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本田宗一郎が怒っている(全5記事)

学者100人並べて「じ」「ぢ」の違いを決めている… 本田宗一郎氏が呆れる、行政が"鈍重"なワケ

一代にして世界的大企業ホンダを創りあげた、戦後日本を代表する経営者・本田宗一郎氏。1982年に行われた講演会で同氏は、型通りに覚えさせるだけの文部省に教育に疑問を投げかけ、得意分野を伸ばす教育と適応性の重要さについて語った。

「数字」は好きだが、「字」は嫌いだった

本田宗一郎氏:これは余談になるけどね、ちょっと息抜きに話しましょう。私も数学ができたけど、できないものもうんとあった。一番嫌いなのが「字」なんですよ。字なんてのは昔は無制限に教えたからね、それをみんな知ってなきゃならんとなったらとても苦痛ですね。

理屈がないんですよ、字なんてのは。字には理屈がない。覚えるっていうだけなんです。「これでこういう理屈になるから覚えなきゃいかん」とか「こういう理屈で字が成り立ってる」なんて理屈がないんですよ。覚えるだけなんです。だから芸がないからね、あんなものやめちゃったんですよ。

そしたらね、とうとう先生からガンと叱られた。したがって、字が下手で字を読むことも嫌いだから、他の得意なものまで悪くなった。これは認めますよ。私が子どものときに一番苦労したのは、私自体が修めた成績の通信簿ですね。

昔は「甲乙丙丁戊」と5つの段階だったんです、私のときには。それを年に3回くれるんですよ。そーっと眺めると、丁まではあったんですね。そうすると頭がジーンと痛くなってね。それだけならいいけど、これを親父やお袋にみせて、「本田」という認印をもらわなきゃならん。

子どものときには、それが私にとってものすごい精神的不安であったわけです。ウチの親父の判がどこかにないかって家探しして、全部探してみた。今考えてみりゃ大真面目だったけど、私の探す範囲にはその判は見当たらんかった。思いあまって、仕方がない。

ウチの親父だってお袋だって、見せても文句言わないんですよ。僕が字が嫌いだったことを知ってるから。ウチの親父は非常に専門的で、「人に親切にすることを覚えりゃいい。あとは自分の好きなものやりなさい。好きなものやる限りは人に負けちゃいかん」、これだけの文句であったわけです。それでもね、「本田」の認印を押さなきゃならん。

ウチが子どものときに自転車屋をやっておりましたので、ペダルにゴムがあります。あれを切り取って、「本田」という判を彫って、チュンと押した。

やっぱりね、得意なものというのは黙ってはいれんですね。友達に話したんですよ。そしたら我も我もと注文が殺到したんです。「よし」というわけで夜中まで彫ってやったんです。「笹竹」「大隅」「大村」とかいろいろ字があるわけです。みんな彫ってやった。得意になっていったんです。

そして先生のところに通信簿を持っていく。先生が「本田、ちょっと待て」と言うから、「今日はまだ悪いことしていません」「そうじゃないけどさ、きみはみんなの判を彫ってやったろう」「ええ、彫りました」「そりゃ正直でいいけど、あの字がみんな反対になってたぞ」って言うんです。

私がわずか四年のときですよ。四年のときに字が反対になるってことを知ったんだからたいしたもんですよ、こりゃあ。私のは反対にならんのですよ。シンメトリック(左右対称)、「本田」だからどっち向いてもいいんです。

子供が得意な部分を伸ばすのが親の役目

そういうこともあって、そのくらい私は学業に対して人より苦労に苦労を重ねて卒業した。私が言いたい事は、ええかげんにやれとか、そういうことじゃないんです。

自分の得意なものがあるんなら、その得意なもので身を立てることを親御さんは考えてやるということが、親としての務めではなかろうか。学校でできたからって、それが永遠に(続いて)、大人になって、事業をやって、よその人と付き合って、愛され、成功するかっていうとそれはまた別です。

私みたいに落第寸前のやつだってどうにか生きてるんですからね。低空飛行ばっかりだったんです。だから学校のときに、あまり威張らんほうがいいんですよ。

本当にこの頃はこれを言いたいんです。得意なものをやると同時に、他のものを全部とらないと「この子は良い子じゃない」って言うんですよ。こんなバカなことがありますかい。

顔かたちが違うように、人はみんな得意不得意がある。その得意で、みんな楽しく暮らすんです。みんな同じだったらね、困っちゃうなこりゃあ。奥さんが旦那さん間違えたり、旦那さんが奥さん間違えたり。

まあそれは顔のことだけど、頭だってそうですよ。みんな同じものだけ得意だったらどうでしょう。融通が利かないんです。私みたいに字は下手で嫌いだけども、ものを作れる人もある。これを学校はひとつも認めてないんですよ。

字が上手いとか知ってるというのだけは認めて、この手が器用で何でもできるってことは、先生、全然点を付けてないんだな。こんなバカな成績がありますかい!

