ええ、現在セラノスでは積極的に採用を行っています。スタンフォード卒の社員もかなりの割合に上ります。私は学位よりも何がしたいかが重要だと思いますね。わが社が社員に本当に求めるものは、あなたが人生で最大の仕事をしたい時期にあるか、長期間続けるものに深くコミットできるかですね。

「この会社に入って2年間ぐらいやってみて、それからどこか別の会社に移ろうか」ではなく、使命を持っているかどうかなのです。その意味で、MBAのプログラムで身につけた科学技術のスキルセットは、とても強く生きると思います。でも、まず「どうしてそれをしたいのか」からスタートしなければなりません。それがわかれば、非常に有効です。

自分の好きなものを見つけよう

司会:コミットメントを示さなければならない、このアイディアに全身全霊を捧げる必要があるとおっしゃいましたが、プロフィールによると、言葉は悪いですが、かなりのワーカホリックだそうですね。そのアイディアに何もかも捧げて、11年もノンストップで働いていらっしゃるという意味で。

世の中を変えるようなことに取りかかるためには、そうすることが必要でしょうか。それともただ単に離れることのできない、好きでする仕事だと。実際的なものですか、それともただの情熱ですか。

ホームズ:私自身の経験から言えば、両方ですね。好きでなければ、続けているうちに辛くて気がおかしくなってしまいますよね。ある時点で直視し、「なぜ私はこれをしているのか」と問う必要があります。

でも、もしも好きでしているのなら、これらの課題に直面しても、課題ではなくなるのです。自分がしていることが大好きだから、それを何度も何度もし続けているだけであって。私たちが使命としてやっていることは、そのような仕事が必要なのです。

それで私は、この仕事だけをできるように人生を設計する決断をしました。この使命のためにはそうすることが必要だからです。常に当てはまるかどうかはわかりませんが、私はそう思っています。

司会:コミットメントについてお話しいただきましたが、ここに至るまでの道のりで学ばれたことがたくさんありますよね。ここにいる将来の起業家のために、今日会社を始めたいと思っている人たちにアドバイスをいただけますか?

ホームズ:自分が好きなものを見つけることですね。大好きで、仮に仕事を解雇されても何度でも何度でも最初からやり直せるようなものを見つけること。それが自分の好きなものであり、使命であり、天職なのです。そのためにやっているのでなければ、とても難しいと思います。そうした情熱がないと、同じように生み出すことは難しいでしょう。

司会:どうやってその天職を見つけたのですか。早くから見つけていらっしゃいましたね。そのために、ここにいらしているわけですが。あなたのような情熱を今探し求めている人々のためにお尋ねしますが、何か手段を講じたり、されたりしたのでしょうか。それとも、向こうからやってきたのでしょうか。

ホームズ:個人的には、長い時間がかかりました。長い時間がかかってようやく「自分の人生をどう生きたいか」考えたのです。理由があって存在しているのだし、人生の目的は世界に違いを生むことですから。

私にとってはこの使命は、私が生涯をかけて大きな影響を与えることです。先ほどお話ししたとおり、私の考えでは、手遅れになってから病気であることがわかって、愛する人を失ってしまったときにどんな思いをするか、が私にとって何よりも大事なことなのです。

自分自身のことをよく知るようになれば、大好きなこと、本当に楽しめることを見つけられる。それが仕事でなかったら、何をしているでしょう。好きなことをしてお給料をいただくなんて本当にわくわくします。それこそ自分の求めているものですよね。

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