3つ目の学び 弱みと向き合うことの重要性
3つ目に学んだのは、自分の得意なことを知るのと同じくらい、苦手なことを知ることも重要だということです。誰にでも、強みと弱みがあります。しかし最終的に自分の成長を妨げるのは、多くの場合、弱みのほうです。弱みこそが、自分の足を引っ張ることがあるのです。
ある朝のことです。僕はジャック・ウェルチのオフィスに呼ばれました。当時の僕はエネルギーにあふれていて、情熱的でしたが、別の部門を率いていた扱いづらい人物と大きな対立を起こしてしまっていました。ジャックがその場を仲裁し、結果的には僕の主張が通りました。僕は内心、「勝った」と感じていました。
ところがジャックは、僕を引き止めてこう言いました。 「デヴィッド、少し残ってくれ。話したいことがある」と。そして、僕に向かってこう言ったのです。
「いいか。もしお前が成功したいのなら、誰とでもうまくやる方法を身につけなければいけない。それは、扱いづらい人間も含めてだ。喧嘩相手を探しているような人間はどこにでもいる。だが、その相手にお前が選ばれてはいけない。人の良いところに目を向けろ」。
ジャックの言葉はそのとおりでした。僕のキャリアの中で、才能があって有能でありながら、人とうまくやれないせいでチャンスや仕事を失っていく人を、本当にたくさん見てきました。
一緒に働く相手を、自分で選ぶことはできません。だからこそ、その人のどこを好きになれるかを探す必要があります。どんな相手にも、必ず何かしら良いところがあります。
その上で、その関係をどう乗りこなすか。そこに知恵を使う必要があるのです。私たちは、多くの場合、自分の弱点と向き合うことを避けがちです。自分の欠点について考えるのは、気持ちの良いことではありません。特に、これまで勉強でも、選んできた道でも良い成果を出してきたと感じている人ほど、そうなりがちです。
しかし、本当の意味で自分の可能性を最大限に引き出したいのであれば、得意なことだけに集中しているわけにはいきません。得意なことだけを磨き続けるのは、ある意味では「楽なほう」だからです。自分の苦手な部分にきちんと目を向け、それを改善するために努力する。それができるかどうかで、将来は大きく変わります。
4つ目の学び 努力で負ける痛みを忘れない
4つ目に学んだことは、「努力で負けることは本当に痛い」ということです。
僕は12歳の時、かなりレベルの高いテニス選手でした。ある日、トーナメントに出た時、ウィンブルドンのチャンピオンでありテニス殿堂入りもしているアルシア・ギブソンが、僕の試合を見ていました。
当時、うちの家にはあまりお金がありませんでしたが、試合のあと、アルシアは父に近づいてきて、「この子を私にコーチさせてほしい」と言いました。彼女は、僕にはテニスの本当の才能があると言ってくれました。
やがてテニスは、僕を象徴するものになっていきました。僕はテニスウェアで学校に行き、周りの人たちも僕のことを「テニスの上手い子」として見ていました。それが、自分のアイデンティティであり、誇りでした。
ところが、その頃から僕は少しずつ居心地の良さに甘えはじめ、努力を怠るようになってしまいました。両親は週末ごとに、車で僕を大会の会場まで連れていってくれましたが、会場に着くと、対戦相手はすでに2時間前から練習をしているのです。
試合が終わったあとも、彼らはさらに2時間、バックハンドの練習を続けていました。14歳になる頃には、以前は勝てていた相手にほとんど勝てなくなっていました。
ある時、アルシアが僕を呼び、短く、しかし厳しい話をしてくれました。「あなたは努力が足りない」。その時には、もう手遅れでした。一緒に育ってきた選手たちは、すでに僕の前を通り過ぎてしまっていたからです。
それは、ものすごくつらい経験でした。努力で負ける痛みを、全身で味わいました。僕は、自分のアイデンティティの一部を失ってしまった感覚がありました。しかし同時に、その日心の中で「もう二度と、努力で負けることだけはしない」と誓ったのです。
才能は、もちろん大切です。みなさんにも、たくさんの才能があります。しかし、それは言ってみれば「入場券」にすぎません。それだけで約束の地に連れていってはくれない。何かで本当に成功したいのであれば、結局やらなければならないのは「努力」です。自分を本気でコミットさせて、しっかりと働くことです。
5つ目の学び 人生を変える大きな瞬間に備える
5つ目に学んだのは、人生には自分を定義するような大きな瞬間がいくつも訪れること、そしてその時に備えておくことが大事だということです。
仕事で言えば、それは就職や転職の面接かもしれませんし、オーディションかもしれません。スタートアップのための資金調達プレゼンかもしれないし、自分の業界の大物と時間をともにできる機会かもしれません。
