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Katie Ledecky addresses the Class of 2025(全1記事)

「アクセルを緩めろ」という“周囲の声”に惑わされないで 五輪金メダリストが語る“人生を長く泳ぎ切る”3つの要素 [2/2]

“表彰台”ではなく“プロセス”を愛して

だからこそ、みなさんに伝えたいのはこうです。「レースに勝つ」必要はありません。「自分のレース」に勝てばいい。そして「自分のレース」に勝つというのは、「プロセスそのものを好きになる」ということです。“表彰台”ではなく、“プロセス”を愛してください。

私はこれまで、オリンピックの決勝レースに15回出場してきました。それは、170本の泳ぎ、およそ5.5マイル分になります。でも、これまでに泳いできたトータルの距離は、たぶん2万6,000マイルくらいです。今日も、このあと少し泳ぐと思います。

つまり、2万6,000マイル分の練習があって、ようやく5.5マイル分の決勝レースがある。

スイマーはよく、「毎日の練習で泳ぐ1本1本が、試合の時に引き出せる“貯金”になる」と言います。私は、この考え方をみなさんの“読書量”に重ねてみました。この4年間で、みなさんは何ページくらいのテキストを読んだのでしょうか。

そこで今年のクラスの代表の方に、ちょっと計算してもらいました。さすがスタンフォードで、とても細かく分類しようとしました。授業のための読書、趣味の読書、オピニオン記事……。

最終的な結論としては、おそらく卒業までに割り当てられたページ数は、合計1万5,000ページくらいだろう、ということでした。英文学専攻の人は、それよりちょっと多いかもしれませんね。

1万5,000ページ。すべての内容を覚えている人はいないでしょう。でも、その1ページ1ページが、ちゃんと意味を持っていました。

1つひとつのラップ、1枚1枚のページ、夜遅くまで勉強した時間、書いたコードの1行1行。先生や友人との会話、クーパ(カフェ)のラテ1杯1杯。そうしたすべてが、みなさんの「プロセス」の一部です。

これからも、自分のプロセスを信じてください。そのプロセスを好きになってください。
そのプロセスを支えてくれるコミュニティをつくってください。そして、一見ささいに思える小さな瞬間が、積み重なって、特別な何かになっていることを信じてください。それが、今の「あなた」という人を形づくっているのです。


時間をどう使うか、誰と過ごすか

さて、もう1つ、話しておきたい要素があります。それが「時間」です。ここまで聞くと、「またストップウォッチの話?」と思うかもしれませんが、今日は違います。ここで話したいのは、「時間をどう使うか」「誰と過ごすか」ということです。

私がよく聞かれる質問に、こんなものがあります。「長距離を泳いでいる時、何を考えているんですか?」

この質問には、ちょっとした本音が隠れている気がするんです。要するに、「長いレース中って、退屈じゃないの?」ということですよね。

確かに、長距離スイマーには、考えごとをする時間がたくさんあります。レースが15分続くと、「もっと速く、もっと速く」だけを考えているわけにはいきません。

じゃあ、何を考えているのか。まず、必ずラップ数を数えています。それから、頭の中で曲が流れていることもあります。でも、一番好きなレースは、「誰かのことを思いながら泳いでいる」レースです。

一緒に練習してきた仲間のこと。チェコスロバキアからアメリカの大学に留学してきた祖父ジェリーのこと。第二次世界大戦で海軍の軍医として従軍していた祖父ヘイガンのこと。

東京オリンピックでは、約70分の間に2本の決勝レースがありました。最初は200m自由形。正直、何が起きたのか自分でもよくわからないくらい、うまくいきませんでした。国際大会36レース目にして、初めてメダルを逃したんです。

そこから1時間もしないうちに、次のレース、1500m自由形が控えていました。ここで戦うには、自分の中から何かを引き出さないといけない、とわかっていました。

ダウン用のプールで泳ぎながら、頭の中は不安でいっぱいで、「落ち着いて、落ち着いて」と自分に言い聞かせ続けました。気持ちを切り替えて、集中し直す方法を探さなければいけなかった。