こういうことも、ひとつの合理化なんですよ。こういうことが大事なんです。今日私が言いたいのは、そういうふうに個人個人の得意なものが全部違うのに、なんでこの子が良いか悪いかを分けちゃうんだろうね。

何でも型通りに教えなきゃいけないのはおかしい

数学が下手で覚える気がなかったら「この子は悪い子だ」と点数が少ない。僕はそうじゃなくて、自分で届け出た「これが得意だ」ってものに対しては90点以上取ってもらう。だけど他のもの、てこを入れないものに対しては二乗くらいでいいんじゃないかな。9点取ったら9×9で81点くらいくれたっていいんだよ。

要するに、それが個人個人を大切にする、よってきたるところの、人権を尊重する基本であるんです。何でも型通りに教えなきゃいけないってのはおかしい。こないだ、皆さんも見たことがあると思うんですけども、文部省に行ってごらんなさい。

文部省で何かの会合があったからひょっと見たら、驚いたなあ。「し」に点を打って「じ」なんですね。「ち」に点を打って「ぢ」なんですよ。「痔が悪い」ってほうの痔はこっちの「ぢ」らしいけど、わかんねえよ。どっちゃだっていいじゃないか、こんなもの。

100人も寄せて「どっちが本当だ」って会議をしてる。「この結論が出るには5年かかるだろう」って言うんですよ。こんな無駄遣いをなんで国民が許してるんだろうね! お母さん、しっかりしとくれ!

こういうこともみんな無駄遣いなんですよ。専門の人がそんなにおらんだって、日本には専門家がたくさんいるんだから2人か3人そういう人に委託すればいいんだ。悪いとか良いとかじゃなくて、そういう無駄遣いがほうぼうにある。

しかもそれで無駄遣いしたからって、それだけ我々の知能は上がらないんだ。無駄遣いしない、文部省から範を垂れるような合理的な方法をやることによってのみ、我々は容赦、許すことができ、「我々もそのとおりにしなきゃならん」と思うんです。

こういうふうなことはものすごく大事なことでありながら、ひとつも昔と変わってない。覚えればいいんだってこと。コンピューターがあるってことも忘れちゃってるんじゃないかな、こりゃあ。

今、私なんか数学がアレでも全然困らないですよ。「こりゃどうなるんだ」って聞きゃあいいんだから。得意なやつがすぐに勘定して来るんだから。人に聞くってこと……何でも完全無欠、何でもできる人は気の毒だな。人に聞かないからね。人に聞くということは相手を尊重することなんです。

「どういうふうにこれはなるんですか?」……そうすると、やっぱり教えるほうは優位な立場で、「知ってるから教えてあげよう」となる。「ああそうですか、どうもありがとう」。ここに人間関係が生まれていくと思うんです。

適応性が非常に大事

人間関係だって、全部同じだったら戦争ばっかりやってるな。いろいろな自分のできないことを人がやって、人の得意でないものは自分が得意だったらやる。それでお互いが相通ずることによって、人間関係はどんどん改善されていくんです。顔かたちが違うように、みんな得意も違うんです。

まあこういうわけで、私たちは「行政改革」と言うけれど、問題はそういうところにも大きに(ある)。政府はわりあい目立たんところで金を使って、我々が本当に納得できるかといやあできないことを現代でやっている。それだから、教育の問題は一番大きく世の中にクローズアップされているわけです。

結局、世の中にスピードが出てきても、それに適応性がない人たちがやってるからなんですね。そういう人は辞めてもらわんとまずいね、こりゃあ。

適応性ということが非常に大事なんです。世の中に適応性がもしなかったならどうでしょう。この世の中から抹殺されちゃうでしょう。今度の行革だってそうです。あの戦争を過ぎて、国民はこれだけ貧乏になって。ちょうど私が39歳のときだった。それから私は一文無しから一生懸命やって、国民がみんなして(一生懸命)やったんですね。それに政府が適応してくれたかいね! 

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