こうした瞬間は、周囲の人があなたをどう見て、どう記憶するかを決めてしまうことがあります。だからこそ、その瞬間に備え、きちんと準備をし、その場にしっかりと臨むことが大切です。
人生は人と人とのつながりでできている
人生は、人と人とのつながりです。パンデミックの間、私たちは長い時間を離れて過ごし、Zoom越しのコミュニケーションに頼らざるを得ませんでした。みなさんも、ここBUで過ごした時間の多くを、リモート授業やオンラインでのやり取りに費やしてきたと思います。
だからこそ今、同じ場所に集まり、一緒に働き、リアルな人間関係を築くことが、とても重要だと私は思っています。同じ部屋で人と向き合う時には、画面越しにはない何かが生まれます。ちょっとした魔法のようなものです。これまでの人生で、私にとって良い出来事やチャンスの多くは、毎日肩を並べて働いた人たちとの関係から生まれてきました。
毎日同じ部屋で、会議室で何時間もかけて問題解決に取り組む。そうした時間をともに過ごした人たちとのつながりから、良いことがたくさん生まれました。
NBCに入った頃、僕はジョン・マローンという素晴らしいメディア起業家と出会いました。彼はアメリカ最大のケーブルテレビ事業を持つ企業のオーナーでした。その後15年間、僕は彼とともに、多くのディールの現場で、対面で仕事をする機会に恵まれました。
僕はその時間を最大限に活かし、彼から本当に多くのことを学びました。その後、僕はディスカバリーで働くようになり、今はワーナー・ブラザース・ディスカバリーの取締役会でも一緒に仕事をしています。そして今でも、彼から学び続けています。こうした人間関係、友情、メンターとのつながりは、あなたの人生を豊かにし、前へと押し出してくれるものです。
仕事を超えて大切にしたい「本物の時間」
仕事以外にも、人生にはたくさんの大きな瞬間があります。ただ、それらは必ずしも分かりやすい形で現れるとは限りません。だからこそ、目を開いて、心も開いておく必要があります。
友人の父親のお葬式に足を運ぶこと。子どもの試合にちゃんと顔を出すこと。もしできるなら、そのチームのコーチを引き受けること。忙しくて余裕がない時でも、あえて時間をつくって、その場に行くこと。大切な人のために思いがけない親切な行動を取ること。
そうした瞬間がどれほど大切だったのかに気づくのは、ずっと後になってからかもしれません。それでも、はっきりと言えます。そうした瞬間こそが、仕事よりも何よりも、あなたにとって最も大切な、本物の時間になるのだということです。それこそが、本当の意味での人生です。卒業生のみなさん。みなさんは今、まさに新しいスタート地点に立っています。
旅立つあなたへのエール
ここで、僕からのアドバイスをあらためてまとめます。
自分が何に向いていて、何が得意なのか、そして何が得意ではないのかを見極め、それぞれに向き合うこと。チャンスは自分でつくること。たとえ大きな方向転換が必要だとしても、自分が本当に好きになれることを見つけ、そこへ踏み出す方法を探すこと。決して、努力で負けることだけはしないと決めること。自分の人生を形づくる大きな瞬間を大切にすること。
そして何よりも大事なのは、友人のために、家族のために、そして、自分自身のためにその場にちゃんと現れることです。僕の父は、「人を尊重して生きなさい。そうすれば、何だって可能になる」とよく言っていました。人を尊重すること。そこに親切さを加えること。
それは、周りの人のあなたを見る目を大きく変えます。それは、ここにいるみなさん全員にとって大切な教訓であり、そして私自身にとっても大切な教訓です。振り返って思うのは、自分の成功に一番大きな影響を与えたのは、おそらく他の人たちからもらった尊敬と優しさだった、ということです。
みなさんがこれから旅に出るにあたって、最後にこう伝えたいと思います。これは、あなた自身の旅です。誰のものでもありません。だからこそ、その旅をできる限り充実したものにしてください。これからが、みなさんの時間です。
今日ここに、僕を再びBUに呼び戻してくれて、本当にありがとうございます。ここで過ごした3年間は、僕にとって本当にすばらしい時間でした。今日は妻もここに来てくれています。僕と家族にとっても、これはとても特別な瞬間です。
BUで過ごした日々には、良い思い出しかありません。そこで出会った友人たちとは、今も一緒に人生の旅を続けています。本当にありがとう。僕もまた、自分の旅路に戻らなければなりません。まだやるべきことがあり、見るべきものがあり、学ぶべきことがあります。
そして、みなさん全員と、いつかこの人生の旅のどこかで、また会えることを願っています。人生という旅ほど、すばらしいものはありません。2023年卒業生のみなさん、本当におめでとうございます。