そこで私は、祖父母のことを考え始めました。アメリカの自宅で、テレビ越しに見守ってくれている祖母たちの姿を思い浮かべました。もし心が何かに支配されるなら、落ち込みではなく、2人の強さやあたたかさで満たそう、と決めました。

30本のラップのほぼすべてで、私は2人の名前を心の中で繰り返していました。「グランマ・ヘイガン、グランマ・ベルタ、グランマ・ヘイガン、グランマ・ベルタ……」。

すると、すっと肩の力が抜けたんです。私は、強さと自由さを感じながら泳ぐことができました。祖父母が私を支えて、金メダルまで引き上げてくれたように感じました。ヘイガンおばあちゃんは、今、100歳まであと7か月というところです。

私たちは誰も、自分の「人生の距離」がどれくらいになるか、正確にはわかりません。でも、その距離がどれくらいであれ、「時間をどう使うか」は選べます。時には、AからBまで、できるだけ速くたどり着こうとする時間もあるでしょう。

でも多くの場合は、「先が見えない状態」と向き合う時間です。1人では解けないような難しい問題に取り組む時間です。

スタンフォードを離れたあと、みなさんの多くは、「地図のない場所」に進んでいくでしょう。本当に重要な仕事は、「1人で泳いでいるように感じる瞬間」によく現れます。でも、そういう時こそ、私は「自分の人たち」が必要でした。家族、チームメイト、コーチたち。そういう人たちの声が、苦しい時に自分を前に押し出してくれます。

1人では人生という長距離は泳ぎ切れない

そこで、みなさんに問いかけたいことがあります。

あなたの味方は、誰ですか? 友人たちが世界中に散らばったあとでも、「自分のことを応援してくれている」と感じられるのは誰でしょう? どん底で、そこからもう一度ベストを出そうとする時、心に浮かぶのは誰でしょう?

そして、もう1つ。「スタンフォードの友だち」は、今日ここにいる人たちだけではありません。これから先、どれだけ多くの世代の卒業生と友だちになれるか、今のみなさんはきっと想像もつかないと思います。

私は、ほぼすべての世代にスタンフォードの友人がいます。たとえ今は顔を知らなくても、「スタンフォードを知っている」という意味では、すでにつながっているからです。

彼らは、「オーバルでピクニックをする」感覚を知っています。「噴水に飛び込む楽しさ」も知っています。授業から帰ってきたら、担当教授がニュース番組に出ているのをテレビで見る。そんな経験も共有しています。そしてもちろん、「CS106A(スタンフォード大学のプログラミング入門の代表的なコース)」のことも知っています。

言いたいのは、「1人では長距離は泳ぎ切れない」ということです。自分に挑戦し、支え、笑わせてくれる人たちに囲まれていてください。自分にとって本当に大切な人たちと、一緒に時間を過ごしてください。


人生というレースで、どう“長く泳ぎ切る”か

ペース配分、プロセス、時間。私もまだ、「人生というレースで、どう“長く泳ぎ切る”か」を学んでいる途中です。

「人生のペース配分」をどうするか。「毎日のプロセス」をどう設計するか。「時間の優先順位」をどう決めるか。

スタンフォードは、こうした難しい問いを投げかける場所でした。答えが全部そろっているわけではないかもしれないですが、今日という日は、「問い続けることそのものを楽しむ」1日でもあります。

さあ、みなさんがスターティングブロックに立って、「よーい、スタート」と人生に飛び込んでいく時、どうかこのことを覚えていてください。

スタンフォードを選んだことは、入学初日にとって最高の選択でした。そして今日、卒業の日になっても、それは変わりません。

私はスタンフォードの卒業生であることを、心から誇りに思っています。みなさんもきっと、これからそう思うはずです。そして、一番いいところは、まだこれからなんです。

卒業生のみなさん、さあ位置について、そして外に出て、自分の足跡を残してください。2025年卒業生のみなさん、おめでとうございます。ありがとうございました。

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