【3行要約】
・AI時代の到来により、多くのビジネスパーソンが新しい働き方への適応に課題を感じています。
・NVIDIA CEOのジェン・フアン氏は台湾大学卒業式で、AI革命の最前線に立つ経験から次世代への教訓を語りました。
・同氏は失敗を恐れず「走る」こと、戦略的撤退の勇気、長期視点での痛みを受け入れることがAI時代の成功の鍵だと提言しています。
NVIDIAの創業者・CEOのジェン・スン・フアン氏
Jensen Huang(ジェン・スン・フアン)氏:先生方、ご来賓のみなさん、誇らしいご両親、そして何よりも、国立台湾大学の2023年卒業生のみなさん。今日は、みなさんにとって本当に特別な日であり、ご両親にとっては「ついに家を出てくれる日」という長年の夢が叶った日です。今日は、誇りと喜びに満ちた1日です。
ご両親は、この日のためにたくさんの犠牲を払ってこられました。私の両親も、兄も、今日はここに来ています。会場に来ているすべてのご両親と、おじいさま、おばあさまに感謝の拍手を送りましょう。
台湾大学の研究室で気づいた、NVIDIAの使命
十数年前、私は初めて台湾大学を訪れました。チャン先生から、計算物理の研究室に招いていただいたのです。先生の息子さんはシリコンバレーで働いていて、NVIDIAのCUDA(クーダ)を知り、お父さまに「量子物理のシミュレーションに使ってみてはどうか」と勧めてくれたそうです。
研究室に入ると、NVIDIAのGeForceのゲーミング用グラフィックボードが、部屋いっぱいに並んだ中身が見える状態のPCのマザーボードに挿さっていました。通路の棚の上では、何台ものファンが回って冷却していました。
チャン先生は、ゲーミングGPUを組み合わせて、台湾流の「自作スーパーコンピューター」を作っていたのです。この取り組みは、NVIDIAの歴史のごく初期を象徴する出来事でもありました。
先生はとても誇らしげに、私にこう言いました。「フアンさん、あなたの仕事のおかげで、私は自分の一生をかけた仕事を、自分の一生のうちに成し遂げることができます。」
この言葉は、今でも私の心を強く揺さぶります。そしてそれは、私たちの会社の使命を完璧なかたちで言い表しています。つまり、現代のアインシュタインやダ・ヴィンチとも言うべき人たちが、人生をかけた仕事をやり遂げられるよう支えること。これこそが、NVIDIAという会社の存在意義です。
そんな場所である台湾大学に、こうしてまた戻ってこられて、みなさんの卒業式でお話できることを、本当にうれしく思います。
単純だった1984年から複雑な現代へ
私がオレゴン州立大学を卒業したころの世界は、今よりずっと単純でした。テレビはまだ薄型ではなく、有線テレビもMTVもありませんでした。「モバイル」と「電話」という言葉が、一緒に語られることもありませんでした。
あれは1984年。IBMのPCとAppleのMacintoshが登場し、PC革命が始まりました。そこから、今私たちが知っている半導体とソフトウェアの産業が立ち上がっていったのです。
一方で、みなさんがこれから足を踏み入れる世界は、はるかに複雑です。地政学的な変化、社会の変化、環境の変化と課題が折り重なっています。
AIが巨大産業と仕事の形を塗り替えていく
私たちはテクノロジーに囲まれ、常時ネットワークにつながり、現実世界と並行するデジタル世界の中に身を置いています。自律走行車も、現実のものになりつつあります。コンピューター産業が家庭用PCを生み出してから40年後、私たちはAIを生み出しました。
自動で車を運転したり、X線画像を解析したりするソフトウェアのようなAIです。AIソフトウェアは、コンピューターがさまざまなタスクを自動化するための扉を開きました。
その対象は、世界の中でもとりわけ巨大な産業です。医療、金融サービス、運輸、製造業。いずれも数兆ドル規模の市場を持つ産業です。AIは、これらの分野に、計り知れないチャンスを生み出しました。
身軽に動ける企業は、AIをうまく活用して、自らのポジションをさらに高めていくでしょう。そうできない企業は、やがて姿を消すことになります。今日この会場にいる起業家志望のみなさんの中からも、新しい会社をつくる人たちが出てくるでしょう。そして、これまでのすべてのコンピューティングの時代と同じように、新しい産業が生まれていきます。
AIは、これまで存在しなかった新しい仕事も生み出します。たとえば、データエンジニア、プロンプトエンジニア、AIファクトリーの運営、AIセーフティエンジニアといった職種です。これらは、これまでこの世に存在していなかった仕事です。
一方で、タスクの自動化によって、なくなっていく仕事もあるでしょう。ただ、はっきりと言えるのは、AIはあらゆる仕事のあり方を変えていく、ということです。エンジニア、デザイナー、アーティスト、マーケター、製造の計画を担う人たち。すべての仕事のパフォーマンスを、一段と引き上げてくれるはずです。
これまでの世代の人たちがそうしてきたように、みなさんも、新しいテクノロジーを受け入れ、それを味方につけて成功していかなければなりません。すべての会社が、そしてみなさん一人ひとりが、AIを自分の「コパイロット(副操縦士)」として使いこなし、AIとともに驚くべきことを成し遂げられるようになっていく必要があります。
AIが仕事を奪うのではないか、と心配する人もいます。しかし実際には、「AIを使いこなせる人」が、そうでない人の仕事を奪っていくのです。